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第三章 新たなる地
見下ろした先に見えたもの
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あれからどれくらい月日が過ぎたか、正確にはわからない。
この世界で生きているうちに、俺は時を正確に感じられなくなった。
いつから生きているのか……俺は今いくつになったのか。
そして、俺はいつからここにいるのか。
そういう感覚が抜け落ちている。
1000年の寿命を持つ淫魔たちも、こんなふうだったのかもしれない。
一日一日を大切に過ごせるのは、寿命が短く、そして限りがあったからなのかもしれない。
俺ももしかして、淫魔たちのように1000年の寿命があるのかもしれないなと、ふと思った。
クレイダという旅の仲間を連れ、俺はひたすら何かに導かれるように山を登った。
クレイダは食事時と寝る前に陽気に俺に話しかけて、楽しませてくれる。
俺の催淫の匂いには時折苦労するようだが、そんな時は何か食わせろと大声で叫んだりした。
性欲の高まりを食欲に変化させるなんて器用なやつだなと思う。
そしてとうとう、切り立つ峰の頂点まで到達した。
万年雪に覆われたそこは、風も強く木も生えていない。
例えてみればヒマラヤを思い出すような、そんな険しい峰だ。
俺はもちろん山登りなどしたことがなかったし、興味もなかった。
地球での常識ならば、こういった山の登頂に挑戦するにはたいそうな装備が必要だったはずだ。
凍傷から身を守るそんな服装だって必要だったはずだが。
俺もクレイダもそのあたりを散歩するかのような軽装で、薄い布の服しか着ていない。
しかし、寒さはほとんど感じず、そして空気が薄いのも気にならない。
ふとクレイダを見ると、顔を真っ赤にして目を見開いて、眼下に広がる風景を見ていた。
「な……なんだってんだよ、アタシ、この先にはまた森があるとばかり思ってたのに」
クレイダの言葉通りだった。
意外なことに、ここから見下ろす台地には何もなかった。
……何もない。
これほど似合う言葉があるだろうか?と思うほどの、不毛の地だ。
茶色ですらない、灰色の台地は遥か先まで続く。
木の一本、いや、草さえも生えていないようだった。
「で……降りてあそこにいくのか?もしそうなら、獣をいくらか見繕っておかないと食うものもなさそうだ、どんな生き物だって棲んでないだろう、あの様子じゃ」
「ああ、そうだな」
俺はクレイダの言葉を聞きながら、心の奥底から湧き出てくる歓喜に戸惑っていた。
人が住む町を発見して喜ぶのならわかる。
俺は人のはずだ。
ずっと一人でいるよりも、人の仲間がほしいはずだから。
だけど今、誰も……というよりも、生を感じないこの荒れ果てた地を見下ろし俺はわくわくしている。
ここを……ここを俺の国に。
まさか、そんな日が来るとはな。
「ねえ、アラト笑ってる?」
クレイダが覗き込んで不思議そうに尋ねてきた。
「そうか、俺、笑ってるか」
「なんだよ……自分がどんな顔してるかも自覚してないわけ?」
クレイダはあきれたようにため息をついてから頭をぼりぼりと掻いた。
「まあ、行く?」
「ああ、そうだな」
クレイダはホイホイと軽い足取りで俺よりも先に山を下り始めた。
疲れ知らずの大きな体でひょいひょいと雪の中を進む。
俺はクレイダの通った跡を通るのだ、おかげで楽に進める。
クレイダの下半身は獣と同じで毛皮に覆われている。
足の先には蹄もあるようだ。
雪の中でも人よりは適性があるのだろう。
「アラト、ここ降りたらまたちょっと森にはいるから、そこで何匹が食料を確保して、それからいくつか生け捕りにしないか?」
「生け捕りか」
「ああ、そうだ、食料にもなるし、卵を産む鳥ならそれだって役に立つ」
「そんな都合よくそれらが見つかればいいがな」
「大丈夫どの森にだっているもんだ」
「まあ、任せるよ」
俺は微笑みながらクレイダに返事をした。
色黒の顔を赤くしながら「そうか!」と返事をしたクレイダに心の中で感謝した。
実際旅の仲間がいるのは頼もしい。
この世界の常識をほとんど知らない俺一人では、食料の調達は厳しかったかもしれないから。
クレイダは本当に食べることに貪欲で、話す内容もほとんどが食事のことだった。
『アラトの作る食事が気に入った』
たったそれだけの理由で長旅についてきたのも笑える。
クレイダの大きな背中を見つめて俺は改めて相棒ともいえる存在に感謝した。
この世界で生きているうちに、俺は時を正確に感じられなくなった。
いつから生きているのか……俺は今いくつになったのか。
そして、俺はいつからここにいるのか。
そういう感覚が抜け落ちている。
1000年の寿命を持つ淫魔たちも、こんなふうだったのかもしれない。
一日一日を大切に過ごせるのは、寿命が短く、そして限りがあったからなのかもしれない。
俺ももしかして、淫魔たちのように1000年の寿命があるのかもしれないなと、ふと思った。
クレイダという旅の仲間を連れ、俺はひたすら何かに導かれるように山を登った。
クレイダは食事時と寝る前に陽気に俺に話しかけて、楽しませてくれる。
俺の催淫の匂いには時折苦労するようだが、そんな時は何か食わせろと大声で叫んだりした。
性欲の高まりを食欲に変化させるなんて器用なやつだなと思う。
そしてとうとう、切り立つ峰の頂点まで到達した。
万年雪に覆われたそこは、風も強く木も生えていない。
例えてみればヒマラヤを思い出すような、そんな険しい峰だ。
俺はもちろん山登りなどしたことがなかったし、興味もなかった。
地球での常識ならば、こういった山の登頂に挑戦するにはたいそうな装備が必要だったはずだ。
凍傷から身を守るそんな服装だって必要だったはずだが。
俺もクレイダもそのあたりを散歩するかのような軽装で、薄い布の服しか着ていない。
しかし、寒さはほとんど感じず、そして空気が薄いのも気にならない。
ふとクレイダを見ると、顔を真っ赤にして目を見開いて、眼下に広がる風景を見ていた。
「な……なんだってんだよ、アタシ、この先にはまた森があるとばかり思ってたのに」
クレイダの言葉通りだった。
意外なことに、ここから見下ろす台地には何もなかった。
……何もない。
これほど似合う言葉があるだろうか?と思うほどの、不毛の地だ。
茶色ですらない、灰色の台地は遥か先まで続く。
木の一本、いや、草さえも生えていないようだった。
「で……降りてあそこにいくのか?もしそうなら、獣をいくらか見繕っておかないと食うものもなさそうだ、どんな生き物だって棲んでないだろう、あの様子じゃ」
「ああ、そうだな」
俺はクレイダの言葉を聞きながら、心の奥底から湧き出てくる歓喜に戸惑っていた。
人が住む町を発見して喜ぶのならわかる。
俺は人のはずだ。
ずっと一人でいるよりも、人の仲間がほしいはずだから。
だけど今、誰も……というよりも、生を感じないこの荒れ果てた地を見下ろし俺はわくわくしている。
ここを……ここを俺の国に。
まさか、そんな日が来るとはな。
「ねえ、アラト笑ってる?」
クレイダが覗き込んで不思議そうに尋ねてきた。
「そうか、俺、笑ってるか」
「なんだよ……自分がどんな顔してるかも自覚してないわけ?」
クレイダはあきれたようにため息をついてから頭をぼりぼりと掻いた。
「まあ、行く?」
「ああ、そうだな」
クレイダはホイホイと軽い足取りで俺よりも先に山を下り始めた。
疲れ知らずの大きな体でひょいひょいと雪の中を進む。
俺はクレイダの通った跡を通るのだ、おかげで楽に進める。
クレイダの下半身は獣と同じで毛皮に覆われている。
足の先には蹄もあるようだ。
雪の中でも人よりは適性があるのだろう。
「アラト、ここ降りたらまたちょっと森にはいるから、そこで何匹が食料を確保して、それからいくつか生け捕りにしないか?」
「生け捕りか」
「ああ、そうだ、食料にもなるし、卵を産む鳥ならそれだって役に立つ」
「そんな都合よくそれらが見つかればいいがな」
「大丈夫どの森にだっているもんだ」
「まあ、任せるよ」
俺は微笑みながらクレイダに返事をした。
色黒の顔を赤くしながら「そうか!」と返事をしたクレイダに心の中で感謝した。
実際旅の仲間がいるのは頼もしい。
この世界の常識をほとんど知らない俺一人では、食料の調達は厳しかったかもしれないから。
クレイダは本当に食べることに貪欲で、話す内容もほとんどが食事のことだった。
『アラトの作る食事が気に入った』
たったそれだけの理由で長旅についてきたのも笑える。
クレイダの大きな背中を見つめて俺は改めて相棒ともいえる存在に感謝した。
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