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第四章 阿羅国
茶の花
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お茶の花が咲き乱れる季節になった。
茶畑では、葉に栄養を送るために花は摘み取らねばならない。
本日もその作業をしていることだろう。
そして、花が咲いたとなれば秋も深まってきている証拠、もうすぐ阿羅国の長い冬が始まるのだ。
「こまりましたね、なかなか良い返事がもらえません」
向かいに座るのは、各国への使者を担っている飛翔隊の隊長・玲陽。
俺の書く文を持って、使者としてあちこちへ働きかけをしてくれている。
彼は、ここに来る前はラハーム王国の貴族の息子として優雅に暮らしていたようだ。
つまり蛇族。
イバンと同じ祖国を持っている同種だ。
彼には10人の部下がいる。
狐族と蛇族、そして獅子族と鹿族、それから、魔物もいる。
魔物はみなクレイダが時折森の中で捕獲して連れ帰ってくるのだが、中には骨のあるやつがいて、そういう者を長い時間かけて教育し、今では立派な国民といえる存在になった。
「ラハームの元貴族であるそなたをもってしても、門前払いとはな」
さすがに困惑して苦笑してしまう。
この世界の国々は、どうやら頭が固い。
見知らぬものを受け入れるという余裕がないのかもしれない。
「とくに当たりが強かったのは?」
「ルカリスト王国ですね、熊族の国で、元から他の国との友好関係を積極的に受け入れるような国ではないのです」
「ルカリスト……熊か……」
俺の頭の中で、いかにも強そうな巨体の男が想像された。
「そのルカリストの出身の者はここにはいないのか?」
「はい、阿羅彦様がお連れになった者の中には現在のところおりません」
「そうか……」
「反対に他の国が認めるならという条件付きで、色よい返答をくれそうなのが、紗国と瀬国ですね、紗国はユーチェン様の国ですからご存じでしょう、瀬国は獅子の国です」
「……獅子」
「はい、阿羅国にも瀬国の出身の者がおります、彼が長距離を飛ぶ訓練を終えれば、一緒にもう一度瀬国城へ飛んでみるのもよいかもしれません」
「ふむ……」
俺は机に広げた地図を見つめた。
龍が統べる森の広大さに比べると、海の近くにあるそれぞれの国はひしめき合っているようにも見える。
しかも、今引いてある国境線は、絶対ではない。
世は戦乱の時期で、まだ安定には程遠いのだ。
常に小競り合いが国境付近で起こっているという。
こんな時代では、俺が思うよりも新興国は危機感を煽ってしまうのだろう。
いずれ、我が国を襲ってくるのではないか?と疑っているのだ。
「まだ……早いのかもしれんな。理解してもらおうとしても」
「阿羅彦様、私は、阿羅彦様の思いが叶えられるように、精一杯努力いたします、何度でも足を運びますから、いずれ、世界に阿羅国を認めてもらえるように」
「いや……玲陽、当初の予定通り、やはりアオアイから認めてもらう筋が良さそうだ、他の国の支援が受けられればと思ったが、甘かったようだ」
「はい……」
玲陽は悔しそうに両手を握りしめた。
俺はその手にそっと自分の手を重ねた。
細く、そしていつも体温の低いなめらかな肌はイバンと似ている、それはそうだ、同じ蛇族なのだから。
「玲陽、しばらく使者として発たなくてもよい、俺のそばにいて休め」
玲陽はゆっくりと顔を上げて俺をじっと見つめた、そして、にこりと微笑んで、頷いた。
「今夜、伺っても?」
「今夜まで、待たせるつもりか?」
「……阿羅彦様?」
俺は玲陽を引き寄せ、顎に手をやって、軽く口づけた。
「お前は戻ったばかりだったな、無理もさせられんか」
「いえ、無理では……」
「いやいや、冗談だよ、まずは風呂に入って食事をして休んでいていい、俺の部屋を使え、食事も部屋に運ぶよう伝えておこう」
玲陽の頬が紅潮するのを見てかわいいと思った。
まだ、21歳の若者なのだ。
年齢を考えたら本当によくやってくれている。
「では、俺は執務に戻るよ」
