童貞のまま40を超えた僕が魔法使いから○○になった話

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第五章

不思議な事もあるもので

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「大変お見苦しい所をお見せしまして恐縮ですわ」

 背を向けていたエリシア様が涙を拭い笑みを浮かべ、こちらを向いて謝罪の言葉を述べる。
 けれどその表情はどこか愁いを含んでいて胸が詰まる。

「僕達は平気ですけど……エリシア様は……」
「ふふ、わたくしもいずれこうなる事は分かっておりましたのよ。私は誰にも望まれない聖女、でしたら私は私で好きにやらせていただきます。元より私は殿方との婚姻など望んではおりませんでした、我が身は神と共にあり、神に捧げられるべきなのです」

 エリシア様は「こんな風に考えられるようになったのはタケル様のお陰です」と真っ直ぐに僕へ笑顔を向けた。
 でも、僕何かしましたっけ?

「ふふ、タケル様が仰ったのですよ『自由に自分本位に自分の生を生きたい』と。私には今までそんな生き方は許されてこなかった……いえ、私はそれに疑問すら感じてはいなかったのです。私は聖女としてこうあるべき、そうでなければならないと自分を律し、王子との婚約が決まってからはそこに王妃になるための責任まで加わって私はまるで操り人形のように理想的な聖女を演じていたと気付いたのです。けれどタケル様は先程更に仰いました『聖女が勇者ではダメですか?』と。私はそのお言葉に更に目の覚める思いでした」

 笑みを深めるエリシア様は「私は自分は聖女以外の何者にもなれないと思っていました。けれど、そうではありませんでした」そう言って小さく首を振る。

「それはあくまで私の固定観念であり、そんな枠組みなど最初からどこにもなかったのです。マツリ様はそれを体現している方、そしてタケル様も。私は今更聖女以外の生き方を見付けようとは思いません、けれど私はどこまでも前時代に倣った聖女になろうとせずとも私らしい聖女になればいのだと、ようやく気付く事ができました」

 「ありがとうございます」と、エリシア様は僕に礼を述べるが、それって全く僕がお礼を言われる筋合いのない事のような気もするのだけどな。
 だけど、エリシア様は自分で気付き前を向いた、それはとても喜ばしい事だと僕は思う。

「ただ、この調子ではユーベル様はそう簡単には婚約破棄をしてくださりそうにありませんわね。レオンハルト様が恙なく王位を継いでくだされば私に用もなくなるかと思うのですが……」

 そこは少し色々問題ありな所だよなぁ……そもそもレオンハルト王子って王位を継ぐ気が有るのか無いのかそこからして既に分からない。
 茉莉の事が大好きなのは分かるのだけど、その意図もよく見えない感じで、茉莉の事は好きだけど結婚したいほど愛してるという感じには見えないのだ。
 どちらかと言えば友達感覚? そもそも自分の彼女を他の男と共有できると断言している時点でレオンハルト王子の考えは僕には理解ができない。
 ただ、他人の恋路に首を突っ込むと馬に蹴られるし、そこはもう当人同士で話し合ってもらうしかないので僕は見ないよ、知らないよ。

「それにしても、タケル様のご友人が勇者様だったなんて、何やら運命的なものを感じますわね……」
「はは、そんな運命だなんて……」

 そんな事を言い出したらまたうるさく嫌な顔をする人が……なんて考えてふと気付く、そういえばさっきからルーファウスの姿が見えない。
 垣根の向こう側まで一緒に居たのだ、この状況で姿を見せないなんてそれはそれで変だなと思って振り返ったら垣根の向こう側でとても不服そうな表情のルーファウスが憮然とこちらを見ている事に気が付いた。
 一体あそこで何をしているのかと首を傾げて「ルーファウス、何でこっちに来ないんだ?」と、声をかけたらルーファウスが黙って空中にまるでそこに壁があるかのように叩いて見せた。
 え? なにあれ? パントマイム?
 意味が分からなくて僕が首を傾げると、ルーファウスは溜息を吐き、こっちへ来いと僕を手招く。言われるがままに寄って行くと、腕を伸ばしてきたルーファウスの腕がまた壁に阻まれたように僕の目の前で止まった。

