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81.ゾン様②(怖さレベル:★☆☆)

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山頂まで残り一体。

あれから順調に登山は進み、
今や目標達成まで間近に迫っていました。

「だいぶキツいなぁ……」
「うん……あ、あとちょっと……」

息を切らしつつ励まし合う二人の後ろで、
おれはグルグルとめぐる混乱の渦中にありました。

(怒り……悲しみ、憎しみ……悔恨)

ここに至る道中で目にしてきた、四体の像の姿。
その表情はどれも皆、一様に負の感情を表していました。

まなざしはすべて山頂の方向を見つめつつ、
各々がすべて、苦い表情を浮かべているのです。

(……怖ぇ)

おれは、恐怖に身が竦んでしまい、
歩くペースも次第に緩慢になってきています。

いえ、確かにゾン様のそれらの表情の異質さはもちろん恐ろしいのですが、
それよりなにより、一番怖いのは。

「おーい、トウヤ! もうちょっとだからがんばれー」

先を歩くこの友人二人が、その像の造りについて、
いっさい言及しないこと。

いくら神仏扱いとはいえ、
『みんな色んな造形があるんだね』とか、
『怒ったり泣いたり忙しいな』だとか、
おれの知る二人なら、何かしらかツッコミをいれるハズなのです。

「……っ」

聞いてみようか、あの二人に。
そう、心の浅いところで誘惑の声が上がるものの。

もしそれを尋ねて――
『なんの表情も浮かんでいない』と言われてしまったら?

自分だけがおかしいのだと、二人に気付かれてしまったら――?

「あーっ、あったよ! 山頂までの、ラスト一体!」

鬱々とイヤな想像に沈んでいたおれの耳に、
ノノカのお気楽な声が飛び込んできました。

「ようやくかぁ。これで五体目で……あとは、山頂のに祈って終わりだな」

ユージもやれやれと言わんばかりに同意して、
二人揃って像の前でひざをついています。

おれは目前の石像の顔を見たくないという思いと戦いつつ、
恐る恐る正面に回り込みました。

「う、……っ」

苦しみ、痛み。

五体目のゾン様の宿す感情は、
見間違えようもない、強烈な苦悩。

眉は下がり気味に歪み、口は半分開いて舌を覗かせ、
喉を掻きむしらんばかりに指が伸び――まるで、
死の直前の、ような。

「…………っ」

ぐ、と漏れそうになる悲鳴を喉の奥で殺し、
その顔を視界に入れぬように、友人二人の後ろで必死に手を合わせました。

(…………)

ここから重複してます
何も、異常が起きないように。

そう、心の芯から祈りを捧げ、目を開ければ。

「さあ、気合入れて登るよっ」
「おいおい、ほどほどにな」

最後の元気を振り絞る、その二人。
その友人二人の――顔、が。

「なぁ、トウヤ。クタクタだよなぁ、オレら」

まるで。顔を墨汁にでも浸したかのように、
灰色に濁り切っていたのです。

「――ッ?!」

さっきまで。

ほんのついさっきまで、
なんてことのない、いつもの二人であったのに。

二人は、形状こそそのままに、
服を除いた全身が、身体からインクでも
染みだしているかのごとく、灰色に染まっています。

いよいよ目がイカれたかと、おれはゴシゴシと必死にまぶたを擦りました。

「おーい、トウヤ?」
「あっ……ああ、う、うん、クタクタだよ」

その灰色の物体から、わさわさと耳障りな濁った声が発せられます。

混乱と恐怖は極限まで膨れあがり、
おれはあいまいな相槌をかろうじて打つことしかできません。

(ヤベェ……これ、なんなんだ? 呪い、ってヤツなのか……?)

まさか、おれがこの成人の儀に、
中途半端な気持ちで挑んだから――?

ここまで重複してます


無事に、登り切れるように。
何も、異常が起きないように。

そう、心の芯から祈りを捧げ、目を開ければ。

「さあ、気合入れて登るよっ」
「おいおい、ほどほどにな」

最後の元気を振り絞る、その二人。
その友人二人の――顔、が。

「なぁ、トウヤ。クタクタだよなぁ、オレら」

まるで。顔を墨汁にでも浸したかのように、
灰色に濁り切っていたのです。

「――ッ?!」

さっきまで。

ほんのついさっきまで、
なんてことのない、いつもの二人であったのに。

二人は、形状こそそのままに、
服を除いた全身が、身体からインクでも
染みだしているかのごとく、灰色に染まっています。

いよいよ目がイカれたかと、おれはゴシゴシと必死にまぶたを擦りました。

「おーい、トウヤ?」
「あっ……ああ、う、うん、クタクタだよ」

その灰色の物体から、わさわさと耳障りな濁った声が発せられます。

混乱と恐怖は極限まで膨れあがり、
おれはあいまいな相槌をかろうじて打つことしかできません。

(ヤベェ……これ、なんなんだ? 呪い、ってヤツなのか……?)

まさか、おれがこの成人の儀に、
中途半端な気持ちで挑んだから――?

「トウヤくん、ユージ! 誰が一番早く山頂までたどり着けるか競争ね!」

ノノカらしきグレーの影が、ゴポゴポと泥を吐き出すような音を漏らしながら、
斜面をズルズルと駆けあがっていきます。

「あ……ま、待っ……!」

置いていかれては、いけない。

なぜか心の奥底からわき起こった強迫概念に後押しされ、
おれも残った体力を使い切るように全力で登山道を駆けのぼります。

その時ばかりは、今まであれだけ山を歩いて来た
足の痛みも、全身の疲れもすべて消えうせ、
ただただ強大ななにかに急かされるように、二人の後を追いかけました。



十五分も走り続けたでしょうか。

「ッ……ハァ、ハァッ……」

一歩。山頂の平たい地面に足をつけたその瞬間、
ドッと全身の感覚が蘇りました。

ガクガクと震える両足は、すでに筋肉痛の兆候を見せてじんわりと痺れており、
過呼吸に近い状態で酷使された肺は、息切れを起こしてにぶい痛みを訴えています。

「ぐ……」

おれはしばし、その場で荒れた息を整えていました。

「……あ、れ? ユージ……ノノカ……?」

休憩を終えて、おれは先に到着していた筈の二人の行方を伺いました。

山頂。二メートルほどの巨大なゾン様を讃える小さな公園と、
形ばかりの展望台。そして駐車場。

そこに停車している一台の車以外、他に誰の姿も見当たりません。

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