狐の国のお嫁様 ~紗国の愛の物語~

真白 桐羽

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天駆ける1

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 僕が紗国に戻って2週間後……今日は毎年行われる夏のお祭り、それは始祖と言われる九尾の狐を祭るものなんだって。
僕が誘拐されちゃった時のあのお祭りは民衆主体の初夏のお祭りで、信仰の意味合いが無いわけではないけど、どちらかというと彼らの娯楽であるらしい。

だけど、今回のお祭りはご神体が置かれた城の神殿部は開かれ、その日ばかりは国民が参拝して、結婚したものや、子が生まれたものは祝福を受けるのだ。

今年は城下町の祭りが僕の誘拐事件により中止されちゃったから、後味の悪いことになってしまっていたので、この時とばかり国民は大盛り上がりの様相らしいんだ。

……そして、国民の楽しみは祭りだけではない……
その祭りの最終日には、紗国の若き王・蘭紗様と僕の結婚式が行われるのだ。

「ちょっと仙……やりすぎないで?ほんとに!」

僕の声が大きくなるのは仕方ない。
今日は遅れに遅れてしまった王族皆さまへの僕のお披露目があるので、本日の僕の衣装はやたら派手なのです!

「何をおっしゃいますか?……この程度普通でございますよ、お嫁様なんですから」
「……あのね、今回は女装じゃないんだから、その……お化粧はほんとにやめて?」
「ですけど、陛下もお喜びになられるのでは?」
「……ぅ」

僕は街祭りに繰り出す際の蘭紗様を思い出して顔を真っ赤にしてしまった。
お空を抱きかかえられて飛びながら「かわいいかわいい」と耳元でささやいてちゅっちゅされて……って、もうやめて!

「だから!……ちがうって! そういうのは2人の時とかで……」
「え……ああ、そうですよねえ、お二人のお時間の時にでございますね?……ふふ、了解いたしました、承りましょう」
「あ!……ちが!」

やってしまった。
これは絶対にやばいことを口走ったに違いない!
僕は真っ赤な顔で「ぐぬぬ」ってなったけれど、侍女達は全く話を聞いてくれない。
楽しそうに僕を着飾る……

「まあ、では……薫様はお肌がお綺麗だから、おしろいは無しで、ですが紅を少々ぐらいはお許しくださいね。髪型は真野に任せましょう」

仙がすっと横にずれると、鏡に映る自分が見えた。

僕好みだと認識された青系の着物でコーディネイトされている。
ごくごく薄い水色の無地の着物に袴は緑がかった青で、細いプリーツのスリムなシルエット、その上に白いオーガンディーのような長い紗の羽織を羽織っている、羽織を止める留め金は白金で、蘭紗様のように光り輝く細工の細かい物。

どれもよく見ると地模様が花だとわかる程度でシンプルなのに、合わせてみると高級感がすごい。
特に羽織には所々輝くように銀糸が織り込まれ、そして複雑な刺繍が裾にあった。

真野は震える手で僕の髪に油を付け、梳る。

「真野、どうしたの?」

僕は不思議に思って真野を見上げると、真野は目にいっぱいの涙を浮かべその涙を流さまいと必死に我慢していた。

「え?なんで?」
「わ、私が、お支度した際に、あのようなことに……私が調子に乗りすぎ……ただでさえ光り輝く美しい薫様を……さらに目立つようにお支度したためかも……そう思いますと……」

僕はハッとして思わず立ち上がり、真野の櫛を持つ手を握りこんだ。

「違うんだよ、真野のせいじゃないんだよ、皆がそんな風に僕に謝るんだけど、違うんだよ。誰も悪くないんだ」
「でも……」
「真野、それぐらいにしなさい」

侍女長の仙が真野をたしなめた。
その仙も悔しそうな顔で下を向いた。

「それにね、聞いてくれる?これはみんなも」

侍女達は手に持っていた色んな道具を化粧台に戻し、すっと跪いた。

「僕はね、誘拐自体はそりゃあっちゃいけないことだし、許されないことだとも思ってる。残された人が悲しみや罪悪感に苦しむ気持ちだってわかってるつもり。だけどね、今回僕は色んなことを知れたんだ。阿羅国の建国の王が僕のかつての親友だったことや、その彼がどれだけ残酷な目にあっていたかも、誘拐されなければ知り得なかった。……しかも、僕にとっては3年ぶりに、そして彼にとってはおよそ5000年ぶりに、話すことさえできたんだ」

