童貞のまま40を超えた僕が魔法使いから○○になった話

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第七章

ちょっと魔王討伐しちゃおうか

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「え? なっ!? 嘘でしょ!?」

 街に着くと同時に声を上げたのは治癒師のエリン、転移魔法は初めてだったのか目を白黒させている。
 まあ、転移の術は魔法の中でも稀有と言われる時空魔法で使える人間は限られている。驚くのも無理はない。
 僕の周りには使える人が何人もいるから忘れがちだけれど、一般的には時空魔法を扱える人間の方が稀なのだ。
 だけど恐らく転生チート持ちの小太郎君も転移魔法は使えるんじゃないのだろうか? 茉莉ちゃんも使えていた訳だし。
 ちらりと小太郎の様子を窺うも、彼は何も言わないし僕の方を向きもしない。

「転移魔法は初めてですか?」
「転移自体は初めてという訳じゃないですけど、こんな簡単に詠唱もなく複数人を転移させる術なんて初めてで……」

 ああ、そういえばまた詠唱を省いてしまったな。この世界では魔法の発動には基本的に詠唱が必須というのは過去も未来も変わらない。無詠唱での魔術発動は奇異の目で見られるのであまりやらないようにとルーファウスにも口を酸っぱくして言われていたのに、そんな事すっかり忘れていた。

「もしかして貴方はエルフの里に居るって噂になってる、すっごい魔術師の人ですか!?」
「えっと、違うと思う、よ?」

 そんな噂が立っているって話は聞いてるけど、それはあくまでも僕が魔術師であるタロウさんを探していて立ってしまった噂であって、僕が凄い魔術師だという話ではないのだ。

「そういえば、俺もそんな話聞いたな。魔術師のタロウって確かルーファウスさんから何度かその名前聞いてたから、その人かって思って聞いてたんだけど、どんな人だった?」

 ロイドにまで問われて僕は言葉に詰まる。だって、エルフの里にタロウさんは居ないのだ。

「まだ会った事ないから分からない。それにエルフの里に居るって言うのも間違いだよ。僕はタロウさんはシュルクの街の方にいるらしいって話を聞いてる」
「は? それは無いだろう? 俺達、何年かシュルクに居たけど、そんな話聞いた事ないぞ?」

 え? あれ? そうなんだ。

「ロイド君達はシュルクに居たの?」
「こっちに来て、コタローと二人でどうしようってなって戻ってみたんだ。一応俺の生まれ故郷だし、もしかしたら何が起こってるのか分かる事もあるかもって思って。まあ、結局何も分からなかったんだけど。町の近くに『迷いの森』って呼ばれてる森があっただろ? そこにダンジョンがあったんだ。迷いの森にダンジョンがあったなんて俺も知らなかったんだけど、お陰で食うには困らないだけの仕事はあったから何年かは拠点にしてた」

 迷いの森にダンジョンがある事も、シュルクが冒険者の街として賑わっている事も確かに僕は聞いていた。
 エルフの里を出て当初向かう予定だったのもシュルクの街で、オルデ村を見付ける事がなければ、もっと早くに彼等に再会できていたのだ。なんてことだ。

「ロイドさんはそのダンジョンをコタローさんと二人で攻略したんっすよ、シュルクの街では2人はちょっとした英雄っす!」

 僕達の話に口を挟んできたのは格闘家のダレス。彼はロイドに心酔しているようで「ロイドさん、マジかっけー!」と興奮気味に語ってくれた。
 そんな彼の興奮気味な語り口にロイドは大人の笑みで「止めろ止めろ、恥ずかしい」と諫めるのだけど、その表情は満更でも無さそうに見える。

「ダンジョン、攻略したんだ?」
「何年かかかったけどな。でもメイズのダンジョン城に比べたら、大した事なかった。ただ、ダンジョン核の封じ方なんて分からなかったから核をぶっ壊したんだ、そしたらダンジョン自体が崩壊して焦ったな。街への脅威は去ったけど、お陰で仕事は激減するし、それなら旅にでも出るかって今に至る」

