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雨に降られても1
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ヴァヴェル王国の『じい』こと前王の弟殿下が離宮に戻った後も、僕たちは引き続き円になって話していた。
「でさぁ……ほんとなの?アオアイで資料見て思い出したって」
「僕がアオアイ会議に出席することになってから、じいと僕と、他の数人が行っただろ?会議に出る前に資料を読んだのは僕なんだけどね」
アイデン王は相変わらずクッキーを食べながら紅茶をおかわりしている。
この人甘党なのかな……
「それで気づいたんだよ、およそ5000年前って、うちの国には普通に生きていた奴らたくさんいるじゃんって」
「……ああ、なるほどね……」
涼鱗さんが苦笑してコロンとした氷の入ったアイスティーを一口飲んだ。
「それで聞いたんだよ、じいにね。そしたら、そういや以前、森付近で異変を感じたことがあるけど、ほったらかしたことがあったなあって」
「ほったらかす……」
「その頃ってさ、人同士もすごく争い合ってたでしょ?国の境も曖昧で、きちんと立国していたのは紗国と瀬国とアオアイくらいじゃないの?だから、空間の異常を感知しても、我ら龍族がかかわることではないと黙殺したんだって」
「確かに……その時に気づいたとして、何ができただろうか?とは思うけどな」
「新人くんを助けるという選択肢は……その時に様子を見に行ったとしても、なかったんでしょうか?」
僕は思い切って聞いてみた。
じい……じゃなくて、前王弟殿下本人に聞く勇気がなかったので。
「……ん、難しいけどね。さっきじいが言ってただろ?淫魔は人をさらって来て妊娠させるしか子孫を残せないって。だからそれを目撃しても淫魔の習性なのだから、としか思わなかったじゃないかな……あと……淫魔は夢を見せるんだよ。心地いい幸せになれるような夢だ。その人の心の中にある好きな人の幻影を自分に写して自分を愛させるし、そして淫魔も自分の子を産んでくれる人をとても大事にするんだよ……つまりさ、幸せに暮らす者が助けを求めるだろうか?ってことさ」
「お前はなんで知ってるんだそんなこと」
「だって僕だってあの森に囲まれた国の生まれなんだよ?それぐらい教え込まれるさ。近づいちゃだめって」
アイデン王は肩をすくめてニコッと笑った。
とっても魅力的な笑顔なんだけど……それを見て涼鱗さんが少し苛立ってるような気がしないでもない……
「遭遇したことはあるんです?」
「無いよ、僕はまだ幼体だから、一人で森に入っちゃだめなんだからね」
なぜかドヤ顔だ。
「とりあえず、まとめるとだな……龍族は古くから紗国の近く辺りから空間の異変を感じていた、そして一度、不可侵の森の中でも空間の変異を感じたと。そして、阿羅彦であろうその人が囚われていたのはおそらく淫魔だと」
「そうだな」
「では、前王弟殿下がおっしゃった記憶の捏造とは……」
「そこはよくわからないが……じいが言うには、たまに子を産んだのち解放される人がいたそうだ。その昔、遭遇したことがあって、麓の町まで送ったこともあるらしい、その人は『嫌な目にあった!』と悔しげに顔を歪めていたらしいのだが、木陰からそっとその人を見つめる淫魔にじいは気づいていたそうだ。暮らしているうちは愛し幸せにするけど、解放するときは憎ませて自分に縋りつかないようにするらしいよ」
「なんのために!」
「次に番う相手に危害を加えさせないためだよ」
「愛のもつれを起こさせないってこと?」
うへー……なんかすごい。
アイデン王も辟易した様子で変顔をして頷いた。
「幸せだった時の記憶を消し、憎むように新しい記憶を入れるということか……」
「そうなのかな……まあよくわからないよ」
「なんというか……」
「じゃあ建国記に記されている阿羅彦の森での記憶は、植えられた嘘の記憶であるということか……」
「じいは言わなかったけどさ、あの森に棲むその他の魔獣はさ、阿羅彦が言うように『人を繋いで飼う』なんてしないよ?遭遇したら襲って食べるだけさ、性の対象としてだけど大事にするのは淫魔だけ。だからほぼその推測はあたってるとおもうんだよね」
「淫魔って、何年ぐらい生きるんだろう?」
「さあ……1000年ぐらいだろうか……割と長寿の部類だろうね」
「まあ、探そうにもさすがにもう遅いか……」
「ええぇぇぇぇ……探す気あったの?やめてよもう……危ないよお」
アイデン王は涼鱗さんの言葉に顔をひきつらせる。
すべての生き物の頂点にあるという龍族がここまで恐れるとは……
「だが……推測を確かめることができれば……と思うじゃないか」
「まあ、気持ちはわかるけどさ」
「あの……話し変わっちゃうかもしれないけど、いいですか?」
僕は小さく手を上げて皆の注目を浴びてしまった……
「もちろんだよ、薫」
涼鱗さんが微笑んでくれた。
「あの……紗国の前王のお嫁様も……阿羅国にとらわれていたのでしょうか?まだ生きていらっしゃるという可能性はないんでしょうか?普通にまだ生きていてもおかしくない年齢だと思うんですけど」
涼鱗さんはじめ皆がポカンとした顔で僕を見つめる。
んと……あは……変なこと言っちゃったかな……
「そういえば……我らが阿羅国に攻めた際に、阿羅国城はもちろん見回ったし市中も検分したが……そういう視点で探してはいなかったな……」
「その考え方はまったくもってなかった……確かに、蘭紗と薫も2才違いだ。前王とそのお嫁様もそう違わないとしたらまだ40代の可能性が高いな」
涼鱗さんとカジャルさんが難しい顔で見つめ合っている。
「ならば早急に、問い合わせてみるのはいかがでしょう?波羽彦さんだって知らないことがたくさんあるはずです」
「だが、あてもなく探させるというのも」
「あいつらならば知っているかも……」
「ああ、あいつらだな」
「アオアイの地下牢から一生出れないとされているからな、この荒れた天気でさえなければアオアイに使者を出すのだが」
確かに……阿羅彦の影で国を牛耳っていた人達ならば、国の秘密を知っている可能性は高いだろう。
「行ってこようか?」
アイデン王が侍女に出してもらったロールケーキを頬張りながらモゴモゴして言った。
口の周りについたクリームを侍女に拭いてもらっている。
「別に天気なんて僕には関係ないぞ、アオアイなら1日あれば着くしな……というか小雨じゃないか、こんなの」
僕はもう一度窓を見た。
すごい豪雨である……小雨とは……
「いや……アイデン待て、じいに……前王弟殿下に許可を得ねば……な?」
「うん、そうだね、じいに聞いてくるよ」
じゃあ!と言ってひらりと身軽に出ていくアイデン王の背を見送って、僕たちは溜息をついた。
「龍族と話なんて……何もかも次元が違いすぎて疲れることこの上ない」
「確かに……」
「でも、実際アイデン王が行って来てくださるなら、これほど便利なことも……あ、便利だなんて言葉が過ぎました……忘れてください」
僕は真っ赤になって下を向いたが、皆がくすくす笑うのが聞こえる……
「まあ……実際便利だ……フフ」
「だな!」
「それもこれも、薫様と翠紗様のおかげでございますよ、お二人のために贈り物をお届けにいらしたのですからね」
「……まあ、そうかもしれませんが……」
「そうだよ、気にするな!」
皆で一斉に笑って、解散となりそれぞれのデスクに戻る。
僕は涼鱗さんと先程のガラケーの話の続きをすることとした。
「う……充電をお願いするのを忘れていた……」
「そうだな……しかしまた戻ってくるだろう、さすがにそのまま旅立ちは……しないよな?な?な?ってえ???」
涼鱗さんも少し焦り気味だ。
これではなんだか紗国がヴァヴェル王を使いにやったみたいにならないだろうか……
今更だけど……
「ちょっと……蘭紗様に……話したほうが良いような気がしてきたんですけど」
「そうだな……少し降りは強いが薫いけるか?」
「はい、大丈夫です」
僕たちはカジャルさんに後のことを任せ2人で蘭紗様の執務室へ飛ぶことになった。
「んー結構な降りだね……」
玄関に出てみると、ざあざあと地面が雨に叩きつけられて跳ね返った雨が足元を濡らす。
涼鱗さんがコートを羽織った僕に丁寧に二重にかけたという防御壁を作ると自分も覆って、一緒に飛び出す。
近衛も四方にいて守るようにしてくれた。
朝もすごい雨で恐ろしかったけど、空に上がると一瞬で視界が真っ白になり恐怖を覚える。
白くけぶる中に涼鱗さんの姿だけが見えて、その目標がなければどちらに飛んでいいかさえわからない。
道を歩くのとは違うのだ。
今更ながら空を飛ぶということの恐怖を実感してくる。
そうこうするうちに空の門に着き、門兵が慌てて駆け出してきたので、蘭紗様に急ぎの話があることを伝えて、その間に侍女たちに衣装を整えられた。
2人で静かに……だけど少し急いで廊下を歩く。
行き交う高官達が端に寄り、礼をしているが、僕たちは返す余裕がなかった。
「でさぁ……ほんとなの?アオアイで資料見て思い出したって」
「僕がアオアイ会議に出席することになってから、じいと僕と、他の数人が行っただろ?会議に出る前に資料を読んだのは僕なんだけどね」
アイデン王は相変わらずクッキーを食べながら紅茶をおかわりしている。
この人甘党なのかな……
「それで気づいたんだよ、およそ5000年前って、うちの国には普通に生きていた奴らたくさんいるじゃんって」
「……ああ、なるほどね……」
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「それで聞いたんだよ、じいにね。そしたら、そういや以前、森付近で異変を感じたことがあるけど、ほったらかしたことがあったなあって」
「ほったらかす……」
「その頃ってさ、人同士もすごく争い合ってたでしょ?国の境も曖昧で、きちんと立国していたのは紗国と瀬国とアオアイくらいじゃないの?だから、空間の異常を感知しても、我ら龍族がかかわることではないと黙殺したんだって」
「確かに……その時に気づいたとして、何ができただろうか?とは思うけどな」
「新人くんを助けるという選択肢は……その時に様子を見に行ったとしても、なかったんでしょうか?」
僕は思い切って聞いてみた。
じい……じゃなくて、前王弟殿下本人に聞く勇気がなかったので。
「……ん、難しいけどね。さっきじいが言ってただろ?淫魔は人をさらって来て妊娠させるしか子孫を残せないって。だからそれを目撃しても淫魔の習性なのだから、としか思わなかったじゃないかな……あと……淫魔は夢を見せるんだよ。心地いい幸せになれるような夢だ。その人の心の中にある好きな人の幻影を自分に写して自分を愛させるし、そして淫魔も自分の子を産んでくれる人をとても大事にするんだよ……つまりさ、幸せに暮らす者が助けを求めるだろうか?ってことさ」
「お前はなんで知ってるんだそんなこと」
「だって僕だってあの森に囲まれた国の生まれなんだよ?それぐらい教え込まれるさ。近づいちゃだめって」
アイデン王は肩をすくめてニコッと笑った。
とっても魅力的な笑顔なんだけど……それを見て涼鱗さんが少し苛立ってるような気がしないでもない……
「遭遇したことはあるんです?」
「無いよ、僕はまだ幼体だから、一人で森に入っちゃだめなんだからね」
なぜかドヤ顔だ。
「とりあえず、まとめるとだな……龍族は古くから紗国の近く辺りから空間の異変を感じていた、そして一度、不可侵の森の中でも空間の変異を感じたと。そして、阿羅彦であろうその人が囚われていたのはおそらく淫魔だと」
「そうだな」
「では、前王弟殿下がおっしゃった記憶の捏造とは……」
「そこはよくわからないが……じいが言うには、たまに子を産んだのち解放される人がいたそうだ。その昔、遭遇したことがあって、麓の町まで送ったこともあるらしい、その人は『嫌な目にあった!』と悔しげに顔を歪めていたらしいのだが、木陰からそっとその人を見つめる淫魔にじいは気づいていたそうだ。暮らしているうちは愛し幸せにするけど、解放するときは憎ませて自分に縋りつかないようにするらしいよ」
「なんのために!」
「次に番う相手に危害を加えさせないためだよ」
「愛のもつれを起こさせないってこと?」
うへー……なんかすごい。
アイデン王も辟易した様子で変顔をして頷いた。
「幸せだった時の記憶を消し、憎むように新しい記憶を入れるということか……」
「そうなのかな……まあよくわからないよ」
「なんというか……」
「じゃあ建国記に記されている阿羅彦の森での記憶は、植えられた嘘の記憶であるということか……」
「じいは言わなかったけどさ、あの森に棲むその他の魔獣はさ、阿羅彦が言うように『人を繋いで飼う』なんてしないよ?遭遇したら襲って食べるだけさ、性の対象としてだけど大事にするのは淫魔だけ。だからほぼその推測はあたってるとおもうんだよね」
「淫魔って、何年ぐらい生きるんだろう?」
「さあ……1000年ぐらいだろうか……割と長寿の部類だろうね」
「まあ、探そうにもさすがにもう遅いか……」
「ええぇぇぇぇ……探す気あったの?やめてよもう……危ないよお」
アイデン王は涼鱗さんの言葉に顔をひきつらせる。
すべての生き物の頂点にあるという龍族がここまで恐れるとは……
「だが……推測を確かめることができれば……と思うじゃないか」
「まあ、気持ちはわかるけどさ」
「あの……話し変わっちゃうかもしれないけど、いいですか?」
僕は小さく手を上げて皆の注目を浴びてしまった……
「もちろんだよ、薫」
涼鱗さんが微笑んでくれた。
「あの……紗国の前王のお嫁様も……阿羅国にとらわれていたのでしょうか?まだ生きていらっしゃるという可能性はないんでしょうか?普通にまだ生きていてもおかしくない年齢だと思うんですけど」
涼鱗さんはじめ皆がポカンとした顔で僕を見つめる。
んと……あは……変なこと言っちゃったかな……
「そういえば……我らが阿羅国に攻めた際に、阿羅国城はもちろん見回ったし市中も検分したが……そういう視点で探してはいなかったな……」
「その考え方はまったくもってなかった……確かに、蘭紗と薫も2才違いだ。前王とそのお嫁様もそう違わないとしたらまだ40代の可能性が高いな」
涼鱗さんとカジャルさんが難しい顔で見つめ合っている。
「ならば早急に、問い合わせてみるのはいかがでしょう?波羽彦さんだって知らないことがたくさんあるはずです」
「だが、あてもなく探させるというのも」
「あいつらならば知っているかも……」
「ああ、あいつらだな」
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「行ってこようか?」
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口の周りについたクリームを侍女に拭いてもらっている。
「別に天気なんて僕には関係ないぞ、アオアイなら1日あれば着くしな……というか小雨じゃないか、こんなの」
僕はもう一度窓を見た。
すごい豪雨である……小雨とは……
「いや……アイデン待て、じいに……前王弟殿下に許可を得ねば……な?」
「うん、そうだね、じいに聞いてくるよ」
じゃあ!と言ってひらりと身軽に出ていくアイデン王の背を見送って、僕たちは溜息をついた。
「龍族と話なんて……何もかも次元が違いすぎて疲れることこの上ない」
「確かに……」
「でも、実際アイデン王が行って来てくださるなら、これほど便利なことも……あ、便利だなんて言葉が過ぎました……忘れてください」
僕は真っ赤になって下を向いたが、皆がくすくす笑うのが聞こえる……
「まあ……実際便利だ……フフ」
「だな!」
「それもこれも、薫様と翠紗様のおかげでございますよ、お二人のために贈り物をお届けにいらしたのですからね」
「……まあ、そうかもしれませんが……」
「そうだよ、気にするな!」
皆で一斉に笑って、解散となりそれぞれのデスクに戻る。
僕は涼鱗さんと先程のガラケーの話の続きをすることとした。
「う……充電をお願いするのを忘れていた……」
「そうだな……しかしまた戻ってくるだろう、さすがにそのまま旅立ちは……しないよな?な?な?ってえ???」
涼鱗さんも少し焦り気味だ。
これではなんだか紗国がヴァヴェル王を使いにやったみたいにならないだろうか……
今更だけど……
「ちょっと……蘭紗様に……話したほうが良いような気がしてきたんですけど」
「そうだな……少し降りは強いが薫いけるか?」
「はい、大丈夫です」
僕たちはカジャルさんに後のことを任せ2人で蘭紗様の執務室へ飛ぶことになった。
「んー結構な降りだね……」
玄関に出てみると、ざあざあと地面が雨に叩きつけられて跳ね返った雨が足元を濡らす。
涼鱗さんがコートを羽織った僕に丁寧に二重にかけたという防御壁を作ると自分も覆って、一緒に飛び出す。
近衛も四方にいて守るようにしてくれた。
朝もすごい雨で恐ろしかったけど、空に上がると一瞬で視界が真っ白になり恐怖を覚える。
白くけぶる中に涼鱗さんの姿だけが見えて、その目標がなければどちらに飛んでいいかさえわからない。
道を歩くのとは違うのだ。
今更ながら空を飛ぶということの恐怖を実感してくる。
そうこうするうちに空の門に着き、門兵が慌てて駆け出してきたので、蘭紗様に急ぎの話があることを伝えて、その間に侍女たちに衣装を整えられた。
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