君じゃない?!~繰り返し断罪される私はもう貴族位を捨てるから~

サイケ ミカ

文字の大きさ
49 / 51
出奔編

巫女の舞と振り

しおりを挟む
  「!!!!!!!」


 そうして、

 メルロッテが踊る『其れ』は、、

 驚く程、ニアが予感したマフィラナの後宮で覚えた双舞では、、無かった。

 むしろ、
 嫌程、魂に記憶している舞。

 否、正しくは、かつての自分が前世で見せつけられた『振り』だった事に、ニアはメルロッテに合わせて体を動かしながらも驚愕した。


 (ハーレムで覚えたマフィラナの後宮舞ではないって、どういう事?、、)

 奇妙な事が多すぎる、メルロッテとの舞。

 かつての前世で見たモノなのだから、現ドラバルーラで、前世世界ウブドラ王国と同じ舞踊であるはずない事は、ニアにも百も承知なのだ。にも関わらず、ニアの幾つもの生で得た動きである事の奇妙さ。

 それだけで驚いているだけではない。

 只でさえ、時間軸が重なる不可思議なる『舞』に加え、メルロッテが促す『振り』を、ニアはマラフィナの時に後宮で見たのでは無かったからだ。



「正妃の侍女は実に色香良い踊りで、伴侶の我を楽しませてくれるのですよ。」

 戸惑いメルロッテと同じポーズを取るニアを知らずに、褐色の艶めいた肌に輝く黒曜の瞳を細くして、オンテリオがメルロッテを褒める言葉が、片手を揺らがせる耳朶に流れる。

「序盤披露いたしますは~、彼の地で伝わる葬送の舞にございます。ここよりは、何方か儀礼剣の代わりに刀を、お貸し下さりませ~。」

 メルロッテが、普段着せられるている王子後宮の御仕着せのまま、懐にシルビーを抱くニアを気遣いながら、ゆっくりと身体をひとつ旋回させた。

(まさか、、メルロッテ、、どうして、)

 王族の企てでは無く明らかにメルロッテの意思で、娼婦のキャラバンから友となった自分を助け上げてくれる靭やかな手の平には違い無い。

 運命的な偶然。

 其れも良くない記憶に、
 舞の先を予感して、ニアの胸は慄える。

(ダメ、、)

 差し出された助け舟に躊躇うニアが見やれば、佇む宮殿兵がメルロッテの突然の提案にも関わらず、王と正妃に等しい座に位置するオンテリオに促され、腰の双刀をメルロッテに差し出しているのが判る。

(でも、今は、思い出すしかない、、)

 と、メルロッテが両手に刀を掲げたと同時に、片方の刀を唖然とするニアに、無情にも預けるのだ。

「双子剣による葬送の舞に、ございまする。」

 まるでニアやエナリーナと接する雰囲気からは考えられない道化な調子で口上を述べたメルロッテが、ニアに呼吸を合わせとばかりに、

『ダダンッ!!!!』

 片足で大理石の床を鳴らし!王の宮殿パレス・カーリフを、気迫で大きく揺らした!!

「「「「おお!」」」」

 
 メルロッテがニアをリードする踊りは一筋縄ではいかない踊り。何故なら

(メルロッテは『踊り巫女の一族』の末裔って言うけれど、、、やっぱり此の踊りは。)

 ニアとメルロッテの2人で相対して『振り』を繋げながら、ニアの頭は目まぐるしく動いている。
 加えてニアは、懐に赤子を抱いているのだ。

 『振り』の続きを懸命に搾り出し、彼の時の情景に、持たされた刀を自らの意思で、ニアは握り締めた。

(吐き気がする。)

 条件反射ともいえる嫌悪を沈めようと理性を働かせる。

 本来ならばメルロッテのような踊り巫女が見せる舞踊では無い『振り』。

 只でさえ女人が刀を雄雄しく使う振り付けに、観衆は異質さを感じるだろう。

(そう、マフィラナじゃない、、、マフィラナの時じゃ、、)
 
 アリエスの時の『暗殺舞い』。


 何故なのかと、激しくニアの胸中が揺れる。

 ドラバルーラの王宮に集う、王族をはじめてとする観客の無数なる視線が、ハーレムでは無い記憶の中で感じた、ねっとりとした湿気と欲望の視線へと、次第に塗り変わる。



(アリエス、の時、、これは牢の帝国で見た『振り』、、)


 ニアの手を取るメルロッテが、アリエスを胸に抱く罪人クロの面影へと重なった瞬間!!

 否応無しに、ニアの身体がザワザワとアリエスへと置き換え蹂躙されていく。

 あの牢獄の闇で見た、囚人達の『暗殺舞』。

(は、う、ぅ、)

 身体の記憶の奥に迫り上がる、疼きと肌への痛みと、湧き上がるように刻まれた、衝動が刻みつける感触に、ニアは懐のシルビーを片手で抱き締める。

(此の『振り』は、此れだけは、、)

 『振り』踊るほどに前世で果て切って尚揺らされる感覚が、螺旋を描いて走馬燈のようにニアの下半身を焦がし始めたのだから。

 本当は意識が飛んでしまいそうな元宰相の生娘の闇に飲まれぬ様。
 食い縛って懐の愛子を離さぬ様に、動くしないニア。

 かつて、囚人クロが牢で唯一の女人となるアリエスを、犯しながらも懐から離さず同牢人達に刃を奮った様に。

 今、ニアはメルロッテの横で舞いながらも、アリエスへの意識が蘇る戻る。

 と、同時に。

(イグザムは、、クロ、、)

 今世の義兄がニアに見せつけた関所橋で姿をも、ニアの脳裏にフラッシュバックする。

 ニアの顔が苦いモノを噛み締めたが如く、大きく歪んだ。

 今、ニアをメルロッテをはじめ取り巻く王や妃達は、関所橋で鈴なりになる荒振る山のものの衆であり、

 巨大牢獄に蠢き徒党の陣を組み、獣の化した囚人の群へと変わっていく!!

 渡された反り刀を、ニアはメルロッテと同じく、かつてのクロと同じく片手に掲げた!

『ダダンッ!!!!』

 メルロッテが大理石の床を鳴らす!!


 クロの1体、無尽蔵の罪人。

 数え切れぬ程見た『振り』は囚人達がクロへと攻撃の意を唱えながら踊る、群衆殺戮の技だ。

(あの牢獄には、、看守なんて居ない闇の帝国だった、、)


 其の囚人達が、クロに殺めようとする動機は、極めて単純で獣の性のままに只一つ。
 
 クロが片手に抱きながらも肉棒を突っ込む女、アリエスの双房と欲を埋める穴を奪うが為。


 ニアとメルロッテの持つ刃が金属音を響かせ交わる。

 黒一色に塗られた広い牢で、無数に揺れる汚れた刀。
 たった一匹の敵を群勢で囲い、連携で攻撃を仕掛ける事で、隙を付いて無数の手が伸ばされ、獲物を掠め奪うが目的の舞。

 
 『ダダンッ!!!!』

 メルロッテが四度、足を踏み鳴らす。

(此れが葬送の舞なんて、一体誰が言ったの、、)

 確かに、彼の牢帝国で、此の『振り』が始まれば無数の骸が出来あがったのだから、死への舞とも言えようか?

 『アリエス』にとって、、、

 此れは死と性の舞。

 常に見せつけられた、囚人王クロの鬼畜な眼光と、愛欲を満たされ絶頂に恍惚とする獣に屈される拷問だったのだから。

 今、ニアは、かつてのクロがアリエスを『抱き』ながら死闘を繰り広げたが如く、シルビーを抱えながらメルロッテを相手に暗殺技を舞う。

 (屈辱しかない、子宮が覚えている。)

 自身にクロの念が立ち上がる様な錯覚に、ニアは己の腰に力を込めた。

しおりを挟む
感想 37

あなたにおすすめの小説

遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。

沼野 花
恋愛
夫と子供たちに、選ばれなかったイネス。 すべてを愛人に奪われ、彼女は限界を迎え、屋敷を去る。 だが、その先に待っていたのは、救いではなかった。 イネスを襲った、取り返しのつかない出来事。 変わり果てた現実を前に、 夫はようやく、自分が何を失ったのかを思い知る。 深い後悔と悲しみに苛まれながら、 失ったイネスの心を取り戻そうとする夫。 しかし、彼女の心はすでに、外の世界へと向かっていた。 贖罪を背負いながらもイネスを求め続ける夫。 そして、母の心を知っていく子供たち。 イネスが求める愛とは、 そして、幸せとは――。

