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116.山菜採りの異変②(怖さレベル:★☆☆)
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「ひ……っ!?」
下を見たときにはもう遅し。
山の傾斜、わずかに崖のようになっている場所まで、
私たちは後退してきていたのです。
真下には、ボコボコと突出した岩がいくつも。
落ちたら、間違いなくアレに激突してしまう――。
「危ないッ!!」
と、ガシッと両腕をつかまれ、
私は大地に引き戻されました。
「え、あ、あ……?」
平らな大地にペタンと腰をつけ、顔を上げると、
「あっぶない……大丈夫だった? 割田さん」
「ホントだよ……もうちょっとで、まっ逆さまだったんだぞ?」
そこには、山菜採りの仲間の二人が、
心配そうなまなざしでこちらを見下ろしていました。
「あ、あ……ありがとう。助かったよ」
「よかった、無事で。姿が見つからなくって、心配してたんだよ」
「いやぁ……迷惑かけちゃったねぇ、ごめんよ」
ひとりでズンズンと山深い方へ入っていたのは、
完全に自分の落ち度です。
まさか、こんな山中で不審者にあって、
その上、崖から転げ落ちそうになるなんて――。
「あ……! あの男の人……!」
ハッとして、さきほどまで男のいた方向を見やります。
しかし。
「……あれ?」
そこには、ただただ山の緑がうっそうと生い茂るだけ。
(もしかして……ここまで誘導するために?)
ゾッ、と体に震えが走りました。
仲間たち二人が来てくれなければ、
私はあの岩場の上にまっ逆さま。
きっと、お陀仏だったでしょう。
あの男性は、まさかそれを狙って――?
私がひとり、恐ろしい想像にブルブルと震えていると、
仲間たち二人も、なぜか不安そうに周囲を見回して、
なにやら話をし始めました。
「よかった……あの女の人、こっちまでついてこなかったね」
「なんだったんだろうなぁ……気持ち悪ィ感じだったけど」
「え、女の……人?」
私が疑問の声を上げると、
彼らはうんうんと頷きながら、
「そうなんだよねぇ。さっきね、顔色のわるーい女の人が、ずーっとこっちを見てて」
「後もつけられてたから、ちょっと駆け足でこっちに来たんだけど……どっか行ったみたいだな」
と、二人は困ったように笑います。
そんな彼らに、私はおそるおそる先ほどまでのことを話しました。
「じつは……わたしも、さっき変な人に追いかけられたのよ」
「えっ……割田さんも?」
「ウソだろ、オイ……なんか、ヘンな宗教団体かなんかか?」
仲間の二人は、両腕で体をさすりながら顔を引きつらせました。
「わからないけど……明らかにふつうじゃなかったよ。
一言もしゃべらなかったし……さっき落ちそうになったのだって、その人から逃げようとしたからだし」
「マズいなぁ……さっさとみんなと合流して、山から下りた方がいいな」
「うん……他のみんなの安否も心配だし」
二人の顔つきも、グッと真剣なモノに変わりました。
不審者が、二人も。
いや、二人だけならばともかく、
仲間を連れて、もっと大勢いる可能性だってあります。
私たちは、見えない恐怖に急かされるようにして、
慌ててみんなのいる方へと戻ったのでした。
そののち、無事に仲間たちと合流して話を伺うと、
他の幾人かも、山にひそむ女性の姿を見たというのです。
「いやぁ、なーんか顔色おかしいし、こっちを見る目がね……気持ちわるかったわぁ」
「ありゃあ、もしかしたら人間じゃなかったんじゃないかねぇ」
なんて言う仲間もいいるくらいで、
よほど、その女性というのも不気味だったようです。
しかし、
「えっ……男の人? いいや、オレは見なかったなぁ」
「あたしたちも……女の子は見たけどねぇ」
といった風に、
私が見た男性の目撃情報はありません。
(……その女の人の連れ、だったのかねぇ)
結局、彼らの正体は謎のまま。
私たちはなにごともなく帰ったのですが、後日。
「割田さん! 割田さん、新聞みた!?」
「えっ……新聞?」
パート出勤したスーパーで、
先日山菜採りに参加したメンバーに肩を掴まれました。
「ほらほら、ここ! ココ見て!!」
「え、ええ……」
異常に興奮した様子の彼女の手にした新聞に目を向けると、
『山中で遺体発見 遺棄容疑で交際相手を逮捕』
という見出しが、大きく掲載されていました。
「ここ……この山! この間、山菜採りに行ったところだよ!!」
彼女はバンバンと机をたたきながら、
顔をまっ赤にしたまま続けました。
「この間、山んなかで見たあの女! あの女の人だったんだよ……!!」
「えっ……」
「ほら、ここ! 年齢もそれくらいだし、間違いないよ!!」
まくしたてる彼女の言葉に、
私はゾワゾワと悪寒が全身にかけ巡るのを感じました。
では、あの山菜採りのときにみんなが見たという、女の人は?
まさか――まさか。
「怖いよねぇ、まさかこんな身近でそんなコトが……って、割田さん?」
「……わたし、男の人見た、って言ったでしょ?」
「あ……え、そういえば」
新聞の白黒の紙面にハッキリと記載されている、彼女たちの顔写真。
そこに写った交際相手という男の顔は、間違いなく。
「えっ……ウソ。じゃあまさか、割田さん……」
彼女の表情に、怯えと恐怖が浮かびます。
「うん。……幽霊、見ちゃったのかも……」
私が見た男性。
顔色が悪く、いっさいしゃべらない不気味な男。
交際相手に山中に遺棄されたという男性の顔に、非常に酷似していました。
「……まいったねぇ。しかし、殺した女と殺された男、か。
どっちにしたって……山んなかで出会いたくなんてないねぇ」
勢いを落としたパート仲間は、
丁寧に新聞を折りたたみながら、そう締めくくりました。
そののち、やはりその女性は死体遺棄のほかに殺人容疑もかけられ、
いはま裁判のまっ最中のようです。
ああ、そうそう。
一つ断っておきますと。
私が見たあの男の人ね。
あのタイミングで、まだ生きていた……って可能性はね、無いんですよ。
あの山に交際相手の女性が来た時点で……
男性はすでに、殺されていたそうですから。
だから、もしかしたら……いや、きっと。
あの岩場に落ちそうになったのだって――
私を、つれていこうとしたのでしょう。
交際相手に殺され、山に放られ、
そんなところに一人、のうのうと山菜採りに来た、私を。
……もう、老い先長くない人間ですがねぇ。
幽霊につれていかれるのだけは、ご勘弁願いたいところですよ。
つたない話を聞いてくださってありがとう。
私の話は、これでおしまいです。
下を見たときにはもう遅し。
山の傾斜、わずかに崖のようになっている場所まで、
私たちは後退してきていたのです。
真下には、ボコボコと突出した岩がいくつも。
落ちたら、間違いなくアレに激突してしまう――。
「危ないッ!!」
と、ガシッと両腕をつかまれ、
私は大地に引き戻されました。
「え、あ、あ……?」
平らな大地にペタンと腰をつけ、顔を上げると、
「あっぶない……大丈夫だった? 割田さん」
「ホントだよ……もうちょっとで、まっ逆さまだったんだぞ?」
そこには、山菜採りの仲間の二人が、
心配そうなまなざしでこちらを見下ろしていました。
「あ、あ……ありがとう。助かったよ」
「よかった、無事で。姿が見つからなくって、心配してたんだよ」
「いやぁ……迷惑かけちゃったねぇ、ごめんよ」
ひとりでズンズンと山深い方へ入っていたのは、
完全に自分の落ち度です。
まさか、こんな山中で不審者にあって、
その上、崖から転げ落ちそうになるなんて――。
「あ……! あの男の人……!」
ハッとして、さきほどまで男のいた方向を見やります。
しかし。
「……あれ?」
そこには、ただただ山の緑がうっそうと生い茂るだけ。
(もしかして……ここまで誘導するために?)
ゾッ、と体に震えが走りました。
仲間たち二人が来てくれなければ、
私はあの岩場の上にまっ逆さま。
きっと、お陀仏だったでしょう。
あの男性は、まさかそれを狙って――?
私がひとり、恐ろしい想像にブルブルと震えていると、
仲間たち二人も、なぜか不安そうに周囲を見回して、
なにやら話をし始めました。
「よかった……あの女の人、こっちまでついてこなかったね」
「なんだったんだろうなぁ……気持ち悪ィ感じだったけど」
「え、女の……人?」
私が疑問の声を上げると、
彼らはうんうんと頷きながら、
「そうなんだよねぇ。さっきね、顔色のわるーい女の人が、ずーっとこっちを見てて」
「後もつけられてたから、ちょっと駆け足でこっちに来たんだけど……どっか行ったみたいだな」
と、二人は困ったように笑います。
そんな彼らに、私はおそるおそる先ほどまでのことを話しました。
「じつは……わたしも、さっき変な人に追いかけられたのよ」
「えっ……割田さんも?」
「ウソだろ、オイ……なんか、ヘンな宗教団体かなんかか?」
仲間の二人は、両腕で体をさすりながら顔を引きつらせました。
「わからないけど……明らかにふつうじゃなかったよ。
一言もしゃべらなかったし……さっき落ちそうになったのだって、その人から逃げようとしたからだし」
「マズいなぁ……さっさとみんなと合流して、山から下りた方がいいな」
「うん……他のみんなの安否も心配だし」
二人の顔つきも、グッと真剣なモノに変わりました。
不審者が、二人も。
いや、二人だけならばともかく、
仲間を連れて、もっと大勢いる可能性だってあります。
私たちは、見えない恐怖に急かされるようにして、
慌ててみんなのいる方へと戻ったのでした。
そののち、無事に仲間たちと合流して話を伺うと、
他の幾人かも、山にひそむ女性の姿を見たというのです。
「いやぁ、なーんか顔色おかしいし、こっちを見る目がね……気持ちわるかったわぁ」
「ありゃあ、もしかしたら人間じゃなかったんじゃないかねぇ」
なんて言う仲間もいいるくらいで、
よほど、その女性というのも不気味だったようです。
しかし、
「えっ……男の人? いいや、オレは見なかったなぁ」
「あたしたちも……女の子は見たけどねぇ」
といった風に、
私が見た男性の目撃情報はありません。
(……その女の人の連れ、だったのかねぇ)
結局、彼らの正体は謎のまま。
私たちはなにごともなく帰ったのですが、後日。
「割田さん! 割田さん、新聞みた!?」
「えっ……新聞?」
パート出勤したスーパーで、
先日山菜採りに参加したメンバーに肩を掴まれました。
「ほらほら、ここ! ココ見て!!」
「え、ええ……」
異常に興奮した様子の彼女の手にした新聞に目を向けると、
『山中で遺体発見 遺棄容疑で交際相手を逮捕』
という見出しが、大きく掲載されていました。
「ここ……この山! この間、山菜採りに行ったところだよ!!」
彼女はバンバンと机をたたきながら、
顔をまっ赤にしたまま続けました。
「この間、山んなかで見たあの女! あの女の人だったんだよ……!!」
「えっ……」
「ほら、ここ! 年齢もそれくらいだし、間違いないよ!!」
まくしたてる彼女の言葉に、
私はゾワゾワと悪寒が全身にかけ巡るのを感じました。
では、あの山菜採りのときにみんなが見たという、女の人は?
まさか――まさか。
「怖いよねぇ、まさかこんな身近でそんなコトが……って、割田さん?」
「……わたし、男の人見た、って言ったでしょ?」
「あ……え、そういえば」
新聞の白黒の紙面にハッキリと記載されている、彼女たちの顔写真。
そこに写った交際相手という男の顔は、間違いなく。
「えっ……ウソ。じゃあまさか、割田さん……」
彼女の表情に、怯えと恐怖が浮かびます。
「うん。……幽霊、見ちゃったのかも……」
私が見た男性。
顔色が悪く、いっさいしゃべらない不気味な男。
交際相手に山中に遺棄されたという男性の顔に、非常に酷似していました。
「……まいったねぇ。しかし、殺した女と殺された男、か。
どっちにしたって……山んなかで出会いたくなんてないねぇ」
勢いを落としたパート仲間は、
丁寧に新聞を折りたたみながら、そう締めくくりました。
そののち、やはりその女性は死体遺棄のほかに殺人容疑もかけられ、
いはま裁判のまっ最中のようです。
ああ、そうそう。
一つ断っておきますと。
私が見たあの男の人ね。
あのタイミングで、まだ生きていた……って可能性はね、無いんですよ。
あの山に交際相手の女性が来た時点で……
男性はすでに、殺されていたそうですから。
だから、もしかしたら……いや、きっと。
あの岩場に落ちそうになったのだって――
私を、つれていこうとしたのでしょう。
交際相手に殺され、山に放られ、
そんなところに一人、のうのうと山菜採りに来た、私を。
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