童貞のまま40を超えた僕が魔法使いから○○になった話

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第七章

心に浮かぶ澱

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 冒険者仲間のロイド君、そしてそんな彼と行動を共にしていた小太郎君と僕は数十年ぶりに再会した。
 2人はこの十年で名を上げ、Sランク冒険者の英雄となっていた。
 そして、そんな彼等を前に今僕は「ちょっと魔王倒してみる?」と笑みを浮かべる。

「そもそも俺達はまだタケルが魔の森に人を寄せ付けたくない理由を聞いていない、理由も言わずにそれは無いだろう!」
「確かにそれもそうだね、アルバートさん」
「ふむ、そうだな。だが、理由を知る者は最小限に抑えたい、他の方々には席を外してもらっても?」

 お願いという体をしているけれど、アルバートさんの態度に『他の奴等は席を外せ』という無言の圧を感じて僕は苦笑する。
 そしてそんなアルバートさんの態度にロイド君は「この感じ、懐かしすぎて逆に笑うわ」と呟きつつ「ちょっと外で待っててくれるか?」と、心配そうな表情を浮かべる仲間に笑みを見せ、話し合いの場から追い出した。
 その際にまたしても僕は小太郎君から睨まれた気がするのだけど、今はとりあえずスルーしておく。

「で、理由を聞いても?」
「その前にこの話は他の誰にも他言はしないという誓約をしていただきたいのですが」
「ああ、もしかして魔術での誓約? 別にいいけど……」

 そう言ってロイドはどうすればいい? と首を傾げる。するとアルバートは彼の利き腕を聞いて、その腕に魔術による誓約魔法をかけていく。
 これでもし、ロイドが今から話す内容を他言するような事があれば利き腕に何かしらの不具合が生じる事になるのだろう。申し訳ない。
 誓約と共に解放された利き腕を撫でて、ロイドは「それにしてもタケル、この人、言動があの人と同じ過ぎて笑うしかないんだけど、やっぱり血は争えない感じなのか?」と苦笑した。
 それに対して僕は「そんな事もないんだけど、ね」と言葉を濁すしかない。初手から命を誓約に乗せていない分だけ、アルバートさんの方がルーファウスよりよっぽど優しい。
 そんな僕達の会話を横に「先程から二人で意味ありげに話しているのは誰の事だ?」とアルバートさんは不機嫌そうな表情を見せる。

「僕達の冒険者仲間の事ですよ、まあ、言ってしまえばアルバートさんの血縁関係、とだけ言っておきます」
「ほう」
「過去が変わると未来が変わる。過去にはあまり干渉しない方が良いって小太郎が言っていたけど、話してはないのか?」
「それは、まあね」

 小太郎君には現代日本での知識がある、僕と同じように考えて、僕と同じように過去には干渉しないように彼等も今まで行動してきたのだろう。
 まあ、そうは言っても僕はもう既にずいぶん過去に干渉してしまっている気がしなくもないのだけれど、ついでに言えばロイド君もだ。
 彼は迷いの森のダンジョンを攻略し、冒険者として世間にずいぶん名を馳せてしまっている。
 そしてこれから彼に頼もうとしている魔王討伐に到っては完全に歴史に組み込まれている史実である。これは正しい行動なのか、それとも間違っているのか分からない。
 グランバルト王国の初代国王陛下とロイド君の名前が同じである事は分かっている、これは確定路線なのか、それとも誤った選択なのか。
 タイムループでいつも語られるのは卵が先か、鶏が先かという問題だ。
 僕達が知っている史実に僕達が関わっているか否かというのは僕達には分からない事で、史実に干渉しないようにと行動した結果、史実と異なる結果になるのならば本末転倒という話にもなる。
 僕達が知っている未来では、グランバルト初代国王陛下の職業は元冒険者で名をロイド(もしくはフロイド)という事、そして彼は魔王を倒し国を興したという史実である。
 そして、その為には今、目の前にいる勇者の称号を有するロイドに魔王を倒してもらい、グランバルト王国を建国してもらうというのが既定路線である気がしてならないのだ。
 だって、魔王は現実には存在していない訳で、そんな魔王を倒す事など本来は不可能なのだ。けれど、彼に魔王を倒してもらう事で、史実と現実は現状一致する。

「魔の森にあるエルフの里には聖樹があるんだ」
「聖樹って……あのオロチが言ってた、卵を授けてくれたとかいう?」
「そう、それ」
「聖樹はオロチが住んでた魔物の楽園の方にあるんじゃなかったか? 確かあそこは従魔師ギルドの直轄地だったろう?」
「現状、従魔師ギルドがないからね、どうしてそうなってるのか分からないし、僕はオロチと一緒にそこへ行った訳じゃないから同じ聖樹なのかも分からない」

