狐の国のお嫁様 ~紗国の愛の物語~

真白 桐羽

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離れの宮4

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「薫様、今日はおいでくださってうれしいぞ、さ、お座りくだされ」

僕たち3人は進められるままに豪華な座布団に座った。
城では椅子に座る生活なので、座布団が懐かしい。

「……想像していたよりも……もっとずっと、あなたはきれいじゃ」

僕をじっと見つめて久利紗様はゆったりとした動きで首を傾げて微笑んだ。

「そ……そんな、久利紗様こそ、お美しい方で驚きました」
「妾は蘭紗には似ておらぬかの」
「銀色の目の輝きは似ておいでですよ」
「ふふ……これは、王族特有じゃからの、留紗、そなたともお揃いじゃ」
「はい!」

留紗は嬉しそうに大きな声で返事をした。

「本当に可愛らしいのう……で、そちらが、翠紗様……」
「はい、お初にお目にかかります、おばうえ」
「ふふ……妾が伯母とはのう……」

久利紗様は目を細めて翠をじっと見つめた。

「この子が……そうか……この子がのう……どれ、手を握らせておくれ」
「はい!」

翠がタタっと久利紗様に近寄り、手を差し出しお互いに握りあった。

「温かい……そして小さくて可愛らしい手じゃ。そうか……これが我が甥であるか」

久利紗様は銀色に光る瞳を優しく輝かせた。

「あちらに、菓子を用意してある。そなたらは食べてくるが良いぞ。ちと、そなたの母と二人にしておくれ」
「はい!」
「わかりました!」

留紗と翠は二人で廊下に消えていった。

「翠紗に会わせてくれてありがとう」
「こちらこそ光栄です、久利紗様」
「不安では無かったか?……妾は罪人じゃ」
「いえ!久利紗様が罪人だなんて、誰も思っておりませんから」
「……そんなことはなかろう。妾は蘭紗の母を殺したのじゃ」
「あれは……不幸な事故だったと、知る者は皆わかっております」
「事故……」

久利紗様はそう呟いて、じっと庭を見つめられた。

「事故……ではない。あれは意志をもってやったことじゃ、妾はのう、おなごに生まれて悔しかったんじゃ。男子おのこというだけで蘭紗は王になることが決定した。魔力だけを比べれば、妾のほうが上であったにな……しかし、そなたを得て今の蘭紗は魔力が爆発的に増えた。ここにいても、わかるほどにな……ビリビリと響いてくるような蘭紗の魔力が妾には伝わってくるのじゃ……つまり、妾は勘違いしておったのじゃ。王はお嫁様を得てようやく一人前になるのであって、生まれたままが完成ではないのだなと……やはり蘭紗が王の器だったのだ」
「久利紗様……」
「あの時妾は魔力を使い果たしたようでな、もう市井で暮らす庶民程度にしか魔力がないのだ、もう何かをしようにも何もできぬから、どうか安心してほしい……まあそもそも、そのような悪しき心は退散したがの」

久利紗様はフフと笑ってお茶をいれてくれた。
美しい所作でたおやかな白い手が動く。
僕はその手の動きをじっと見て、琥珀色のお茶が入れられるのを待った。

「蘭紗様は、寂しそうでした」
「蘭紗が?」
「ええ、久利紗様に、お会いになりたいのでしょう」
「……罪人に、王が会いたいなどと」
「あなたは罪人なんかじゃありません。もう……ご自分をお許しになっても良いのでは?あれは、ほんの幼い頃の事故です。いかに意志があったとしても、たった3才だったのですよ。責任は問われません」

久利紗様は目を伏せて自分の手をじっと見つめた。

「父王に私は頼んだのじゃ。私は静かに罪を償いたい……だから、それにふさわしい簡素な牢屋のような建物を建ててくれと……そしたらこの手を握っておっしゃった。『そなたに罪があるとするならば、それは我にもあるのだ、一緒に償うよ……』と。……そして『いつか自分が許せる日が来たら、ここを出よ』と……」

そして、室内を見渡し苦笑した。

「妾は言ったのじゃよ、簡素な建物をと。このような可愛らしい綺麗な美しい屋敷を建ててくれなどとは思って無かったのじゃ、罪人にふさわしい檻になっておらぬだろう?」

久利紗様は困ったような顔で部屋を見渡した。

「それは……義父上からの娘への愛情でしょう……」
「……そうか……そなたは親になったのじゃ、親の気持ちもわかろうと言うものじゃな……10才になる日まで、城にいて暮らした日々は針のむしろであった。あの日々が一番つらかったかもしれん。罪を償うためにここに引きこもったのに……妾は逆にこの館に守られていたような気さえする」
「義父上はそれを望まれていたでしょう。そして、久利紗様のお心が癒えるのを心待ちにしていたんだと思いますよ」
「……ふふ……おかしなものじゃ……誰と話しても心など揺さぶられぬのに……そなたと話しておったら、涙が出てくる……妾の涙などとっくに枯れ果てたと思っておったのにな」
「久利紗様……ここをお出になりませんか?……住まいを移すということではなく、王族として外にお出になったらいかがですか?もう、存分に償われたでしょう?……」
「……もう、じゅうぶんなのか……」
「はい」


僕と久利紗様は微笑みあった。

森林の香りに囲まれ……遠くから水の流れる音が聞こえ、そしてかすかに留紗と翠の騒ぐ声が聞こえる。

美しい春の日、美しい人が一歩あるき出そうとしていた。
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