童貞のまま40を超えた僕が魔法使いから○○になった話

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第五章

ペットの躾は大事です

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 第二王子の婚約者、王家の客人として王城へ招かれていたエリシア様とは庭園で別れ、僕達は客室へと戻る。

「それにしてもさっきの凄かったですね! 剣に電流が纏わりついてまるで雷みたいでした!」

 小太郎がそう言ってロイドを見上げると、少し複雑そうな表情のロイドは「俺は雷の魔法はまだ使えない、あれは俺の力じゃなく聖剣の力だ」とぼそりと零した。
 どうもロイドは自分の本来の力ではない特別な力で自分が評価される事に抵抗があるのだろう。うんうん、分かるよ。僕もそうだから。
 突然与えられた特別な能力。それを素直に受け取る事ができればそれはそれで良いのだけど、やはり戸惑いは大きい。
 そんな能力を与えられた自分は選ばれし人間なんだ! って自惚れられるのもある種才能なんじゃないかって僕は思う。
 僕は自己肯定感がさほど高くないから周りに評価されると「そんな僕なんて……」と逆に委縮してしまうタイプだ。
 たぶん能力に潰されるってこういう事をいうんだろうなと思うけど、それでもそれを少しずつ自信に変えていく努力は惜しむつもりはない。
 けれどそんな得体の知れない能力で己を選ばれた人間だなどと慢心しないようにと自制してしまう僕はやはり小心者なのだろう。
 まぁ、それでも石橋を叩いて渡る性格は変えようがない。

「あのね、ロイド君、僕も前に言われた事があるんだけど、道具っていうのは使い手の力量次第でその使い勝手が変わるんだ。道具はあくまで道具であってその道具に使い手の力量が見合ってなければどれだけすごい道具でもその真価は表には出てこない。だからさっきのアレは正真正銘ロイド君が聖剣の力を引きずり出したんであって聖剣だけの力じゃないはず。ロイド君はそんな聖剣の力を引き出した事を誇って良いと思うよ」
「タケル……」

 ロイドが己の手を見つめる。
 そう、その力は必ず君の物になる。だから今はまだ焦る必要なんてないはずだ。

「あなたは元々アランより魔力量も多く、タケルの近くでタケルが魔力を扱うのを見ているせいか魔力の扱いに慣れている。風のエレメンタル、水のエレメンタルとの相性も悪くはないのですからあのくらい出来て当然です」
「え……」

 不意にかけられた言葉にロイドが驚いたように声の方を向いた。そこに居たのは腕を組み、相変らず不本意そうな表情のルーファウス。視線は決してロイドには向けない。

「言ってしまえば、あなたが聖剣の力を引き出したのではなく、聖剣があなたの潜在能力を引きずり出したのです。そして、それはあなたがその聖剣に認められているという証明に他ならない」
「えっと……ルーファウスさん?」
「はっきり言って、私はあなたが嫌いです!」

 ルーファウスがぎりっと睨むようにしてロイドの方を向き、ロイドに指を突き付ける。

「それは……知ってます」
「しかし! Aランク冒険者の私やBランクのアラン、そして規格外のタケルの傍でそれに食らいついてきた……ロイド」
「っ!」
「私はあなたのその胆力は認めても良いと思っています」
「!!」

 ロイドが驚きで目を見開いた。
 まぁね、始めてルーファウスがロイドの名を呼んだ上に、ロイドに対して肯定的な意見を述べるなんて今までなかった事だし(それもそれでどうかと思うけど)
 これ、明らかに僕の説教の成果なのだろうな。

「あなたは凡才で特筆すべき才能はありません、ですがあなたには類稀な粘り強さ、というべきか、しつこさ? が、ありますのでこれからも存分にその才を伸ばせばいいんじゃないですか!?」

