童貞のまま40を超えた僕が魔法使いから○○になった話

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第七章

冒険者たち

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 僕の目の前に突然現れたのは未来で僕の冒険者仲間だったロイドだった。彼はこちらへ来た僕の年齢より3歳上だったので、あの時の年齢差のままここに居るとしたら現在の彼の年齢は28歳、すっかりいい大人だ。

「え、本当に? 本物のロイド君?」
「だから、本物だって。それに俺だけじゃない」
「え?」

 そう言って、彼が後方に視線をやると、そこに居たのは魔術師のローブを纏った、やはり冒険者という出で立ちのひょろりとした男性だった。彼は僕達の視線に気付くと一瞬びくりと身を竦ませてから、持っていた杖をぎゅっと握りこんで、おずおずと「お久しぶりです、タケルさん」とぺこりと頭を下げた。
 顔を見ただけではこの人誰だっけ? と一瞬疑問が浮かんだが、そのおどおどとした言動には見覚えがある。

「もしかして、小太郎君?」
「はい、僕です」

 彼もまた、ロイドと同じようにすっかり大人に育っている。とはいえ、相変らず気弱であるのは変わりがないのか印象はあまり変わって見えない。

「タケルの方は? エルフと一緒に居るって事はルーファウスさんと一緒にいるんだよな? アランさんは?」

 タケルは当然彼等と一緒に居るのだろう? と疑いもしない口ぶりでロイドが僕に問いかけるのだけど、僕はそれに戸惑って首を横に振った。

「二人とも居ない。僕は僕一人だけがこっちに飛ばされたんだと思ってた、違ったんだね」
「え! そうなのか……でもまあ、俺達も二人だけかと思ってたから似たようなもんだけど」
「君達は王城に居たんだよね? 他の人は? 茉莉ちゃんとか」
「分からない。気付いたら俺達は二人で知らない町の外れに佇んでたんだ、とは言っても今なら分かる、あそこは城があった場所そのままだった。時間だけ飛んだんだと思う」

 畳みかけるように二人で事実確認をしていると「あの、その話は今はちょっと……」と小太郎がやはり少しおずおずと僕達の間に割り込んできた。
 気付けば二人の冒険者仲間もエルフの里の者達も僕達二人に注目している、流石にこれ以上話を続けるのはあまりよろしくない状況だと僕も理解した。
 けれど二人と話をしようにも僕の行動範囲は限りなく制限されている。
 僕は人族としてはとても長い10年という年月をエルフの里で過ごし、ある一定の信用は勝ち取っているけれど、それでも彼等をエルフの里に招き入れる権限は持ち合わせていない。
 だったら壁の外でという話しになってくるけれど、その場合にはアルバートの監視付きと決められている。
 僕が一人で自由に動き回れるのはエルフの里の管轄内とオルデ村の中だけ、けれどだからと言って彼等を亜人の村であるオルデ村に招待するのもどうかと思うのだ。オルデ村には余所者を引き入れた事は一度もない、村人もそれを望みはしないだろう。
 僕がどうしようかと考え込んでいると、ロイドがひょいと僕の顔を覗き込み「どうした?」と心配そうな瞳を向けてくる。
 姿形はすっかり大人びてしまった彼だけど、その瞳は変わらないなと僕は思う。

「ちょっと事情があって、僕、森の外には出られないんだ。かといってエルフの里に君達を連れていく事もできないから、どうしようかと」
「出られない? なんで?」
「これも話せば長くなるんだよ」

 僕は駆けつけてきた里の者に「アルバートさんを呼んできてもらえませんか?」と告げると、一人が頷き踵を返した。

「アルバートさんって誰? なんか名前に聞き覚えがあるような気がしなくもないんだけど」
「えっと、ロイド君達も会った事ある人だよ。ルーファウスの……」
「ああ!」

 エルフというのは元々数が少ない、僕達が知っているエルフの知人なんてルーファウスとアルバート、そしてルーファウスの家に仕えていた幾人かの使用人しかいないのだ、ロイドはすぐに思い当たったのか「あの人か!」と僕をまじまじと見やる。

「なんで一緒に? あの時、あんまりいい印象持ってなかっただろう?」
「これにも深い訳が……」

 どこまでの事をこの場で話していいものか分からない。ロイドの冒険者仲間達は一体何処まで僕達の事情を知っているのかも分からないし、考えなければいけない事が多すぎる。

「えっと、僕の事はとりあえず置いておいて、そちらお友達の紹介をしてもらっても?」
「え? ああ、そうか」

 そう言ってロイドがぐるりと自身の仲間を見やる、数はロイドを含む5人、一人は小太郎君なので、僕が知らない残り3人を彼は紹介してくれた。
 3人のうち2人は女性で、1人が治癒師のエリン、もう1人が弓で戦うアーチャーのマミア、残る男性はアランと同じ格闘家で名をダレスといった。
 年齢は皆同じくらいだろうか、僕が改めて自己紹介すると3人もそれぞれ自己紹介をしてくれた。

「それにしてもタケル、髪伸びたな」
「え? ああ……」

 いつもは邪魔にならないように纏めているのだけれど、ちょうど解いて梳いていた所だったので、現在僕の髪は下ろされたまま背中で揺れている。

「最初に現れた時、これが噂のエルフか! って思ったもんな」
「そうそう、綺麗すぎて、エルフって本当に精霊の仲間なんだって思った」

 ん? なに? 何の話? 精霊? エルフが? 確かにエルフ達は精霊を大事にしてるけど、そういう話? それにしても綺麗って誰が? エルフの里の人達が美形なのは間違いないけれど。

「本当にそれな。一目では分からなかった、ちょっと悔しい」

 ロイド君までそんな事を言い出して僕は戸惑う。視線を彷徨わせると小太郎君と目が合ったのだけど、ふいっと視線を逸らされてしまった。ついでに治癒師と名乗ったエリンは無言でキラキラした瞳をこちらに向けているし、何だかとても居たたまれない。

「あの、噂のエルフってなに?」
「ああ、壁の内側に入るとエルフが現れるってのはこの辺では知られた話みたいなんだが、滅茶苦茶美形のエルフが居るって噂でさ、一目見てみたいって奴等が壁を越える事案が増えてるらしい。そんでもって魔物にやられて自滅なんて話もあって、危険だからって調査依頼が出てるんだよ。エルフが魔王に下って人をおびき寄せて誑かしてるんじゃないかって、そんな話もあるらしい。だけどタケルがいるんだから、魔王に下ったとかそういう話はデマだと思っていいよな?」

 それはとんでもない言いがかりだな! 勝手に自滅してるのを、誑かしてるとか意味が分からない。こっちは侵入者に穏便に帰ってもらう為だけに行動しているというのに!

「ないよ! なんでそんな話しになってるのか分からない。そもそも魔王魔王って言うけどさ、その魔王の話何処からきたの?」
「? だってここ魔王領だろう?」

 ロイドがさも当たり前のように言う。確かに僕達の時代、ここは魔王領だと教えられてきたし、実際そうだった。でもこうなってくると、本当に魔王という存在は実在するのかすら怪しく思えてくる。
 だって現在魔王は存在しないのに、まるで居る前提で世界が動いているのだから。
 100年毎の魔物の大暴走スタンピード、それは魔王の覚醒と共に起こると聞いているけれど現在スタンピードの起こりそうな気配は微塵もないし、100年毎という数字はエルフの里長選出の儀式でしか聞いてない。
 なのになんでそんな話になっていくのか、僕にはさっぱり分からない。
 僕はロイドの腕を引き、彼の耳元で疑問を投げる。

「ねぇ、ロイド君、この人達はどの程度君の未来の知識を知ってるの?」
「え? なに?」

 突然腕を引かれて驚いたのだろうロイドは慌てて僕と距離を取ろうとしたのだろう、やんわりと身を引かれた。
 だけど、これは重要な事なんだよ。なにせ事によっては未来が変わる、それは僕にとってはとても困る事だから。
 だから僕はそこの所をきっちり確認しようと更に彼に詰め寄ろうとしたところでロイドが何かに気付いたように後ろを向く。その視線を追っていくとそこには小太郎君が居て「タケルさん、話しは場を改めてって言いましたよね」と、少し強張ったような表情で僕に告げた。

