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27.いびつな空の色②(怖さレベル:★☆☆)
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本能的なものか、
ブルブルと震えだす身体を叱咤して、
慌ててカーテンを閉めました。
ぴしゃりと窓を覆えば、
例の影は見えなくなりました。
ふ、と息を吐いたものの、
熱のある身体を急に動かしたせいか、
頭がクラクラと揺らいできます。
オレはカーテンの裾を握りしめ、
息を整えようと深呼吸をくりかえしていると、
カーテンの向こうから、
不穏な視線を感じました。
「……ッ、う」
白いまなこ。
カーテンを一枚挟んだ向こう側。
厚い材質で遮られているはずのその向こうに、
複数人の気配を感じるのです。
いや――そもそも、
人であるのかもわかりません。
人のような形をとった白いなにかが、
うようよとうちの窓辺に集ってきている。
そんな恐ろしい現象が、
目前で起こっている――。
「な……なんなんだよっ!」
オレは叫ぶように言い放ち、
今朝からのわけのわからぬ出来事で
沸騰寸前のイラつきそのままに、
ガン!! と強く窓を叩きました。
すると。
「……んだ、……だよ」
窓の外の集団が、
オレの叫んだ言葉を、
ボソボソと呟き始めたのです。
「う……な、なんだよっ……!」
「……な、……だよ」
「ひ、……っ」
「……ひ、……ひひ」
まるで感情の込められていない、
何者かたちの声。
ざわめきが幾重にも重なり合ったそれは、
決して明確に聞こえぬものの、
不吉な気配をまとって囁きつづけています。
「イヤだ、止めろっ……!!」
聞いてはいけない。
見てはいけない。
これ以上、そいつらの存在を認識していたら、
とてつもないことが起きてしまう。
チカチカと、脳内の危険信号が点滅しています。
オレは本能的に感じた恐怖そのままに、
ガバッと布団をかぶりました。
「……、……」
聞こえていた音は遠くなり、
視界も遮断されたことで、
色も目に入りません。
息をひそめ、ただただあいつらがいなくなるのを、
生きた心地もしないまま待っていると、
ガチャン、バタン。
「ただいまー」
バタバタと慌ただしい音を立てて、
母が帰ってきました。
その日常と変わらぬ母のどこか気の抜けた声に、
ホッと安心のため息が漏れました。
「……おかえりー」
オレは、にょきりと顔を出して、
帰ってきた母を迎えました。
「とりあえず、風邪薬買ってきたから。
バナナくらいなら食べられる?」
ひょい、
と扉から上半身を現した母。
「……あ」
うっすら毛先をパーマしたショートヘア。
飾りっ気のないズボンファッション。
両手にクスリとペットボトル、バナナを抱えた彼女。
それはまごうことなく、いつもの母。
しかし――母は、
頭の先から足のつま先に至るまで、
髪も肌も服も目も唇も指の一本一本に至るまで
ペンキで塗りたくったかのような
真っ白な色に染まっていたのです。
それはまさに。
あの、窓の外にいた白いヤツらとまったく同じ――。
「ぎっ、ばぐっ」
オレは断末魔のような叫びを喉から絞り出し、
キャパシティを越えた脳がすべての情報をシャットダウンし、
昏倒してしまったのです。
「……あ、れ?」
次に意識がもどったのは、
自室のベッドの上でした。
パチパチと両眼をまたたかせ、
ぐるりと部屋を見回して――
オレは真っ先に部屋のカーテンを引き開けました。
「……もど、ってる」
窓の外に見える空の色は、
すがすがしいほどのロイヤルブルー。
まばらに白い雲が散り、
黄色い太陽の光は刺すような強さで
さんさんと降りそそいでいます。
「夢……だったのか?」
あの妙な色合い。
白い人々。
同じく白い母。
夢の中で頬を叩いたり水を浴びたりしたというのに、
それすらも脳のエラーで現実ではなかったのでしょうか。
半ば呆然自失状態で外を眺めていると、
「おーい、起きてるかー」
どんどん、
と部屋の扉がノックされました。
「あ、姉貴?」
こちらが返事をするよりも早くガチャリと開いた扉から、
ひょい、と片方の眉を上げた姉の姿現れました。
「なんだ。起きてたんだ」
「う、うん、まぁ……なんか変な夢みてさ」
昨晩の夢の中では、
姉とも奇妙な会話を繰り広げていました。
オレは少し気遅れしつつ、
しかし再び尋ねます。
「妙なこと聞くけど……空の色って青いよな?」
すると、彼女は一瞬、ギュッと眉を寄せて
不思議な表情を浮かべた後、
「当たり前でしょ」
バッサリと言いきったのです。
(……良かった。やっぱアレ、夢か幻覚だったんだ)
と、未だ引きずる残滓から逃れて、
ホッと胸を撫でおろしていると、
姉は小さくため息を吐き、言いました。
「っていうかあんた、マジ大丈夫?
昨日も空の色がどーだこーだ言ってたでしょ」
「……えっ?」
昨日――昨日?
オレが記憶と夢との齟齬に混乱している中、
彼女は更に言いつのってきます。
「昨日はワケわかんないコト言ってたけどさ……空が黄色いとかなんとか。
今日はまともになったってことは、風邪治ったわけ?」
「え……風邪……?」
またもや止める間もなく手が伸ばされ、
雑に額に当てられます。
「大丈夫そうだね。なんでも昨日ぶっ倒れたんだって?
平気そーならさっさと着替えて居間に来なよ。
学校遅れても知らないから」
とだけ言い置いて、
嵐のように姉はいなくなってしまいました。
「昨日……風邪……空の、色」
あれは夢ではなかった?
しかし昨日、空の色が黄色と言っていたのは姉のはずだし、
オレは母の異常によって昏倒して――それで、今日?
「なにが、どうなってる……?」
ちっとも整理のつかない頭の中では、
湧き上がり続ける疑問が、
グルグルとずっと渦を巻きつづけていました。
きっと。
ふつうに考えれば、
オレの頭がおかしくなっていた。
ただ、それで済む話なのでしょう。
しかし、であれば逆に、
なぜ一日で正常に戻ったのか。
それに、色盲や、色の認識異常であれば、
なぜ空の色だけがおかしかったのか。
あの、窓に集っていた白い人々、
あれはいったいなんであったのか。
……あれ以来、すべてが元通りとなった世界で、
それでもその疑問が解決することはありません。
ブルブルと震えだす身体を叱咤して、
慌ててカーテンを閉めました。
ぴしゃりと窓を覆えば、
例の影は見えなくなりました。
ふ、と息を吐いたものの、
熱のある身体を急に動かしたせいか、
頭がクラクラと揺らいできます。
オレはカーテンの裾を握りしめ、
息を整えようと深呼吸をくりかえしていると、
カーテンの向こうから、
不穏な視線を感じました。
「……ッ、う」
白いまなこ。
カーテンを一枚挟んだ向こう側。
厚い材質で遮られているはずのその向こうに、
複数人の気配を感じるのです。
いや――そもそも、
人であるのかもわかりません。
人のような形をとった白いなにかが、
うようよとうちの窓辺に集ってきている。
そんな恐ろしい現象が、
目前で起こっている――。
「な……なんなんだよっ!」
オレは叫ぶように言い放ち、
今朝からのわけのわからぬ出来事で
沸騰寸前のイラつきそのままに、
ガン!! と強く窓を叩きました。
すると。
「……んだ、……だよ」
窓の外の集団が、
オレの叫んだ言葉を、
ボソボソと呟き始めたのです。
「う……な、なんだよっ……!」
「……な、……だよ」
「ひ、……っ」
「……ひ、……ひひ」
まるで感情の込められていない、
何者かたちの声。
ざわめきが幾重にも重なり合ったそれは、
決して明確に聞こえぬものの、
不吉な気配をまとって囁きつづけています。
「イヤだ、止めろっ……!!」
聞いてはいけない。
見てはいけない。
これ以上、そいつらの存在を認識していたら、
とてつもないことが起きてしまう。
チカチカと、脳内の危険信号が点滅しています。
オレは本能的に感じた恐怖そのままに、
ガバッと布団をかぶりました。
「……、……」
聞こえていた音は遠くなり、
視界も遮断されたことで、
色も目に入りません。
息をひそめ、ただただあいつらがいなくなるのを、
生きた心地もしないまま待っていると、
ガチャン、バタン。
「ただいまー」
バタバタと慌ただしい音を立てて、
母が帰ってきました。
その日常と変わらぬ母のどこか気の抜けた声に、
ホッと安心のため息が漏れました。
「……おかえりー」
オレは、にょきりと顔を出して、
帰ってきた母を迎えました。
「とりあえず、風邪薬買ってきたから。
バナナくらいなら食べられる?」
ひょい、
と扉から上半身を現した母。
「……あ」
うっすら毛先をパーマしたショートヘア。
飾りっ気のないズボンファッション。
両手にクスリとペットボトル、バナナを抱えた彼女。
それはまごうことなく、いつもの母。
しかし――母は、
頭の先から足のつま先に至るまで、
髪も肌も服も目も唇も指の一本一本に至るまで
ペンキで塗りたくったかのような
真っ白な色に染まっていたのです。
それはまさに。
あの、窓の外にいた白いヤツらとまったく同じ――。
「ぎっ、ばぐっ」
オレは断末魔のような叫びを喉から絞り出し、
キャパシティを越えた脳がすべての情報をシャットダウンし、
昏倒してしまったのです。
「……あ、れ?」
次に意識がもどったのは、
自室のベッドの上でした。
パチパチと両眼をまたたかせ、
ぐるりと部屋を見回して――
オレは真っ先に部屋のカーテンを引き開けました。
「……もど、ってる」
窓の外に見える空の色は、
すがすがしいほどのロイヤルブルー。
まばらに白い雲が散り、
黄色い太陽の光は刺すような強さで
さんさんと降りそそいでいます。
「夢……だったのか?」
あの妙な色合い。
白い人々。
同じく白い母。
夢の中で頬を叩いたり水を浴びたりしたというのに、
それすらも脳のエラーで現実ではなかったのでしょうか。
半ば呆然自失状態で外を眺めていると、
「おーい、起きてるかー」
どんどん、
と部屋の扉がノックされました。
「あ、姉貴?」
こちらが返事をするよりも早くガチャリと開いた扉から、
ひょい、と片方の眉を上げた姉の姿現れました。
「なんだ。起きてたんだ」
「う、うん、まぁ……なんか変な夢みてさ」
昨晩の夢の中では、
姉とも奇妙な会話を繰り広げていました。
オレは少し気遅れしつつ、
しかし再び尋ねます。
「妙なこと聞くけど……空の色って青いよな?」
すると、彼女は一瞬、ギュッと眉を寄せて
不思議な表情を浮かべた後、
「当たり前でしょ」
バッサリと言いきったのです。
(……良かった。やっぱアレ、夢か幻覚だったんだ)
と、未だ引きずる残滓から逃れて、
ホッと胸を撫でおろしていると、
姉は小さくため息を吐き、言いました。
「っていうかあんた、マジ大丈夫?
昨日も空の色がどーだこーだ言ってたでしょ」
「……えっ?」
昨日――昨日?
オレが記憶と夢との齟齬に混乱している中、
彼女は更に言いつのってきます。
「昨日はワケわかんないコト言ってたけどさ……空が黄色いとかなんとか。
今日はまともになったってことは、風邪治ったわけ?」
「え……風邪……?」
またもや止める間もなく手が伸ばされ、
雑に額に当てられます。
「大丈夫そうだね。なんでも昨日ぶっ倒れたんだって?
平気そーならさっさと着替えて居間に来なよ。
学校遅れても知らないから」
とだけ言い置いて、
嵐のように姉はいなくなってしまいました。
「昨日……風邪……空の、色」
あれは夢ではなかった?
しかし昨日、空の色が黄色と言っていたのは姉のはずだし、
オレは母の異常によって昏倒して――それで、今日?
「なにが、どうなってる……?」
ちっとも整理のつかない頭の中では、
湧き上がり続ける疑問が、
グルグルとずっと渦を巻きつづけていました。
きっと。
ふつうに考えれば、
オレの頭がおかしくなっていた。
ただ、それで済む話なのでしょう。
しかし、であれば逆に、
なぜ一日で正常に戻ったのか。
それに、色盲や、色の認識異常であれば、
なぜ空の色だけがおかしかったのか。
あの、窓に集っていた白い人々、
あれはいったいなんであったのか。
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それでもその疑問が解決することはありません。
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