 なんか最後の方ちょっとやけくそ気味だな。でも今までのルーファウスの態度からしてみたら『よくできました』の及第点かな。

「……ルーファウスさん」

 驚いた表情から真顔に戻ったロイドがルーファウスに呼びかける。それに対しルーファウスは「何ですか?」と素っ気なく返事を返した。

「何か悪いものでも食べたんですか? それともタケルに何か言われましたか? そんなひよった物言いのルーファウスさんは気持ち悪いのでやめてください」
「……は?」

 今度はルーファウスの方が驚いたような表情でロイドの顔を見やる。

「俺に粘り強さがあるって言うなら、それは8割がたルーファウスさんに負けるか! っていう反骨精神なんで、そんな風にひよられるとこっちの調子が狂います。はっきり言って迷惑です」
「はぁ!?」
「ただ、アドバイスはありがとうございます。Aランクの魔術師に魔力の扱いを褒められたのは俺もとても嬉しいです。どうやら俺の戦闘スタイルは間違ってなかったと確信が持てましたのでこれからも精進していきます」

 う……ううん? 二人が仲良くなれたらいいなと思っていた僕だけど、なんかちょっと僕の考えていた方向とは違う気が。
 憮然とした表情のルーファウス。これも喧嘩するほど仲が良いって言うのかな? ロイドは先程とは違い何だかスッキリしたような表情になっているからこれはこれで良い方に向かったのだと思うけど、どうにも解せない。

「タケル……私はやはりこの人が嫌いです」
「ルーファウス、そういうこと言わない」

 気持ちを率直に表に出せるのは美徳でもあるけれど、やっぱり人間関係には本音と建て前が必要だ。
 僕がルーファウスの言動を咎めると「やっぱりタケルの差し金か」とロイドが苦笑した。

「俺はもうルーファウスさんの言動にいちいち腹を立てたりしないし、悲しいとも思わない。ルーファウスさんに実力で勝ててないのは本当の事だし、ルーファウスさんがこういう人だってのもこの三年間で理解してる。だから別にタケルに気を遣ってもらわなくても平気だよ」

 ロイドがなんだか大人な発言。僕、余計なお世話だったかな。

「まぁ、それでも凹む時は凹むんだけど……って、あれ? タケル手首どうした?」
「え? ……あ」

 僕はとっさにルーファウスに噛み付かれた手首を隠す。そこにははっきりくっきりルーファウスの歯形が残っている。こんなの怪我と同じだから聖魔法で治しておけば良かったのに慌てていたのですっかり失念していた。

「これは、何でもない!」
「でも怪我し……て」

 腕を取られて噛み痕を見られて、そのまま無言で僕の腕を放したロイドは「ちっ」と舌打ちを打つと大きく息を吐き「ペットの躾は飼い主の責任だぞ、躾がなってないな」とぼそりと呟いた。
 これってどう考えても嫌味だよなぁ……しかもペット呼ばわりされているルーファウスが微妙にどや顔なのに腹が立つ。
 僕を挟んでロイドにマウント取ろうとするのホントやめて欲しい。僕はルーファウスの所有物じゃないって何度も何度も言ってるのに!
 今後きっちり躾けなければこの先が思いやられる……なんて思っていたら、横から「あの、タケルさん、もしかしてスライムって噛むんですか……?」と小太郎が恐る恐る尋ねてきた。
 僕のペット=スライム、うん、小太郎の認識は間違っていない。でも、そもそもスライムには歯が無いんだよ。

「タケルにはスライムより質の悪いペットがいるだけで、コタローのスライムは噛まないから安心しとけ」
「あ……そうなんだ、良かった」

 ホッとしたような表情の小太郎。まるで言葉の裏を読む事をしない小太郎に思わずという感じでロイドが笑いだし、わしゃわしゃと彼の頭を撫でた。

「わ! ロイドさん、何するんですか!」
「はは、コタローは可愛いなぁと思ってさ」
「ボ、ボクは可愛くなんかないですよっ」

 そんな事を言いながら真っ赤になっている小太郎は充分可愛い。なんか僕まで和んでしまって、荒んだ心が浄化されたよ。



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