裸の天女様~すっ裸で異世界に飛ばされた災難ファンタジーコメディ~

榊シロ

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54話 ~襲来~

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『っ……いいか、ハナ。知性のある、会話できる魔物は非常に厄介じゃ。とにかく強く、騎士団並みではないと太刀打ちできない場合が多い……』
「え、と……アレもそう、だと?」
『ああ……あれはおそらくスネークデビル……一匹で、町一つを滅ぼすと言われる魔物……』
「……に、ににに、逃げないと!!」

 どう考え立って、二匹いっぺんに対応できるはずがない。

 オマケに今、連れの二人は眠っているのだ。
 水晶玉による強制催眠となれば、攻撃を食らっても目覚めないかもしれない。

(わ、私が、みんなを守らないと……!!)

「て、テルペロン様!」
『な、なんじゃハナ……ぐえっ』

 飛んでいたテルペロン鳥を胸に抱きこみ、倒れる二人のとなりに立った。

 ドクドクと、心臓が激しく脈打つ。
 魔物たちが、バキバキとがれきを足蹴にしつつ、徐々に近づいてきた。

「え、えっと、あの! お、お二人は……そのぅ、この町の人たちをご存じですか……!?」

 私は声を張り上げた。
 見た目はだいぶ怖いが、会話ができるならば、なにか糸口がつかめるかもしれないと思ったのだ。

『ニンゲン。ニンゲン、話しかけてきた』
『腹減った。町の奴ら食いたかったけど連れてかれた。分け前少ない。腹減った』
「……分け前?」

 この口ぶりでは、町襲撃の主犯格は彼らでは無さそうだ。

 言葉が通じた、と内心少しだけホッとしつつ、さらに尋ねる。

「え、えっと……我々、旅の者なんですが……その、このまま見逃して頂くことなんて……」
『見逃す? ニンゲンを? 食料を?』
『しない。できない。ニンゲン、美味しい』
「……ですよね~……!」

 一瞬、あまりの無常さに天を仰ぐ。
 どうしてこう、次から次へと無理難題が迫ってくるのか。

「私がやるしか……ないか……!」

 しかし、二対一。
 おまけに、二人&一匹を守りながら、だ。

(せ、戦術のせの字も知らないのに無理~!!)

 せめて、相手が一体なら、爆発させて逃げられる。
 でも、同時に二体だ。爆発させている間に他の二人に攻撃されたら。
 それに、テルペロン鳥もいる。

「く……いったいどうしたら……!!」
『に、逃げるんじゃ』
「に、逃げるってどうやって……!!」
『わ、わしがなんとか時間をかせぐ……!!』

 と、テルペロン鳥は体を震わせつつ私の目の前で飛んだ。

「なに言ってるんですか!! まだ神力とやらだって戻ってないんでしょ……!!」
『む……っ、しかし、このままでは皆そろって……!!』
「そ、それはそうですけど……っ!!」

 だからといって、まだ出会ったばかりの神鳥を犠牲にして、なんてもっての他だ。

『ヒヒ、相談してる。ムダなのに』
『ムダだね、ムダだ。我々のエサ、逃がさない』

 ヤツらは、オレンジ色の体をゆったりと左右に振りながら、近寄ってきた。
 手足の長いマネキンが近づいてくるような様は、怖気がわくほど恐ろしい。

 開いた口の合間、緑の舌がベロリと突き出し、ヘビのごとく舌なめずりしている。

「う……っ」

 カエルだ。自分たちは今、ヘビににらまれた、カエル――。

(ん? カエル……??)

 ふと、脳裏に巨大な緑色のカエルの姿がよみがえった。

 魔封じの森で、ひとり洞窟の中で過ごしていたカエル。
 あの場で、確かもらったモノは――。

 ゴソッ、とエプロンのポケットを探った手に、金属の感触が触れた。

(……これだ……!!)

「ちょっとテルペ様!! こっち来てください!」
『は!? 今それどころではな……きゅっ』

 ごちゃごちゃ文句を言う神鳥の尻尾を握り、残った指で眠る二人の服のすそもつかむ。
 空いた左手で、取り出したティアラを持ち上げた。 

『なんだ? まとめて食われたい?』
『早く食べたい。ニンゲン食べたい』

 魔物たちが、ぐんぐんと距離を詰めてくる。
 緊張で手が震えるが、唇をかみしめて、ティアラの宝石を押しこんだ。

 カチッ

 覚えのある音がして、足元に白い光がほとばしった。

「よし発動!!」
『な、な、な……!? なんじゃこれは……!?』
「これは転移魔法! この場から逃れるにはコレしかないんです……!!」

 混乱しているテルペロン鳥の尻尾を、離さないようギュッと強くつかみつつ、魔物たちをにらむ。
 ヤツらも混乱しているようだが、光に包まれるこちらを見て、慌ててさらに近寄ってくる。

『に、逃がさない。ニンゲン、逃がさない!』
『この、お、逃が、すか……!!』

 魔物たちが寄ってくるのを見て、ヒィ、と声が漏れる。

 早く、早く魔法の発動を!!

 ティアラを高く掲げ、ひたすらに願う。

『転移魔法、発動』

 キラリと光った宝石から、発動の合図。

 視界がふわっと白くなり、グルグルと渦巻きに体が飲み込まれていく。

(これで……これで逃げられれば……!!)

 どこに飛ぶかはわからない。でも、とにかく、安全な場所へ!!

 強く願う私の思考ごと、白い渦が吸い込み、消えた。



「う、うぅ……」

 じわりと意識が浮上し、体を起こす。
 パチパチと何度もまぶたを合わせ、にじんだ視界に焦点を合わせた。

「ここは……また、どこかの森……?」

 うっそうと木が生い茂った森林の中だ。
 ハッとして周囲を見回せば、眠ったままの二人と、気を失ったテルペロン鳥が足元に転がっていた。

「よ、よかった……連れてこられてた……でも、ここはいったい……」

 なにせ、周りには木しかない。

 もともとの土地勘がない上、方角もよくわからないため、空を見上げてもサッパリだ。
 まだ太陽は高く照っているから、さっきからさほど時が経ったわけではなさそうだが――。

『ぐ、ギギィ……お前、なにした。いったい』
「……えっ……!?」

 と、少し離れた方から、聞き覚えのある耳障りな声がした。

 慌てて顔を上げると、置き去りにしてきたはずの魔物の一匹が、頭を抱えながら立っている。

「な、なんで……!? 転移したとき、連れてこないようにしたはずなのに……!!」

 慌ててティアラをエプロンに突っ込みつつ、後ずさる。

 まさか、一匹だけ転移の発動に巻き込まれてしまったんだろうか。

 ぐるっと見回す限り、もう一匹の姿はない。
 こう、なったら。自分が戦うしか、ない――!!

 エプロンの端をなびかせて、三人の前に立ちふさがる。
 体は震えて、歯はガチガチと鳴っているが、もう、やるしかないのだ。
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