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第八章 紗国の悪夢
氷の刃
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「体が勝手に動いてしまったんです、殺すつもりはなかったんですよ、大切な嫁なんですからね」
白玖紗の笑顔は美しい思い出を語るようだった。
その圧力に押され、誰も声を発しない。
「火が出たと、そう聞いたが」
「ええ、我が放ちました。だって死んでしまったのなら仕方ない」
「……はじめから、そのつもりだったのか?」
「なにがです?」
「実の兄を殺すつもりだったのか?」
白玖紗は銀色の髪をさらりとなびかせて首を縦に振った。
「ええ、紅葉を嫁にしようとすれば、夫を亡き者にしなくちゃいけないでしょう? はじめから紅葉とともに逃げる際、船を沈める算段でした、兄もろとも」
「兄上……」
梢紗のかすれた声が聞こえた。
「だが、嫁はいなくなった……しかし……」
白玖紗はまた一歩俺に詰め寄る、そして、やわらかく抱きしめられた。
きつい血のにおいと、どこか獣の匂いがした。
「ああ……ここにいた……お前だよ、お前。我の嫁はお前だよ」
「アラトから離れろ」
クレイダの唸るような声にかすかに反応した白玖紗は俺の耳元で続けて話した。
「ああ、邪魔が多いね……紅葉が死んでしまっても、君がちゃんと我の元にこうやって来てくれたんだ、まずは邪魔者を消さなくてはね」
静かなささやきだが、シンとなっている牢にそれはいんいんと響いた。
「……お断りだ」
俺はそのまま白玖紗の背に手を回し、一気に締め上げ、口づけをした。
細く息を吐き出して、白玖紗の体内の水分をすべて凍らせるよう、魔力を入れ込む。
最初、目をつむってうっとりとしていた白玖紗もそれに気づき、目を見開いて俺から逃れようともがいた。
しかし、そうはさせず腕に力を込める、メキメキと背骨が砕ける音がした
抱きしめる体はどんどん冷えていく。
「ぐ……グハ……」
白玖紗の銀色の目がどんどん白くにごり、そして氷が張っていく、俺はそれをじっと見つめていた。
エクトルは、この男に殺された。
何も出来ないように縛られ、足を切られ、だが……魔物の力を発揮していたならば、そもそも捕まらなかったはず、俺のために、彼は阿羅国人として死んだ。
そして、紅葉は、この男に汚され、刺され死んだ。
絶望の中、必死に放った頸動脈への一撃は、この男には通じなかった。
愛する人に助けられた時、まだ意識があったのかどうか、それはわからない、だが今は、きっと天国で二人で手をつないでいるだろう。
エクトル……紅葉……俺が敵を討とう。
もはや全身から白い靄を出し、氷の固まりとなりつつある白玖紗の首に、爪を立てた。
そして、一気に切り裂いた。
……凍った体から血は噴き出さない、血すら凍っているからだ。
だが、紅葉の切ったその切り口は再びぱっくりと開いた。
俺はゴミを捨てるようにその場に白玖紗を落とした。
ドサリという音と共に、ガツン、パキンと氷のはじける音もした。
「紗国の騎士、こやつに捉えられていた紗国の者を助けにゆけ。もう脅威は取り除いた」
俺は振り向かずに背後にいる第3騎士団にそう伝えた。
さすがは鍛えられた騎士団だ、動揺しているだろうに、足を打ち鳴らし敬礼して、即座に牢を出て行った。
「梢紗、お前はどうする?」
「……阿羅彦様……」
「ここに残り、祖国の立て直しをするか?」
そして振り向くと、誰もが口を閉ざして俺をじっと見つめていた。
壁に打ち付けられたまま座っていた梢紗は立ち上がって俺に深く礼をした。
「阿羅彦様……私は……阿羅国の臣下としてあなたについて行きたい……心からあなたに、ついて行きたいのです。紗国は、大丈夫です。歴史のある国で数多くの優秀な人々がいる、必ず立ち上がれましょう」
「お前が王となることも、今ならまだ出来よう、だが、それでもか?」
「はい」
強い光をたたえた目で、梢紗は微笑んだ。
「エクトルをつれ、帰ろう……残念だ、もう少し早ければ」
俺の言葉にクレイダは首を振った。
「アラト、お前はちゃんと仇を取ってくれたじゃないか……アタシでは駄目だった」
クレイダは床に座ったまま、寝かされているエクトルの額をなでていた。
「アタシは弱いな、アラト……アタシはもう老いたのだろうな」
「……」
クレイダのその言葉に心に暗い絶望がうかぶ……大丈夫だ、まだ、生きていてくれるだろう?
