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30.カーブミラーと山頂の影②(怖さレベル:★★★)

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「んー……でも、私もこの山の怖い話、聞いたことあるんだよね」
「え、そーなの」

地元民でもないのにどうして知っているのか、
といぶかしがる視線に気づいたのでしょう。

恥ずかしがるように少しだけ視線をさまよわせ、

「動画サイトでぐうぜん見ちゃってね……
 あ、でも、私が見たのの話だと、カーブミラーじゃなくってね」

と、河本がその動画の内容を話し始めた時、

「おーい、一個目のミラーくるぞ! カメラ用意!」
「おー、かわちゃん、ファイト!」

と、前方から声がかかりました。

「はーい、了解です」

河本は苦笑いでデジタルカメラを外に向けて構えました。

「来たぞ、一つ目!」

曲がり角に存在するそれは、
暗闇の中、車のライトで照らされ、
非常に嫌な雰囲気です。

――パシャッ、パシャッ。

「撮りました」

河本が撮影したデジカメを下げれば、
運転手の先輩が停止したまま、こちらに顔を向けてきました。

「OK! 誰かなんか見えたか?」
「見えませーん!」
「特に」
「私も」

と、皆、首を傾げています。

「よーし、次だな、次!」

と、一向に衰えないテンションで言い放ち、
先輩は再びアクセルを全開に上り始めます。

そうして、一つ二つと、
次々にカーブミラーを撮影し、
相変わらず何も映らぬまま半分ほど山を登りました。

「ああそうだ……さっき、なんか言いかけてたよね」

前方の二人がとりとめもない雑談で盛り上がったのを見計らい、
カメラ片手に欠伸を噛み殺している河本に、
ふと一つ目の撮影の前に途中になった話を問いました。

「ああ、うん。私がその動画で見たのは、この山の頂上の方で」
「頂上? 今向かってる?」
「そうそう。そっちでね」
「おーい、またカーブミラー来るぞー」

またもや、あと少しというところで
先輩から声がかかりました。

「はーい、準備しまーす」

河本が返事しつつ、
ペロッと申し訳なさそうにこちらに舌を出し、
再びカメラを構えます。

私はソワソワと身体を揺らしている前の二人を
呆れ半分で眺めた後、薄れ始めた興味のまま、
カーブミラーと反対の窓の外を眺めました。

こちらから見える景色など、舗装された岩肌と、
その上に生えている木々くらいですが、
やたらとテンションの高い先輩と小野里に
少々辟易してしまっていたのです。

(……ん?)

しかし、その無味な視界の端、
舗装の岩の上の林の中に――チラッ、と何かが動きました。

「……今の」

ほんの一瞬。

車のライトの光でかすかに見えたそれは、
――人の顔、のように見えたのです。

(うわ、最悪。……ヤなもん見たかも)

彼らがはしゃいでいる幽霊か、
それとも徘徊している本物の人かはわかりません。

が、ギョロリと動いた目玉、くしゃくしゃの髪。

その、真っ白い首が、
木の合間からひょっこりと顔を出しているのを、
ハッキリと目にしてしまったのです。

「それでね、その、頂上に出るっていうのがヤバイんだって」
「……あ、ゴメン。なんだって?」

私は、河本が再び話し始めていたのが耳に入っておらず、
ハッとして聞き返しました。

「もー、東から聞いてきたんじゃんか。
 だから、頂上に出るっていう、首から上しかない男の人の幽霊。
 これがいっちばん怖いんだって」
「く……首から上?」
「そうそう。すごい恨みを持ってるから、
 とり憑かれるとホントにヤバイ、って」
「……そ、そう」

ついさきほど目にしたばかりの映像が、
即座に脳裏にフラッシュバックします。

あの、木の間から見えた顔は、
幹で身体が隠れていたわけではなく、
首から上しか無かったのではないか?

もしそうであったなら――
とり、憑かれた?

「おーい、またカーブミラー来るぞ」
「ねえねえ、そろそろなんか映るんじゃないかな!?」
「はいはーい、撮りますよー」

そんな思考は、
再び前方の二人によって狂わされます。

「カーブミラー、あと残すところ一つだな」

撮影を終え、走りだしたところで、
先輩がポツリと呟きました。

「おお、もうそんなトコロまで来ちゃったんですね」
「今んトコ、ぜんぶ外れてるなー。やっぱ、ウワサかぁ」
「あはは、まぁ、そんなものですよね」

とはしゃぐ三人を置き去りに、
あたしは河本に聞いた内容と、
自分の見たものとが脳内でグルグル回っていました。

”とりつかれるとホントにヤバイ”と言っていた、
首から上だけの男。

一瞬ではありましたが、
あのギョロついた目つき、
あれは壮年の男のように見えました。

――見えた、けれど。

今のところ、
それ以上なにも起きていません。

それに、一方的にこちらからは見てしまいましたが、
幸い、目は合っていませんでした。

それに、
アレがウワサされているものなのかだって、
定かではありません。

となれば、とり憑かれた、
なんて言えるかも怪しいところです。

と、なんとかプラス思考に変えようとがんばるものの、
真っ暗な山道を眺めていると、
どうにも鬱々と気分が沈んでいきます。

「ひがっちゃん、体調悪い?」

小野里が、
ひょっこりとこちらに目を向けてきました。

「えっ? い、いや」
「さっきからずっと黙ってるから。
 ひがっちゃん、怖いの大丈夫でしょ?
 もしかして車酔い?」
「ん……いや、ちょっと眠い、だけだよ」

この朗らかな友人にさきほどのことを話すのは憚られ、
むりやりに笑みを浮かべて誤魔化します。

「そお? ならいいけど……あっ先輩!
 あのカーブミラー最後ですか!」
「おお、そうそう! あれがラス1。たのむぞ、河本さん」
「はーい、了解です」

もはや手慣れた手つきで河本がカメラを構えた、その時。

「えっ……」

キラ、とミラーに何かが映り込みました。

「あっ」

河本本人も気づいたか、
シャッターを押した瞬間、
小さく声を上げました。

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