 ロイドはふうんと、驚くでもなく頷いて「魔の森に入って欲しくない理由ってそれだけなのか?」と首を傾げる。

「たったそれだけの事なら、理由として弱い気がするんだけど、聖樹ってそんなに大事なものなのか?」
「エルフの里のご神木をその程度と侮るな」

 アルバートさんが不機嫌を表情に乗せて抗議する。確かにエルフの里の人々は聖樹を大事に大事に祀っているからな。

「ロイド君も分かっていると思うけど、ドラゴンにとってどうやら聖樹っていうのは繁殖には無くてはならないものらしい。だけどエルフの里では聖樹は大事な神様みたいなものでさ、侵されたくない大事なご神木なんだよ。だけど人はドラゴンを天災・災厄って呼ぶだろう? そんなドラゴンの繁殖を担っている聖樹の存在を知ったら、聖樹なんて伐採してしまえって話しになると思うんだよ」
「まあ、それは確かにそうなるだろうな。ドラゴンなんて、それこそ一般的には最強最悪な魔物でしかない。オロチを知っている俺からすると、それもどうなのかと思わなくもないけど、何せ言葉が通じないからな」

 オロチとある程度交流をしていたロイドにはドラゴンに対して忌避感がないので話が早い。

「エルフの里ではドラゴンはどういう扱いなんだ? 災厄扱いにはならないのか?」
「ん~言ってしまえばお客様、かな。ドラゴンが聖樹にやって来てもお互い干渉しないのが不文律みたいで、特に何もしない。ドラゴンの方も暇なら一日聖樹で寝てるよ」
「マジか、平和だな」

 僕はエルフの里の成り立ちを語る。
 元々エルフの里はドラゴンの伴侶として選ばれたエルフとその一族が暮らして現在の里の形を取っている事。言ってしまえば里のエルフはドラゴンの眷属のような者達である事を僕は語った。

「なるほどな、エルフとドラゴンにそんな関係があるとは意外だけど、エルフ族は人族とは一線を画しているのも事実だからな」

 本当はあともうひとつ、エルフの里には秘密がある。それは聖水の湧きだす聖なる泉の存在だ。その泉から湧きだす水は魔力が豊富で治癒力にも優れている。きっとその聖水の存在を知れば人はこぞってその泉から湧く水を欲しがるだろう。
 聖樹があるから聖水が湧くのか、聖水があるから聖樹が育つのか、そのどちらが由来なのか分からないけれど、そのふたつはセットで切り離す事はできない。けれど、そこまで全て話す必要はないだろうと僕は敢えて禁域である聖なる泉の話はしなかった。

「ふうん。とりあえず、魔の森に人を入れたくない理由は分かった。確かにドラゴンと聖樹を護るためには魔王を倒すふりをするのが手っ取り早い気はするけど、だけどそれって俺にグランバルト王国の初代国王になれって事だよな?」

 そう言ってロイドは息を吐きだし、自身の腰に佩いている剣を撫でる。

「俺はこの剣を手に入れて勇者の称号を得た。はっきり言って成り行きだけで手に入れた代物だけど、今となっては俺にとって無くてはならない相棒だ。俺もこっちに来てから時々考える事はあったんだよ、何せこいつは聖剣として王都で大事に祀られていたはずの初代国王陛下の剣なんだ、それを今俺が持っている事にもしかして意味はあるんじゃないか、とな」

 「だけど」と、ロイドは言葉を続ける。

「俺は王の器じゃない」
「それは……」
「俺はもう自分で分かってる、俺は人の上に立てる人間じゃない。この剣は確かに俺を選んでくれた、でも選ばれたのは俺だけじゃない。この剣に選ばれたという点だけで言うのならコタローだって勇者の称号は持っている」

 僕は言葉を詰まらせた。
 確かにロイドの言う事は真実だ。この剣の元々の持ち主は小太郎であり、勇者として異世界から召喚されたのも小太郎なのだから。

「コタローは凄い奴だ。最初はおどおどしていて正直あんまり好きになれないタイプだと思ってた。だけど十年一緒に居てちゃんと分かった、コタローは慎重なだけで臆病じゃない、勇気がないんじゃなくて優しいだけだ。いつも自信無さそうにしているけど、ちゃんとやるべき事は分かってるし、観察眼にも優れてる。今となってはコタローはこの剣と同じ唯一無二の俺の相棒だ。確かにコタローは人の意見に飲まれがちな所はあるけど、決して自分が無い訳じゃない。いつだってコタローは正しい道を選び取る、俺はそれに何度も助けられてきた、王様っていうのはそういう奴がなるべきだ」

