裸の天女様~すっ裸で異世界に飛ばされた災難ファンタジーコメディ~

榊シロ

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31話 ~巨大カエルの襲来~

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(うぅっ、こんな状態じゃ、走って外に逃げる……なんてのもムリだ。ここで生き埋めになるのを、指をくわえて待ってるしかないの……!?)

 こんなタイミングで、天変地異が発生するなんて!!

 それも、あの二つの赤い光を見た直後に――!!

「……ん?」

 ふと違和感を覚え、深くかみしめていた歯の力を緩めた。

(地震、にしては……上から、小石のひとつすら降ってこないの、おかしくない……?)

 立っているのも困難な揺れだ。

 洞窟という、岩や土で構成された空間の中、まったくなにも崩れてこない、というのはかえって異常じゃないだろうか。

 よくよく考えれば、これだけグラグラしているのに、足場にヒビ割れひとつできていない、というのもオカシイ。

 と、いうことは――?

(まさか――幻覚!?)

 ハッ、とそれに気づいた瞬間だった。

 ぼふんっ

 いつの間にか体にまとわりついていた赤いもやが、またたく間に霧散した。

「えっ!? い、今の……っ!?」

 たった今目が覚めたばかりかのように、体が軽くなる。

 あの、荒れ狂うような揺れも、ピタリと収まった。
 初めから、この場にはなにも起きていなかったかのように――。

「ホントに……幻覚だった……!?」

 両手を床について、土下座のような姿勢をとっていた自分に気づく。
 砂のまとわりついたエプロンをパタパタとはたき、おそるおそる立ち上がってみても、地面はいっさい揺れていなかった。

「あ……エリアスさんとヴィルクリフさん!!」

 ハッと気づいて二人を見ると、彼らはいまだしゃがみこんだまま、なにかを耐えるようにプルプルと震えている。

「ハナ! あんたも、この揺れがおさまるまでは、ジッとしてなさい! 危ないわ!」
「ぐっ……い、いつ天井が崩れてくるか……っ!」

 二人は、両手で頭を覆って、体を低く縮めている。

(そんな……揺れは、収まってるのに……!!)

 うす暗い洞窟の中を、キョロキョロと見回した。

 エリアスがかろうじて持つたいまつの明かりが、ジジッ、と枝を燃やして、周囲をぼんやりと照らしている。

 よくよく目を凝らせば、うっすらと赤いもやのようなものが二人を包んでいるのが見えた。

 ただ、やっぱり地面は動いていないし、なんの物音もしない。

(コレ……やっぱり幻覚ってことだよね……!? でも、二人の目を覚まさせるには、いったいどうしたら……!?)

 なにか、助けになるようなものはないだろうか。

 グルッと見回した周囲には、ただただ暗闇だけしか見えない。

 ――いや、違う。
 まっくらな暗闇の向こうに、赤い光が二つ、光っている。

「あっ……もしかして、アレが原因……!?)

 さっきも、アレを目にしてから地震が起きたのだ。

 こうなったら、動ける私がどうにかするしかない!!

「エリアスさん、ちょっとたいまつ借りますね!!」
「あっ、ハナ!? ちょっと、どうするつもり……!?」

 しゃがんでいたエリアスの手からたいまつを拝借して、暗闇の奥、赤い光に向かって駆け出した。

 光は、まるで驚いたようにブルッと揺れたが、【それ】がどこかへ逃げ出す前に、私がたいまつの光で照らす方が早かった。

「……ん、んん?」

 ぼうっ、とうす明かりで照らされたなにか。

 それは、まるでアドバルーンを三倍に巨大化させたような、非常に大きくふくらんだ――カエル、だった。

「っぎゃーーっ!?」

 今生、一番の悲鳴。

 全身に力が入って、たいまつがバキッと手元で折れた――瞬間。

 ぼぼぼふんっ

「えっ!? なになにっ!?」
「ぅおっ、なん……っ、おぉ!? 揺れが……消えた!?」

 まっ白い光が洞窟内にほとばしり、赤いもやが一瞬で吹き飛んだ。
 たいまつはバッキリと割れて壊れてしまったものの、白い光が洞窟内に拡散されて、ほんのりと明るくなった。

「うわっ!? 明るくなって、なお気色悪ッ!!」

 洞窟内が見渡せるようになったことにより、赤い目をもった異形のなにか――とても巨大なカエルの全貌が、ハッキリと目の前にさらされた。

「ちょっ、揺れの次は巨大カエルなんて……!?」

 正気を取り戻したエリアスが、背中の剣を両手に構えた。
 表情は、戦闘の気配のためか厳しかったものの、唇の端には嫌悪感がにじんでいる。

 それもそのはず。
 目の前の巨大カエルは、ただの両生類ではなかった。

 全身がうっすらと深みどり色なのは、ふつうに想像するカエルと同じ。

 しかし、ギョロリと赤く光る目は触覚のように頭の上に飛びだしていて、キョロキョロと三百六十度回転している。

 オマケに、口から飛び出た舌はまっ黄色で、ねちゃねちゃと不気味にだし入れてされていた。

 肌の表面からは、体液なのか、うっすらと赤い粘液がにじんで、そのおぞましい外見とも相まって、いかにも醜悪、といわんばかりだった。

 「カエルのバケモノか……コイツ、この洞窟の主だな?」

 と、気を持ち直したヴィルクリフが、スッとふところからナイフを取り出した瞬間、カエルの赤い目が再び光った。

 「ダメ! ヴィルクリフさん、あいつ、幻覚を……!!」
 「げ、幻覚!? そんな高度な術を……グッ!?」

 彼はふいにナイフを取り落とし、再び地面にうずくまってしまった。

「く、そ……! また、じめんが……揺れ、て……!!」
「揺れてない! 揺れてないですよ、ヴィルクリフさん!!」

 私たちが立つ場所は、まったく振動もせずそのままだ。
 しかし、ヴィルクリフの体の周囲には再び赤いもやがまとわりついて、手で払おうとしても、すぐに彼の体に戻ってしまう。

「く……そういわれても、足が……!!」

 両手を床について身を震わせる彼の目は、たしかに左右にグラグラと揺らいでしまっている。

「ってことは……アレの目を見ないようにして、攻撃するしかないってことね……!!」

 となりでしゃがみこむヴィルクリフを見て、エリアスがぐっと剣を握りしめた。

「そ、そんなことできるんですか、エリアスさん……!?」

 正面を見れば、いやおうなくあの赤い瞳と目が合ってしまうだろう。
 ギリギリ、足場に視線を向けて立ち向かうしかない。

 それだって、今はカエルが動かないからいいものの、ヤツが積極的に襲ってきたら、どうなるか――。
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