190 / 196
第九章 永遠に
城石家
しおりを挟む
紗国の都、サリヴィスとセサと共に移動し、迎えの馬車に乗り込むと、城石斉井がそこにいた。
「阿羅彦様……」
「斉井、良かった、元気そうだな」
「梢紗様の件……私が……」
「お前のせいではない、斉井、顔をあげよ」
ゆっくりと顔を上げ、俺の顔を見て少し微笑んだ斉井は、やつれた様子だった。
「都にお泊りならぜひ、我が家へと思いましてお迎えに」
「ああ、知らせたのはこちらだ、遠慮なく厚意に甘えるよ」
「このたびのこと……良かれと思い、口を出したばかりに、情けないことです」
「大丈夫だ、もう全ては済んだよ」
「梢紗様にお会いに?」
「ああ、話した。梢紗は貴族らを集め事の次第を話すと言っていたが……お前は行かなくていいのか?」
「私は家督を譲りました。今は息子が城石の当主となっております。城に呼ばれたというのなら、今頃出席しておりましょう」
「そうか、ゆっくり休むことだ、ユーチェンも心配している」
「娘は、どのような様子でしょう?」
「ああ、病の元は取り出せた」
「では、手術を」
「そうだ、今は少しずつ動き、元の生活を取り戻し始めている。とにかく活動的な女だ、休めと言ってもただじっと寝ていてはくれないのだよ」
俺の言葉に斉井は幸せそうな笑顔を浮かべた。
「斉井、お前に似ているのだろうな。強情で頑固、そして情が厚く働き者」
「ふふ……誉め言葉に聞こえますぞ」
「誉め言葉だよ、斉井」
「ありがたく頂戴いたしましょう」
お互いの顔を見、穏やかな時間の流れを感じた。
「このまま、梢紗様は紗国に?」
「いや、阿羅国に連れ帰る」
「そうですか……では……紗国の王は……」
「おまえ程の男が何を言う。序列通りだよ」
「つまり、更江紗様」
「ああ、そうだろうな。紗国の者が梢紗を手放したくないのはじゅうぶんにわかってはいるが、あれをくれてやるつもりはない」
「ええ、そうでしょうとも。あの方は周りに愛されるお方。阿羅国においてもあの方は重要でしょう」
「その通りだ」
馬車がゆるやかに止まった。
すでに何度も訪れ勝手知ったる城石の館、使用人たちも、以前とは違い私へのまなざしがどこか柔らかい。
白玖紗も江利紗は阿羅国を排除しようと躍起になっていたが、我らを直接知る者たちはこうやって支えてくれる、ありがたいことだと思った。
通された客間で斉井は次男を呼んだ。
「私がいなくとも、息子は二人とも、あなたのことを信頼しておりますぞ」
次男は深く頭を下げ、真剣な顔を上げて恥ずかしそうに微笑んだ。
「私はまだ学生の身分ではありますが、阿羅彦様のためになることでしたら、なんでも言いつけてくださいませ」
「学生か」
「はい、今は休暇で戻っておりますが、アオアイで医学を学んでおります」
「そうか、医学を」
「行く末は、城に勤め王族のお役に立ちたいと、そう思っております」
「ふむ、なるほどな」
「姉の具合は……」
「ああ、ユーチェンは手術もうまくゆき、今は回復途上ではあるが、まあそこそこ元気だよ」
俺は斉井と目を合わせ、思わず笑った。
「我らの国には、医師が一人しかおらんのだ。アオアイの医学生の中でうちで働く気がある者がいたら、受け入れたいものだ」
「……なるほど……実家が貴族でない場合、就職先に困る者もあると聞いています」
「ほう、医学生ともあれば、どこも引く手あまたと思っていたが」
「そうでもないのですよ、結局は実家が元々力がないことには、なかなかね」
「そうであれば、アオアイに求人でも出してみるか」
俺の適当な思い付きに、サリヴィスが膝をポンと叩き大きくうなずいた。
「それは良いお考えですぞ、我が君。今後何かあるたびに、阿羅彦様が自ら執刀をするというのも無理がありますしな」
「え……阿羅彦様ご自身が?」