「ここで、じっとしているのは得策ではありませんな」
サリヴィスの言葉に玲陽もうなずき、俺と白玖紗の圧で動けなかった部下たちに号令をかけた。
「体を包むのに使ってくれ」
俺は着ていた羽織を脱ぎ、玲陽に渡す。
ユーチェンがあつらえた厚みのある冬用のもの、足首まであるたっぷりとした羽織だ。
大きなエクトルの体でも、これなら包み込めるだろう。
玲陽は頭を下げ、それを両手で受け取るとエクトルにそっとかけた。
「皆、それぞれ手を取れ」
「阿羅彦様?」
「もうすぐここに、目覚めた紗国人が来よう……その前に出るぞ」
「どうやってですか?」
サリヴィスは本気でわからないようで俺に問う。
「エクトルを中央に円陣を組め、そしてお互い手を取り目をつむるのだ、俺がいいと言うまで……早くしろ」
俺の指示に皆が慌てて従う。
言った通りの陣形が出来た、俺は右の玲陽の左手を、そして左のサリヴィスの右手を取った。
そして……阿羅国を思い浮かべ、一気に飛んだ。
俺ははじめて、大勢を連れて瞬間移動した。
着地点がわかってさえいれば大勢を連れていけるだろうと予測はしていたが、やはり成功した。
……悲しみと絶望の末、俺はまた、力が増したことを自覚した。
白玖紗の笑顔は美しい思い出を語るようだった。
その圧力に押され、誰も声を発しない。
「火が出たと、そう聞いたが」
「ええ、我が放ちました。だって死んでしまったのなら仕方ない」
「……はじめから、そのつもりだったのか?」
「なにがです?」
「実の兄を殺すつもりだったのか?」
白玖紗は銀色の髪をさらりとなびかせて首を縦に振った。
「ええ、紅葉を嫁にしようとすれば、夫を亡き者にしなくちゃいけないでしょう? はじめから紅葉とともに逃げる際、船を沈める算段でした、兄もろとも」
「兄上……」
梢紗のかすれた声が聞こえた。
「だが、嫁はいなくなった……しかし……」
白玖紗はまた一歩俺に詰め寄る、そして、やわらかく抱きしめられた。
きつい血のにおいと、どこか獣の匂いがした。
「ああ……ここにいた……お前だよ、お前。我の嫁はお前だよ」
「アラトから離れろ」
クレイダの唸るような声にかすかに反応した白玖紗は俺の耳元で続けて話した。
「ああ、邪魔が多いね……紅葉が死んでしまっても、君がちゃんと我の元にこうやって来てくれたんだ、まずは邪魔者を消さなくてはね」
静かなささやきだが、シンとなっている牢にそれはいんいんと響いた。
「……お断りだ」
俺はそのまま白玖紗の背に手を回し、一気に締め上げ、口づけをした。
細く息を吐き出して、白玖紗の体内の水分をすべて凍らせるよう、魔力を入れ込む。
最初、目をつむってうっとりとしていた白玖紗もそれに気づき、目を見開いて俺から逃れようともがいた。
しかし、そうはさせず腕に力を込める、メキメキと背骨が砕ける音がした
抱きしめる体はどんどん冷えていく。
「ぐ……グハ……」
白玖紗の銀色の目がどんどん白くにごり、そして氷が張っていく、俺はそれをじっと見つめていた。
エクトルは、この男に殺された。
何も出来ないように縛られ、足を切られ、だが……魔物の力を発揮していたならば、そもそも捕まらなかったはず、俺のために、彼は阿羅国人として死んだ。
そして、紅葉は、この男に汚され、刺され死んだ。
絶望の中、必死に放った頸動脈への一撃は、この男には通じなかった。
愛する人に助けられた時、まだ意識があったのかどうか、それはわからない、だが今は、きっと天国で二人で手をつないでいるだろう。
エクトル……紅葉……俺が敵を討とう。
もはや全身から白い靄を出し、氷の固まりとなりつつある白玖紗の首に、爪を立てた。
そして、一気に切り裂いた。
……凍った体から血は噴き出さない、血すら凍っているからだ。
だが、紅葉の切ったその切り口は再びぱっくりと開いた。
俺はゴミを捨てるようにその場に白玖紗を落とした。
ドサリという音と共に、ガツン、パキンと氷のはじける音もした。
「紗国の騎士、こやつに捉えられていた紗国の者を助けにゆけ。もう脅威は取り除いた」
俺は振り向かずに背後にいる第3騎士団にそう伝えた。
さすがは鍛えられた騎士団だ、動揺しているだろうに、足を打ち鳴らし敬礼して、即座に牢を出て行った。
「梢紗、お前はどうする?」
「……阿羅彦様……」
「ここに残り、祖国の立て直しをするか?」
そして振り向くと、誰もが口を閉ざして俺をじっと見つめていた。
壁に打ち付けられたまま座っていた梢紗は立ち上がって俺に深く礼をした。
「阿羅彦様……私は……阿羅国の臣下としてあなたについて行きたい……心からあなたに、ついて行きたいのです。紗国は、大丈夫です。歴史のある国で数多くの優秀な人々がいる、必ず立ち上がれましょう」
「お前が王となることも、今ならまだ出来よう、だが、それでもか?」
「はい」
強い光をたたえた目で、梢紗は微笑んだ。
「エクトルをつれ、帰ろう……残念だ、もう少し早ければ」
俺の言葉にクレイダは首を振った。
「アラト、お前はちゃんと仇を取ってくれたじゃないか……アタシでは駄目だった」
クレイダは床に座ったまま、寝かされているエクトルの額をなでていた。
「アタシは弱いな、アラト……アタシはもう老いたのだろうな」
「……」
クレイダのその言葉に心に暗い絶望がうかぶ……大丈夫だ、まだ、生きていてくれるだろう?
「ここで、じっとしているのは得策ではありませんな」
サリヴィスの言葉に玲陽もうなずき、俺と白玖紗の圧で動けなかった部下たちに号令をかけた。
「体を包むのに使ってくれ」
俺は着ていた羽織を脱ぎ、玲陽に渡す。
ユーチェンがあつらえた厚みのある冬用のもの、足首まであるたっぷりとした羽織だ。
大きなエクトルの体でも、これなら包み込めるだろう。
玲陽は頭を下げ、それを両手で受け取るとエクトルにそっとかけた。
「皆、それぞれ手を取れ」
「阿羅彦様?」
「もうすぐここに、目覚めた紗国人が来よう……その前に出るぞ」
「どうやってですか?」
サリヴィスは本気でわからないようで俺に問う。
「エクトルを中央に円陣を組め、そしてお互い手を取り目をつむるのだ、俺がいいと言うまで……早くしろ」
俺の指示に皆が慌てて従う。
言った通りの陣形が出来た、俺は右の玲陽の左手を、そして左のサリヴィスの右手を取った。
そして……阿羅国を思い浮かべ、一気に飛んだ。
俺ははじめて、大勢を連れて瞬間移動した。
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……悲しみと絶望の末、俺はまた、力が増したことを自覚した。
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