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66話 ~杖探し~
しおりを挟む「えっ、ちょ、あの」
「さあ……あなたにピッタリの杖を、探さないとでございますねぇ……!」
『よかったのぉ、ハナ。見てもらえるなら一安心じゃな』
「え、え……? あ、あの、い、いいんですか……?」
困惑と不安を宿した自分のひとりごとは拾われることなく、ズルズルとそのまま店の奥へと引きずられていく。
「お嬢、こっちの杖なんてどうだ?」
「……うーん……もうちょっと装飾が派手な方が……」
「似合ってる、オルディア様」
と、話し合っている三人組の横をも素通りして、店主はそのままガンガンに足を進めていく。
「えっと……あの、ここですか……!?」
ズラリと立ち並ぶ陳列棚を通って、一番店の奥。
いかにも高級そうな装飾がされた棚を前に委縮していると、店主はニヤっと笑った。
「いいえ、違いますねぇ……この先があるんですよ」
「え、この先って行き止ま……うわっ!?」
グランチェスタがパッと杖を一振りした瞬間、奥の壁がキラリと輝き、扉のようなものが現れた。
すごい。これぞまさに想像していた魔法。
「わー……すごーい……ザ・魔法……」
「? そうですが……さあ、どうぞ」
「あっ! は、はい」
鮮やかな魔法の手腕に感動していると、キョトンと小首をかしげられた。
この世界で、コレはきっと当たり前のものなんだろう。
取り繕うように頷いて、扉を開ける彼女の後に続く。
「し、失礼しまーす……」
そーっと裸足で踏み入れた先は、やはりうす暗い。
先に進んだ店主が、キョロキョロする私を見てフッと笑った後、また杖を一振りした。
パアッと周囲が明るくなり――広がった光景に、思わず叫んだ。
「ひぇっ……広っ……ていうか、高ッ……!?」
さっきの店内と、比べものにならないくらい天井が高かった。
まるで塔の中にいるかのように、ひたすらに縦に長い。首が痛くなりそうなほど、天井には果てがなかった。
「う、うわあ……!! こ、これ、全部魔法の道具なんですか……!?」
さらに、ぐるっと周囲を囲む壁という壁がすべて棚になっており、そのすべてにみっちりと魔法関連の道具とおぼしき杖や箱が詰め込まれていた。
とんでもない量だ。国家レベルなんじゃ、と疑うほどに。
「ええ、そうですねぇ……まぁ、これはわたくしが道楽で集めたり、自作したもののクセが強すぎて販売しにくいものばかりですが……」
「えっ!? じ、自作って……これ、手作りで……!?」
「ええ……趣味のようなものですよ……ああ、店に置いてあるのは、キチンと規格通りのモノなのでご安心を……」
店主はそう言いながら、ヒュッと再び杖を振る。
ピカッと杖の先が光り、シュルリと赤いじゅうたんが現れた。
サイズとしては、シングルサイズのマットレスくらいだろうか。
「えぇと……こちらのじゅうたん、は?」
「乗ってください……飛びますから」
「エッ!? まさかの空飛ぶじゅうた……おわっ」
足を乗せたその刹那、全身に感じる不安定感と共に、体が宙に浮いた。
「ま……魔法のじゅうたんだ!!」
「ええ……なにせ上に長いものでして……こうでもしないと、あなたに向いている杖を探せないのですよ」
「えっ……わ、私に向いている杖、ですか?」
そういえば、そういう話でここに連れてきてもらっていたんだった。
目的を思い出すと同時に、どうやってそんなものを見つけるんだろう、と疑問も浮かぶ。
「ええ……店に置いてあるのは、魔力コントロールがある程度できる人向けのモノなのですよ……しかし、あなたはどうやら、あまりそちらはお上手でないようですし……」
「あっ……わ、わかっちゃいます?」
そんな、ちょっと話をしただけでわかってしまうものなんだろうか。
身を縮こまらせた私に、グランチェスタは意味深な笑みを浮かべると、そのままじゅうたんごとスイーッと上に移動していく。
視界の端に遠くなっていく床が見えて、ヒィ、とうめいた。
高所恐怖症は、こういうときに困る。いや、こんなこと滅多にないんだけれど。
「まぁ……コントロールはできる方が当然便利ですが……こればかりは慣れです……最初に、へたに指導者に頼ると、よけいにコントロールできなくなって、才能を殺してしまうこともありますし……」
「慣れ……慣れ、ですか……」
両手をグーパーと開いて、閉じる。
確かに、この世界にやってきて、魔法を使ったのなんて、両手で数えるほどしかなかった。
確かに、ゲームなどでは、魔法は使えば使うほど能力が向上する、というパターンが多い。
今までは恐る恐る使っていたけれど、これからは積極的に行使していくのが吉かもしれない。
「さて、ふむ……この辺りでしょうか」
「……おー……」
ずーっと上っていたじゅうたんが、塔の上部付近で静止した。
ちょうど目の前には、ズラリと立ち並ぶ杖がある。
ただ、店内で見てきたものに比べ、装飾も控えめで、木材自体にニスも塗られていない――ひと言でいうと、素朴で小さな杖だった。
あの店内では、ツヤツヤと明かりを反射する高級そうなデザインや、キラキラしい装飾のついたモノばかりだったため、逆に新鮮味すら覚える。
ファンタジーものでよくある、カッコイイデザイン――賢者の杖とか、そういうイメージのものが店内の杖だとすれば、ここにあるのは、某魔法学校で使うような、シンプルでこぶりな杖だ。
ただし、魔力の媒介になるのか、手元の部分に宝石が埋め込まれているのだけが、違いだろうか。
「なんていうか……全然、店のと違うんですね?」
「ええ……魔法というのは、術者の精神にも依存します……いかにも魔法を使う、という気持ちの高揚の為にも、ああいったものの方が売れるのですよ」
「なるほど……モチベーション……」
「ただ、結局杖は道具です……あくまで、術者を手助けするもの……あなたほどの魔力量でしたら、こういった杖の方が適任でしょう……」
「杖は、道具……」
そうなのか、とボーっと並ぶ棚を見つめる。
弘法筆を選ばず、というように、本人の実力さえあれば、どの道具を使っても使いこなせる、ということだろうか。
「あのぉ……ちなみに、おいくらで……??」
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