【電子書籍化】ホラー短編集・ある怖い話の記録~旧 2ch 洒落にならない怖い話風 現代ホラー~

榊シロ

文字の大きさ
315 / 415

123.井戸の怪異③(怖さレベル:★★☆)

しおりを挟む
もう一度、もう一度見てみようか。
そっと布団の端を掴んで、外の様子を伺おうとしました。

このままなんの確認もしないままでは、
とても再び眠ることなどできませんから。

深呼吸し、わずかに震えの収まった指先で、そうっと布団の端を持ち上げ――

(……ん?)

暗い。室内が真っ暗です。
常夜灯の、ほのかな明かりすらありません。

(どっ……どう、して)

停電? それにしては、やけに静かです。

……シュルッ

目の前の暗闇が、わずかに動きました。

「……え?」

シュッ……ズルッ……ズッ

もぞもぞと。
布団の隙間からの黒い室内が、ズルズルと脈動しています。

まるで、のたうちまわる蛇の表皮――
いや、しっとりと濡れた髪の毛、そのもの。

「……ぃっ!?」

俺は理解できぬまでも、
すぐに隙間を閉じようとしましたが、それよりも早く。

ズルッ、と太い髪の毛が、その隙間から差し込んで――
手首に、ぐるりと巻き付いてきました。

「っわ……わわわぁっ……」

声を殺すことも忘れ、必死に腕から振りほどこうとするものの、しっかり巻き付いたそれは、ぎりぎりと手首を締めあげてきます。

(ウソだろ……っ!?)

暗闇のなか、ずっと息を殺していたのでしょうか。獲物が、しびれを切らして様子を伺うのを待っていたのでしょうか。濡れた冷たい毛髪の感触が、ただただおぞましく染みてきます。

(ありえねぇ……俺、なにもしてねぇんだぞ!!)

恐怖が、一周回って怒りに変わっていきます。
手首にはすでにいくつもの血の筋が流れ、巻き付く量を増していました。

(クソッ……こんなワケわかんねぇもんに殺されてたまるか……っ!!)

俺は痛みと恐怖、そしてこらえようもない怒りで半狂乱に陥り、

「こんの……っ!!」

ブチブチブチッ、と手首に巻き付いた毛髪を引きちぎりました。
その瞬間、

ギョアッ

と、喉のつぶれたヒキガエルのような声とともに、

ズッ……ズズズズズッ

それはまるでひるんだかのように布団の中から逃げ去っていき、

ズルッ……ズズズッ……

濡れた音を響かせ、そのまま消えて行ってしまいました。

(……勝った、のか?)

ちぎった指先には、細い傷跡がいくつも糸のように残り、
絡みつかれた手首はしびれ、未だに感覚がありません。

しかし、あれを退散させた安堵感から、
俺はへなへなと布団に沈みました。

(もう……もう、勘弁してくれ……)

心も体もヘロヘロになった自分は、
そのままいつの間にか、気を失うように眠りに落ちていました。



翌日。

「……朝、か?」

いつもの起床時間に、パチリと目を覚ましました。

(手……あ、あの痕、残ってる……)

手首と指先のどちらにも生々しい傷跡がくっきりと残っており、
昨夜のことが現実だと知らせています。

(あ……あいつらは)

同期と例の三人はというと、いつの間に戻ってきたのやら、
四人の布団はこんもりと丸まっています。

(なんだよ……俺だけか? あんな思いしたの)

なんの落ち度もないというのに怪奇現象にあい、
俺は少々イラっとして、未だ布団にもぐったままの新人三人のうち、
一つの布団をガバッとはがしました。

「オイ、お前ら、もう朝……」

びちゃっ。

濡れた音とともに、めくった先にあったのは人ではなく――
しどどに濡れた、大量の髪の毛の束。

「ぎゃぁぁああ!!」

俺は悲鳴を上げ、その場に腰を抜かしてしまいました。

「……なんだよぉ、お前。朝っぱらから勘弁……うわっ」

と、寝ていたらしい同期がむくりと起き上がり、
俺とその布団の惨状を見て目を向いています。

「オイッ! なに騒いでるんだっ!!」

俺の悲鳴につられてか、
指導員たちがどやどやと部屋へ入ってきました。

「うわっ……なんだこれ」
「気持ち悪……っ」

と、怒鳴りこんできた彼らですら、
その布団の上の異物を見て言葉を失っています。

他の二名の布団を指導員たちがめくれば、
そちらも同様に、中にみっちりと黒い髪の毛が詰まっていました。

「おい……あいつら三人は……?」
「そういえば……」

その上、新人三人の姿が見えません。俺が慌てて、
昨夜肝試しに出ると言っていた旨を伝えると、
彼らは血相を変えて探しに行きました。

あの焦りっぷり……ただ新人が行方不明になった以上の、
なんらかの恐怖が見えました。

そして……結局彼ら三人はあの封鎖された古井戸の近くで、
仲良く気を失っているのが発見されたようです。

俺と同期は先に帰され、また聞きの話なってしまうのですが、
彼ら三人はひどく憔悴していて、事情を聞いても支離滅裂で要領を得なかったようです。

結局、せっかく合宿を耐え抜いたというのに、
そのうち二人は退職し、その後の行方はしれません。

唯一残った一人も、その日のことを尋ねても固く口を閉ざし、
話してくれませんでしたが――ようやく、あれから数年たった今、
その全容を語ってくれたのです。

ええ……俺の後に……いや、その前にまず、あの日、
トイレに出て行った、同期からの話があるようです。

引き続き、ぜひお聞きください。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

意味が分かると怖い話(解説付き)

彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです 読みながら話に潜む違和感を探してみてください 最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください 実話も混ざっております

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

だんだんおかしくなった姉の話

暗黒神ゼブラ
ホラー
弟が死んだことでおかしくなった姉の話

百の話を語り終えたなら

コテット
ホラー
「百の怪談を語り終えると、なにが起こるか——ご存じですか?」 これは、ある町に住む“記録係”が集め続けた百の怪談をめぐる物語。 誰もが語りたがらない話。語った者が姿を消した話。語られていないはずの話。 日常の隙間に、確かに存在した恐怖が静かに記録されていく。 そして百話目の夜、最後の“語り手”の正体が暴かれるとき—— あなたは、もう後戻りできない。 ■1話完結の百物語形式 ■じわじわ滲む怪異と、ラストで背筋が凍るオチ ■後半から“語られていない怪談”が増えはじめる違和感 最後の一話を読んだとき、

少し怖いホラー短編集(文字数500以下)

仙 岳美
ホラー
文字数500以下のショート集です、難しく無いので気楽にどうぞ。

霊和怪異譚 野花と野薔薇

野花マリオ
ホラー
その“語り”が始まったとき、世界に異変が芽吹く。 静かな町、ふとした日常、どこにでもあるはずの風景に咲きはじめる、奇妙な花々――。 『霊和怪異譚 野花と野薔薇』は、不思議な力を持つ語り部・八木楓と鐘技友紀以下彼女達が語る怪異を描く、短編連作形式の怪異譚シリーズ。 一話ごとに異なる舞台、異なる登場人物、異なる恐怖。それでも、語りが始まるたび、必ず“何か”が咲く――。 語られる怪談はただの物語ではない。 それを「聞いた者」に忍び寄る異変、染みわたる不安。 やがて読者自身の身にも、“あの花”が咲くかもしれない。 日常にひっそりと紛れ込む、静かで妖しいホラー。 あなたも一席、語りを聞いてみませんか? 完結いたしました。 タイトル変更しました。 旧 彼女の怪異談は不思議な野花を咲かせる ※この物語はフィクションです。実在する人物、企業、団体、名称などは一切関係ありません。 エブリスタにも公開してますがアルファポリス の方がボリュームあります。 表紙イラストは生成AI

最終死発電車

真霜ナオ
ホラー
バイト帰りの大学生・清瀬蒼真は、いつものように終電へと乗り込む。 直後、車体に大きな衝撃が走り、車内の様子は一変していた。 外に出ようとした乗客の一人は身体が溶け出し、おぞましい化け物まで現れる。 生き残るためには、先頭車両を目指すしかないと知る。 「第6回ホラー・ミステリー小説大賞」奨励賞をいただきました!

それなりに怖い話。

只野誠
ホラー
これは創作です。 実際に起きた出来事はございません。創作です。事実ではございません。創作です創作です創作です。 本当に、実際に起きた話ではございません。 なので、安心して読むことができます。 オムニバス形式なので、どの章から読んでも問題ありません。 不定期に章を追加していきます。 2026/1/2:『そうしき』の章を追加。2026/1/9の朝4時頃より公開開始予定。 2026/1/1:『いえい』の章を追加。2026/1/8の朝4時頃より公開開始予定。 2025/12/31:『たこあげ』の章を追加。2026/1/7の朝4時頃より公開開始予定。 2025/12/30:『ねんがじょう』の章を追加。2026/1/6の朝4時頃より公開開始予定。 2025/12/29:『ふるいゆうじん』の章を追加。2026/1/5の朝4時頃より公開開始予定。 2025/12/28:『ふゆやすみ』の章を追加。2026/1/4の朝4時頃より公開開始予定。 2025/12/27:『ことしのえと』の章を追加。2026/1/3の朝8時頃より公開開始予定。 ※こちらの作品は、小説家になろう、カクヨム、アルファポリスで同時に掲載しています。

処理中です...