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83.廃駅の肝試し③(怖さレベル:★★★)
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「で、この鉄道を使ってた運搬会社が、資金の横流しだか横領だか、
とにかく内部の金銭問題が発覚して、あっけなく倒産」
「そりゃあ……まぁなんつーか、自業自得だな」
「ここまでは、な」
原は意味深に言葉を止め、
雑草の生えしきる路線へ明かりを向けました。
ブゥーン、とそれに吸い寄せられた虫たちがバサバサと羽音を鳴らしています。
「そうなると当然、勤めてた人は路頭に迷うだろ。
無事に再就職できた人も、もちろんいただろうけど……」
「まさか……その、解雇されて行き場のない人が」
「ご名答。……この路線で、かつての社員、総勢二十名が身を投げた、らしい」
想像以上に鮮烈な事件に、口の中がからからに乾きます。
夜の森の持つ雑味の無い静寂が、
ひやりと冷気をまとったように感じられました。
「でもそれ……路線全体の話だろ?
ここは人里も離れてるし、こんな中途半端な場所で飛び込むか?」
水島が、顎をかきながら首を傾げています。
確かに彼の言う通り、この路線は田舎道がメインとはいえ、
始発は県庁の方からであったと聞いています。
こんな山中の一駅のみが訳アリ、というも妙な話です。
「ここ。……その会社の社長の奥さんと娘が飛び込んだ場所、なんだよ」
「えっ……」
原は、言いにくそうに眉を顰めました。
「両手をつないで、そこの線路に横たわってたところをはねられたらしい。
……なかなか、ヒドい有様だったらしいぜ」
「…………」
その言葉に、なんの返答もできずに黙り込むも、
奴は更に続けました。
「で、つられるように鉄道会社も倒産。廃線になったってわけだ。
ここは……その二人の幽霊が出るって言われてるらしい。
足を掴まれる、腕を引っ張られる、声が聞こえる……なんつー話だ」
「……オレ、もう帰りたくなってきたわ」
水島が、ゴツい懐中電灯でチラチラと自分の背後を照らしつつ、
盛大にため息を吐きだしました。
「つーか……ずいぶん詳しいな、原」
「ま、先輩からの受け売りなんだけどな。さっさと捜してあげねぇと」
「……って、言ってもなぁ」
手元の電灯で、ぐるりと周囲の夜闇を一周します。
「そんなに広いわけじゃないしなぁ、ココ」
ザッと辺りを調べても、人の気配らしきものはありません。
もし彼女たちが遭難したとするならば、肝試しに来たものの、
飽きて森の中の探検に行ったらそのまま迷ってしまった――
くらいの陳腐なストーリーしか思い浮かびません。
「どーする? まさかオレらだけじゃ
森の方まで捜せねぇよ。いったん戻って」
と、オレが原の方へ向き直った、その時。
フゥ
耳元で、かすかに風が動きました。
「…………っ!?」
ブワっ、と首に鳥肌がたちました。
生暖かい、その空気。
そう、まるで、誰かがそっと息を耳に吹き込んだかのような、人為的なそよ風――。
「おい、木ノ下……?」
硬直したオレを見かねた水島が懐中電灯ごとこちらに向き直り、
「……はっ?」
カチン、と瞬間冷凍されたかのように動きを止めました。
「きっ……きの、木ノ下……」
傍らにいた原も明らかな怯えをその目に映して、ジリジリと後ずさります。
ハァ
再び、耳朶に感じるふわりとした空気。
人の――呼吸音。
背後に、何か――誰か、いる。
「き……木ノ下から、離れろっ!!」
まさかの水島が、石ころらしきものを引っ掴み、
オレの背後のなにかに向かって強く放り投げました。
コン
思いの外軽い、衝突音。
「……いたい」
女性のものと、おぼしき声が。
「ひどい、ひどいよ……」
怨嗟の色のなく、ただ、悲しみだけを内包した、声。
(とっ……飛び込みした二人の、どっちか……?)
しくしくと、あまりに哀れっぽさを誘うそれに、
オレは警戒心も忘れ、振り返ってしまいました。
「わ……あ……」
人。
それは確かに、人の形をとっていました。
懐中電灯の光で判然としない、灰色っぽい上着にはツタが絡まり、
短めのスカートからはすらりと細い脚が覗くものの、
その肌には薄くいくつもの傷があります。
黒い長髪にも、雑草だか枯れ葉だかを絡ませ、
ボサついたその隙間から覗く、二つの眼球がこちらをジィっと見つめていました。
一件浮浪者と見まごうその様相は、
こんな場所では恐怖以外のなにものでもありません。
「おいっ、木ノ下……っ!」
「は、早くこっちに……!」
必死の形相で呼ぶ仲間二人に、
震える身体は呻き声を返すことしかできません。
ガタガタと揺れる足は棒のように硬直して動けず、
目前の異物と真っ向から対峙する羽目になります。
――と。
「原……くん?」
目の前のそれが、オレから遠く離れてへっぴり腰の、
奴の名前を呼んだのです。
「へっ……?」
名を呼ばれた原は、一瞬ポカンと大口を開いたかと思うと、
みるみるうちに驚愕の表情を形作り、
「せっ……先輩?!」
夜の森の鳥が一斉に飛び立つかのような大声で、
叫び声を上げたのでした。
>>
とにかく内部の金銭問題が発覚して、あっけなく倒産」
「そりゃあ……まぁなんつーか、自業自得だな」
「ここまでは、な」
原は意味深に言葉を止め、
雑草の生えしきる路線へ明かりを向けました。
ブゥーン、とそれに吸い寄せられた虫たちがバサバサと羽音を鳴らしています。
「そうなると当然、勤めてた人は路頭に迷うだろ。
無事に再就職できた人も、もちろんいただろうけど……」
「まさか……その、解雇されて行き場のない人が」
「ご名答。……この路線で、かつての社員、総勢二十名が身を投げた、らしい」
想像以上に鮮烈な事件に、口の中がからからに乾きます。
夜の森の持つ雑味の無い静寂が、
ひやりと冷気をまとったように感じられました。
「でもそれ……路線全体の話だろ?
