狐の国のお嫁様 ~紗国の愛の物語~

真白 桐羽

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久しぶりの口付け

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 2人の将軍が捕縛した6名は、離宮爆破を企てた主犯であった。
あの時阿羅彦が言ったことは本当だったのだ。

意識の朦朧とする阿羅彦の周りにいつもたむろし、波羽彦を操りうまい汁を吸おうとする輩だったらしい。
その部下の軍団も全員捕え、今は跳光家が尋問に当たっている。
数々の証言も出てきて、波羽彦をそのまま生かす方向へ努力する我と涼鱗の2人には良い材料となった。

「あの爆破も、あいつらだったなんてね、てっきり阿羅彦だと思ってた……波羽彦の予想が当たったね」

涼鱗が不愉快そうに顔をゆがめた。

「全く同感だ……波羽彦は父が自分の国を破壊するようなことはしないと言っていたが……あれが当たっていたんだな」
「阿羅彦は自ら台地から作り上げたこの国を愛していたんだろうしね」
「それをきちんと理解していたんだな、波羽彦は」
「さすが腐っても親子だねえ」
「……それにしても」

涼鱗は資料を補佐のカジャルに渡しながら溜息をついた。
カジャルは我ら2人の会話の邪魔をせぬよう事務作業に集中している。
更に騎士たちも手伝いを申し出てくれたので、何人かで分けて作業している。
それらの配分はカジャルに任せてあった。
今回の街での暴動を沈めた件で、カジャルは株を上げたようで、皆よく付き従っている。

「壮絶すぎない?阿羅彦……えと、アラトくんの生涯」
「……ああ、そうだな……元から強い魔力と強い魂と強い体を持っていたのだろう……だがそれだけでは説明がつかぬな……」

その時、バタバタと急ぐ足音が聞こえてきて、僑の助手が駆けこんできた。

「どうした」
「……っ! 陛下! 薫様がお目覚めに!」

我はガバッと立ち上がり、天幕を出て隣の小屋向かう。
後で涼鱗が「一緒にいくっ」と言ってるのが聞こえた。

「薫!」
「あ、蘭紗様」

桃色の頬をして僑の診察を受けている薫は思ったより元気そうに見えた。

「陛下、薫様はもう大丈夫です……そろそろ帰国準備を進めても良いかと。ですが、帰りは行きの時のような無理は止めてくださいよ?あれは私たちだったから付いてこれたんですからね」
「……ああ、それはわかっているとも」
「そうですか、良かったです、では私は波羽彦王の元におります、何かありましたら呼んでくださいね」

僑は道具を箱にしまうと、それをもってさっさと出て行った。
横にいた助手がグラスに入れた常温の薬湯を布団の横に置いた。
そこにはいつのまにか真新しい木のサイドテーブルが置かれていた。

「薫……」
「やー!薫!かおるーーー」
「おい、涼鱗、おまえ……我よりも先に薫に近寄るな」
「えー」

我は涼鱗を睨みつけた、後でカジャルも笑っている。

「みんなごめんなさい、ご迷惑を……」
「迷惑などではない、薫は何一つ悪くないではないか」
「……でも」

薫は悔しそうに下を向いてしまった。

「僕は翻弄されるだけで、何一つ自分で動けませんでした。誘拐された時だって、あれほど手を離すなと言われていたのに」
「それを言うなら我も同罪だ、そなたの手を離したのは……我もだ……」
「もう!だから! しんみりしすぎなんだって! 謝り合っても何もならないでしょ、2人とも悪くないの、ね?」

涼鱗が嬉しそうな笑顔で薫を優しく見ている。
薫は僑に指示された通り、薬湯を飲もうとしたが。うまく飲めないようだ。

「にがい?まずいの?氷出そうか?」
「んー……味はあんまりないかな?なんていうか喉の奥の方に何か詰まってるみたいな気がして上手く呑み込めなくて」
「僑には?」
「先生には伝えましたよ、心配いらないようです。大丈夫ですからね、みんなそんな顔しないでください」

薫はふわっと笑顔になったが、どう見ても無理しているように見えてしまう。
元々細いのに、さらにほっそりしてしまったような気がする薫の手を取り、横に座った。

「無理しなくていい……アラトのことで思うこともあるだろう。我らにとっては何千年も昔の事でも、薫にとっては数年前まで一緒にいた友なのだ」

薫は唇を噛み締め、何かを我慢するような表情になって我らから視線を外した。
我はなんとか慰めてやりたかったが、どうしていいかわからなくなってやんわり抱きしめた。
薫は我の腕の中で力を抜き、可愛らしい小さな頭を預けてくる。

「ど、どんなにか……つらくて苦しくて、さみしかっただろうかと……そう思うと」
「……確かにな……それは想像を絶することだ」
「薫……あまり考えすぎるんじゃないよ?アラトくんもさ、やっと今楽になれたんじゃないのかな?死者の国で今度こそ真湖紗王のお出迎えをしてもらってるかもしれないじゃないか」
涼鱗の言葉に顔を上げた薫は一筋の涙を流し、小さく「うん」と頷いた。

「俺、思うんだけどさ……アラトだったころの思い出をきっとずっと忘れたくなくて大事にしていたと思うんだ、だって数年前にあったことさえ、どうでもいいことなら忘れるのに、1000年以上経ってから詳細に建国記に記したんだぜ?」

カジャルが小屋の入口に立ったままいつもより声を落として話した、彼なりに気を使っているようだ。

「大事な記憶の中にいる君が目の前に現れて、阿羅彦は嬉しそうに見えた……それから……これは言う言わないか迷ったが……我の鎌鼬を、阿羅彦は逃げずに真正面から受けたのだよ、彼ほどの異能の者ならば避けることもまた反射させることも、更にはそれを無効にすることも、できたはずなのだ、むしろそうなるとわかっていて苦し紛れに取りあえず放った一撃だったのだからな」
「うん、そうなんだ。私が絞めた時もね……あれは私が締め上げて死んだんじゃないよ?彼は自分で自分の肉体を魔力でつなぎ合わせるのを止めたんだ……その意味がわかる?」

薫は声も無くボロボロに泣きながら涙を拭くことさえ忘れて我らの話を聞いていた。

「……新人君は、心安らかに……逝けたんでしょうか……もう、これで良いと自分で思えたんでしょうか」

薫の震える声に我は抱きしめる力を少しだけ強くした。

「ああ、直接対峙した我らにはそう思えたよ」
「最後に波羽彦に親としての言葉を掛けたようだったし、彼には彼なりの幸せがこっちの世界にもきっとあったと思うんだよ」
「自分の国を見渡してから散ったしな」
「……あれは胸に残るね、自分で作り上げたこの国を大事に思っていたのは確かなんじゃないの?」

薫はうんうんと何度も頷いて、それから我慢ができなくなったようで声を上げて泣き始めた。
この国の者とて阿羅彦の死を本当の意味で悲しむ者などいなかったのに……

……涼鱗とカジャルは2人で視線を合わせると、静かに出ていき、扉を閉めた。


腕の中で震えて泣き続ける薫が愛おしかった。
一歩間違えば、我が身にも起こりえた恐ろしい現実を目の当たりにして、我の心もずっと張りつめていたようだ、自分の体がずっと緊張していたことに気づく。
そして、ただただ愛おしいこの薫をもう二度と手放したくないと、決して離さないと心に誓った。

私は薫の頬にそっと手をあて、上を向かせる。
涙でぐしゃぐしゃになった薫が薄く目を開けて力なく「らんじゃさま」と呟いた。
たまらなくなってその唇にそっと口付けすると、薫はまた大粒の涙を流して自分から更に我の唇を求めて、そっと吸いついてきた。
柔らかな薫の唇の感触で一瞬ここがどこかを忘れてしまって、お互いに貪り合うように唇を重ね抱きしめ合った。

「愛しているよ薫」
「僕も……あいしています」

我は腕の中にある柔らかな感触となんともいえない花の匂いで、ようやく少し安心できた。



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