「あ、ああ、そうだったね」

 なんだろう、何か空気が不穏な気がする。そういえば僕、小太郎君にはあまり好かれていない可能性があるんだよな。
 鑑定で見ただけの好感度だから、それがどんな感情なのかはよく分からないけれど。
 小太郎はロイドのマントの端を引いていたようで、その手をぱっと離すと、またしても俯き僕から視線を逸らす。そういえば彼は最初からロイド君に懐いていて、やはり事あるごとに彼のマントの端を摘まんでいた。
 それは迷子にならないように子供が親の服の端を掴んでいるようなそんな感じに。

「コタロー、どうした?」

 ロイドが今度は俯いてしまった小太郎の顔を覗き込んでいる。心配する時に相手の顔を覗き込むのは彼の癖なのかもしれない。
 そういえば随分育ったロイドの体躯はアランとさほど変わらない、上からだと人の表情は見えずらいのだろう、俯かれてしまえば尚更に。だから彼は何かあると相手の顔を覗き込むのだ。

「何でもない」

 小太郎は自身の体長程もある杖をぎゅっと握って、首を振る。でもその顔色はあまり良いようには見えない。
 そういえば彼は最初から僕との再会を喜んでいるような感じではなかったもんな。やっぱり嫌われているのか……嫌われるような事をした覚えはないんだけどな。

「タケル、待たせたな。何があった?」
「あ、アルバートさん。お忙しいところすみません、実は僕の仲間が見付かりました」
「! それは例のお前の恋び――」
「違います!」

 皆まで言わせず否定した。
 いや、だって実際違うし、彼等の前ではまだ交際宣言とかしていないし、アルバートさん達には恋人だって説明しちゃったけど、まだルーファウスとは正式には恋人関係じゃないから、なんか恥ずかしい。

「なんだ違うのか」

 なんでちょっとがっかりした感じなのかな? そんなに僕の恋人が見たかったのかな? だったら鏡を覗いてみればいいんだ、髪色以外はかなり似てるし。
 まあ、言わないけど。

「とりあえず、彼等と少し話がしたいので、里の外へ出る許可をください」
「ああ、そういう事か。私も同席させてもらうが、それは構わないな?」
「はい」

 僕達二人のやり取りを見ていたロイドが少し呆れたように「タケルは相変らずだな」とぽつりと零した。

「相変らず?」
「束縛強めな奴が好きなのか、それともその手の顔に弱いのか。どのみち俺はお呼びじゃない感じ。出ようと思えば1人で里の外にだって出られるんだろうに、わざわざお伺いを立てるなんて、そいつに何か弱味でも握られてるのか? それともこれはお前自身の癖なのか?」

 なんか凄い事言われたぞ。まるで僕が特殊性癖の持ち主みたいに思われるの心外なんですけど!?

「ち、違うよ!? 変な誤解やめて! これにもちゃんと理由はあるんだ!」
「ふうん?」

 なんか信じていなさそうな顔。僕は「本当に違うから!」と言い募る。

「俺は別にどんなタケルでも受け入れるけどな」
「だから、そういう誤解を招くような言い方やめてって言ってるのに!」
「はははは」

 屈託なく笑う彼の笑みは少年時代と変わらない。本当に本物のロイド君なんだな。

「タケルはそんな顔もするんだな」

 今度は別の方向から声をかけられ振り向くと、アルバートさんが口元を抑えて何かを堪えている様子。これ絶対笑い堪えてるだろ? 大笑いしたいんだろう!? 皆の手前大笑いできないのか、プルプルしてるの丸分かりだから!

「と・り・あ・え・ず! 一番近場の街でいいですよね! 冒険者の皆さんはちょっと僕に寄ってください。エルフの里にはまた後でアルバートさんが報告に行くとお伝えください」

 それだけを告げると僕は冒険者達とアルバートさんの全員を纏めて転移魔法で街へと移動した。

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