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その後
しおりを挟む全てが終わり、あなたの腕の中で穏やかな眠りから覚めた朝。
隣で眠るあなたの寝顔を見つめる。
規則正しい寝息、無防備な顔。
彼の肌から微かに雄の気配がして、昨夜の熱狂を思い出してしまう。
でも、それだけではない何かで、胸の奥がじんわりと温かくなるのを感じた。
人間の手でそっと彼の頬に触れると、「ん…」とあなたが寝返りをうち、無意識にわたしの頭を撫でた。
その温かい手の感触に、わたしは昔を思い出す。
まだ小さかった頃、母猫が汚れたわたしの顔をザラザラの舌で舐めてくれた記憶。
あの時も、こんな風に温かかった。
わたしはずっと、母親に捨てられたんだと思っていた。
わたしは野良として生きるには甘えん坊だったから。
だから母はわたしを生き延びさせるために、人間(あなた)に「託した」んじゃないだろうか。
そう考えると、昨日あなたがわたしの顔を拭いてくれた時のことも思い出された。
あの時は、あなたに「綺麗じゃない」と思われたのが寂しくて、泣きたくなった。
けれど今ならわかる。
あれは、わたしを大切にしようとしてくれただけなんだって。
わたしがあなたの顔を拭いた時も、純粋にあなたを大切にしたいという気持ちだったから。
母から注がれた愛情。
あなたから注がれた愛情。
繋がっていく温もりに、胸がいっぱいになる。
でも、その幸せと同時に、とても怖いことを考えてしまった。
もし、母があの日、あなたではない別の誰かにわたしを預けていたら?
その人も優しくて、わたしを可愛がってくれたら?
わたしは、その人にこの気持ちを向けていたんだろうか…。
そう考えただけで、足元から全部が消えてしまいそうになる。
この幸せが、ただの偶然だったのかもしれないなんて、思いたくない。
だから、わたしはあなたに伝え続ける。
この気持ちが、ただの刷り込みや成り行きなんかじゃないって。
わたしが、わたしの意志で、あなたを選んだんだって。
「あなたじゃないとダメなんだ」って。
これが『恩返し』なんて言葉でごまかしていた、今のわたしの本当の気持ち。
…バカ猫だから、遠回りしちゃったけどね。
今、あなたの頬を優しく撫でながら、わたしは思う。
わたしの中に芽生えたこの温かい気持ちも、きっと母やあなたから貰ったものと同じ、愛情なんだって。
今度はわたしが、あなたを守り、愛し、温もりを繋ぐ番なんだ——。
「君は食いしん坊なんだねぇ」
「…大好きだよ、キミのことが」
わたしの勘違いで付いた、それでも大切な名前。
優しい声で呼んでくれた、わたしの名前
ーー「キミ」
初めて言ってくれた
ーー「大好き」
ほんのり残る初めての痛みに自分のお腹を撫で、わたしはそっと身を乗り出す。
肩に付けてしまった噛み跡に触れてから、あなたの唇に自分のそれを重ねた。
「大好きだよ…あなたのことが」
わたしはバカ猫でいい。
あなたに愛してもらえるなら。
朝の光が、レースのカーテン越しに私たちを優しく照らしていた。
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