 なるほど、だから僕達のいた時代には迷いの森のダンジョンの情報が残っていなかったのか。ダンジョン核を壊すとダンジョンは崩壊するらしい、知らなかったな。
 まあ、ダンジョン核には相当量の魔力が内包されているようだったし、その魔力によってダンジョンは形成されているという事なのだろう。そしてそんなダンジョン核が破壊されればダンジョン自体が形を保っていられないと、そういう事か。
 ダンジョンを観光資源にしていたメイズのギルドマスターがダンジョン核の破壊ではなく封印を依頼してきた理由はそこにあるのだろう。

「タケル達と旅してた頃は一番のみそっかすだった俺が今じゃsランク冒険者だ、人生何が起こるか分からないもんだよな」
「!? Sランク!? Aじゃなくて!?」
「俺達、ダンジョン攻略前に既にもうAランクだったんだよ。冒険者のランク付けってまだ始まったばっかりみたいでさ、基準が緩いんだ。そのお陰で俺達はとんとん拍子で昇格してAランクになってたんだけど、A以上のランクは何か功績をあげたら授与されるランクって事で、町にとって脅威だったダンジョンを攻略した功績でSに昇格されたんだ」

 なんかロイド君が滅茶苦茶出世してる! いやでも10年だ、10年もあれば人は変わる、何も変わらないエルフ達との生活に慣れきって何も変われなかった僕がダメダメなだけだ。

「ロイドさんを冒険者ギルドのギルマスにって話もあったんですよ、だけどロイドさんそれを辞退して街を出ちゃったっす。そんな潔い姿に憧れて追いかけて、オレは仲間にしてもらったっす!」

 誇るように胸を張るダレスは完全にロイドの舎弟なのだな、年齢的にはさほど変わらないように見えるけれど、自分に尊敬のまなざしを向けるダレスにロイドは「俺は人の上に立てるほど偉くない」と苦笑した。

「凄いね、ロイド君」
「別に……俺は自分よりもっと上がいる事を知ってるからな。だけど、褒められるのは悪くない。俺、ちゃんとお前との約束も守ったぞ」

 約束? 約束ってなんだっけ?

「僕、何かロイド君と約束してたっけ?」
「タケルは俺にコタローを守れって言っただろ、だからこの十年間、俺はちゃんとコタローを守ってきた。タケルはそんな俺を褒めるべきだ」

 あ、ああ! 確かに僕は魔王領に旅立つ前、ロイドに小太郎を守るように告げたのだ。僕の事は守らなくてもいいから小太郎を優先して守って欲しいと確かに僕は彼にそう言った。

「そうは言っても、最近は俺の方がコタローの魔術に助けられる事も多いんだけどな」
「そうっすよ! 無防備に突っ込んでくロイドさんのフォローしてるのはコタローさんっすよ、ロイドさんはもっとコタローさんに感謝すべきです」
「ははは、ちゃんと感謝はしてるよ」

 ロイドとダレスの軽口に、この十年で彼は良い仲間を得て充実した生活を送っていた事が分かり、自然と笑みが浮かぶ。
 姿形は変わっても本質的な所は何も変わらない気の良い仲間、僕は何故だかホッとした。けれどその時、視線を感じて顔を上げればロイドの後ろに立っていた小太郎が暗い瞳でこちらを見ていた。
 ただ、それを見たのも一瞬で、彼は僕と目が合うとすぐに視線を逸らし俯いてしまったので気のせいだと言われてしまえばそれまでだ。けれどその瞬間に感じた寒気は本物だったと僕は思う。

「小太郎君?」
「なんですか?」

 声をかければ返事は普通に返ってくる。その声に喜色はないが、特に声を荒げられている訳ではない。
 元々嫌われているのではないかと思っていた、だけど今の視線で確信する、僕は彼に嫌われている。

「小太郎君は僕に何か言いたい事があるんじゃないのかな? 言いたい事があるのなら、全部話して欲しい。僕達同郷だろ」
「別に、なにも、ありません」

 小太郎は頑なに僕と視線を合わせようとはしない。
 言いたい事は絶対にあるはずだ、本当に何もないのならばあんな視線を向けられる理由が分からない。
 こちらに心当たりは全くないけれど、それでも何か彼の気に障る事はあるのだろう。だったらそれを言ってくれれば良いのにと思うのだけれど、彼は首を横に振って「それよりも、話し合いをするんじゃなかったんですか?」と、周りを見渡した。

「彼の言う通りだ、私の名はアルバート。見ての通りエルフでタケルの監視役をしている。タケル、そちらの皆さんの紹介をしていただいても?」

 場を纏める落ち着いた声、アルバートさんが自己紹介を促したので、僕達は改めてそれぞれに名を名乗りあった。

「では改めて冒険者の君達に問おう、何故わざわざ危険だと分かっている地に足を踏み入れようとする? 私達はいつも君達に我らの里に近付くなと警告しているはずなのだけれどな」
「それは、冒険者を職業としている立場から言わせてもらえばギルドに正式な依頼が出ていたから、としか言えませんね。俺達冒険者はギルドからの依頼を受ける事で生計を立てています。調査の依頼があればそこが危険な場所だと分かっていても赴きますよ」

 ロイドの答えは正論だ、冒険者は金を貰って危険な地へ赴き、危険な魔物を狩ったり、希少な植物や遺跡の機構物などの採取をして生計を立てる。そこに依頼がある限り、どれだけ危険な場所だと分かっていても命知らずにも飛び込んでいくのが冒険者という職業なのだから。

「正式な依頼、正式な依頼か……誰がそんな依頼を出しているのだろうか。我らエルフはただ近付くなと言っているだけなのに。そんなに人族はかの地の魔物の魔石が欲しいのか?」
「? 別にこの地の人達は魔石を欲している訳ではありませんよ、正体の知れない『魔王』という存在を恐れているだけで」
「我らはかの地に迷い込んだ冒険者達には何度もここに魔王などいないと言っているのだがな」
「それはエルフの里にはいない、という意味であって魔の森にいないという話ではないのでは?」
「何故そうなる? 実際に住んでいる者が『いない』と言っているのに」
「それは実際に『いる』という話しも聞いているからです」

 どこまでも話が平行線だ、魔王なんて何処を探しても居ないのに、何故そこまで頑なに魔王は居ると言い張るのか。

「誰がそんな噂を流しているのでしょう」
「あなた達は魔王は居ないと言いますが、居るという話を人族に語って聞かせてくれたのもエルフだったと聞いています。だからこそ魔の森のエルフは魔王の下についたという話しになっているんですよ」
「は!? あり得ない!」

 アルバートが思わずという感じに声を荒げた。確かに噂を流しているのが同胞であるエルフであるのならばその信ぴょう性は格段に上がってしまう。
 その魔王という存在を魔の森のエルフ達は隠しているのだと人間達が考えてしまうのも仕方がない。

「一体誰がそんな事を……」
「魔王という存在は巷では面白おかしく様々な形で広がっています。醜い大男だと言われていたと思ったら、とても美しい亜人が魔物を侍らせているという噂もある、けれどその正体は誰も知らず、だからこそ人はその『魔王』という存在を恐れている」

 アルバートはそんな勝手な妄想で語られてもな。ましてや、そんな理由で侵入者が増えているとは予想外だと困惑顔を見せた。

「タケル、魔の森に魔王は本当にいないのか?」
「居ないよ。そもそも一番最初に魔王って言われたの、たぶん僕だし」
「え?」

 僕は魔の森に壁を築いた事、その際にドラゴンに少しだけ手伝って貰った事をロイドに語る。

「ドラゴンって事は、オロチはタケルと一緒にいたのか」
「オロチじゃないよ、別ドラゴン。従魔じゃないから名前はないけど、本人は炎龍フレイムドラゴンだって言ってる」
「炎龍……」

 ロイドと小太郎以外の冒険者三人が信じられないというような顔で僕を見る。
 そんな化け物を見るような顔しなくてもいいじゃないか、炎龍はそこまで怖くないよ。人の話は聞かないけれど。

「なんでドラゴン? どこで捕まえたんだ? 魔物の楽園?」
「こっちには従魔師ギルドがないから魔物の楽園には行けないんだ、鍵が開かない。炎龍と会ったのはたまたま偶然で、番を探してエルフの里に来たから声をかけたら懐かれて……」
「なんで番を探してエルフの里にドラゴンが来るんだ?」

