【電子書籍化】ホラー短編集・ある怖い話の記録~旧 2ch 洒落にならない怖い話風 現代ホラー~

榊シロ

文字の大きさ
146 / 415

63.側溝の中に潜むモノ①(怖さレベル:★★☆)

しおりを挟む
(怖さレベル:★★☆:ふつうに怖い話)

それは、ある日のことでした。

アスファルトの照り返しも残る、夏本番の帰り道。

陸上部の部活で遅くなった夜の道を、
友人の皆木と自転車で走っていました。

夏のけぶった夜の空気の中、
人通りの少ない道路をポツリポツリと
街灯だけが照らす光景は見慣れたもので、

もうすぐテスト期間に入るからダルいだとか、
部活の誰が先輩と付き合っているだとかそんなたわいもない会話をしつつ、
夜の暗さだけではないどんよりした雲に、
雨に降られたらヤバいなぁと、かなり急ぎ足でペダルを漕いでいました。

「うっわ、いつ降り出してもおかしくねぇなぁ」

友人が空を見上げてしんどそうにつぶやくと同時に、

――ポツッ

「あちゃーっ……ついてねぇ」

ポツポツと降り出した雨は、ほんの合間に大粒の雫となり、
バシャバシャと地面を湿らせ始めました。

「ひえーっ、濡れるーっ!」

友人もおれも無精なモンで、傘はおろか、
合羽すら持参していません。

しみ込んでくる水滴に身を震わせつつ、
一刻も早く帰ろうと、全力で自転車をすっとばしていると。

「……ん?」

道中、いつも通る道端の側溝に何やら人影が見えたのです。

「おい、あれ……じいさんが落っこちてねぇ?」

思わず皆木に声をかければ、彼も気づいたらしく頷きを返してきました。

「ありゃ、ヤベぇよな……助けねぇと」

その側溝は幅も広く、明るいうちでは滅多に落ちぬような存在感ですが、
夜、そしてこの雨ではひどく見辛かったのでしょう。

自分たちのように、傍らに自転車がひっくり返っていて、
落ちたお爺さんらしき人影がパタパタともがいているのが見えました。

「おれ、救急車呼ぶわ!」
「おお。おれは引き上げられるか声かけてみる」

友人が携帯を取り出しているのを横目に、
自転車を壁に立てかけてその人の傍に近づきました。

雨のせいか、妙にその人影は見にくく、
うっすらと黒い霧だかモヤだかが周囲に立ち込めています。

「大丈夫ですかー!?」

雨音に負けぬよう大声を上げながら、
お爺さんに手を振ります。

すると向こうも気づいたらしく、濡れた前髪のせいで口元しか見えないものの、
なにごとがパクパクと喋りながら、こちらに手を振り返してきました。

「こっち、上がれそうですかー!?」

見る限り、水の流れの中に両足が入ってしまっている状況です。

もし、水に体温を奪われて動かせないのであれば、
素人判断でもなかなかに危険な状況とわかりました。

おじいさんは相変わらず何かをもごもごと言っていますが、
雨音にかき消されて一言たりとも聞こえてきません。

「手ぇ貸すんで! つかまって下さい!」

とにかく自力では這いあがれぬようだしと、
軽くジェスチャーを交えて掴まるように指示し、片腕を伸ばしました。

(うっ、冷たっ……!)

ヒタリ、と。

掴まれた手には、凍えるほどに冷えた老人の手の感触。

雨に体温を奪われているとはいえ、
まるで氷のようなその冷たさに、ゾクリと背筋に嫌なものが走りました。

「あ、慌てないで、ゆっくり上がって下さいねー」

いつだか学校で習った救急活動を思い返しつつ、
ぐいっ、とあまり力を込めずにおじいさんを持ち上げようとします。

呻きをもらす老人は、にちゃ、ねちゃ、と
妙にネバついたドロ水から必死に足を上げようともがきます。

「ぐっ……」

やはり、いくら老人とはいえ人一人。

助け出すには学生の身ではキツいかと、
電話にかかり切りになっている友人に助けを求めようと振り返ろうとした時。

グッ、とおじいさんに引っ張られるように身体が傾ぎました。

「うわっ……!?」

全身が一気に引き込まれそうになり、慌てて足を踏ん張ります。

どうして突然、と掴まれた腕の先、老人へと視線を戻せば、
まっ白い濡れた髪で顔が覆われた老人の足の太ももまでが、側溝に沈んでいます。

(さっき、ひざくらいまでだったのに……)

