【電子書籍化】ホラー短編集・ある怖い話の記録~旧 2ch 洒落にならない怖い話風 現代ホラー~

榊シロ

文字の大きさ
222 / 415

91.治安の悪い地区①(怖さレベル:★★☆)

しおりを挟む
(怖さレベル:★★☆:ふつうに怖い話)

いやぁ、あれはオレが大学生の時の話なんですけど。

オレが当時住んでいた地区は、
なんつーか……治安が悪くって。

空き巣、車上荒らしはしょっちゅう、
コンビニは不良のたまり場。

真夜中にやたらに歩いていると、
必ずといっていいほど絡まれる、やっかいな場所で。

えぇ……あるんですよ。
こんだけ治安がいいって言われてる日本でも、そんなトコが。

オレは田舎から大学進学のために出てきたばっかりで、
家賃の安さに目がくらんで、そんな地区の一角にアパートを借りちまって。

いざ引っ越して住み始めてみたら、
そんな惨状を目の当たりにしてしまい、
やっちまった、と後悔したモンです。

とはいえ、同じ家賃で暮らせるトコなんて限られてるし、
入居してすぐさま退去なんてしたら、それこそ金がかさんでしまいます。

だから、戸締りは厳重にして、夜はいっさい外に出ない。
大学のサークル活動に参加しても、遅くなりかけたら事情を話して帰らせてもらう。

そんなこんなで、おおいに不便な生活を強いられつつも、
なんとかそこで暮らしていたんです。



「ヤッベー……」

その日、オレは教授に課題を提出するのがギリギリになってしまい、
大学からの帰り道を、全速力で自転車を飛ばしていました。

すでに日は暮れ始め、カラスが
ギャアギャアとやかましく騒ぎ立てています。

昼間でも気を抜くと変人奇人にからまれるうちの地区。
日が落ちてしまえば、さらに凶悪なメンツがそろい踏みします。

そんな恐怖に苛まれつつ、全力で自転車を漕ぎまくったせいか、
自宅に近づくにつれて、どんどん息が続かなくなってきました。

「ハァ……っはあ。す、少しだけ、休憩……」

思わず自転車を止めて、目立たぬように自販機の端に寄せました。

キョロキョロと周囲を確認し、人影がないことを確認してから、
呼吸を整えようと深呼吸をくりかえします。

うす暗い夜の道は、どこからともなく怒鳴り声や
バイクの激しいマフラー音が聞こえてきました。

さっさと家に帰って一安心したい、と落ち着いてきた呼吸を吐き出し、
再び自転車のハンドルをがしりと握った、そんな時です。

グイッ

「ぅわっ」

不意に、足がもつれておれは転がりました。

ガシャン! と支えていた自転車が倒れ、
自分もみっともなく床に肩を打ち付けます。

「痛ってて……なんだ?」

足首にひっかかった、なにかの塊。
それは自販機の下、暗い隙間から突き出していました。

枝か、棒か。
きっと誰かが、適当に放っておいたものだろう。

まったくはた迷惑な、と、
おれが服にまとわりついた砂を払って立ち上がったその時。

「え……?」

ニュルッ、と。
足首に触れた、妙な感触。

ただの水ではない、粘着質な液体がズボンのすそを染めています。

その原因。
その粘液を垂れ流すのは、自販機の真下――つき出された、白い腕。

「ひ、っ……!?」

生白いそれに、おれは中腰のまま硬直しました。

ダラン、とひじの先がとび出したそれは、
たった今そこで切断されたかのように、
じわじわと赤い液体を地面に広げています。

「わあっ……うわ、わ」

ドサッと尻もちをつき、這いずるように後ずさりました。
腰が抜けてしまったらしく、力が入らず立ち上がることもできません。

(ゆ、ゆゆ……ゆう、れい!?)

さきほど躓いたのは、まちがいなくこれが原因でしょう。

かつて殺された人間の、腕。
自販機の下から伸びて、おれの足を掴もうとでもしたのでしょうか。

僅かばかりの街灯に照らされた白い腕と、
トロトロとアスファルトを濡らす赤い液体。

ジイィー……と、機械の作動音が、
ひどく場違いに響いていました。

「に、逃げ……逃げない、と」

倒れた自転車に必死で縋り付き、
おれはなんとか腰を立て直しました。

白い腕はだらん、と動かず伸びていますが、
その指先はまるで本物のようにリアルで、
いつ怪談にあるように動き出すかわかりません。

「かっ、帰ら、ないと」

地面に落下したカバンを自転車カゴにつっこみ、
震える足を必死で動かして、慌ててその場から離れようとした時――、

「……の野郎……なに……っだ!!」
「す……せ……!」

裏の路地の奥から、怒鳴りあう声が響いてきました。

こんなタイミングです。
どんな相手であっても、人の声というのはホッとするもの。

言い争う声に自分が現実世界にいることがわかって、
少しだけ取り戻した勇気を胸に、自転車に飛び乗って家に帰ろうとした瞬間。

「バッカ野郎が!! 知られたら終わりなんだよッ!!」

バゴッ

男性が一人、殴打音と共におれの目の前の路上にすっ飛んできました。

「すっ……すいやせ……あ、ニキ……」

頬が赤く腫れあがったその男性は明らかにただのサラリーマンではありません。
短く借り上げた頭に黒シャツ黒スラックスで、小太りの男。

そんな男が地面に転がって許しを請う人間の姿に、
おれは呆然と動きを止めました。

「きっちり探せッ! 隅々までだ。あれがなきゃオレたちが……ん?」

続いて路地から姿を現したのは、同じく黒スーツに
でかいガタイを無理やり押し込めた、チンピラ風の男でした。

「……兄ちゃん、通りすがりか?」

その男は、細い目を爬虫類のようにさらに細め、
値踏みするようにジロジロとこちらを眺めまわしました。

>>
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

意味が分かると怖い話(解説付き)

彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです 読みながら話に潜む違和感を探してみてください 最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください 実話も混ざっております

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

だんだんおかしくなった姉の話

暗黒神ゼブラ
ホラー
弟が死んだことでおかしくなった姉の話

百の話を語り終えたなら

コテット
ホラー
「百の怪談を語り終えると、なにが起こるか——ご存じですか?」 これは、ある町に住む“記録係”が集め続けた百の怪談をめぐる物語。 誰もが語りたがらない話。語った者が姿を消した話。語られていないはずの話。 日常の隙間に、確かに存在した恐怖が静かに記録されていく。 そして百話目の夜、最後の“語り手”の正体が暴かれるとき—— あなたは、もう後戻りできない。 ■1話完結の百物語形式 ■じわじわ滲む怪異と、ラストで背筋が凍るオチ ■後半から“語られていない怪談”が増えはじめる違和感 最後の一話を読んだとき、

少し怖いホラー短編集(文字数500以下)

仙 岳美
ホラー
文字数500以下のショート集です、難しく無いので気楽にどうぞ。

霊和怪異譚 野花と野薔薇

野花マリオ
ホラー
その“語り”が始まったとき、世界に異変が芽吹く。 静かな町、ふとした日常、どこにでもあるはずの風景に咲きはじめる、奇妙な花々――。 『霊和怪異譚 野花と野薔薇』は、不思議な力を持つ語り部・八木楓と鐘技友紀以下彼女達が語る怪異を描く、短編連作形式の怪異譚シリーズ。 一話ごとに異なる舞台、異なる登場人物、異なる恐怖。それでも、語りが始まるたび、必ず“何か”が咲く――。 語られる怪談はただの物語ではない。 それを「聞いた者」に忍び寄る異変、染みわたる不安。 やがて読者自身の身にも、“あの花”が咲くかもしれない。 日常にひっそりと紛れ込む、静かで妖しいホラー。 あなたも一席、語りを聞いてみませんか? 完結いたしました。 タイトル変更しました。 旧 彼女の怪異談は不思議な野花を咲かせる ※この物語はフィクションです。実在する人物、企業、団体、名称などは一切関係ありません。 エブリスタにも公開してますがアルファポリス の方がボリュームあります。 表紙イラストは生成AI

最終死発電車

真霜ナオ
ホラー
バイト帰りの大学生・清瀬蒼真は、いつものように終電へと乗り込む。 直後、車体に大きな衝撃が走り、車内の様子は一変していた。 外に出ようとした乗客の一人は身体が溶け出し、おぞましい化け物まで現れる。 生き残るためには、先頭車両を目指すしかないと知る。 「第6回ホラー・ミステリー小説大賞」奨励賞をいただきました!

それなりに怖い話。

只野誠
ホラー
これは創作です。 実際に起きた出来事はございません。創作です。事実ではございません。創作です創作です創作です。 本当に、実際に起きた話ではございません。 なので、安心して読むことができます。 オムニバス形式なので、どの章から読んでも問題ありません。 不定期に章を追加していきます。 2026/1/2:『そうしき』の章を追加。2026/1/9の朝4時頃より公開開始予定。 2026/1/1:『いえい』の章を追加。2026/1/8の朝4時頃より公開開始予定。 2025/12/31:『たこあげ』の章を追加。2026/1/7の朝4時頃より公開開始予定。 2025/12/30:『ねんがじょう』の章を追加。2026/1/6の朝4時頃より公開開始予定。 2025/12/29:『ふるいゆうじん』の章を追加。2026/1/5の朝4時頃より公開開始予定。 2025/12/28:『ふゆやすみ』の章を追加。2026/1/4の朝4時頃より公開開始予定。 2025/12/27:『ことしのえと』の章を追加。2026/1/3の朝8時頃より公開開始予定。 ※こちらの作品は、小説家になろう、カクヨム、アルファポリスで同時に掲載しています。

処理中です...