216 / 415
89.ゴミ屋敷の真実①(怖さレベル:★★☆)
しおりを挟む
(怖さレベル:★★☆:ふつうに怖い話)
えぇ、えぇ。
あれは、つい半年前のことですよ。
うちは昔っから、あそこに住んでるんですけどね。
お隣さん……恩頭さんとも、古い付き合いで。
あのうちの爺さんと婆さんと、
そこの息子夫婦は誰も彼も良い人だったんですけどね。
そこんちの孫がまぁ……ろくでなしで。
三人いた孫の長男、この子が、ほんとにひどくてねぇ。
いやぁ、まぁ、そう育てちまった親に
責任がある、っちゃそうなんでしょうけど。
残った二人の孫は、本当に良い子たちだったから、
不思議でしょうがなかったんですよねぇ。
長男はねぇ、隣あってるうちに聞こえてくるくらい怒鳴ったり、なにかを壊したり。
挙句の果てには暴力団かなんかとまでからみ始めちまって。
かわいそうに、爺さん婆さんなんて、すっかり弱り切っちまってさ。
しばらくして近所で見なくなったから、
心労が祟ったのか、ボケちまっただとかで、
息子夫婦が施設につっこんだんだ、なんて言われてね。
残った孫二人も、親が実家にいると危険だと判断したのか、
遠方の大学だか就職先だかに行かせたとかで、
残ってるのは息子夫婦と、その問題児のみ。
それでも連日、怒号が聞こえてくるもんだから、
警察でも入れた方がいいんじゃないの、なんてご近所さんたちでも相談していたんですよ。
そうして……えぇ、一か月もたった頃ですかねぇ。
最近、ずいぶんと家が静かになった、って気づいたんですよ。
怒鳴り声も、なにかが割れたり破壊されたりする音もしない。
かつて、あのうちが平和だった時のように。
まるで、その穏やかな日常が帰ってきたみたいに。
しかし、あれだけ荒れていた長男が、
急に更生する、なんて考えられないでしょう?
ついに警察にでもしょ引かれたのかと、
仕事から帰ってきたそこんちの旦那さんに、誰かが尋ねたんですよ。
旦那さんは、頬に痛々しく残った腫れを押さえつつ、
暗い表情で言ったそうです。
「……行方不明なんだ」と。
なんでも、数日前にひときわ手がつけられないほど暴れた長男が、
家出のようにうちを飛び出したっきり、戻ってこないのだというのです。
こう言ってはなんですが、あれだけ被害を被っていたのですから、
いつ戻ってくるかはわからぬものの、厄介ごとがなくなって良かったじゃないかと、
近所の人たち――わたし含め、夫婦に励ましの言葉をかけたもんですよ。
でも、やっぱり子どもだからなんですかねぇ。
奥さんは、まぁ、塞ぎこんでしまって。
今までパートで働いていたのを辞めて、
うちの中に閉じこもるようになってしまったんですよ。
旦那さんもそんな奥さんにつられてか、
いっつも暗い顔をしててね、見ててかわいそうでしたねぇ……。
今まで、どうにかこうにか来ていた近所の集会やら会議にも、
めっきり顔を出さなくなってしまって。
まぁ、事情が事情なだけにみんな配慮して、
しばらく放っておいてあげようってなったんですけど。
……で、ですよ。
だんだん、だんだんと、なんですけどね。
隣り合わせのわたしのうちに、
妙な臭いが届き始めたんです。
そう、生ごみのようなすえた臭い。
それが、昼夜問わずにずーっと。
窓から、チラッと隣のうちを覗くと――
そこはひどい有様でしたよ。
庭にあふれ出すほどの、いろいろな荷物。
そしてよたよたと歩く奥さんが、わさっ、わさっ、
とビニール袋のうえに、さらにビニール袋を重ねていくんです。
ヒエッと思って、思わず隣のうちのチャイムを鳴らすと、
幽鬼のように生気を失った奥さんが顔を出しました。
「お……恩頭さん、大丈夫? なんか、へんな臭いしてきてるけど……」
「あぁ……すみません。もう、なにもかもやる気が起きなくて……」
そういう彼女は、なにか病にでも冒されているかのように覇気を失い、
立っているのがやっとのような有様でした。
「ご、ゴミ捨てるくらいならわたしが代わりにやるから。
あんなにおうちの中に積み上げていたら、身体を悪くしちゃうわ」
あの様子では、虫だってわいているかもしれません。
せっかく長男の暴力支配の呪縛から、
一時的にでも逃れられたって言うのに、
これじゃあ余りにも哀れでねぇ。
でも、そんなこちらの提案に、
奥さんはゆううつな表情のまま首を振りました。
>>
えぇ、えぇ。
あれは、つい半年前のことですよ。
うちは昔っから、あそこに住んでるんですけどね。
お隣さん……恩頭さんとも、古い付き合いで。
あのうちの爺さんと婆さんと、
そこの息子夫婦は誰も彼も良い人だったんですけどね。
そこんちの孫がまぁ……ろくでなしで。
三人いた孫の長男、この子が、ほんとにひどくてねぇ。
いやぁ、まぁ、そう育てちまった親に
責任がある、っちゃそうなんでしょうけど。
残った二人の孫は、本当に良い子たちだったから、
不思議でしょうがなかったんですよねぇ。
長男はねぇ、隣あってるうちに聞こえてくるくらい怒鳴ったり、なにかを壊したり。
挙句の果てには暴力団かなんかとまでからみ始めちまって。
かわいそうに、爺さん婆さんなんて、すっかり弱り切っちまってさ。
しばらくして近所で見なくなったから、
心労が祟ったのか、ボケちまっただとかで、
息子夫婦が施設につっこんだんだ、なんて言われてね。
残った孫二人も、親が実家にいると危険だと判断したのか、
遠方の大学だか就職先だかに行かせたとかで、
残ってるのは息子夫婦と、その問題児のみ。
それでも連日、怒号が聞こえてくるもんだから、
警察でも入れた方がいいんじゃないの、なんてご近所さんたちでも相談していたんですよ。
そうして……えぇ、一か月もたった頃ですかねぇ。
最近、ずいぶんと家が静かになった、って気づいたんですよ。
怒鳴り声も、なにかが割れたり破壊されたりする音もしない。
かつて、あのうちが平和だった時のように。
まるで、その穏やかな日常が帰ってきたみたいに。
しかし、あれだけ荒れていた長男が、
急に更生する、なんて考えられないでしょう?
