【電子書籍化】ホラー短編集・ある怖い話の記録~旧 2ch 洒落にならない怖い話風 現代ホラー~

榊シロ

文字の大きさ
353 / 415

138.新しい家③(怖さレベル:★★☆)

しおりを挟む

……イー……

それでも、指で耳をふさいでも、音が漏れ聞こえてきます。

甲高い、木のきしむような音。
さっき階段を上った時に聞いた、音。

……ギッ……

音が、音が――近づいてきている。

ゾッ、と全身が総毛だちました。

音のする背後から、ジットリとした生暖かさを感じます。
首筋に汗が流れても、身動きひとつとれません。

……ギシッ……ギギッ……

違う。これは、階段の音じゃない。

私はそれに気づいて、愕然としました。

木材がきしむ音、金属がこすれ合う音。
これは、そのどちらとも違います。

そう、例えば。

前歯同士を強くこすり合わすような、
強烈な歯ぎしりに似た、音。

なにかが。
なにかが階段を上って、私の後ろに立っている。

……キィ……ギギッ……

キィキィと歯をむき出して、
フローリングの床を、ギシギシときしませて近づいて。

――すぐ後ろに。

(ヤバイ……ヤバイ、ヤバい!!)

なにものかが、すぐ真後ろにいるのがわかります。

ふぅっ、と背中に生ぬるい息が吹きかかり、
ギシギシときしむ歯の音が聞こえてきます。

(ヤバイ……ヤバイ……!!)

逃げないと。

でも、いったいどこへ??

私は、とっさに両目を開きました。

開かれた視界の先、
パニックに陥った私の思考に浮かぶ逃げ道は、たった一つ。

真っ正面――すなわち、バルコニーの向こう。

(ここなら、行ける――!)

背後の、恐ろしいなにかに襲われるくらいなら。

この、バルコニーの向こうへ飛び降りてしまえば、
逃げられる――!!

……ギギッ、ギッ……

(はやく……早く!!)

私は素早く走ってバルコニーへ出ると、
そのまま上半身を思い切り持ち上げて――

「姉ちゃん!!」
「わっ!?」

そのまま、空に身を投げる直前、
弟の大声によって引き留められました。

「……ちょっと!! あんた、なにしてんの!!」

と、続いて二階に上がってきた母に思いっきり腕をひっぱられ、
私はバルコニーの上にひっくり返りました。

私の後ろには、目を見開いて驚いた表情の弟と、
焦りと怒りで顔を真っ赤にした母の姿があったんです。

「あれ……?」

直前まで感じていた恐ろしい気配は消え、
あのギシギシ音も聞こえません。

当然、歯をむき出してフローリングの床を這いずる影など、
どこにも存在していませんでした。

私がぽかんと大口を開けているのを見かねてか、
母はつかんだ腕をさらに引っ張って、私のことを抱きしめました。

「あんたね……あとちょっとで、そこのベランダから真っ逆さまに落ちるところだったんだよ!!」
「……え」

私はまだボーッとしながらも、抱きしめられたまま、
首をぐるっと回してバルコニーの下を見下ろしました。

一軒家の二階、さほど高さがあるわけではありません。

しかし、真下は駐車場の明日ファスト。
もしも、頭から落ちていたりしたら、
軽いケガではすまなかったかもしれません。

今更ながら、自分のやろうとしたことの恐ろしさに気づいて、
私は足がすくみました。

「なあ、母さん。おれ……やっぱこの家、イヤなんだけど」

ジッ、と私を見ていた弟が、ボソリとつぶやきました。

「……合わないよ、この家。絶対に、イヤだ」

弟は私から視線を部屋の中に戻して、
冷たい口調で言いました。

私もつられるように弟の視線を追ったものの、
一瞬、ふわっと白いなにかが見えた気がして、
慌てて目をそらしました。

「そうだね……母さんも、間取りとかいろいろ気になることもあるしね。それに、あんたも調子悪そうだし」
「え……あ、うん……」

実際、バルコニーから飛び降りようとしてから、
妙に体がダルい感じがしていました。

フワフワとおぼつかない足取りの私を、
弟はしかめっ面でジーッと見ています。

母は、私の様子がおかしいのが心配らしく、
階段を下りるときも、一段一段、こちらのことを振り返っていました。

おかげで、というべきか、登るときに感じた妙な感覚もなく、
無事に一階へ降り、私たちは家から出たんです。

様子がおかしい私たちを見て、
案内の人と父は困惑していましたが、
結局そのまま、次の家へ向かうことになりました。

去り際、ひとつドン、という地鳴りのような音が
家の方角から聞こえた気がしましたが、
私はもう、振り返る気にもなれませんでした。

その後の内見では、特になにが起きることもなく、
最終的に、父の会社に近かった、別の家に自然と決まったんです。

冷静に考えれば、私が妙な幻覚を見て、
飛び降り未遂をした、というだけの話。

実際に幽霊を見たわけでも、誰かに突き落とされたわけでもありません。

しかし――ようやく引っ越しが終わって、
新しい家になじみ始めていた頃。

こんなニュースが、耳に飛び込んできたんです。

『〇〇町で、女性の飛び降り自殺があった』

ええ……〇〇町は、あの四角い中古住宅のあった地区。

それも、亡くなった女性はまさに、
あの住宅の真正面にあった、マンションの住人だったとか。

時間まではわかりませんが、
日付もまさに、ピタリと一致していました。

……ただの。ただの、偶然……かもしれません。
あの謎の動きをしていた女性じゃない、かもしれない。

でも、もしかしたら。

あの、ギィギィと鳴く歯ぎしりの音のヌシは、彼女だったのか。
それとも、あの家に住み着いていた白髪のなにかだったのか。

わかりません――わかりません、が。

怪奇現象なんて起こらない平和な家を選べて、
本当に良かったと思っています。

話を聞いてくださって、ありがとうございました。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

意味が分かると怖い話(解説付き)

彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです 読みながら話に潜む違和感を探してみてください 最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください 実話も混ざっております

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

だんだんおかしくなった姉の話

暗黒神ゼブラ
ホラー
弟が死んだことでおかしくなった姉の話

百の話を語り終えたなら

コテット
ホラー
「百の怪談を語り終えると、なにが起こるか——ご存じですか?」 これは、ある町に住む“記録係”が集め続けた百の怪談をめぐる物語。 誰もが語りたがらない話。語った者が姿を消した話。語られていないはずの話。 日常の隙間に、確かに存在した恐怖が静かに記録されていく。 そして百話目の夜、最後の“語り手”の正体が暴かれるとき—— あなたは、もう後戻りできない。 ■1話完結の百物語形式 ■じわじわ滲む怪異と、ラストで背筋が凍るオチ ■後半から“語られていない怪談”が増えはじめる違和感 最後の一話を読んだとき、

少し怖いホラー短編集(文字数500以下)

仙 岳美
ホラー
文字数500以下のショート集です、難しく無いので気楽にどうぞ。

霊和怪異譚 野花と野薔薇

野花マリオ
ホラー
その“語り”が始まったとき、世界に異変が芽吹く。 静かな町、ふとした日常、どこにでもあるはずの風景に咲きはじめる、奇妙な花々――。 『霊和怪異譚 野花と野薔薇』は、不思議な力を持つ語り部・八木楓と鐘技友紀以下彼女達が語る怪異を描く、短編連作形式の怪異譚シリーズ。 一話ごとに異なる舞台、異なる登場人物、異なる恐怖。それでも、語りが始まるたび、必ず“何か”が咲く――。 語られる怪談はただの物語ではない。 それを「聞いた者」に忍び寄る異変、染みわたる不安。 やがて読者自身の身にも、“あの花”が咲くかもしれない。 日常にひっそりと紛れ込む、静かで妖しいホラー。 あなたも一席、語りを聞いてみませんか? 完結いたしました。 タイトル変更しました。 旧 彼女の怪異談は不思議な野花を咲かせる ※この物語はフィクションです。実在する人物、企業、団体、名称などは一切関係ありません。 エブリスタにも公開してますがアルファポリス の方がボリュームあります。 表紙イラストは生成AI

最終死発電車

真霜ナオ
ホラー
バイト帰りの大学生・清瀬蒼真は、いつものように終電へと乗り込む。 直後、車体に大きな衝撃が走り、車内の様子は一変していた。 外に出ようとした乗客の一人は身体が溶け出し、おぞましい化け物まで現れる。 生き残るためには、先頭車両を目指すしかないと知る。 「第6回ホラー・ミステリー小説大賞」奨励賞をいただきました!

それなりに怖い話。

只野誠
ホラー
これは創作です。 実際に起きた出来事はございません。創作です。事実ではございません。創作です創作です創作です。 本当に、実際に起きた話ではございません。 なので、安心して読むことができます。 オムニバス形式なので、どの章から読んでも問題ありません。 不定期に章を追加していきます。 2026/1/2:『そうしき』の章を追加。2026/1/9の朝4時頃より公開開始予定。 2026/1/1:『いえい』の章を追加。2026/1/8の朝4時頃より公開開始予定。 2025/12/31:『たこあげ』の章を追加。2026/1/7の朝4時頃より公開開始予定。 2025/12/30:『ねんがじょう』の章を追加。2026/1/6の朝4時頃より公開開始予定。 2025/12/29:『ふるいゆうじん』の章を追加。2026/1/5の朝4時頃より公開開始予定。 2025/12/28:『ふゆやすみ』の章を追加。2026/1/4の朝4時頃より公開開始予定。 2025/12/27:『ことしのえと』の章を追加。2026/1/3の朝8時頃より公開開始予定。 ※こちらの作品は、小説家になろう、カクヨム、アルファポリスで同時に掲載しています。

処理中です...