「ルーファウス、何してんの?」
「何じゃありませんよ、ここ! 防御結界! なんであなた方は平気でスルーしてるんですか!?」
「え?」

 僕が腕を伸ばせば壁など存在せずすっと腕が通るのに、どうやらルーファウスの前にだけそこには見えない壁があるらしい。
 ルーファウスはそれが気に入らないようで僕の腕を掴んで自分の方へと引っ張り込んだ。

「え? なに? これどういう事?」
「それを聞きたいのは私の方です」

 そういえば、先程ユーベル王子も僕達を不法侵入だとがなり立てていたのだったな。案内も防御結界も見当たらなかったから完全にただの言いがかりだと思っていたのだけれど、あったんだ、防御結界。
 恐らくそこの垣根は王家専用の庭園と客室棟の庭園との境界線であったのだろう、全く気付かずスルーしてしまったのだけれど、そこに壁があるなんて気付かなかったのだからこれはもう完全な不可抗力だろ!?

「タケル様、どうかいたしまして?」
「あ、エリシア様。どうやらここに防御結界があったみたいで、僕達本当に不法侵入だったみたいです」
「あら、本当ですわね」

 エリシア様が腕を伸ばすとやはりエリシア様の指先は防御結界に阻まれるようでこちら側には伸ばせない。
 けれど僕は完全スルーで普通に通り抜けができてしまう。

「エリシア様もダメなのですか……タケルがここを通り抜けできる事を考えると、もしかして異世界からやって来た者は特別なスキルでもって通り抜ける事ができるとも考えられるのですが、その場合理屈に合わない方がお一人いらっしゃるのですよね」

 そう言って、ルーファウスはロイドの方をちらりと盗み見る。
 まぁ、確かにチート能力持ちの僕と小太郎が防御結界をスルー出来たとしても、その場合ロイドは確実に防御結界に阻まれるはずだもんな。
 けれど実際は二人ともがあちら側にいる訳で、これはロイドも防御結界をスルーした、という結果に他ならない。

「タケルさん、何だかご迷惑おかけして……」

 小太郎が申し訳なさそうな表情で寄って来たので「それは別に構わないんだけど、小太郎君達って何処からそこへ入り込んだのかな?」と僕が問うと、キョトンとした表情の小太郎は「? ここからですけど?」と小首を傾げた。

「じゃあやっぱり普通に防御結界をすり抜けちゃったんだ……」
「防御結界?」

 ルーファウスが小太郎に見せるようにもう一度見えない壁をノックする。よくよく見てみれば確かにそこには薄い魔力の壁があって、ルーファウスが触れると波紋状に魔力が震えるのが見て取れる。

「わ! 全然気付かなかった!」

 その魔力の揺れは小太郎にも見えたようで、不思議そうにその壁に触れようとするのだが、小太郎の指は僕と同じでやはり普通に見えない壁をすり抜けてしまう。
 あと残るはロイドだけなのだけれど……
 皆の視線がロイドに集まると、何だよ? と言いたげにロイドがこちらにやって来てやはり普通に防御結界を越えてしまった。

「とても納得がいきません」

 これにはルーファウスもとても憮然とした表情で意味が分からないとご立腹だ。

「雁首揃えてなんで皆で俺を見る? 俺、何かしたか? 確かに王子に剣を向けたのはやり過ぎだったかと思うけど……」

 全く見当はずれなことを言い始めるロイドにルーファウスは首を振り「あなた一体何なんですか?」と、息を吐きだした。

「は? 俺の方こそなんであなたにそんな事を言われなきゃならないのか分からないんですけど!?」

 そんな中、エリシア様だけがにこにこと「きっと勇者様はタケル様と同じで特別なお力をお持ちなのですわ」と朗らかに笑っていた。

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