一気に水量が増えたのか、老人の動きも妙に緩慢です。

ひしっとしがみつくように握られたシワだらけの手のひらが、
雨のせいか妙にブヨブヨと水気を帯びていて、少々薄気味悪さすら覚えるほど。

「おじいちゃん、足、上げて!」

必死で指示を出すものの、水かさが増えたせいか、
老人はちっとも自力で身体を上げる様子を見せません。

バシャバシャと打ち付ける雨粒がどんどんと身体の体温を奪っていき、
まばたきするごとに目に水が入ってきます。

(くそっ……どうしたら……)

なんとかできないかと頭を巡らせている最中、
ふとイヤな考えがよぎりました。
>>
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

意味が分かると怖い話(解説付き)

彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです 読みながら話に潜む違和感を探してみてください 最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください 実話も混ざっております

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

だんだんおかしくなった姉の話

暗黒神ゼブラ
ホラー
弟が死んだことでおかしくなった姉の話

百の話を語り終えたなら

コテット
ホラー
「百の怪談を語り終えると、なにが起こるか——ご存じですか?」 これは、ある町に住む“記録係”が集め続けた百の怪談をめぐる物語。 誰もが語りたがらない話。語った者が姿を消した話。語られていないはずの話。 日常の隙間に、確かに存在した恐怖が静かに記録されていく。 そして百話目の夜、最後の“語り手”の正体が暴かれるとき—— あなたは、もう後戻りできない。 ■1話完結の百物語形式 ■じわじわ滲む怪異と、ラストで背筋が凍るオチ ■後半から“語られていない怪談”が増えはじめる違和感 最後の一話を読んだとき、

少し怖いホラー短編集(文字数500以下)

仙 岳美
ホラー
文字数500以下のショート集です、難しく無いので気楽にどうぞ。

霊和怪異譚 野花と野薔薇

野花マリオ
ホラー
その“語り”が始まったとき、世界に異変が芽吹く。 静かな町、ふとした日常、どこにでもあるはずの風景に咲きはじめる、奇妙な花々――。 『霊和怪異譚 野花と野薔薇』は、不思議な力を持つ語り部・八木楓と鐘技友紀以下彼女達が語る怪異を描く、短編連作形式の怪異譚シリーズ。 一話ごとに異なる舞台、異なる登場人物、異なる恐怖。それでも、語りが始まるたび、必ず“何か”が咲く――。 語られる怪談はただの物語ではない。 それを「聞いた者」に忍び寄る異変、染みわたる不安。 やがて読者自身の身にも、“あの花”が咲くかもしれない。 日常にひっそりと紛れ込む、静かで妖しいホラー。 あなたも一席、語りを聞いてみませんか? 完結いたしました。 タイトル変更しました。 旧 彼女の怪異談は不思議な野花を咲かせる ※この物語はフィクションです。実在する人物、企業、団体、名称などは一切関係ありません。 エブリスタにも公開してますがアルファポリス の方がボリュームあります。 表紙イラストは生成AI

最終死発電車

真霜ナオ
ホラー
バイト帰りの大学生・清瀬蒼真は、いつものように終電へと乗り込む。 直後、車体に大きな衝撃が走り、車内の様子は一変していた。 外に出ようとした乗客の一人は身体が溶け出し、おぞましい化け物まで現れる。 生き残るためには、先頭車両を目指すしかないと知る。 「第6回ホラー・ミステリー小説大賞」奨励賞をいただきました!

それなりに怖い話。

只野誠
ホラー
これは創作です。 実際に起きた出来事はございません。創作です。事実ではございません。創作です創作です創作です。 本当に、実際に起きた話ではございません。 なので、安心して読むことができます。 オムニバス形式なので、どの章から読んでも問題ありません。 不定期に章を追加していきます。 2026/1/2:『そうしき』の章を追加。2026/1/9の朝4時頃より公開開始予定。 2026/1/1:『いえい』の章を追加。2026/1/8の朝4時頃より公開開始予定。 2025/12/31:『たこあげ』の章を追加。2026/1/7の朝4時頃より公開開始予定。 2025/12/30:『ねんがじょう』の章を追加。2026/1/6の朝4時頃より公開開始予定。 2025/12/29:『ふるいゆうじん』の章を追加。2026/1/5の朝4時頃より公開開始予定。 2025/12/28:『ふゆやすみ』の章を追加。2026/1/4の朝4時頃より公開開始予定。 2025/12/27:『ことしのえと』の章を追加。2026/1/3の朝8時頃より公開開始予定。 ※こちらの作品は、小説家になろう、カクヨム、アルファポリスで同時に掲載しています。

処理中です...