ついに警察にでもしょ引かれたのかと、
仕事から帰ってきたそこんちの旦那さんに、誰かが尋ねたんですよ。
旦那さんは、頬に痛々しく残った腫れを押さえつつ、
暗い表情で言ったそうです。
「……行方不明なんだ」と。
なんでも、数日前にひときわ手がつけられないほど暴れた長男が、
家出のようにうちを飛び出したっきり、戻ってこないのだというのです。
こう言ってはなんですが、あれだけ被害を被っていたのですから、
いつ戻ってくるかはわからぬものの、厄介ごとがなくなって良かったじゃないかと、
近所の人たち――わたし含め、夫婦に励ましの言葉をかけたもんですよ。
でも、やっぱり子どもだからなんですかねぇ。
奥さんは、まぁ、塞ぎこんでしまって。
今までパートで働いていたのを辞めて、
うちの中に閉じこもるようになってしまったんですよ。
旦那さんもそんな奥さんにつられてか、
いっつも暗い顔をしててね、見ててかわいそうでしたねぇ……。
今まで、どうにかこうにか来ていた近所の集会やら会議にも、
めっきり顔を出さなくなってしまって。
まぁ、事情が事情なだけにみんな配慮して、
しばらく放っておいてあげようってなったんですけど。
……で、ですよ。
だんだん、だんだんと、なんですけどね。
隣り合わせのわたしのうちに、
妙な臭いが届き始めたんです。
そう、生ごみのようなすえた臭い。
それが、昼夜問わずにずーっと。
窓から、チラッと隣のうちを覗くと――
そこはひどい有様でしたよ。
庭にあふれ出すほどの、いろいろな荷物。
そしてよたよたと歩く奥さんが、わさっ、わさっ、
とビニール袋のうえに、さらにビニール袋を重ねていくんです。
ヒエッと思って、思わず隣のうちのチャイムを鳴らすと、
幽鬼のように生気を失った奥さんが顔を出しました。
「お……恩頭さん、大丈夫? なんか、へんな臭いしてきてるけど……」
「あぁ……すみません。もう、なにもかもやる気が起きなくて……」
そういう彼女は、なにか病にでも冒されているかのように覇気を失い、
立っているのがやっとのような有様でした。
「ご、ゴミ捨てるくらいならわたしが代わりにやるから。
あんなにおうちの中に積み上げていたら、身体を悪くしちゃうわ」
あの様子では、虫だってわいているかもしれません。
せっかく長男の暴力支配の呪縛から、
一時的にでも逃れられたって言うのに、
これじゃあ余りにも哀れでねぇ。
でも、そんなこちらの提案に、
奥さんはゆううつな表情のまま首を振りました。
>>
0
あなたにおすすめの小説
意味が分かると怖い話(解説付き)
彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです
読みながら話に潜む違和感を探してみてください
最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください
実話も混ざっております
【⁉】意味がわかると怖い話【解説あり】
絢郷水沙
ホラー
普通に読めばそうでもないけど、よく考えてみたらゾクッとする、そんな怖い話です。基本1ページ完結。
下にスクロールするとヒントと解説があります。何が怖いのか、ぜひ推理しながら読み進めてみてください。
※全話オリジナル作品です。
霊和怪異譚 野花と野薔薇[改稿前]
野花マリオ
ホラー
その“語り”が始まったとき、世界に異変が芽吹く。
静かな町、ふとした日常、どこにでもあるはずの風景に咲きはじめる、奇妙な花々――。
『霊和怪異譚 野花と野薔薇』は、不思議な力を持つ語り部・八木楓と鐘技友紀以下彼女達が語る怪異を描く、短編連作形式の怪異譚シリーズ。
一話ごとに異なる舞台、異なる登場人物、異なる恐怖。それでも、語りが始まるたび、必ず“何か”が咲く――。
語られる怪談はただの物語ではない。
それを「聞いた者」に忍び寄る異変、染みわたる不安。
やがて読者自身の身にも、“あの花”が咲くかもしれない。
日常にひっそりと紛れ込む、静かで妖しいホラー。
あなたも一席、語りを聞いてみませんか?
完結いたしました。
タイトル変更しました。
旧 彼女の怪異談は不思議な野花を咲かせる
※この物語はフィクションです。実在する人物、企業、団体、名称などは一切関係ありません。
本作は改稿前/改稿後の複数バージョンが存在します
掲載媒体ごとに内容が異なる場合があります。
改稿後小説作品はカイタとネオページで見られます
洒落にならない怖い話【短編集】
鍵谷端哉
ホラー
その「ゾワッ」は、あなたのすぐ隣にある。
意味が分かると凍りつく話から、理不尽に追い詰められる怪異まで。
隙間時間に読める短編ながら、読後の静寂が怖くなる。 洒落にならない実話風・創作ホラー短編集。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる