童貞のまま40を超えた僕が魔法使いから○○になった話

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第五章

ルーファウスの我が儘

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 スライムを従魔にする事に成功した小太郎に僕は以前から試してみたかった事を提案してみる。

「スライム通信……? って、何ですか?」

 僕の言葉に小太郎が首を傾げるので、どうやらスライムは仲間と認識したスライム同士なら離れていても交信が可能なようだと僕は小太郎に伝えた。

「その子は小太郎君のスライムになったけど、元々はライムの友達だからできるんじゃないかなって思うんだ。ねぇ、ライム、どう?」
『ん~ヒビキ?』
『はいっす!』

 小太郎の頭の上に乗ったスライムがライムの前にぴょこんと降り立った。

『かんかくきょうゆう~からの……』
『ライム先輩の言葉をコタローに伝えればいいっすか?』
「………………」

 ライムはヒビキにとって先輩なのか? しかも幼い口調のライムに比べヒビキの方が口調がしっかりしている気がするのは気のせいか? まぁ、どっちも可愛いので問題はないけれど。
 何かを確認し合ってライムとヒビキが二手に別れて部屋の端と端へと跳ねていく。

『ん~』

 部屋の端っこでライムが何やら唸っていると思ったら、部屋の反対端で『ライム先輩、お腹が空いたって言ってるっす!』とヒビキが元気な声を上げる。
 お、離れていてもちゃんとスライム間で意思疎通ができていそう?
 僕はライムに寄って行き、ライムに小声でヒビキに伝えてと、ある言葉をライムに伝えると、ヒビキが部屋の端で『マジっすか!?』と嬉しそうに飛び跳ねた。
 僕は更に小声で言葉を重ねると、ヒビキはぴょんぴょんと部屋を跳ねていき小太郎の元に戻ると『タケルが美味しいおやつあるよって言ってるっす! おいらにも後でくれるって!!』と嬉しそうに小太郎に報告してくれた。
 これで僕の方からライム経由でヒビキへの伝達ができる事は証明された。ただこれは近場の室内だからできた可能性もあるので距離がどれだけ離れた状態まで通信できるのか、その辺の検証も今後しなければいけないだろうな。
 さて、次は逆ができるかどうかなのだが……

「小太郎君、逆もやってみたいんだけど、ヒビキに小声で何か伝えてくれる?」
「え、あ……はい」

 そう言って小太郎が伝えてきた言葉の第一声は『ありがとうございます』で、続けて『スライムって何を食べるんですか?』だった。
 まぁ、スライムを従魔にした以上何を食べさせるのかは気になる所だよね。スライムは悪食だから基本的に何でも食べる、それこそその辺の生ごみでも喜んで食べてくれるので、食費に関してはとても安上がりな従魔だと思う。
 ちゃんとヒビキからライムへも伝言ができる事を確認して、僕は最後に『今度一緒に従魔師ギルドに買い物に行こう』と伝えてもらった。
 そして僕はライムを抱き上げ小太郎の傍で飛び跳ねているヒビキの横におろし「よく出来ました」と二匹におやつをたっぷりプレゼントした。

「スライムって意外と便利な魔物だったんですね……」
「そうだね、ただこれは僕達がスライムの言葉を理解できるから出来る技で、僕達だけにしか使えない通信手段だけどね」

 ライムは現在キングスライム、一方で響は恐らくまだ普通のスライムのままなのだと思う。ライムにできる事がイコールで全て響にできる訳ではないのかもしれないけれど、響は小太郎にとって良いパートナーになると思う。
 今後少しずつスライムとの付き合い方を教えていくよと伝えると、小太郎は嬉しそうにおやつを頬張る響の頭を撫でた。

「そうやって並んでいるとお二人はまるで兄弟のようにそっくりですね……」

 小太郎と二人で二匹のスライムを愛でていると、不意にルーファウスがそんな事を言い出して、小太郎が戸惑ったような表情を見せた。

「に、似てないですよ! ボクはタケルさんみたいな美形じゃないし、全然頼りなくて……ボクなんか……」

 自分の言った言葉に自分で凹んだのか小太郎の言葉尻がしぼんでいく。

「顔の話ではありませんよ。柔らかい物腰と体格がよく似ているので同じ格好をしていたらまるで兄弟のように見えると思っただけです」

 確かに僕と小太郎の体格はよく似ている。年齢的に小太郎が一つ年上なので少しだけ彼の方が背は高いのだが、それも言ってしまえば誤差の範囲だ。
 髪の長さは僕の方が長いので見間違う事はないだろうけど、僕の陽に透かすと青味がかった黒髪と小太郎の典型的な日本人の黒髪は傍目には同じように見えると思う。
 これでもし小太郎が髪を伸ばしたら、確かに僕達は兄弟のように見えるかもしれない。僕がそんな風に思っていたら、ぽそりと「全然似てない」と声がした。
 その声の主は少し不貞腐れたような表情のロイドで、そのロイドの断言に小太郎は僅かに瞳を伏せて「ですよね……」と同意する。
 なんだろう、この少し不穏な空気。
 先程までスライム相手に和気あいあいとしていたはずなのに、変な緊張感が場を占める。こんな時ムードメーカーのアランがいればこの微妙な場の空気を壊してくれるのに、今日はそんな合いの手は入らない。
 そして王子達は王城に自室があるのでそちらへ帰っていったのだが、せめて茉莉がいたらもう少し空気も変わっていただろうにと僕は思わずにはいられない。

「悪い、俺、ちょっと外の空気吸ってくるわ」

 そう言って立ち上がったロイドが部屋を出ていくと「あの彼の態度は一体何なんですかね」とルーファウスは少し機嫌を損ねたような表情を浮かべ、そんなルーファウスの言葉に委縮したように小太郎は俯いてしまう。

「ボクのせいですかね……」
「え? なんで?」
「ボクが勝手に色々巻き込んでロイドさんに迷惑ばっかりかけるから……」
「そんな事ないよ、そんな事言ったら僕なんかこの三年間みんなに迷惑かけまくりだよ!?」
「でも……」

 確かに小太郎に出会わなければ僕達は王都で観光だけを楽しんで新たな冒険の旅に出ていたかもしれない。けれどそれは結局は結果論でしかなく、どちらにしてもこの国の一大事には巻き込まれていた可能性を僕は否定できない。

「小太郎君が気に病む必要なんかない。きっと今日のロイド君はたまたま少し気が立ってただけだよ」

 なにせ『勇者』という肩書を唐突に突きつけられて困惑しているのは間違いないだろうし、自分の中の諸々の感情に自分で折り合いが付けられていないのだろう。
 僕だって最初に『聖者様』とか言われた時には戸惑って困惑して結局逃げ出したくらいだ、ロイドの気持ちはよく分かる。だから彼のフォローはしてあげたいのだけれど、今は一人にしてあげた方がいいのかな……でもなぁ……
 小太郎に気にするなと言いはしたが、ロイドの様子は気になって僕は彼の出ていった扉の方をちらりと見やる。

「……気になりますか?」
「それはね」
「あなたは誰にでも優しくて、それはあなたの美点であるのですが、同時に欠点でもありますよね」
「どういう意味?」
「気をもたせるばかりで優しくない」

 これはもしかして僕は非難されているのだろうか? 僕が首を傾げるとルーファウスは大きく息を吐きだした。

「あなたのその優しさは時に人を傷付ける」
「そうなのかな……」
「私は今、あなたに行くなと言いたいのですが、私が何を言ってもどうせあなたは行くのでしょう?」
「えっと……」
「私はそのあなたの行動に傷付きます」
「えぇ……」
「こんな事を言ったらあなたは困るでしょうから言わないのが大人なのでしょうけれど、私はアラン曰くお子様なのだそうなので我が儘を言います。行かないでください」

 僕はロイドを追いかけてフォローを入れたい気持ちとルーファウスの子供のような我が儘との間で自分はどう行動するのが最善なのだろうかと考え込む。
 人間関係の構築というのはとても難しいもので、そこに恋愛感情が絡んでくると更にややこしくなるのだと思い知った。

「だけどロイド君は仲間なんだよ?」
「私にとっては恋敵です」

 きっぱりはっきり言い切ったな……確かに昔からルーファウスはずっとロイドの事を目の敵にしているので今更ではあるけれど。

「あの……どうもお邪魔なのはボクみたいなので、ボクが行ってきます、ね」

 そそくさと逃げるように小太郎が部屋を出ていった。部屋に二人きりで残されてしまった僕とルーファウスの間に沈黙が落ちる。
 こういう重い空気はとても苦手なのだけれど、僕達は一度きちんと腹を割って話し合わなければダメなのだと、僕はルーファウスに向き直った。

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