ここは人里も離れてるし、こんな中途半端な場所で飛び込むか?」
水島が、顎をかきながら首を傾げています。
確かに彼の言う通り、この路線は田舎道がメインとはいえ、
始発は県庁の方からであったと聞いています。
こんな山中の一駅のみが訳アリ、というも妙な話です。
「ここ。……その会社の社長の奥さんと娘が飛び込んだ場所、なんだよ」
「えっ……」
原は、言いにくそうに眉を顰めました。
「両手をつないで、そこの線路に横たわってたところをはねられたらしい。
……なかなか、ヒドい有様だったらしいぜ」
「…………」
その言葉に、なんの返答もできずに黙り込むも、
奴は更に続けました。
「で、つられるように鉄道会社も倒産。廃線になったってわけだ。
ここは……その二人の幽霊が出るって言われてるらしい。
足を掴まれる、腕を引っ張られる、声が聞こえる……なんつー話だ」
「……オレ、もう帰りたくなってきたわ」
水島が、ゴツい懐中電灯でチラチラと自分の背後を照らしつつ、
盛大にため息を吐きだしました。
「つーか……ずいぶん詳しいな、原」
「ま、先輩からの受け売りなんだけどな。さっさと捜してあげねぇと」
「……って、言ってもなぁ」
手元の電灯で、ぐるりと周囲の夜闇を一周します。
「そんなに広いわけじゃないしなぁ、ココ」
ザッと辺りを調べても、人の気配らしきものはありません。
もし彼女たちが遭難したとするならば、肝試しに来たものの、
飽きて森の中の探検に行ったらそのまま迷ってしまった――
くらいの陳腐なストーリーしか思い浮かびません。
「どーする? まさかオレらだけじゃ
森の方まで捜せねぇよ。いったん戻って」
と、オレが原の方へ向き直った、その時。
フゥ
耳元で、かすかに風が動きました。
「…………っ!?」
ブワっ、と首に鳥肌がたちました。
生暖かい、その空気。
そう、まるで、誰かがそっと息を耳に吹き込んだかのような、人為的なそよ風――。
「おい、木ノ下……?」
硬直したオレを見かねた水島が懐中電灯ごとこちらに向き直り、
「……はっ?」
カチン、と瞬間冷凍されたかのように動きを止めました。
「きっ……きの、木ノ下……」
傍らにいた原も明らかな怯えをその目に映して、ジリジリと後ずさります。
ハァ
再び、耳朶に感じるふわりとした空気。
人の――呼吸音。
背後に、何か――誰か、いる。
「き……木ノ下から、離れろっ!!」
まさかの水島が、石ころらしきものを引っ掴み、
オレの背後のなにかに向かって強く放り投げました。
コン
思いの外軽い、衝突音。
「……いたい」
女性のものと、おぼしき声が。
「ひどい、ひどいよ……」
怨嗟の色のなく、ただ、悲しみだけを内包した、声。
(とっ……飛び込みした二人の、どっちか……?)
しくしくと、あまりに哀れっぽさを誘うそれに、
オレは警戒心も忘れ、振り返ってしまいました。
「わ……あ……」
人。
それは確かに、人の形をとっていました。
懐中電灯の光で判然としない、灰色っぽい上着にはツタが絡まり、
短めのスカートからはすらりと細い脚が覗くものの、
その肌には薄くいくつもの傷があります。
黒い長髪にも、雑草だか枯れ葉だかを絡ませ、
ボサついたその隙間から覗く、二つの眼球がこちらをジィっと見つめていました。
一件浮浪者と見まごうその様相は、
こんな場所では恐怖以外のなにものでもありません。
「おいっ、木ノ下……っ!」
「は、早くこっちに……!」
必死の形相で呼ぶ仲間二人に、
震える身体は呻き声を返すことしかできません。
ガタガタと揺れる足は棒のように硬直して動けず、
目前の異物と真っ向から対峙する羽目になります。
――と。
「原……くん?」
目の前のそれが、オレから遠く離れてへっぴり腰の、
奴の名前を呼んだのです。
「へっ……?」
名を呼ばれた原は、一瞬ポカンと大口を開いたかと思うと、
みるみるうちに驚愕の表情を形作り、
「せっ……先輩?!」
夜の森の鳥が一斉に飛び立つかのような大声で、
叫び声を上げたのでした。
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