お飾り王妃の死後~王の後悔~

ましゅぺちーの
恋愛
ウィルベルト王国の王レオンと王妃フランチェスカは白い結婚である。 王が愛するのは愛妾であるフレイアただ一人。 ウィルベルト王国では周知の事実だった。 しかしある日王妃フランチェスカが自ら命を絶ってしまう。 最後に王宛てに残された手紙を読み王は後悔に苛まれる。 小説家になろう様にも投稿しています。

彼女にも愛する人がいた

まるまる⭐️
恋愛
既に冷たくなった王妃を見つけたのは、彼女に食事を運んで来た侍女だった。 「宮廷医の見立てでは、王妃様の死因は餓死。然も彼が言うには、王妃様は亡くなってから既に2、3日は経過しているだろうとの事でした」 そう宰相から報告を受けた俺は、自分の耳を疑った。 餓死だと? この王宮で?  彼女は俺の従兄妹で隣国ジルハイムの王女だ。 俺の背中を嫌な汗が流れた。 では、亡くなってから今日まで、彼女がいない事に誰も気付きもしなかったと言うのか…? そんな馬鹿な…。信じられなかった。 だがそんな俺を他所に宰相は更に告げる。 「亡くなった王妃様は陛下の子を懐妊されておりました」と…。 彼女がこの国へ嫁いで来て2年。漸く子が出来た事をこんな形で知るなんて…。 俺はその報告に愕然とした。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

挙式後すぐに離婚届を手渡された私は、この結婚は予め捨てられることが確定していた事実を知らされました

結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
【結婚した日に、「君にこれを預けておく」と離婚届を手渡されました】 今日、私は子供の頃からずっと大好きだった人と結婚した。しかし、式の後に絶望的な事を彼に言われた。 「ごめん、本当は君とは結婚したくなかったんだ。これを預けておくから、その気になったら提出してくれ」 そう言って手渡されたのは何と離婚届けだった。 そしてどこまでも冷たい態度の夫の行動に傷つけられていく私。 けれどその裏には私の知らない、ある深い事情が隠されていた。 その真意を知った時、私は―。 ※暫く鬱展開が続きます ※他サイトでも投稿中

義務ですもの。

あんど もあ
ファンタジー
貴族令嬢の義務として親の決めた相手に嫁いだが、夫には愛する人がいた。夫にないがしろにされても、妻として母として嫁としての義務を果たして誠実に生きたヒロインの掴んだ、ちょっと歪んだ幸せとは。

私たちの離婚幸福論

桔梗
ファンタジー
ヴェルディア帝国の皇后として、順風満帆な人生を歩んでいたルシェル。 しかし、彼女の平穏な日々は、ノアの突然の記憶喪失によって崩れ去る。 彼はルシェルとの記憶だけを失い、代わりに”愛する女性”としてイザベルを迎え入れたのだった。 信じていた愛が消え、冷たく突き放されるルシェル。 だがそこに、隣国アンダルシア王国の皇太子ゼノンが現れ、驚くべき提案を持ちかける。 それは救済か、あるいは—— 真実を覆う闇の中、ルシェルの新たな運命が幕を開ける。

【完結】これをもちまして、終了とさせていただきます

楽歩
恋愛
異世界から王宮に現れたという“女神の使徒”サラ。公爵令嬢のルシアーナの婚約者である王太子は、簡単に心奪われた。 伝承に語られる“女神の使徒”は時代ごとに現れ、国に奇跡をもたらす存在と言われている。婚約解消を告げる王、口々にルシアーナの処遇を言い合う重臣。 そんな混乱の中、ルシアーナは冷静に状況を見据えていた。 「王妃教育には、国の内部機密が含まれている。君がそれを知ったまま他家に嫁ぐことは……困難だ。女神アウレリア様を祀る神殿にて、王家の監視のもと、一生を女神に仕えて過ごすことになる」 神殿に閉じ込められて一生を過ごす? 冗談じゃないわ。 「お話はもうよろしいかしら?」 王族や重臣たち、誰もが自分の思惑通りに動くと考えている中で、ルシアーナは静かに、己の存在感を突きつける。 ※39話、約9万字で完結予定です。最後までお付き合いいただけると嬉しいですm(__)m

処理中です...