君じゃない?!~繰り返し断罪される私はもう貴族位を捨てるから~

サイケ ミカ

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断罪編

婚約破棄

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「タニア・ルー・エンルーダ!!いかに清廉無垢なる淑女の振る舞いを演じていようとも、お前の悪行全てを私は知っている。私を欺き!我が婚約者パメラをこれまでに、どれほど害してきたのかも!!私は決して許さぬ!多く重ねた罪の深さ、其の身を持って今思い知れ!!」

  会場に響き渡る、黒髪の皇太子・ウイルザードの澄んだ声と、其の前で床に倒れながらも頭を振り、否定をしているのは、1人の小柄な令嬢。
 
  学園ホールの 豪華なシャンデリアの下。

 繰り広げられる様子を、息を飲んで見ている子息子女達は、普段の制服ではなく、様々に正装であれ、ドレスなどを身に纏う。
 
 本来ならば卒業を祝う言葉が学園長から発せられ、主席で卒業を遂げた皇太子が、卒業舞踏会の幕開けとなるファーストダンスを踊る予定だったはず。

「待ってください!!間違いです!わたしは、パメラ公爵令嬢様に害など及ぼしておりません!!本当です!それに、殿下は、わたくしを愛してくださったではないですか?!」

 そして今、断罪をされる彼女は、桃色の髪を巻いて、見目は麗しく、愛らしい大きな目に涙を浮かべながら、見る者の庇護欲を掻き立てるかの如く、ふるふると華奢な身体を震えさせながら、床に座りこみながらも叫んだ。

「誰がお前などを?!戯言で、聴衆を惑わす悪女め!まさにお前こそが、真の悪役令嬢だと私は充分に見抜いている!!タニア・ルー・エンルーダ!皇族の寵愛を得たなどと妄言、公爵令嬢を婚約者とする私への不敬罪にあたう!それとも辺境伯の差し金か?!」

  しかも皇太子は正装だからこそ帯剣していた儀礼サーベルを、辺境伯令嬢に向けて抜いている!
 囲む子息令嬢が息を飲んだ!!

「そんなっ!嘘など申しておりません。それに我がエンルーダ家は、建国より皇帝に忠誠を誓う『盾』にございます!決して、
 治世転覆など画策してございません!!殿下、どうか、、」

「うるさい!!エンルーダ一族による謀反の一旦ではないと、あくまでも言い張るのならば、よかろう!タニア・ルー・エンルーダ個人の愚かなる画策と罪に問い、刑を執行する!!衛兵!捕らえよ!!」

「はっ!!!」

  学園といえども皇太子をはじめ、貴族の子息子女が通う場所。特に卒業を祝う舞踏会とあって、城から警備の衛兵も配置されている。
  
 しかし余りに用意周到な兵の動きに、経緯を見守る子息子女達は悟るしかない。
 皇太子が抜き出したサーベルが物語る。正装サーベルの抜刀は宣誓布告の証。今宵断罪は、まさに予定調和なのだと。そして、、

「エンルーダ嬢、身の程をわきまえないから、この様な事になるのですよ?まさか殿下の寵愛を受けたなどと、妄言を吐くとは。真に残念です、ごきげんよう。」
「パメラ、さあ、向こうへ。ここにいては、見なくてもいいものを見る。」

  緊迫した空気の中、発せられた高圧な声は、ウイルザード皇太子に守られる様に肩を抱かれた、金髪の婚約者パメラ・ラーナ・ブリュイエル公爵令嬢によるもの。

 まさしく目の前の断罪劇は、彼女の悪趣味な余興なのだとも、其の場で固まる子息子女達は察した。


「どうして、、わたしは、」

 まるで小鹿の如く、うち震える辺境伯令嬢とは180度異なるブリュイエル公爵令嬢。
 筆頭公爵の令嬢は幼い頃から縁された、皇太子寵愛の婚約者。
 
 研ぎ澄まされた美貌故か、薄い唇から紡ぎ出される公爵令嬢の挨拶でさえ、凍えそうに感じさせるのが彼女の常であり、実に青い血を持つ貴族其の者な容赦ない振る舞い。

  涙を飛ばし、ウイルザードへ駆け寄ろうとするタニア・エンルーダ辺境伯令嬢を、ブリュイエル公爵令嬢の言葉を合図にし、屈強な衛兵が床へ抑え付ける。

 余りの暴挙に、思わず目を背ける令嬢達もいる。

「待って!待ってください!わたしは何もしていません。嘘も言ってません!殿下どうして!!、、誰か助けてください。誰か、わたしが何もしていないと、、、」

   本来は愛らしいであろう顔を、組しだかれる苦痛に歪めながら、床にまで伏し付けられるタニアの悲痛な声。其の額には血が流れていた。

  にも関わらず、射抜く程の視線のウイルザードと、微笑み扇の端から盗み見るパメラの横顔。

「どうして、また、わたしなのよ!!」

 其の場を壊す程の音声で、タニアが放つ言葉は、皇子の宣言に驚く、貴族子息子女達のざわめきに掻き消される!蔭から囁く噂話!

「来世永劫、私の前に現れるな!悪女タニア・エンルーダ!!」

 全てが怒涛の渦の中に飲まれ、世界は漆黒に泥沼へと色塗られる。濁流の様な会場の黒い渦に、タニアは成す術もなく、暗黒の闇に落ちていく。


  ピチョーン、、ピチョーン、

  滴り落ちる独房の汚水の音で、タニアは意識を戻した。
  鉄格子を嵌められた空気穴程度の窓。
 
  貴族の独房とは違い、下層の犯罪者が入る牢なのだろう。排泄を足す為、地下の下水に直接垂れ流す穴があるだけの場所に、タニアは入れられている。

(何度、思い出すの、、)

  数日前に行われた断罪劇を、悪夢にまで見たタニアは、汚れた額に汗を滲ませ、荒らげる息を落ち着ける。

  タニアは断罪された時のドレスのまま、衛兵に引き摺られる様に牢へ入れられて以来、独房で数日を過ごしていた。

「、、ようやく悪役令嬢じゃない人生に転生したのに。今度は上手く生きられるはずだったんじゃないの?何故なの?」

(一体、何がダメだった?)

  血走る瞳は、数日の間に落窪み、飲まず食わずの状態で、頬は自分が触って分かる程に痩せてきた。

 もう舞踏会での愛らしさは見る影もない。

 きっとこれまでと同じ様に、自分は牢で最後を迎えるのだと、タニアは朦朧とする意識の中で考える。

「もしくは、、急に出されて、処刑かもね。そんな時も、、あったのは、、何時だったかな。あんまりたくさん断罪されて、もう覚えるのも嫌だもん。」

  タニアは朧気に鉄格子がはまる窓の外を見ると、血の滲む手を桃色の髪にのばし、髪簪を外した。
 既に巻いていた髪は、引き摺られて千切れ伸びていた。


「、、毒杯ってのも、あったっけ。、、出来れば、早く決めてくれないかしら、、」

  タニアは、取り出した髪簪を震える手に持つと、牢の壁に◯印を書く。既に◯印は2つ刻まれ、今3つに増えた事を確認して、タニアは溜息をつくのだ。

(太陽が窓に見えて、3日目、、衰弱死するには、まだ日がある。)

  これまでの得たくもない経験から、タニアは衰弱死するにはまだ数日がかかる事に、再び絶望した。

「はあーー、、」

(この簪で喉を貫く?)

  貴族の罪人に家族の面会が許されるのは7日までが、この国の法だとタニアはこれまで蓄えた本の知識で知っている。
 という事は、この身を看守達に犯される危険が出てくるは、7日以降だと計算する。

「、、出来れば、、それまでに今回は最後を、、迎えたいわ、、陵辱されるよりは、、」

(これまでも、誰1人無実を信じて助けてくれた人は、いなかった。)

  タニアの頭に浮かぶのは、最後に自分を罵る家族達の姿だ。
 何時の時も、冤罪だと懇願する自分を非難するだけの家族達。彼等の醜悪な面影をタニアは、首を振り払い消した。

「うっ!!」

  途端に吐き気を催したタニアは、吐く物もない故に込み上げる胃液を、用足しの穴へと戻し上げてしまう。

  肩で息をしながら壁に寄りかかり、◯印を付けた壁を力なく見つめるタニア。
  ふと、薄い自分の腹に汚れた手を当てると、ある懸念に目を見開いた。

(もしかして、、、まさか。)

  自分が付けた◯印を睨む様に見つめ、タニアは呟いた。

「子供、、?出来たの、、」

(たった、、1回で、?、、)


「殿下、の、、子、、が。」


   断罪の場で、戯言扱いをされたウイルザード皇太子との逢瀬。けれども間違いなくタニアは、あの日ウイルザード皇太子と結ばれたのだ。

「一体、、どうなっているの、、これって、、、」

  タニアは薄暗い独房の中で、唖然としながら自分の下腹を撫でる。今、子宮辺りの違和感に気が付いたのは、

(しかも、聖紋が、、刻まれている?って、どういうこと?!)

  己が腹に、汚物を見る眼差しを向けていた、あのウイルザード皇太子が間違いなく、『聖紋』というマーキングを刻み付けていたからだ!!
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