侍女達は神妙な面持ちで静かに聞いてくれている。
真野は流れてしまった涙を手で拭っていたので、そばにあったハンカチサイズの手拭いを渡してあげた。

「その時新人くんは、「幸せになって」って言ってくれたんだ。あんな言葉をもう会えないと覚悟した友からもらったんだ、こんなうれしいことはないよ。……彼は今頃天に召されてきっと真湖紗様と穏やかに過ごしているって僕は思いたいんだ……僕の誘拐事件は、それ自体は許されないことだろうけど、なんていうか……少し感謝もしてるんだ、それぐらいもう一度新人くんに会えたこと、嬉しかった。……きっと新人君もそうだったって信じたい。だからもう、周りの人が責任を感じて苦しむ姿を見たくないんだ。ね、お願いだから泣かないで」

真野はうんうんと何度も頷いて、それから顔を上げてにっこり微笑んだ。

「はい、薫様、もう二度と、このことで泣いたりしません」

他の侍女たちも皆、頭を垂れた。

「ねえ、髪の毛……今日はどんなふうにするの?」

僕は侍女たちにせがんでみせた。
耳の横の髪の毛をすいっと持ち上げてなるべく明るく微笑んで。
侍女たちはその僕を見て、ようやくいつも通りの顔で笑えたようだった。

……どうか……皆が傷ついた心が早く癒えますように。

真野は涙を手拭いでふき取ると、ふふんと鼻息荒く、いつもより丹念に横の髪を編み込みにして後にまとめ、そこに長い鳥の尾を飾り、右肩に垂らした。
僕にはクジャクの尾のように見えたけど、その尾を持つ鳥がどんな鳥なのかはわからない。
そして最後にその結び目に幅が広めの紗のリボンも結ばれた。

鏡の中の僕は……女装ではなくて、まあ男の正装でもアリ?かなと思える出来で、満足だよ!

「ありがとう皆、では行ってくるね」
「いってらっしゃいませ」

真野が障子を開けると、蘭紗様の侍従が控えていてすぐに蘭紗様のお部屋に案内される。
支度を終えた蘭紗様はまたもや執務室で書類を読んでいた。

「蘭紗様」
「ああ、薫……」

蘭紗様は顔を上げてこっちを見て、ほうと溜息をついてこちらに歩いてきた。

「薫、今日もそなたはこんなに美しくして……他の誰にも見せたくなくなるよ」
「えええ?……もう……なんですかそれ」

2人で見つめ合って笑い合って、そして蘭紗様は僕の手に軽くキスをしてその手を自分の腕に絡めた。
腕を組むなんて!
恋人みたいじゃないですか!
っていうか、そうだった、恋人同士なんだった!!

僕が心でむふふってしていると、「何を考えてる?」と覗き込まれ思わず真っ赤になってしまったら、「君は本当に……」と言いながらなぜか廊下で抱きしめられ、キスされてしまった……
なぜ?!

「蘭紗様、皆さまお待ちでございますよ」

侍従長がコホンと咳をして伝えると、嫌そうな顔をした蘭紗様は「わかってる」といってようやく歩き出した。

「今日はお姉さまもいらっしゃるんですよね?」
「ああ、そうだ、我も月に一度しか会う機会がないが……その……聞いているだろうか?」
「ええ……目が見えないのですよね?」
「そうだ、王家には目の見えない女子が生まれやすい、そしてそれらは巫女の素質に恵まれるので、森の神殿で守られ儀式を日々行いながら暮らすのだ」
「喜紗さんからそのお話は伺ったんですが……」
「気に病むことはない、姉は魔力が強いので、物や人の持つ魔力は見えるのだ、だから普通にしてよいぞ」
「……ええ、わかりました」

腕に回した手を優しく撫でてくれて……その感触が嬉しくて、僕の顔はにやけ顔のまま……
ひ、ひきしめなくては!



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