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103.もらい物のFAX②(怖さレベル:★★★)
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「二人とも、どうかした?」
「いやぁ……これ、見てくださいよ」
多田野さんは口をへの字にゆがめながら、
FAXからはきだれた紙を指さしました。
「んん? ……うわっ」
あたしは思わず、間の抜けた声をあげました。
白いコピー用紙に、斑点のような黒いシミ。
それもただのシミではなく、四隅の一点から、
三方へ飛び散るようにパッと一面にひろがっていました。
一つ一つの黒い粒は、濃い方から薄い方へ、
濃淡をつけてポツポツとはじけています。
ただのモノクロの画面であるにも関わらず、
それはまるで血痕が飛散したかのような、不気味な形にも見えました。
「うーん……インクもれ、かなぁ」
奥村さんが、インクの補充部分をパカッと開けて、
ガチャガチャと動かしながら唸りました。
「せっかく調子がよかったのに……幸い送る方は大丈夫でしたけど」
多田野さんが、キュッと眉を下げながら首をふりました。
FAXは、その後も止まらずにガガガ……と音を鳴らして紙を印刷していきます。
二枚目、三枚目と、飛び散るインク染みをますます濃くしながら、
血液に似た紋様をはきだし続けていきました。
(なんか……気持ち悪いねぇ)
まるで、死に面した人間のわるあがきの、ような。
そんな感想がポッと脳内に浮かんで、あたしはゾワゾワと背筋が寒くなりました。
「ま……とりあえず電源いれなおしてさ。時間も遅いし、明日にしよ、明日」
気をとりなおすように呟いて、コンセントをさし直します。
あたしは妙にザワつく心のうちをおさえつつ、
不思議そうにFAXを確認する二人を急かしながら、さっさと帰途についたのでした。
翌日。
FAXは前日の不具合などなかったかのように、
なにごともなく稼働を始めたのです。
二人も、月末で酷使しすぎたせいだろうと、
顔を合わせて笑っていました。
考えすぎだったのだと、あたしもホッと一安心したのです。
――しかし、その翌月。
また――アレが、起きたんです。
「……ん?」
その日。異変に気づいたのは、あたしでした。
月初の処理も一段落つき、後片付けも終わって。
タイムカードを押して、さぁ帰ろう、というタイミング。
ガガガ……と、あの紙が印刷されるとき特有の音が、
ふと耳についたのです。
時刻はすでに夜の七時。
お得意先からのFAXにしては、ずいぶんと遅い。
じわじわと心にわき上がったイヤな予感に、
あたしは顔をしかめて機械を睨みました。
同じことを考えたのでしょう。
あたしの視線の先をたどり、奥村さんが半笑いで言いました。
「まさか……先月みたいなコト、ないよねぇ?」
「えっ……イヤですよ! またこんな時間に!」
カバンを片手に持った多田野さんは、大げさなほどにビクついて、
うす気味悪そうに後ずさっています。
「いやいや……まさか。第一、あれはインクもれかなんかでしょうに」
わき上がるおぞましい感覚をむりやりごまかすように笑って、
あたしは機械から吐き出される紙を、ヒョイと持ち上げました。
「…………ッ!!」
声にならないさけびが、喉からほとばしりました。
そこに、印字されていたのは。
そこに印字されていたのは――前回よりもなおおびただしいインクが飛散した真っ黒な画面。
まるで、ボタボタとしたたり落ちる血痕を連想させるような。
まるで、血しぶきの噴きあがる惨劇現場のような。
白黒のなかにも濃淡がつき、くっきりと色づいたそれは、
もはやインク洩れや印刷まちがいではけっしてありえませんでした。
「ヒィッ……!? な、なにコレ……っ!!」
硬直したあたしの背後。
そっと手元をのぞきこんだ奥村さんも、引きつった悲鳴を上げました。
「ぅわっ……それ、やっぱり呪い……呪いですよ!!」
多田野さんが、首をブンブン振りながら、口元を押さえました。
目には強い恐怖が、涙となって浮かんでいます。
「あの家から持ってきちゃったから……なにか、なにか憑りついてるんですよ!」
「ばっ……バカ言わないでよっ!」
バン! と紙を机に叩きつけました。
指先にベットリとついた黒いシミ。そのヌチャッとした感触に、あたしは思わず顔をしかめました。
「じ、じゃあ……これ、どうやって説明するんです!」
卓上に置かれた紙面を怯えた目でみつめた彼女が、一歩一歩後ずさります。
「こんな……こんな、血の跡みたいな……あっ」
と。
まるで彼女の勢いを削ぐかのように、
奥村さんが、例の紙をヒョイと拾い上げました。
「ちょっ……呪われますよ!!」
「……これ」
多田野さんのあわてたような声をスルーして、
奥村さんはトン、と紙の上部を指先でたたきました。
「よく見て。……宛名がある」
「えっ……?」
「ほら、右上。FAXの送信先の、名前」
さきほどの狼狽ぶりはウソのように、
彼女はトントン、と再度紙面をたたきます。
「これ、たぶん個人名でしょ? ……まちがいなくイタズラだよ。
こないだ回収に行った、っていうゴミ屋敷の名前でもないし」
彼女は眉をぐっと下げて苦笑いしました。
紙面の右上、そこにはカタカナで
『18:59 サヤマ ケント』と印字されています。
オマケに、まぬけなコトに送り先のFAX番号まで載っていました。
怪奇現象がいっきにチープなものに変わったような気がして、
ハァ、とあたしはわざとらしいほどのため息をつきました。
「なんだぁ。ビビらせよう、っていう算段だったのかねぇ」
「じゃない? もしくはインクの無駄遣いさせよう、って感じかな。
どうせこういうの、うちだけじゃなくあっちこっちにやってんのよ」
あたしと奥村さんが調子をとりもどし、
和気あいあいと話しているというのに、多田野さんはどこかうわの空です。
「多田野さん、どうかした?」
呪いがニセモノだったのがショックなのかな、なんてのんきに考えていると、
彼女はボーッとこちらを見て、ポツリとつぶやきました。
「これ……このサヤマって。あの日バイトで来てた……佐山くんのこと、じゃないですよね?」
サヤマ。佐山。
それは先日、ゴミ屋敷の片付けを行った時。
臨時バイトに入っていた青年の名前と、確かに同一でした。
彼はいわゆる短期バイトで、繁忙期のその時だけ入った人物です。
もう契約は終わっており、その後のことを知っている人はいません。
「いや……偶然でしょ、ねぇ?」
奥村さんもひるんだ表情を浮かべつつ、首を振りました。
>>
「いやぁ……これ、見てくださいよ」
多田野さんは口をへの字にゆがめながら、
FAXからはきだれた紙を指さしました。
「んん? ……うわっ」
あたしは思わず、間の抜けた声をあげました。
白いコピー用紙に、斑点のような黒いシミ。
それもただのシミではなく、四隅の一点から、
三方へ飛び散るようにパッと一面にひろがっていました。
一つ一つの黒い粒は、濃い方から薄い方へ、
濃淡をつけてポツポツとはじけています。
ただのモノクロの画面であるにも関わらず、
それはまるで血痕が飛散したかのような、不気味な形にも見えました。
「うーん……インクもれ、かなぁ」
奥村さんが、インクの補充部分をパカッと開けて、
ガチャガチャと動かしながら唸りました。
「せっかく調子がよかったのに……幸い送る方は大丈夫でしたけど」
多田野さんが、キュッと眉を下げながら首をふりました。
FAXは、その後も止まらずにガガガ……と音を鳴らして紙を印刷していきます。
二枚目、三枚目と、飛び散るインク染みをますます濃くしながら、
血液に似た紋様をはきだし続けていきました。
(なんか……気持ち悪いねぇ)
まるで、死に面した人間のわるあがきの、ような。
そんな感想がポッと脳内に浮かんで、あたしはゾワゾワと背筋が寒くなりました。
「ま……とりあえず電源いれなおしてさ。時間も遅いし、明日にしよ、明日」
気をとりなおすように呟いて、コンセントをさし直します。
あたしは妙にザワつく心のうちをおさえつつ、
不思議そうにFAXを確認する二人を急かしながら、さっさと帰途についたのでした。
翌日。
FAXは前日の不具合などなかったかのように、
なにごともなく稼働を始めたのです。
二人も、月末で酷使しすぎたせいだろうと、
顔を合わせて笑っていました。
考えすぎだったのだと、あたしもホッと一安心したのです。
――しかし、その翌月。
また――アレが、起きたんです。
「……ん?」
その日。異変に気づいたのは、あたしでした。
月初の処理も一段落つき、後片付けも終わって。
タイムカードを押して、さぁ帰ろう、というタイミング。
ガガガ……と、あの紙が印刷されるとき特有の音が、
ふと耳についたのです。
時刻はすでに夜の七時。
お得意先からのFAXにしては、ずいぶんと遅い。
じわじわと心にわき上がったイヤな予感に、
あたしは顔をしかめて機械を睨みました。
同じことを考えたのでしょう。
あたしの視線の先をたどり、奥村さんが半笑いで言いました。
「まさか……先月みたいなコト、ないよねぇ?」
「えっ……イヤですよ! またこんな時間に!」
カバンを片手に持った多田野さんは、大げさなほどにビクついて、
うす気味悪そうに後ずさっています。
「いやいや……まさか。第一、あれはインクもれかなんかでしょうに」
わき上がるおぞましい感覚をむりやりごまかすように笑って、
あたしは機械から吐き出される紙を、ヒョイと持ち上げました。
「…………ッ!!」
声にならないさけびが、喉からほとばしりました。
そこに、印字されていたのは。
そこに印字されていたのは――前回よりもなおおびただしいインクが飛散した真っ黒な画面。
まるで、ボタボタとしたたり落ちる血痕を連想させるような。
まるで、血しぶきの噴きあがる惨劇現場のような。
白黒のなかにも濃淡がつき、くっきりと色づいたそれは、
もはやインク洩れや印刷まちがいではけっしてありえませんでした。
「ヒィッ……!? な、なにコレ……っ!!」
硬直したあたしの背後。
そっと手元をのぞきこんだ奥村さんも、引きつった悲鳴を上げました。
「ぅわっ……それ、やっぱり呪い……呪いですよ!!」
多田野さんが、首をブンブン振りながら、口元を押さえました。
目には強い恐怖が、涙となって浮かんでいます。
「あの家から持ってきちゃったから……なにか、なにか憑りついてるんですよ!」
「ばっ……バカ言わないでよっ!」
バン! と紙を机に叩きつけました。
指先にベットリとついた黒いシミ。そのヌチャッとした感触に、あたしは思わず顔をしかめました。
「じ、じゃあ……これ、どうやって説明するんです!」
卓上に置かれた紙面を怯えた目でみつめた彼女が、一歩一歩後ずさります。
「こんな……こんな、血の跡みたいな……あっ」
と。
まるで彼女の勢いを削ぐかのように、
奥村さんが、例の紙をヒョイと拾い上げました。
「ちょっ……呪われますよ!!」
「……これ」
多田野さんのあわてたような声をスルーして、
奥村さんはトン、と紙の上部を指先でたたきました。
「よく見て。……宛名がある」
「えっ……?」
「ほら、右上。FAXの送信先の、名前」
さきほどの狼狽ぶりはウソのように、
彼女はトントン、と再度紙面をたたきます。
「これ、たぶん個人名でしょ? ……まちがいなくイタズラだよ。
こないだ回収に行った、っていうゴミ屋敷の名前でもないし」
彼女は眉をぐっと下げて苦笑いしました。
紙面の右上、そこにはカタカナで
『18:59 サヤマ ケント』と印字されています。
オマケに、まぬけなコトに送り先のFAX番号まで載っていました。
怪奇現象がいっきにチープなものに変わったような気がして、
ハァ、とあたしはわざとらしいほどのため息をつきました。
「なんだぁ。ビビらせよう、っていう算段だったのかねぇ」
「じゃない? もしくはインクの無駄遣いさせよう、って感じかな。
どうせこういうの、うちだけじゃなくあっちこっちにやってんのよ」
あたしと奥村さんが調子をとりもどし、
和気あいあいと話しているというのに、多田野さんはどこかうわの空です。
「多田野さん、どうかした?」
呪いがニセモノだったのがショックなのかな、なんてのんきに考えていると、
彼女はボーッとこちらを見て、ポツリとつぶやきました。
「これ……このサヤマって。あの日バイトで来てた……佐山くんのこと、じゃないですよね?」
サヤマ。佐山。
それは先日、ゴミ屋敷の片付けを行った時。
臨時バイトに入っていた青年の名前と、確かに同一でした。
彼はいわゆる短期バイトで、繁忙期のその時だけ入った人物です。
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