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9.川守りの儀式(怖さレベル:★☆☆)
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(怖さレベル:★☆☆:微ホラー・ほんのり程度)
そうですね……うちの近所であったできごとでもお話しましょうか。
私の住んでいるのは、
都会と田舎の中間のようなトコロでねぇ。
割合、昔っからの慣習が残っていて、
土着信仰っていうんですかねぇ。
そういうまじないとか、
げん担ぎみたいなコトを好む地域性だったんですよ。
だからお祝い事なんかにも細かい取り決めがあってね、
よそから来た人にはちょっと住みづらかったらしくて、
あまり居つく人はいませんでしたねぇ。
そんなだから、近所付き合いも古くからの人ばかりで、
気楽っちゃ気楽だけど、反面、
人間関係に悩むようなことも多かったんですよ。
と、まァ、本題からそれちゃいましたけど、
そんな近所の家のひとつに竹井さんっていううちがあって、
そこんちは二世帯住宅で、
最近孫が生まれた、っていうんでね。
うちの地域の古い風習で、子どもができた時には
地域を流れている川の上流の清水に身体をひたして、
その土地の水神様に認めて頂く、
川守りの儀式ってのがあるんです。
でも、そこんちの嫁さん、
他所から嫁いできたこの人が、
非常にそれを嫌がりまして。
バイ菌だらけの川に赤ん坊をつけるなんて考えられない、
妙な病気にでもなったら困る、とこういう訳なんです。
ひたすのは、ホンのちょっと、足の指とか、
指先とかちょこっとでも構わないんですが、
まァ不潔といわれれば否定はできませんね。
とはいえ、これは赤ん坊自体の為、
水難事故にあわないようにするまじないのようなものです。
でも、元からこの地に住んでいる旦那さんや、
義両親の説得でもどうにも首を縦に振らない。
となれば、あくまで慣習。
ここまでイヤがるならばしょうがないと、
竹井さん一家は諦めてやらないコトにしたそうです。
そうすると、それを皮切りにして、
他のうちでもやらない家が増えてきましてね。
古い伝統、そんな面倒でキナ臭いもんはやらない、
というのは時代の流れ上致し方ないものなのかもしれませんねぇ。
まァそんなこともあり、
その川守りの儀式はやらないうちが三分の一ほどになり、
その頃の子どもたちが七つを数える頃になった時です。
竹井さんのうちの子が――
台風の後、増水した川に転落して亡くなった、
というんですよ。
あんな儀式をやってはいたものの、
水難事故なんてめったにない土地柄、
その上、あの時の騒動をみんな覚えてるもんだから、
もしかして――なんて囁かれたりしてね。
それにしちゃあ時間だってたちすぎてるし、
なんら関係ない偶然だってわかっちゃいるものの、
多少の薄気味悪さみたいなもんはみんな感じていたんですよ。
それで、
次の週だったですかねぇ。
――また、子どもが川に落っこちた、
って話が入ったのは。
それも、二人。
幸い命こそ助かったものの、
どちらも意識不明状態で。
しかも、なんの因果やら、
この二人も例の川守りの儀式をしてないっていうんですよ。
三件も立て続けにそんなことが起きれば、
皆いやおうなく不安にもなるってもんでね。
特に儀式をやってないうちなんかは、
水辺に近づくなと子どもに口酸っぱく言い聞かせてましたよ。
……だっていうのに、
また起きたんです。
また儀式していない――と思いきや、
四番目の被害の子は、
きちんと儀式をしてたっていうんです。
その子は川に落ちても、
泳ぎが達者だったのが幸いしたか、
擦りむく程度の軽傷だったんです。
助け出された子の話を聞けば、
川に落ちたのは偶然などではなく、
誰かに川に突き落とされた、っていうんですよ。
こりゃあ、川守りの儀式をする回数が減って、
川の神様が怒って、手当たり次第に子どもを連れていこうと
してるんじゃないかって話になりまして。
特に最初に連れてかれた竹井さん家の嫁さんなんて
意気消沈どころか、もううつ病みたいな感じでね。
地域の人たちで必死に励ましたりしてたんですけど、
我が子を失った母親の悲しみ。
ちょっとした言葉くらいじゃあ
とても癒せるものじゃありませんよね……。
被害のあった子のうちをみんな交代で回ったり、
地域の見回りなんかも強化しながら、
町の皆はいつまた神様の怒りが起きるか
戦々恐々としてたんですが――五回目。
見張りをしていた警官が、集団下校から途中別れ、
家へ帰る途中の川べりをあるく子どもを
突き落そうとしていたとして、一人を逮捕したんです。
そう、それは、
神様の怒りなんてもんじゃなかった。
たった一人の人間の犯行だったんです。
でも、地域の皆はホッ、
となんてできませんでした。
だってそれは――
最初の水難事故で子どもを失った、
竹井さんの嫁さんだったんですから。
そうなんです。
彼女、自分の子を亡くしたショックで、
どこかおかしくなっていたんですね。
最初の水難事故はほんとうに事故だったようですが、
他の四件は、
すべて彼女の手によって引き起こされていたのです。
たしかに以前から、
フラフラと川べりを歩く彼女の姿は目撃されていましたが、
最初の被害者ということもあって、
誰も声をかけられなかったのです。
川の神様の祟りなど初めから存在せず、
一人の母親の悲しい狂気が起こしてしまった事件でした。
それにしても不思議なのは竹井さんのうちの子ども以外、
四人はかなり高い欄干の上などから転落していたんです。
でも、怪我こそすれ、亡くなった子は他におらず、
意識不明だった二人もすぐに意識を取り戻したようです。
昔から、この地では土地神様が信じられていて、
幼い頃からなにかしらに触れて育つのですが、
例の竹井さんちの子は、幼い頃からけっこうなヤンチャ坊主で、
この地域で行われるあらゆる慣習を行っていなかったそうでした。
この現代、そういうコトはオカルトだのスピリチュアルだのと
イヤがられたりするようですが、
やはり信仰や風習っていうのは、
なにかしら意味のあるものなのでしょうねぇ。
川守りの儀式は、知らぬ間に息を吹き返し、
水の恐怖や川の事故の防衛訓練とともに、
うちの地域で未だ伝え継がれています。
そうですね……うちの近所であったできごとでもお話しましょうか。
私の住んでいるのは、
都会と田舎の中間のようなトコロでねぇ。
割合、昔っからの慣習が残っていて、
土着信仰っていうんですかねぇ。
そういうまじないとか、
げん担ぎみたいなコトを好む地域性だったんですよ。
だからお祝い事なんかにも細かい取り決めがあってね、
よそから来た人にはちょっと住みづらかったらしくて、
あまり居つく人はいませんでしたねぇ。
そんなだから、近所付き合いも古くからの人ばかりで、
気楽っちゃ気楽だけど、反面、
人間関係に悩むようなことも多かったんですよ。
と、まァ、本題からそれちゃいましたけど、
そんな近所の家のひとつに竹井さんっていううちがあって、
そこんちは二世帯住宅で、
最近孫が生まれた、っていうんでね。
うちの地域の古い風習で、子どもができた時には
地域を流れている川の上流の清水に身体をひたして、
その土地の水神様に認めて頂く、
川守りの儀式ってのがあるんです。
でも、そこんちの嫁さん、
他所から嫁いできたこの人が、
非常にそれを嫌がりまして。
バイ菌だらけの川に赤ん坊をつけるなんて考えられない、
妙な病気にでもなったら困る、とこういう訳なんです。
ひたすのは、ホンのちょっと、足の指とか、
指先とかちょこっとでも構わないんですが、
まァ不潔といわれれば否定はできませんね。
とはいえ、これは赤ん坊自体の為、
水難事故にあわないようにするまじないのようなものです。
でも、元からこの地に住んでいる旦那さんや、
義両親の説得でもどうにも首を縦に振らない。
となれば、あくまで慣習。
ここまでイヤがるならばしょうがないと、
竹井さん一家は諦めてやらないコトにしたそうです。
そうすると、それを皮切りにして、
他のうちでもやらない家が増えてきましてね。
古い伝統、そんな面倒でキナ臭いもんはやらない、
というのは時代の流れ上致し方ないものなのかもしれませんねぇ。
まァそんなこともあり、
その川守りの儀式はやらないうちが三分の一ほどになり、
その頃の子どもたちが七つを数える頃になった時です。
竹井さんのうちの子が――
台風の後、増水した川に転落して亡くなった、
というんですよ。
あんな儀式をやってはいたものの、
水難事故なんてめったにない土地柄、
その上、あの時の騒動をみんな覚えてるもんだから、
もしかして――なんて囁かれたりしてね。
それにしちゃあ時間だってたちすぎてるし、
なんら関係ない偶然だってわかっちゃいるものの、
多少の薄気味悪さみたいなもんはみんな感じていたんですよ。
それで、
次の週だったですかねぇ。
――また、子どもが川に落っこちた、
って話が入ったのは。
それも、二人。
幸い命こそ助かったものの、
どちらも意識不明状態で。
しかも、なんの因果やら、
この二人も例の川守りの儀式をしてないっていうんですよ。
三件も立て続けにそんなことが起きれば、
皆いやおうなく不安にもなるってもんでね。
特に儀式をやってないうちなんかは、
水辺に近づくなと子どもに口酸っぱく言い聞かせてましたよ。
……だっていうのに、
また起きたんです。
また儀式していない――と思いきや、
四番目の被害の子は、
きちんと儀式をしてたっていうんです。
その子は川に落ちても、
泳ぎが達者だったのが幸いしたか、
擦りむく程度の軽傷だったんです。
助け出された子の話を聞けば、
川に落ちたのは偶然などではなく、
誰かに川に突き落とされた、っていうんですよ。
こりゃあ、川守りの儀式をする回数が減って、
川の神様が怒って、手当たり次第に子どもを連れていこうと
してるんじゃないかって話になりまして。
特に最初に連れてかれた竹井さん家の嫁さんなんて
意気消沈どころか、もううつ病みたいな感じでね。
地域の人たちで必死に励ましたりしてたんですけど、
我が子を失った母親の悲しみ。
ちょっとした言葉くらいじゃあ
とても癒せるものじゃありませんよね……。
被害のあった子のうちをみんな交代で回ったり、
地域の見回りなんかも強化しながら、
町の皆はいつまた神様の怒りが起きるか
戦々恐々としてたんですが――五回目。
見張りをしていた警官が、集団下校から途中別れ、
家へ帰る途中の川べりをあるく子どもを
突き落そうとしていたとして、一人を逮捕したんです。
そう、それは、
神様の怒りなんてもんじゃなかった。
たった一人の人間の犯行だったんです。
でも、地域の皆はホッ、
となんてできませんでした。
だってそれは――
最初の水難事故で子どもを失った、
竹井さんの嫁さんだったんですから。
そうなんです。
彼女、自分の子を亡くしたショックで、
どこかおかしくなっていたんですね。
最初の水難事故はほんとうに事故だったようですが、
他の四件は、
すべて彼女の手によって引き起こされていたのです。
たしかに以前から、
フラフラと川べりを歩く彼女の姿は目撃されていましたが、
最初の被害者ということもあって、
誰も声をかけられなかったのです。
川の神様の祟りなど初めから存在せず、
一人の母親の悲しい狂気が起こしてしまった事件でした。
それにしても不思議なのは竹井さんのうちの子ども以外、
四人はかなり高い欄干の上などから転落していたんです。
でも、怪我こそすれ、亡くなった子は他におらず、
意識不明だった二人もすぐに意識を取り戻したようです。
昔から、この地では土地神様が信じられていて、
幼い頃からなにかしらに触れて育つのですが、
例の竹井さんちの子は、幼い頃からけっこうなヤンチャ坊主で、
この地域で行われるあらゆる慣習を行っていなかったそうでした。
この現代、そういうコトはオカルトだのスピリチュアルだのと
イヤがられたりするようですが、
やはり信仰や風習っていうのは、
なにかしら意味のあるものなのでしょうねぇ。
川守りの儀式は、知らぬ間に息を吹き返し、
水の恐怖や川の事故の防衛訓練とともに、
うちの地域で未だ伝え継がれています。
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