斉井も、次男も驚いて目を見開き、身を乗り出した。
「ああ、今阿羅国にいる医師は優秀な者だが、きちんとした手術室がまだ完備されておらぬ上に助手もいない、ユーチェンの手術に踏み切れずにいたものだから、私が魔力でなんとかしたのだ」
「魔力で?」
「ふつうはそのようなこと……」
俺は指を二本立て、自分の腕に当てた。
「こうすれば、体の中を見通せる。そして病変を見つけそこを魔力で切り取り体の外へ出したのだ、皮膚は切らず、体の中から手のひらへ瞬間移動のようなものだな、まあそれは私の異能だが」
「そんな……そんなことが……あなた様は天才ではありませんか!」
次男の叫ぶような声に思わず笑って否定した。
「いやいや、違うよ。一緒にいた医師に相談しつつ、指示のもとだ。私は医学的な知識はないに等しいよ」
「……」
「となると、本当の意味であなたはユーチェンの命の恩人ですね」
「そう堅苦しく考えるな、やれることをやっただけだ」
「まあ、我が君の異能は、考えられないくらい有能であることは確か。医学を志す学生がこのように驚くほどに」
サリヴィスも嬉しそうにうなずく。
「アオアイで来月、医学会があるようだな」
「はい、我ら学生も動員されております。とはいえ、裏方としてあれこれ働くだけですが」
次男は恥ずかしそうに答えた。
「阿羅国の医師も出席するのだが、そこで今回のことを発表したいそうだ、今資料をまとめている。君も興味があるのなら、その発表を聞ければ良いな」
「はい!」
城石の次男は大きな声で返事をした。
「阿羅彦様……」
「斉井、良かった、元気そうだな」
「梢紗様の件……私が……」
「お前のせいではない、斉井、顔をあげよ」
ゆっくりと顔を上げ、俺の顔を見て少し微笑んだ斉井は、やつれた様子だった。
「都にお泊りならぜひ、我が家へと思いましてお迎えに」
「ああ、知らせたのはこちらだ、遠慮なく厚意に甘えるよ」
「このたびのこと……良かれと思い、口を出したばかりに、情けないことです」
「大丈夫だ、もう全ては済んだよ」
「梢紗様にお会いに?」
「ああ、話した。梢紗は貴族らを集め事の次第を話すと言っていたが……お前は行かなくていいのか?」
「私は家督を譲りました。今は息子が城石の当主となっております。城に呼ばれたというのなら、今頃出席しておりましょう」
「そうか、ゆっくり休むことだ、ユーチェンも心配している」
「娘は、どのような様子でしょう?」
「ああ、病の元は取り出せた」
「では、手術を」
「そうだ、今は少しずつ動き、元の生活を取り戻し始めている。とにかく活動的な女だ、休めと言ってもただじっと寝ていてはくれないのだよ」
俺の言葉に斉井は幸せそうな笑顔を浮かべた。
「斉井、お前に似ているのだろうな。強情で頑固、そして情が厚く働き者」
「ふふ……誉め言葉に聞こえますぞ」
「誉め言葉だよ、斉井」
「ありがたく頂戴いたしましょう」
お互いの顔を見、穏やかな時間の流れを感じた。
「このまま、梢紗様は紗国に?」
「いや、阿羅国に連れ帰る」
「そうですか……では……紗国の王は……」
「おまえ程の男が何を言う。序列通りだよ」
「つまり、更江紗様」
「ああ、そうだろうな。紗国の者が梢紗を手放したくないのはじゅうぶんにわかってはいるが、あれをくれてやるつもりはない」
「ええ、そうでしょうとも。あの方は周りに愛されるお方。阿羅国においてもあの方は重要でしょう」
「その通りだ」
馬車がゆるやかに止まった。
すでに何度も訪れ勝手知ったる城石の館、使用人たちも、以前とは違い私へのまなざしがどこか柔らかい。
白玖紗も江利紗は阿羅国を排除しようと躍起になっていたが、我らを直接知る者たちはこうやって支えてくれる、ありがたいことだと思った。
通された客間で斉井は次男を呼んだ。
「私がいなくとも、息子は二人とも、あなたのことを信頼しておりますぞ」
次男は深く頭を下げ、真剣な顔を上げて恥ずかしそうに微笑んだ。
「私はまだ学生の身分ではありますが、阿羅彦様のためになることでしたら、なんでも言いつけてくださいませ」
「学生か」
「はい、今は休暇で戻っておりますが、アオアイで医学を学んでおります」
「そうか、医学を」
「行く末は、城に勤め王族のお役に立ちたいと、そう思っております」
「ふむ、なるほどな」
「姉の具合は……」
「ああ、ユーチェンは手術もうまくゆき、今は回復途上ではあるが、まあそこそこ元気だよ」
俺は斉井と目を合わせ、思わず笑った。
「我らの国には、医師が一人しかおらんのだ。アオアイの医学生の中でうちで働く気がある者がいたら、受け入れたいものだ」
「……なるほど……実家が貴族でない場合、就職先に困る者もあると聞いています」
「ほう、医学生ともあれば、どこも引く手あまたと思っていたが」
「そうでもないのですよ、結局は実家が元々力がないことには、なかなかね」
「そうであれば、アオアイに求人でも出してみるか」
俺の適当な思い付きに、サリヴィスが膝をポンと叩き大きくうなずいた。
「それは良いお考えですぞ、我が君。今後何かあるたびに、阿羅彦様が自ら執刀をするというのも無理がありますしな」
「え……阿羅彦様ご自身が?」
斉井も、次男も驚いて目を見開き、身を乗り出した。
「ああ、今阿羅国にいる医師は優秀な者だが、きちんとした手術室がまだ完備されておらぬ上に助手もいない、ユーチェンの手術に踏み切れずにいたものだから、私が魔力でなんとかしたのだ」
「魔力で?」
「ふつうはそのようなこと……」
俺は指を二本立て、自分の腕に当てた。
「こうすれば、体の中を見通せる。そして病変を見つけそこを魔力で切り取り体の外へ出したのだ、皮膚は切らず、体の中から手のひらへ瞬間移動のようなものだな、まあそれは私の異能だが」
「そんな……そんなことが……あなた様は天才ではありませんか!」
次男の叫ぶような声に思わず笑って否定した。
「いやいや、違うよ。一緒にいた医師に相談しつつ、指示のもとだ。私は医学的な知識はないに等しいよ」
「……」
「となると、本当の意味であなたはユーチェンの命の恩人ですね」
「そう堅苦しく考えるな、やれることをやっただけだ」
「まあ、我が君の異能は、考えられないくらい有能であることは確か。医学を志す学生がこのように驚くほどに」
サリヴィスも嬉しそうにうなずく。
「アオアイで来月、医学会があるようだな」
「はい、我ら学生も動員されております。とはいえ、裏方としてあれこれ働くだけですが」
次男は恥ずかしそうに答えた。
「阿羅国の医師も出席するのだが、そこで今回のことを発表したいそうだ、今資料をまとめている。君も興味があるのなら、その発表を聞ければ良いな」
「はい!」
城石の次男は大きな声で返事をした。
0
あなたにおすすめの小説
触手生物に溺愛されていたら、氷の騎士様(天然)の心を掴んでしまいました?
雪 いつき
BL
仕事帰りにマンホールに落ちた森川 碧葉(もりかわ あおば)は、気付けばヌメヌメの触手生物に宙吊りにされていた。
「ちょっとそこのお兄さん! 助けて!」
通りすがりの銀髪美青年に助けを求めたことから、回らなくてもいい運命の歯車が回り始めてしまう。
異世界からきた聖女……ではなく聖者として、神聖力を目覚めさせるためにドラゴン討伐へと向かうことに。王様は胡散臭い。討伐仲間の騎士様たちはいい奴。そして触手生物には、愛されすぎて喘がされる日々。
どうしてこんなに触手生物に愛されるのか。ピィピィ鳴いて懐く触手が、ちょっと可愛い……?
更には国家的に深刻な問題まで起こってしまって……。異世界に来たなら悠々自適に過ごしたかったのに!
異色の触手と氷の(天然)騎士様に溺愛されすぎる生活が、今、始まる―――
※昔書いていたものを加筆修正して、小説家になろうサイト様にも上げているお話です。
【完結】気が付いたらマッチョなblゲーの主人公になっていた件
白井のわ
BL
雄っぱいが大好きな俺は、気が付いたら大好きなblゲーの主人公になっていた。
最初から好感度MAXのマッチョな攻略対象達に迫られて正直心臓がもちそうもない。
いつも俺を第一に考えてくれる幼なじみ、優しいイケオジの先生、憧れの先輩、皆とのイチャイチャハーレムエンドを目指す俺の学園生活が今始まる。
優しい檻に囚われて ―俺のことを好きすぎる彼らから逃げられません―
無玄々
BL
「俺たちから、逃げられると思う?」
卑屈な少年・織理は、三人の男から同時に告白されてしまう。
一人は必死で熱く重い男、一人は常に包んでくれる優しい先輩、一人は「嫌い」と言いながら離れない奇妙な奴。
選べない織理に押し付けられる彼らの恋情――それは優しくも逃げられない檻のようで。
本作は織理と三人の関係性を描いた短編集です。
愛か、束縛か――その境界線の上で揺れる、執着ハーレムBL。
※この作品は『記憶を失うほどに【https://www.alphapolis.co.jp/novel/364672311/155993505】』のハーレムパロディです。本編未読でも雰囲気は伝わりますが、キャラクターの背景は本編を読むとさらに楽しめます。
※本作は織理受けのハーレム形式です。
※一部描写にてそれ以外のカプとも取れるような関係性・心理描写がありますが、明確なカップリング意図はありません。が、ご注意ください
強制悪役劣等生、レベル99の超人達の激重愛に逃げられない
砂糖犬
BL
悪名高い乙女ゲームの悪役令息に生まれ変わった主人公。
自分の未来は自分で変えると強制力に抗う事に。
ただ平穏に暮らしたい、それだけだった。
とあるきっかけフラグのせいで、友情ルートは崩れ去っていく。
恋愛ルートを認めない弱々キャラにわからせ愛を仕掛ける攻略キャラクター達。
ヒロインは?悪役令嬢は?それどころではない。
落第が掛かっている大事な時に、主人公は及第点を取れるのか!?
最強の力を内に憑依する時、その力は目覚める。
12人の攻略キャラクター×強制力に苦しむ悪役劣等生
逃げる銀狐に追う白竜~いいなずけ竜のアレがあんなに大きいなんて聞いてません!~
結城星乃
BL
【執着年下攻め🐲×逃げる年上受け🦊】
愚者の森に住む銀狐の一族には、ある掟がある。
──群れの長となる者は必ず真竜を娶って子を成し、真竜の加護を得ること──
長となる証である紋様を持って生まれてきた皓(こう)は、成竜となった番(つがい)の真竜と、婚儀の相談の為に顔合わせをすることになった。
番の真竜とは、幼竜の時に幾度か会っている。丸い目が綺羅綺羅していて、とても愛らしい白竜だった。この子が将来自分のお嫁さんになるんだと、胸が高鳴ったことを思い出す。
どんな美人になっているんだろう。
だが相談の場に現れたのは、冷たい灰銀の目した、自分よりも体格の良い雄竜で……。
──あ、これ、俺が……抱かれる方だ。
──あんな体格いいやつのあれ、挿入したら絶対壊れる!
──ごめんみんな、俺逃げる!
逃げる銀狐の行く末は……。
そして逃げる銀狐に竜は……。
白竜×銀狐の和風系異世界ファンタジー。
獣のような男が入浴しているところに落っこちた結果
ひづき
BL
異界に落ちたら、獣のような男が入浴しているところだった。
そのまま美味しく頂かれて、流されるまま愛でられる。
2023/04/06 後日談追加
「今夜は、ずっと繋がっていたい」というから頷いた結果。
猫宮乾
BL
異世界転移(転生)したワタルが現地の魔術師ユーグと恋人になって、致しているお話です。9割性描写です。※自サイトからの転載です。サイトにこの二人が付き合うまでが置いてありますが、こちら単独でご覧頂けます。
狼領主は俺を抱いて眠りたい
明樹
BL
王都から遠く離れた辺境の地に、狼様と呼ばれる城主がいた。狼のように鋭い目つきの怖い顔で、他人が近寄ろう者なら威嚇する怖い人なのだそうだ。実際、街に買い物に来る城に仕える騎士や使用人達が「とても厳しく怖い方だ」とよく話している。そんな城主といろんな場所で出会い、ついには、なぜか城へ連れていかれる主人公のリオ。リオは一人で旅をしているのだが、それには複雑な理由があるようで…。
素敵な表紙は前作に引き続き、えか様に描いて頂いております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる