裸の天女様~すっ裸で異世界に飛ばされた災難ファンタジーコメディ~

榊シロ

文字の大きさ
38 / 81

37話 ~辿りついたオアシス~

しおりを挟む

 いっしょに転移した二人は、私の両脇にそれぞれ転がっている。
 どうやら、気を失ってしまったらしい。

 周りは荒野で、場所もロクにわからないものの、幸い目の前がオアシスのため、そびえたつ木々が日差しを遮ってくれている。

 泉は澄んでいて美しく、とぷとぷと清水が湧き出ているのが見えた。
 すぅっと魚の影もハッキリと見えて、今まで張っていた緊張がユルユルとほどけていく。

「はぁ、安全な場所についたみたいだけど……ここ、どこなんだろう」

 パタパタとエプロンをはたいて立ち上がり、ぐるっと周りを見回した。
 当然ながら、なんの見覚えもない。

 どこかの世界遺産でも見るかのように、周りには、いっさいなにもない荒野が広がっているばかりだ。
 魔の森の面影もなく、当然、フェゼント城や城下らしき影もなかた。

「うーん……二人が起きるのを待つしかないなぁ」

 いまだ昏倒したままの、男性二人を見下ろした。

 エリアスは、草の上に横たわっているというのに、束ねられた長い金髪が、太陽の光を受けて宝石のようにキラキラと輝いている。
 白く整った顔立ちも、わずかにしかめられて、物憂げな表情がさらに美しさを際立たせているかのようだ。

 かたや、ヴィルクリフもそうだ。

 長い黒髪がバサリと大地に広がって、まるでそこだけ一足早く夜が来たかのようだった。
 男性的な彫りの深い鼻筋に枝葉の影が落ちて、眠る表情が憂いを帯びて彫像さながらに美しい。

「……この世界……美形しかいないのか……??」

 思い返してみれば、ブラウやグリューだって子どもながらにかっこよかったし、姫様も可愛らしかった。
 女王も、恐ろしい圧を持ってはいたものの、映画に出てくる女優のように美しかったし。

「…………」

 まったくもって、標準レベルの自分の容姿が悲しい。

 いや、並みであっても、まともな服さえ着用できていれば、一般人として擬態できるはずなのだ。
 こんな、羞恥心耐久選手権のような、フリフリ水色ハダカエプロンでさえなければ――!!

 ピヨッ

「ん?」

 ひざを抱えていた自分の耳に、鳥の声が聞こえてきた。

 ピィッ……ピヨッ

「泉の方から、かな?」

 ピヨピヨと、かつての世界でのスズメを思わせるかわいらしい声だ。

 目の前に広がるオアシスは、荒野の真っただ中だというのに、青々と美しい色をたたえている。
 泉の周りに咲き誇る花々の周囲には小さな白や黄色の蝶々が、ふわりふわりと飛んでいた。

(そういえば……こっちに来て、あのオオカミもどきの魔物やら、クモの巣やら、いろいろ見たけど……元の世界と似たような動物もいるのかな)

 正直、今までが怒涛の展開の連続すぎて、まったりと周囲をウォッチングしている余裕なんてなかった。

 動物どころか、人間相手がやっとだったのだ。
 犬やら猫やら昆虫やらには、さっぱり意識が向いていなかった。

(あー……でも、カエルはいたし……大きさはバケモノサイズだったし、あれは魔物というべきかもしれないけど……)

 と、ついさっき別れた相手を思い出した。

(なんだかんだ、王家の秘宝のティアラまで贈ってくれたわけだし……いつか、ちゃんとお礼が言えたらいいな)

 あっという間に今の場所に移動させられてしまって、ロクにお別れも言えなかった。

 あのカエルは、今でもひとりであの洞窟にいるのだろう。
 フェゼント城に帰ることが今後もしあれば、今度はお土産でも持って行ければいい。虫以外で。

 と、ほんの少し前にあったできごとを、なつかしく思い返していると。

 ピヨッ

 小さな鳴き声を上げながら、私のすぐ足元に、小さな茶色い鳥がやってきた。

「スズメ……に、似ているけど……違う……??」

 大きさ的には、まさにスズメ。
 顔立ちも、くちばしの感じもそっくりだ。

 しかし、あのスズメ特有の白い部分がなく、茶色一色だった。

「見たことあるよーな……ないよーな……」

 鳥類にはまったく詳しくないため、ムムムとうなりつつ、ちょこちょこと跳ぶように歩く小鳥を見つめた。

 目の前を小刻みに歩いたり、軽く飛んだりして動く小鳥はかわいらしく、恐ろしいイベントの数々でささくれた心が、なんとなく癒されていくのを感じる。

「あー……そういえば、ずーっとバタバタだったしなぁ……」

 この世界に飛ばされて、戦場から集落、そして城に森に、洞窟。

 気が休まることがない、なんとも密度の濃い数日間だった。
 というか、まだ数日しか経っていない、ということの方が驚きだ。

 私が再び草の上に腰を下ろし、うーん、と伸びをしていると、その私の周りを興味深そうにトテトテと鳥が歩いている。
 かわいい。

「はー……ここ、ドコだろ。これから、ちょっとはゆっくりできるのかなぁ」

 なんて、グッと両腕を空にむけて伸ばした、その時だ。

 チカチカチカ

「……ひィッ!?」

 パッ、とエプロンのポケットが光る。
 慌てて手をつっこんでみると、指に触れたのは、いつぞや王女様にもらった、あのお守りだった。

「はっ、はい! お、王女様、どうぞ!!」

 またなにかあったのかと、しどろもどろになりつつお守りに向かって話しかけると、それはチカチカと光の強さを増した。

『……あ……ま、魔女様、でいらっしゃいますか?』
「えっ、ええ! そうです、魔女です!! 王女様、聞こえてますよ!」
『ああ、よかった……やはり、あの森からは、無事に逃げおおせたのですね!』
「え、ええ……でも、王女様はどうしてそれを?」

 なんとも、見計らったようなタイミングだった。
 このお守りって、そんなことまでわかるのだろうか。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。

『急所』を突いてドロップ率100%。魔物から奪ったSSRスキルと最強装備で、俺だけが規格外の冒険者になる

仙道
ファンタジー
 気がつくと、俺は森の中に立っていた。目の前には実体化した女神がいて、ここがステータスやスキルの存在する異世界だと告げてくる。女神は俺に特典として【鑑定】と、魔物の『ドロップ急所』が見える眼を与えて消えた。  この世界では、魔物は倒した際に稀にアイテムやスキルを落とす。俺の眼には、魔物の体に赤い光の点が見えた。そこを攻撃して倒せば、【鑑定】で表示されたレアアイテムが確実に手に入るのだ。  俺は実験のために、森でオークに襲われているエルフの少女を見つける。オークのドロップリストには『剛力の腕輪(攻撃力+500)』があった。俺はエルフを助けるというよりも、その腕輪が欲しくてオークの急所を剣で貫く。  オークは光となって消え、俺の手には強力な腕輪が残った。  腰を抜かしていたエルフの少女、リーナは俺の圧倒的な一撃と、伝説級の装備を平然と手に入れる姿を見て、俺に同行を申し出る。  俺は効率よく強くなるために、彼女を前衛の盾役として採用した。  こうして、欲しいドロップ品を狙って魔物を狩り続ける、俺の異世界冒険が始まる。 12/23 HOT男性向け1位

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2巻決定しました! 【書籍版 大ヒット御礼!オリコン18位&続刊決定!】 皆様の熱狂的な応援のおかげで、書籍版『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』が、オリコン週間ライトノベルランキング18位、そしてアルファポリス様の書店売上ランキングでトップ10入りを記録しました! 本当に、本当にありがとうございます! 皆様の応援が、最高の形で「続刊(2巻)」へと繋がりました。 市丸きすけ先生による、素晴らしい書影も必見です! 【作品紹介】 欲望に取りつかれた権力者が企んだ「スキル強奪」のための勇者召喚。 だが、その儀式に巻き込まれたのは、どこにでもいる普通のサラリーマン――白河小次郎、45歳。 彼に与えられたのは、派手な攻撃魔法ではない。 【鑑定】【いんたーねっと?】【異世界売買】【テイマー】…etc. その一つ一つが、世界の理すら書き換えかねない、規格外の「便利スキル」だった。 欲望者から逃げ切るか、それとも、サラリーマンとして培った「知識」と、チート級のスキルを武器に、反撃の狼煙を上げるか。 気のいいおっさんの、優しくて、ずる賢い、まったり異世界サバイバルが、今、始まる! 【書誌情報】 タイトル: 『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』 著者: よっしぃ イラスト: 市丸きすけ 先生 出版社: アルファポリス ご購入はこちらから: Amazon: https://www.amazon.co.jp/dp/4434364235/ 楽天ブックス: https://books.rakuten.co.jp/rb/18361791/ 【作者より、感謝を込めて】 この日を迎えられたのは、長年にわたり、Webで私の拙い物語を応援し続けてくださった、読者の皆様のおかげです。 そして、この物語を見つけ出し、最高の形で世に送り出してくださる、担当編集者様、イラストレーターの市丸きすけ先生、全ての関係者の皆様に、心からの感謝を。 本当に、ありがとうございます。 【これまでの主な実績】 アルファポリス ファンタジー部門 1位獲得 小説家になろう 異世界転移/転移ジャンル(日間) 5位獲得 アルファポリス 第16回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞 第6回カクヨムWeb小説コンテスト 中間選考通過 復活の大カクヨムチャレンジカップ 9位入賞 ファミ通文庫大賞 一次選考通過

異世界で快適な生活するのに自重なんかしてられないだろ?

お子様
ファンタジー
机の引き出しから過去未来ではなく異世界へ。 飛ばされた世界で日本のような快適な生活を過ごすにはどうしたらいい? 自重して目立たないようにする? 無理無理。快適な生活を送るにはお金が必要なんだよ! お金を稼ぎ目立っても、問題無く暮らす方法は? 主人公の考えた手段は、ドン引きされるような内容だった。 (実践出来るかどうかは別だけど)

祝・定年退職!? 10歳からの異世界生活

空の雲
ファンタジー
中田 祐一郎(なかたゆういちろう)60歳。長年勤めた会社を退職。 最後の勤めを終え、通い慣れた電車で帰宅途中、突然の衝撃をうける。 ――気付けば、幼い子供の姿で見覚えのない森の中に…… どうすればいいのか困惑する中、冒険者バルトジャンと出会う。 顔はいかついが気のいいバルトジャンは、行き場のない子供――中田祐一郎(ユーチ)の保護を申し出る。 魔法や魔物の存在する、この世界の知識がないユーチは、迷いながらもその言葉に甘えることにした。 こうして始まったユーチの異世界生活は、愛用の腕時計から、なぜか地球の道具が取り出せたり、彼の使う魔法が他人とちょっと違っていたりと、出会った人たちを驚かせつつ、ゆっくり動き出す―― ※2月25日、書籍部分がレンタルになりました。

【運命鑑定】で拾った訳あり美少女たち、SSS級に覚醒させたら俺への好感度がカンスト!? ~追放軍師、最強パーティ(全員嫁候補)と甘々ライフ~

月城 友麻
ファンタジー
『お前みたいな無能、最初から要らなかった』 恋人に裏切られ、仲間に陥れられ、家族に見捨てられた。 戦闘力ゼロの鑑定士レオンは、ある日全てを失った――――。 だが、絶望の底で覚醒したのは――未来が視える神スキル【運命鑑定】 導かれるまま向かった路地裏で出会ったのは、世界に見捨てられた四人の少女たち。 「……あんたも、どうせ私を利用するんでしょ」 「誰も本当の私なんて見てくれない」 「私の力は……人を傷つけるだけ」 「ボクは、誰かの『商品』なんかじゃない」 傷だらけで、誰にも才能を認められず、絶望していた彼女たち。 しかしレオンの【運命鑑定】は見抜いていた。 ――彼女たちの潜在能力は、全員SSS級。 「君たちを、大陸最強にプロデュースする」 「「「「……はぁ!?」」」」 落ちこぼれ軍師と、訳あり美少女たちの逆転劇が始まる。 俺を捨てた奴らが土下座してきても――もう遅い。 ◆爽快ざまぁ×美少女育成×成り上がりファンタジー、ここに開幕!

勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!

よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です! 僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。 つねやま  じゅんぺいと読む。 何処にでもいる普通のサラリーマン。 仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・ 突然気分が悪くなり、倒れそうになる。 周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。 何が起こったか分からないまま、気を失う。 気が付けば電車ではなく、どこかの建物。 周りにも人が倒れている。 僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。 気が付けば誰かがしゃべってる。 どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。 そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。 想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。 どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。 一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・ ですが、ここで問題が。 スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・ より良いスキルは早い者勝ち。 我も我もと群がる人々。 そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。 僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。 気が付けば2人だけになっていて・・・・ スキルも2つしか残っていない。 一つは鑑定。 もう一つは家事全般。 両方とも微妙だ・・・・ 彼女の名は才村 友郁 さいむら ゆか。 23歳。 今年社会人になりたて。 取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。

捨てられた前世【大賢者】の少年、魔物を食べて世界最強に、そして日本へ

月城 友麻
ファンタジー
辺境伯の三男坊として転生した大賢者は、無能を装ったがために暗黒の森へと捨てられてしまう。次々と魔物に襲われる大賢者だったが、魔物を食べて生き残る。 こうして大賢者は魔物の力を次々と獲得しながら強くなり、最後には暗黒の森の王者、暗黒龍に挑み、手下に従えることに成功した。しかし、この暗黒龍、人化すると人懐っこい銀髪の少女になる。そして、ポーチから出したのはなんとiPhone。明かされる世界の真実に大賢者もビックリ。 そして、ある日、生まれ故郷がスタンピードに襲われる。大賢者は自分を捨てた父に引導を渡し、街の英雄として凱旋を果たすが、それは物語の始まりに過ぎなかった。 太陽系最果ての地で壮絶な戦闘を超え、愛する人を救うために目指したのはなんと日本。 テンプレを超えた壮大なファンタジーが今、始まる。

処理中です...