16 / 415
8.トンネル内の殺意②(怖さレベル:★★☆)
しおりを挟む
ヒタ、ヒタ。
そのいびつにゆがむ口元が、
扉をへだてて目前に――。
「う、わああぁあ!」
自分の喉からほとばしった悲鳴で、
私はハッと正気に戻りました。
このままここにいては危険です。
足をもつれさせるようにしながら、
私はあわてて非常用出口の滑り台に飛び乗りました。
真っ暗闇の中、
その上誰一人通ることのない冷えた坑内。
いつ後ろにあの女性が凶器を持って襲い来るとも限りません。
ヒタ、ヒタ、
というあの音が真後ろにせまっているんじゃないか。
闇の中からあの顔がぬっと現れるんじゃないか。
恐怖で縮こまる身体をなんとか動かして、
細い階段をバテながら上り切り、
地上の出口へようやく身体を出しました。
背後に懐中電灯を向けても、
何者の姿もありません。
しかし、ほっと気を抜いている場合ではなく、
私は自宅へ飛んで帰り、慌てて110番をしました。
しかし、あのできごとをすべて正直には話せなかったため、
トンネルにうるさい若者たちが来ていて迷惑だ、
と言うしかありませんでしたが、
どうやら同様の苦情が多かったようで、
すぐにこちらに向かってくれると言ってくれました。
そのあと、
施錠をこれでもかというほどキッチリして、
私は家の中でブルブルと震えているしかありませんでした。
30分がまるで一晩もあるかのように感じられたころ、
遠くからサイレンの音が鳴り響いてきました。
私はホッと肩の力が抜けて、
あのトンネルでの詳細を確認する間もなく、
そのまま気絶するように部屋で眠ってしまったのです。
翌朝、未だ響くサイレンの音で目が覚めました。
時刻を確認すれば、
朝の六時を回ったところ。
通報したのが深夜でしたから、
いくら何でも長すぎる。
そう不審に思って、朝の陽ざしに勇気をもらい、
野次馬然とした風体でトンネルの方へ向かいました。
トンネルの前には、
パトカーが5台も停車しており、
ドラマで見るような黄色いテープで仕切られています。
すでに、町の住人たちがわらわらと集っており、
がやがやと何やら話をしているようでした。
「なにかあったんですか?」
私は素知らぬフリで先にいた住人に尋ねました。
「ああ、なんでも殺しがあったんだって。物騒だねぇ」
「え……殺し……?」
冷や水をぶっかけられたかのように血の気が引きました。
「大学生同士の殺しだってさ。なにもここでやらなくてもねぇ……」
「そうそう。四人死んでたんだって? 怖いわぁ」
四人。
昨日見た人数は合計で五人。
他に肝試しをしていた可能性もありますが、
昨夜の状況からして、まず間違いなく彼らでしょう。
「ひどいよねぇ。女の子が殺しまわって、最後自殺なんでしょ?
最初っからそのつもりだったのかねぇ」
――自殺?
十中八九、
あの棒を持っていた女性でしょう。
追ってこないと思ったら、
そんなことになっていたなんて。
「なんか、逃げ延びた女の子も、
すっかり気が狂っちゃって錯乱してるって話じゃない」
「聞いた聞いた。あとひとりいる、あとひとりいる……とかって、
救急隊に連れられてく時言ってたよねぇ」
「やーね、なんか変なクスリでもやってたんじゃないの」
あとひとり。
私はその単語にゾッと冷たいものを感じ、
まだ会話を続ける町の人たちの言葉を
とても聞いていることができず、
ふらふらと自分のうちに帰りました。
生き残ったという女性の言っていた、
あとひとりという言葉。
そのひとりとは、
もしかして、私のことではなかったのでしょうか。
数日後、新聞に掲載された内容によれば、
トンネル内で喧嘩になり、
怒り狂った女性が友人たちを殺害した、
という内容が掲載されておりました。
殺害された人数が人数なだけに、
それなりにニュースになったようでしたが、
私はその詳細を調べる気にもなれませんでした。
そしてその後、
私はとてもあの地に留まっていることができず、
早々と県外へと引っ越してしまいました。
伝え聞いた話によれば、
今はもうあのトンネルはすでに潰されて、
通るどころか中に入ることすらできなくなっているそうです。
私といえば、今でもごくたまに、
トラウマとなったあのできごとを思い出すことがあります。
事件の理由は喧嘩となっていましたが、
いくら怒ったにせよ、女性ひとりの力で他の四人、
それも男性も含めて殺せるものなのでしょうか?
あのトンネルは、曰くなど無いと聞いてはいましたが、
なにせ山の中、それも心霊スポットなどと持てはやされたせいで、
なにか嫌なものがすみ着いていたのではないのでしょうか。
そして、それがあの女性に乗り移って……。
などというのは、
私の妄想でしかありませんが。
引っ越して、もうトンネルとは
まったく縁が無くなったにも関わらず、
闇の風の音に紛れて、
あのヒタヒタというトンネル内を歩くあの音。
そのおどろおどろしくも物悲しい足音が、
時折聞こえてくるような気がするのです。
そのいびつにゆがむ口元が、
扉をへだてて目前に――。
「う、わああぁあ!」
自分の喉からほとばしった悲鳴で、
私はハッと正気に戻りました。
このままここにいては危険です。
足をもつれさせるようにしながら、
私はあわてて非常用出口の滑り台に飛び乗りました。
真っ暗闇の中、
その上誰一人通ることのない冷えた坑内。
いつ後ろにあの女性が凶器を持って襲い来るとも限りません。
ヒタ、ヒタ、
というあの音が真後ろにせまっているんじゃないか。
闇の中からあの顔がぬっと現れるんじゃないか。
恐怖で縮こまる身体をなんとか動かして、
細い階段をバテながら上り切り、
地上の出口へようやく身体を出しました。
背後に懐中電灯を向けても、
何者の姿もありません。
しかし、ほっと気を抜いている場合ではなく、
私は自宅へ飛んで帰り、慌てて110番をしました。
しかし、あのできごとをすべて正直には話せなかったため、
トンネルにうるさい若者たちが来ていて迷惑だ、
と言うしかありませんでしたが、
どうやら同様の苦情が多かったようで、
すぐにこちらに向かってくれると言ってくれました。
そのあと、
施錠をこれでもかというほどキッチリして、
私は家の中でブルブルと震えているしかありませんでした。
30分がまるで一晩もあるかのように感じられたころ、
遠くからサイレンの音が鳴り響いてきました。
私はホッと肩の力が抜けて、
あのトンネルでの詳細を確認する間もなく、
そのまま気絶するように部屋で眠ってしまったのです。
翌朝、未だ響くサイレンの音で目が覚めました。
時刻を確認すれば、
朝の六時を回ったところ。
通報したのが深夜でしたから、
いくら何でも長すぎる。
そう不審に思って、朝の陽ざしに勇気をもらい、
野次馬然とした風体でトンネルの方へ向かいました。
トンネルの前には、
パトカーが5台も停車しており、
ドラマで見るような黄色いテープで仕切られています。
すでに、町の住人たちがわらわらと集っており、
がやがやと何やら話をしているようでした。
「なにかあったんですか?」
私は素知らぬフリで先にいた住人に尋ねました。
「ああ、なんでも殺しがあったんだって。物騒だねぇ」
「え……殺し……?」
冷や水をぶっかけられたかのように血の気が引きました。
「大学生同士の殺しだってさ。なにもここでやらなくてもねぇ……」
「そうそう。四人死んでたんだって? 怖いわぁ」
四人。
昨日見た人数は合計で五人。
他に肝試しをしていた可能性もありますが、
昨夜の状況からして、まず間違いなく彼らでしょう。
「ひどいよねぇ。女の子が殺しまわって、最後自殺なんでしょ?
最初っからそのつもりだったのかねぇ」
――自殺?
十中八九、
あの棒を持っていた女性でしょう。
追ってこないと思ったら、
そんなことになっていたなんて。
「なんか、逃げ延びた女の子も、
すっかり気が狂っちゃって錯乱してるって話じゃない」
「聞いた聞いた。あとひとりいる、あとひとりいる……とかって、
救急隊に連れられてく時言ってたよねぇ」
「やーね、なんか変なクスリでもやってたんじゃないの」
あとひとり。
私はその単語にゾッと冷たいものを感じ、
まだ会話を続ける町の人たちの言葉を
とても聞いていることができず、
ふらふらと自分のうちに帰りました。
生き残ったという女性の言っていた、
あとひとりという言葉。
そのひとりとは、
もしかして、私のことではなかったのでしょうか。
数日後、新聞に掲載された内容によれば、
トンネル内で喧嘩になり、
怒り狂った女性が友人たちを殺害した、
という内容が掲載されておりました。
殺害された人数が人数なだけに、
それなりにニュースになったようでしたが、
私はその詳細を調べる気にもなれませんでした。
そしてその後、
私はとてもあの地に留まっていることができず、
早々と県外へと引っ越してしまいました。
伝え聞いた話によれば、
今はもうあのトンネルはすでに潰されて、
通るどころか中に入ることすらできなくなっているそうです。
私といえば、今でもごくたまに、
トラウマとなったあのできごとを思い出すことがあります。
事件の理由は喧嘩となっていましたが、
いくら怒ったにせよ、女性ひとりの力で他の四人、
それも男性も含めて殺せるものなのでしょうか?
あのトンネルは、曰くなど無いと聞いてはいましたが、
なにせ山の中、それも心霊スポットなどと持てはやされたせいで、
なにか嫌なものがすみ着いていたのではないのでしょうか。
そして、それがあの女性に乗り移って……。
などというのは、
私の妄想でしかありませんが。
引っ越して、もうトンネルとは
まったく縁が無くなったにも関わらず、
闇の風の音に紛れて、
あのヒタヒタというトンネル内を歩くあの音。
そのおどろおどろしくも物悲しい足音が、
時折聞こえてくるような気がするのです。
0
あなたにおすすめの小説
意味が分かると怖い話(解説付き)
彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです
読みながら話に潜む違和感を探してみてください
最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください
実話も混ざっております
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
百の話を語り終えたなら
コテット
ホラー
「百の怪談を語り終えると、なにが起こるか——ご存じですか?」
これは、ある町に住む“記録係”が集め続けた百の怪談をめぐる物語。
誰もが語りたがらない話。語った者が姿を消した話。語られていないはずの話。
日常の隙間に、確かに存在した恐怖が静かに記録されていく。
そして百話目の夜、最後の“語り手”の正体が暴かれるとき——
あなたは、もう後戻りできない。
■1話完結の百物語形式
■じわじわ滲む怪異と、ラストで背筋が凍るオチ
■後半から“語られていない怪談”が増えはじめる違和感
最後の一話を読んだとき、
霊和怪異譚 野花と野薔薇
野花マリオ
ホラー
その“語り”が始まったとき、世界に異変が芽吹く。
静かな町、ふとした日常、どこにでもあるはずの風景に咲きはじめる、奇妙な花々――。
『霊和怪異譚 野花と野薔薇』は、不思議な力を持つ語り部・八木楓と鐘技友紀以下彼女達が語る怪異を描く、短編連作形式の怪異譚シリーズ。
一話ごとに異なる舞台、異なる登場人物、異なる恐怖。それでも、語りが始まるたび、必ず“何か”が咲く――。
語られる怪談はただの物語ではない。
それを「聞いた者」に忍び寄る異変、染みわたる不安。
やがて読者自身の身にも、“あの花”が咲くかもしれない。
日常にひっそりと紛れ込む、静かで妖しいホラー。
あなたも一席、語りを聞いてみませんか?
完結いたしました。
タイトル変更しました。
旧 彼女の怪異談は不思議な野花を咲かせる
※この物語はフィクションです。実在する人物、企業、団体、名称などは一切関係ありません。
エブリスタにも公開してますがアルファポリス の方がボリュームあります。
表紙イラストは生成AI
最終死発電車
真霜ナオ
ホラー
バイト帰りの大学生・清瀬蒼真は、いつものように終電へと乗り込む。
直後、車体に大きな衝撃が走り、車内の様子は一変していた。
外に出ようとした乗客の一人は身体が溶け出し、おぞましい化け物まで現れる。
生き残るためには、先頭車両を目指すしかないと知る。
「第6回ホラー・ミステリー小説大賞」奨励賞をいただきました!
それなりに怖い話。
只野誠
ホラー
これは創作です。
実際に起きた出来事はございません。創作です。事実ではございません。創作です創作です創作です。
本当に、実際に起きた話ではございません。
なので、安心して読むことができます。
オムニバス形式なので、どの章から読んでも問題ありません。
不定期に章を追加していきます。
2026/1/2:『そうしき』の章を追加。2026/1/9の朝4時頃より公開開始予定。
2026/1/1:『いえい』の章を追加。2026/1/8の朝4時頃より公開開始予定。
2025/12/31:『たこあげ』の章を追加。2026/1/7の朝4時頃より公開開始予定。
2025/12/30:『ねんがじょう』の章を追加。2026/1/6の朝4時頃より公開開始予定。
2025/12/29:『ふるいゆうじん』の章を追加。2026/1/5の朝4時頃より公開開始予定。
2025/12/28:『ふゆやすみ』の章を追加。2026/1/4の朝4時頃より公開開始予定。
2025/12/27:『ことしのえと』の章を追加。2026/1/3の朝8時頃より公開開始予定。
※こちらの作品は、小説家になろう、カクヨム、アルファポリスで同時に掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる