【電子書籍化】ホラー短編集・ある怖い話の記録~旧 2ch 洒落にならない怖い話風 現代ホラー~

榊シロ

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98.社員寮の女⑤(怖さレベル:★★★)

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「……さて」

管理人さんの部屋に招かれ、おれと同期はそのまま広い居間へ通されます。

そわそわと落ち着かないまま身体を揺らしていると、
彼は暖かいお茶を持って、着席するように促してきました。

「えっと……あの、さっきの」
「ああ……うん。なんと言えばいいかな……」

いきなり切り出したおれの問いかけに、
おじいさんは言葉を選ぶように逡巡しつつ、ため息をこぼしました。

「端的に言うとね。……あり得ない。女の子がいるわけがないんだ」
「えっ……でも、確かに」

ふぅ、と立ちのぼるお茶の湯気を揺らしながら、
管理人さんは首をふりました。

「うん、いたよね。でも僕が部屋に入った時……電気すらついてなくて真っ暗だった。
 おかしいなと思って照明を全部つけてね。
 ぜんぶ……風呂場やトイレまで見たんだよ? ……誰もいなかった」
「えっと……じゃあ、クローゼットとか、ベッドの下とかに隠れてた、とか」

隣で、同期が思いついたように人差し指を立てます。
しかし、管理人さんは硬い表情で言いました。

「よく考えてよ。……電気もついてない真っ暗闇の室内で、そういうところに隠れてる、って異常だよね?」
「……たしかに」

闇と同化する黒い世界の中で、息を潜めて侵入者を睨む女性。
そんな姿が、フッと脳内に思い浮かびました。

それは――あまりに異質な、光景。

「それに……ここの管理人室よこの入口を通過しなきゃ、
 うちの尞には入れないでしょ? 女の子が、外の柵を入るなんて無理だよ」
「えっ……」
「ほら、生け垣のトコ。見えにくいけどあそこ、柵が張ってあって侵入できないようになってるんだよ」

確かによくよく考えてみれば、いくら古い寮とはいえど、
中に入る出入り口はここ一か所しか存在しません。

しかし、生け垣のところの柵、というのは初耳です。
第一、そんな柵が本当にあるとすれば、先週見た女性はどうやって――?

「なぁ……俺がさっき言ったこと、覚えてるか?」
「さっき……?」

と、同期が不意にポツリと呟きました。

「ほら……あの女の子、見覚えあるって言っただろ」
「あ……新聞? とかって言ってたよな、そういえば」

このご時世珍しく、同期は新聞やら地図やらを眺めるのが好きなのです。

ヤツは記憶を頼りにしてか、手持ちの携帯端末を使って
しばらく検索画面を眺めていましたが、

「……あ、あった! この事件」
「ん?」

液晶画面が、グイっと眼前に表示されます。
そこに掲載されているのは、女性が泥酔状態で川で水死した、というニュースでした。

「ほら……この顔見ろよ」

そして、そのニュースの上部には、
亡くなったと思しき女性の顔写真が記載されています。

「あ……に、似てる」
「確かに……」

おれと管理人さんも同意します。
免許証のような無機質の写真は、ついさっき見た彼女と瓜二つの容貌でした。

「この人さぁ……亡くなったの、この町の繁華街の方なんだよ。
 近くだったからよく覚えてて……もしかして、って」
「え……でも、もし……その、幽霊だったとしたってさ。
 なんでこんな……関係ない社員寮に出てくるんだよ」

脳内の片隅で考えていた「幽霊」という可能性をつい口に出せば、
他の二人も思うところがあったか、少しだけ沈黙したのち、

「なぁ……堀口ってさ、よく夜遊びしてるじゃん」

と、同期が言いにくそうに口を開きました。

「え……お前、まさか」
「いや……わかんねぇよ? でもさ……確かにあいつ、ここんところ様子おかしかったじゃん。
 俺、同じ部署だからよくわかるんだけど……しょっちゅうミスしてさ。なんか気もそぞろな感じだったし」

言われてみれば、先週の生け垣の女性を見てしまった日、
あの日の堀口の様子は異常でした。

もしかして、堀口もあの女性を目撃して?
死んだはずの、もしくは死なせてしまった彼女の姿に動揺していた……?

「……堀口くん、さぁ」

管理人さんも、続けて重い口を開きました。

「君が帰ってくる三十分くらい前かな……実は帰ってきてるはずなんだよ」
「えっ……?」

ということは、やはり自分よりも先に、
あのチェーンのかかった部屋を見ているはずです。

「ここから出た様子もないし……他の、誰かの部屋に避難してるならいいんだけど」

言いつつ、彼の視線は天井付近をさ迷っています。

家に帰ってもしチェーンまでかかっているのを見たら、
もともとの堀口の性格上、
俺以上に騒ぎ立てそうなものですが……。

「俺……けっこう前から部屋にいたけど、大きな物音とか聞かなかったぞ……」

同期も、薄気味悪そうに両手で自分の身体を抱きしめています。

「……うーん。これは早急に警備の人を呼ばないとかもしれないね」

管理人さんは神妙にお茶を一口含むと、
携帯電話を片手に、慌てて外へと出ていきました。




そして……ええ、結果から申し上げます。

ヤツ……堀口は見つかっていません。
行方不明……なんです。

あの直後、管理人さんと警備員二人の計三名で
もう一度室内の調査をしたそうなのですが、
結局、人の姿はどこにも見当たらず……。

堀口の荷物は、仕事に使用していたカバンだけが無くなっていて、
他の日用品一式などは手つかずのまま。

携帯へ連絡しても不通、GPSで辿ろうとしても位置情報が発見できず不明。

身内が警察へ届けを出したそうなので、
これから本格的に捜査も始まるそうですが……。

ええ……もちろん、あの謎の女性も見つかっていません。

結局……幽霊だったのか、それともただの不審者であったのか、
それすらもわからないままです。

おれはあんな体験をしてしまったせいでとても寮に入り続けることはできず、
今は両親のいる実家から、通いで会社に出社しています。

彼は……例の溺死したという女性の死に、なんらかの形で関わっていたのでしょうか。
それとも、よく似た女性に、ストーカー行為でもされていただけ、なのでしょうか。

あの夜、扉の隙間からのぞく彼女の白い眼球を、
今でもたまに、夢に見ます。
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