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162.外れの神社①(怖さレベル:★★★)
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(怖さレベル:★★★:怖い話)
私、ひとり旅が趣味で、よく温泉などに出かけるんです。
平日休みがとりやすい仕事なので、
空いている時期を狙って、二泊三日でのんびり過ごすのが好きで。
平日だと、地元の人の暮らしぶりが眺められたりするので、
あっちへフラフラ、こっちへフラフラ、なんて、
目的なく歩き回るのも楽しいんですよ。
だから、あの旅行の時も、
本当に偶然、あんな場所に迷い込んでしまったんですよね。
その時で書けたのは、ある関東の温泉地。
温泉といっても、あまり知名度がある場所ではない上、
さっきもお話したとおり平日だったので、宿もその周辺も人は少なめ。
お店もやっていないところがあるので、
一日ゆっくり過ごして二日目の朝食を終えた後、
ちょっと温泉地の周りの探索にでも出かけよう、と思ったんです。
なにせ小さな町なので、土産物屋も少ないし、
ちょっと歩くと、すぐに温泉街の範囲はおしまいです。
ただ、宿の人に聞いた話によると、近くに大きな神社があるらしく、
そこがだいたい、徒歩一時間くらいだというのです。
今日なにして過ごすという目標もなかった私は、
その神社へ行ってみよう、と思ったんです。
季節は春。
まだ、汗ばむほどの時期ではありません。
神社まで山道を登っていけば一本道だ、ということで、
飲み物とカバンを持って、宿から出発しました。
ゆるやかな傾斜だった道は、進んでいくにつれ、
斜面がキツくなっていきます。
勇んで歩き出したものの、私はものの三十分ほど歩いたところで、
荒い呼吸をしつつ足を止めました。
「け、けっこう、遠い……!」
ダラダラと額に流れる汗を拭きつつ、
私は持参したペットボトルを開けました。
片道一時間を完全に舐めていました。
傾斜のキツい山道では、半分の三十分であっても、
かなりしんどいものがあります。
(ここまで歩いておいてなんだけど……どうしよう、引き返そうかな?)
情けない話ですが、これで神社まで行ったとしても、
帰りもまた一時間かけて下ってくると考えると、
とてもそんな体力が残りそうにありません。
(教えてくれた宿の人には悪いけど、そろそろ戻……あれ?)
道路わきの日影で息を整え、ボーっとひと休みをしていた時、
ふと視界に、小さな看板が映りこみました。
「『この先、左の通路』に……お寺……?」
そこにあったのは、お寺を案内する看板です。
私が試しに、スマホで地図アプリを開いてみると、
ナビ上の表示に、確かにメインの道から少しそれた細道が載っていました。
寺の名前こそありませんが、道の先には少し開けた場所があります。
おそらく、ここが看板の寺なんでしょう。
ついでに、地図アプリをたどって、もともと行く予定の神社を探してみると、
やはり、かなり山道を登った先になっています。
(うーん……ここまで行くのはなぁ)
私はため息をついて携帯をしまい込むと、
すぐ手前の、看板が示す道へ進むことにしました。
ここで帰るにしても、せっかくなら、ちょっとお寺くらい覗いてみたい。
もしかしたら、廃寺かもしれないな、とは思いつつ、
獣道かと疑うような細い道を進むこと、約5分といったところでしょうか。
「うわ、ここ……?」
思わず、声が出ました。
大木がそびえたつ日影の中、
そこには、古びた寺の境内が広がっていました。
手入れのされず伸び放題の雑草が、ざわざわと不気味に風に揺れています。
土ぼこりで汚れきった石畳の上には、無数のアリの大群が這っていて、
まるでこの場所全体が、どこか日常から外れているように思えました。
その真正面にそびえたつのは、想像をはるかに超えた朽ち果てた寺。
いにしえの時代から、時間が止まってしまっているかのような。
(これ……やっぱり廃寺……だよね)
本殿らしい場所は、見るも無残な姿でした。
かつては鮮やかだったであろう屋根の色は、
過ぎる年月の残酷さで、すっかり色あせてしまっています。
柱はボロボロで、ガラスもあちこち割れてしまって、
誰も管理者がいないということを、
崩壊という形で如実に示していました。
(これは……観光、って雰囲気じゃないな)
かなり長期にわたって放置されている気配を感じます。
足元の砂利が敷かれている道も、
歩くのに不便するくらい、細い草があちこち生えまくっていました。
本来だったら、ここで回れ右をするべきでしょう。
でも、廃れたお寺なんて、滅多に見られるものじゃありません。
草にまみれ、半分くらい折れている看板を見ると、
どうやら、お寺自体は室町時代に建てられた由緒正しいもののようでした。
(ちゃんと管理されてれば、立派なお寺だったんだろうな……)
お賽銭箱があったであろう場所はポッカリと空席で、
その向こう、お寺の内部へのガラス戸はすべて白くにごり、ところどころ割れてしまっています。
ひゅう、と風が穴の開いた壁を通り過ぎて、淋しい音を立てていました。
とりあえず一通り見て回ってみようと、
私はザクザク雑草を踏みしめつつ、ぐるりと歩き始めました。
「……あ、ここ」
と、私が寺の横へ差し掛かった時、
屋根と壁が激しく損壊している箇所がありました。
そして、その隙間から拝殿の中が見えそうです。
私は危なくないギリギリまで近づいて、そっと中を覗き込みました。
やはり、というべきか、
仏像や仏具の類は、中にひとつもありません。
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私、ひとり旅が趣味で、よく温泉などに出かけるんです。
平日休みがとりやすい仕事なので、
空いている時期を狙って、二泊三日でのんびり過ごすのが好きで。
平日だと、地元の人の暮らしぶりが眺められたりするので、
あっちへフラフラ、こっちへフラフラ、なんて、
目的なく歩き回るのも楽しいんですよ。
だから、あの旅行の時も、
本当に偶然、あんな場所に迷い込んでしまったんですよね。
その時で書けたのは、ある関東の温泉地。
温泉といっても、あまり知名度がある場所ではない上、
さっきもお話したとおり平日だったので、宿もその周辺も人は少なめ。
お店もやっていないところがあるので、
一日ゆっくり過ごして二日目の朝食を終えた後、
ちょっと温泉地の周りの探索にでも出かけよう、と思ったんです。
なにせ小さな町なので、土産物屋も少ないし、
ちょっと歩くと、すぐに温泉街の範囲はおしまいです。
ただ、宿の人に聞いた話によると、近くに大きな神社があるらしく、
そこがだいたい、徒歩一時間くらいだというのです。
今日なにして過ごすという目標もなかった私は、
その神社へ行ってみよう、と思ったんです。
季節は春。
まだ、汗ばむほどの時期ではありません。
神社まで山道を登っていけば一本道だ、ということで、
飲み物とカバンを持って、宿から出発しました。
ゆるやかな傾斜だった道は、進んでいくにつれ、
斜面がキツくなっていきます。
勇んで歩き出したものの、私はものの三十分ほど歩いたところで、
荒い呼吸をしつつ足を止めました。
「け、けっこう、遠い……!」
ダラダラと額に流れる汗を拭きつつ、
私は持参したペットボトルを開けました。
片道一時間を完全に舐めていました。
傾斜のキツい山道では、半分の三十分であっても、
かなりしんどいものがあります。
(ここまで歩いておいてなんだけど……どうしよう、引き返そうかな?)
情けない話ですが、これで神社まで行ったとしても、
帰りもまた一時間かけて下ってくると考えると、
とてもそんな体力が残りそうにありません。
(教えてくれた宿の人には悪いけど、そろそろ戻……あれ?)
道路わきの日影で息を整え、ボーっとひと休みをしていた時、
ふと視界に、小さな看板が映りこみました。
「『この先、左の通路』に……お寺……?」
そこにあったのは、お寺を案内する看板です。
私が試しに、スマホで地図アプリを開いてみると、
ナビ上の表示に、確かにメインの道から少しそれた細道が載っていました。
寺の名前こそありませんが、道の先には少し開けた場所があります。
おそらく、ここが看板の寺なんでしょう。
ついでに、地図アプリをたどって、もともと行く予定の神社を探してみると、
やはり、かなり山道を登った先になっています。
(うーん……ここまで行くのはなぁ)
私はため息をついて携帯をしまい込むと、
すぐ手前の、看板が示す道へ進むことにしました。
ここで帰るにしても、せっかくなら、ちょっとお寺くらい覗いてみたい。
もしかしたら、廃寺かもしれないな、とは思いつつ、
獣道かと疑うような細い道を進むこと、約5分といったところでしょうか。
「うわ、ここ……?」
思わず、声が出ました。
大木がそびえたつ日影の中、
そこには、古びた寺の境内が広がっていました。
手入れのされず伸び放題の雑草が、ざわざわと不気味に風に揺れています。
土ぼこりで汚れきった石畳の上には、無数のアリの大群が這っていて、
まるでこの場所全体が、どこか日常から外れているように思えました。
その真正面にそびえたつのは、想像をはるかに超えた朽ち果てた寺。
いにしえの時代から、時間が止まってしまっているかのような。
(これ……やっぱり廃寺……だよね)
本殿らしい場所は、見るも無残な姿でした。
かつては鮮やかだったであろう屋根の色は、
過ぎる年月の残酷さで、すっかり色あせてしまっています。
柱はボロボロで、ガラスもあちこち割れてしまって、
誰も管理者がいないということを、
崩壊という形で如実に示していました。
(これは……観光、って雰囲気じゃないな)
かなり長期にわたって放置されている気配を感じます。
足元の砂利が敷かれている道も、
歩くのに不便するくらい、細い草があちこち生えまくっていました。
本来だったら、ここで回れ右をするべきでしょう。
でも、廃れたお寺なんて、滅多に見られるものじゃありません。
草にまみれ、半分くらい折れている看板を見ると、
どうやら、お寺自体は室町時代に建てられた由緒正しいもののようでした。
(ちゃんと管理されてれば、立派なお寺だったんだろうな……)
お賽銭箱があったであろう場所はポッカリと空席で、
その向こう、お寺の内部へのガラス戸はすべて白くにごり、ところどころ割れてしまっています。
ひゅう、と風が穴の開いた壁を通り過ぎて、淋しい音を立てていました。
とりあえず一通り見て回ってみようと、
私はザクザク雑草を踏みしめつつ、ぐるりと歩き始めました。
「……あ、ここ」
と、私が寺の横へ差し掛かった時、
屋根と壁が激しく損壊している箇所がありました。
そして、その隙間から拝殿の中が見えそうです。
私は危なくないギリギリまで近づいて、そっと中を覗き込みました。
やはり、というべきか、
仏像や仏具の類は、中にひとつもありません。
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