 ロイドはそう言い切って「俺はコタローの剣でいい」とくしゃりと笑った。

「ロイド君ってさ、もしかして、小太郎君のこと……好き?」
「っ……」
 
 僕の問いかけにロイドが分かりやすく動揺を見せて、あーとかうーとか唸り始める。出会った時からそうだった、彼の感情の機微はとても分かりやすい。
 まあ、そうだよね十年も苦楽を共にして生きてきたのだ、それなりに情だって湧くだろう。
 ロイドは元々僕に好意を寄せてくれていただけに、男性相手に恋情を向ける事に忌避感はないのだろう。そして、これは僕がルーファウスを選んだ時に僕が望んだ結果でもある。

「っっ……コタローには言わないでくれ」
「どうして? 僕はお似合いだと思うよ? むしろまだ付き合ってないの? 僕に対して真正面から告白してきたロイド君らしくもない」

 もし彼等が付き合っているのならば、小太郎が僕に向ける険しい視線の理由に納得がいく。あれはロイドと仲良くしている僕に対する嫉妬の瞳だ。

「だって、あの時は、ルーファウスさんもアランさんもタケルに対する好意がダダ洩れで、きっちり言っとかなきゃ俺なんか全く意識もされないってそう思ったから」
「そうなんだ」
「だけど、コタローとはそういう感じじゃないし、告白なんかした日には全速力で逃げられそうで……」

 いや、それはないんじゃないかな? だって、これ絶対両想いだろう?
 そうじゃなきゃ、僕が小太郎君にここまで忌み嫌われる理由が分からない。
 いいなあ、青春だな。でも、もう青春って年齢でもないか。
 なにせ僕達はもう二十代も半ばで、人生の伴侶と将来を考えても不思議ではない年齢だ。男同士では子を望む事はできないけれど、冒険者として後進を育てていくという生活の仕方だってある。
 それこそロイド君はギルドマスターにと望まれるだけの実力もあるのだし、将来は安泰だろう。
 ロイド君と小太郎君、うん、お似合いだと思うよ。ロイド君と小太郎、君……

「ああ……小太郎君が、タロウさん、なのか」
「ん?」

 確かに一文字違うだけ、そう気付いてしまえば何もかもがすとんと落ちてくる。
 そして同時にルーファウスの語っていたこれから起こる出来事も次々と思い出されて、思考が迷う。
 グランバルト王国の初代国王陛下とタロウさんは良い仲だった、けれど最終的にはアルバートの娘であり、ルーファウスの姉と結婚する。そしてタロウさんは歴史の影へと消えていく。
 現時点ではまだ、アルバートに子はいない、だとすればそれはまだまだ先の話にはなるけれども……
 ロイドが国王陛下になってしまえば、どうしたって出てくるのは後継問題だ。相思相愛の二人の未来に別れが確実にやってくる事を考えると、僕は一概に二人の仲を祝福できない。
 そういえばルーファウスが僕とアランに幼い頃の話をしてくれた時、ロイドと小太郎は部屋にいなかった。
 あの時、小太郎は体調を崩して寝込んでおり、ロイドはそんな彼の看病をルーファウスに押し付けられ別室にいた。
 僕達は彼等と別の部屋に案内されて、その時にされたのがルーファウスの幼い頃の思い出話しだった事を思い出し、2人はこれから起こるであろう別れを知らないのだと思い至る。

「………………」

 これは言うべきなのか、それとも胸にしまったままの方が良いのだろうか。だけど、もし僕がここで未来を語って二人の仲を裂いてしまえば、それこそ僕達の未来が変わってしまう。
 タロウさんは聖者として教会を設立し、そして人知れず一人で世界を護るのだ。これは僕にとっては既に知っていて、決まっている未来。
 ああ、でもそうか、ルーファウスがあそこまで恋焦がれていた初恋の相手って小太郎君なんだ……
 急に心の中に澱が浮かぶ。
 僕はこのままなら幼いルーファウスには会えるだろう、けれど300年後の彼に会う事はできない。
 けれど、どういう訳か人の身でありながらタロウさんは300年後も生きていて、封印さえどうにかできれば解放される。
 ルーファウスの初恋の相手であるタロウさん、即ち小太郎君を解放できたならルーファウスは彼を……愛するのだろうか?
 またしても心の中の澱がこぷりこぷりと増えていくような感覚と共に僕の血の気は引いていく。

「タケル、どうした? 顔色が悪いぞ?」

 アルバートとロイドの二人共が僕の顔を覗き込む。けれど僕は心配そうに僕の顔色を気遣う二人に何も言葉を返せなかった。

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