 そこに聖樹があるからさ、とは言えない僕は視線をちらりとアルバートに向けるのだけど、彼は何も言わない。

「ドラゴンの番相手は魔力量が多ければ種族は問わないらしいんだよね、エルフは種族的に魔力量が多いからさ。茉莉ちゃんがオロチに選ばれたのもそういう理由だと思う」
「いま、なんか、さらっと、ドラゴンの知られざる生態が明かされた気がするのですけど!? それって、世紀の大発見なのでは!?」

 治癒師のエリンが興奮したように声を上げる。
 え? そうなの? そうだっけ? これってそんなに重大な情報だった??
 そういえばルーファウスもドラゴンの生態ははっきりしていないとかそんな事言ってたか? でも別に知られて困る事でもないような気がするのだけど?

「まあ、それはそれとして、だから本当にあそこには人を害するような魔王はいないんだよ。ただ、僕としては概念としての魔王は存在していてもいいと思っているけど」
「概念としての、魔王?」
「エルフの里に近付いて欲しくないんだ。だから僕はあそこに壁を築いた。魔王という存在がその抑止力になるなら、魔王はいてもいいと僕は思ってる」
「ほう」

 僕の発言にだんまりを決め込んでいたアルバートさんが声を上げた。

「それは正式に魔の森を魔王領として人族に認識させるって事か?」
「だって、放っておいたら何度でもこうやって冒険者はやって来るんですよ? だったらもういっそここは魔王領だと宣言して、危険だから近寄るなと周りに言って回った方が良くないですか?」
「だが、そうしたら今度は魔王討伐の名のもとに冒険者やら自称勇者とかが乗り込んでくるようになるのでは?」

 あ、確かにそれは否定できないかも。それはそれで面倒くさいな。

「だったらいっそ魔王は倒されて封印された事にしたらどうだ? 封印を解けばまた魔王が復活してしまう、だから魔王領には近付くなって話を広めれば魔の森に近付く奴等は減るんじゃないか? ついでに封印と共に森は呪われたとか言っとけば完璧だろう」
「あ、それいいかも!」

 ロイドが何の気なしに述べた提案。確かにそれならば侵入者の抑止力になりそうな気はする。

「でも、そうすると魔王を討伐する役割の人間が必要になりますよね」
「それっていわゆる『勇者様』ってやつですね! カッコいいっすよね、勇者!」

 目を輝かせるダレス君、やはり男の子は誰しもそういう英雄譚大好きだよね。うんうん分かるよ。

「君、勇者やってみる?」
「はへ? 俺っすか!? 無理無理無理、俺はそんなたまじゃないっす! そういう事なら俺はロイドさんに一票入れさせていただくっすよ! なんせロイドさんはシュルクの街の英雄なんで!」

 今度は皆の視線がロイドに向いた。

「待て、俺はそんなつもりで言ったわけでは……」
「そういえばロイド君って『勇者』の称号持ってたよね」
「それは……」
「マジっすか!? ロイドさんかっけー!!」

 シュルクの街の英雄でSランク冒険者のロイド君。考えてみればこれ程の適任者は他にいない気が……だって聖剣グランバルトは彼を勇者と認めているのだ。
 あれ? でもそうするともしかして……

「そういえば、グランバルト王国の初代国王陛下の名前はフロイド・グランバルト、冒険者仲間にはロイドって呼ばれてたって……」
「待て待て待て、え? 嘘だろ?」

 でも初代国王陛下は魔王討伐で王国を興しているのだ、あれ? これ、もしかして、もしかする??
 そういえば、聖剣グランバルトはロイドをまるで最初から主であるかのように懐いて(?)いたのだ。もしかして、元々の持ち主も彼であったのだとしたら、その聖剣の反応も頷けてしまう。
 ただ、聖剣グランバルトは同時に魔剣アビスでもあるのだ。その辺の謎はまだ解けない。

「ロイド君、ちょっと魔王倒してみる?」

 そんな僕の提案に「そんなその辺買い物に、みたいな軽いノリで俺に魔王討伐させるのはやめてくれ!!」とロイドは困惑顔で悲鳴を上げた。

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