「はい、お待ちしております」
玲陽は濡れたような瞳で俺をまっすぐに見つめた。
茶畑では、葉に栄養を送るために花は摘み取らねばならない。
本日もその作業をしていることだろう。
そして、花が咲いたとなれば秋も深まってきている証拠、もうすぐ阿羅国の長い冬が始まるのだ。
「こまりましたね、なかなか良い返事がもらえません」
向かいに座るのは、各国への使者を担っている飛翔隊の隊長・玲陽。
俺の書く文を持って、使者としてあちこちへ働きかけをしてくれている。
彼は、ここに来る前はラハーム王国の貴族の息子として優雅に暮らしていたようだ。
つまり蛇族。
イバンと同じ祖国を持っている同種だ。
彼には10人の部下がいる。
狐族と蛇族、そして獅子族と鹿族、それから、魔物もいる。
魔物はみなクレイダが時折森の中で捕獲して連れ帰ってくるのだが、中には骨のあるやつがいて、そういう者を長い時間かけて教育し、今では立派な国民といえる存在になった。
「ラハームの元貴族であるそなたをもってしても、門前払いとはな」
さすがに困惑して苦笑してしまう。
この世界の国々は、どうやら頭が固い。
見知らぬものを受け入れるという余裕がないのかもしれない。
「とくに当たりが強かったのは?」
「ルカリスト王国ですね、熊族の国で、元から他の国との友好関係を積極的に受け入れるような国ではないのです」
「ルカリスト……熊か……」
俺の頭の中で、いかにも強そうな巨体の男が想像された。
「そのルカリストの出身の者はここにはいないのか?」
「はい、阿羅彦様がお連れになった者の中には現在のところおりません」
「そうか……」
「反対に他の国が認めるならという条件付きで、色よい返答をくれそうなのが、紗国と瀬国ですね、紗国はユーチェン様の国ですからご存じでしょう、瀬国は獅子の国です」
「……獅子」
「はい、阿羅国にも瀬国の出身の者がおります、彼が長距離を飛ぶ訓練を終えれば、一緒にもう一度瀬国城へ飛んでみるのもよいかもしれません」
「ふむ……」
俺は机に広げた地図を見つめた。
龍が統べる森の広大さに比べると、海の近くにあるそれぞれの国はひしめき合っているようにも見える。
しかも、今引いてある国境線は、絶対ではない。
世は戦乱の時期で、まだ安定には程遠いのだ。
常に小競り合いが国境付近で起こっているという。
こんな時代では、俺が思うよりも新興国は危機感を煽ってしまうのだろう。
いずれ、我が国を襲ってくるのではないか?と疑っているのだ。
「まだ……早いのかもしれんな。理解してもらおうとしても」
「阿羅彦様、私は、阿羅彦様の思いが叶えられるように、精一杯努力いたします、何度でも足を運びますから、いずれ、世界に阿羅国を認めてもらえるように」
「いや……玲陽、当初の予定通り、やはりアオアイから認めてもらう筋が良さそうだ、他の国の支援が受けられればと思ったが、甘かったようだ」
「はい……」
玲陽は悔しそうに両手を握りしめた。
俺はその手にそっと自分の手を重ねた。
細く、そしていつも体温の低いなめらかな肌はイバンと似ている、それはそうだ、同じ蛇族なのだから。
「玲陽、しばらく使者として発たなくてもよい、俺のそばにいて休め」
玲陽はゆっくりと顔を上げて俺をじっと見つめた、そして、にこりと微笑んで、頷いた。
「今夜、伺っても?」
「今夜まで、待たせるつもりか?」
「……阿羅彦様?」
俺は玲陽を引き寄せ、顎に手をやって、軽く口づけた。
「お前は戻ったばかりだったな、無理もさせられんか」
「いえ、無理では……」
「いやいや、冗談だよ、まずは風呂に入って食事をして休んでいていい、俺の部屋を使え、食事も部屋に運ぶよう伝えておこう」
玲陽の頬が紅潮するのを見てかわいいと思った。
まだ、21歳の若者なのだ。
年齢を考えたら本当によくやってくれている。
「では、俺は執務に戻るよ」
「はい、お待ちしております」
玲陽は濡れたような瞳で俺をまっすぐに見つめた。
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