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139.マンホールの中の手①(怖さレベル:★★☆)
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(怖さレベル:★★☆:ふつうに怖い話)
よく、道路のまんなかにポツンとあるマンホール。
アレって、なんていうか、不思議な存在ですよね。
あの下にはただ、水が流れているだけってわかってはいても、
あの下にはなにか不思議な空間があるような、そんな気がする、というか。
水道局の人が検査したり、下水管理がちゃんとされてるってわかってはいるんですが、
おれたち一般人は、実際にはその中を見ることがなかなかないせいか、
どうにも怪しいイメージが湧いてきてしまうんですよね。
スパイ映画だと、あの下に潜んでみたり、なんてこともあるくらいですし。
それで、アレは確か……そう、おれが高校二年の頃のことです。
追試を受けた日の帰り、通学路を歩いていたんです。
追試だけだったら、まだ明るい時間に帰れたんでしょうが、
その後友だちと気晴らしにカラオケに行っていたので、
空はもうずいぶんと真っ暗になっていました。
時間は、だいたい夜の八時くらいでしょうか。
駅から自宅までの道のりを、おれはときどきスマホをチェックしつつ、ダラダラ歩いていました。
昼過ぎまで降り続いた雨の影響で、地面はあっちこっちびしょ濡れで、
すでにいくつも水たまりを作っています。
暗いアスファルト舗装の道を、街灯の白っぽい光が照らして、
妙にテカテカヌメヌメと、うす気味悪く光を反射していました。
ときどき電柱から落ちてくる水滴にうへぇと思いながら、
夜八時過ぎの住宅街のアスファルトを歩きます。
友人から送られてくる、たわいもないメッセージに適当に返事していると、
道の向こうから入ってきた自転車が、ベルを鳴らしつつおれの横を通りすがっていきました。
ピシャッと水しぶきが跳ねて、おれの方に泥が飛んできます。
(うわっ、あり得ねぇ……!)
携帯に水滴がかかり、おれは慌ててティッシュで水気を拭いた後、
カバンの中へ放り込みました。
うっかり壊れてしまったらかなりの出費です。
水たまりにでも落としてしまったら、さらに恐ろしい。
おれは、追試で使っていた教科書の詰め込まれたカバンを背負い直しつつ、
水たまりをよけつつ少しだけ速足で歩き出しました。
遠く、大通りの方からは、
車のタイヤがバシャバシャと水を跳ね飛ばしている音が聞こえてきます。
夏のジメジメした空気がなんともどんより湿っぽくて、
街灯の白い明かりだけのあまりの不気味さに、ちょっと驚いたほどです。
靴の裏がビシャッ、と水たまりを踏んづけて、
避けたおれの足が、固いマンホールの上に足が乗っかりました。
ゴトン
勢いが良すぎたのか、思ったよりも激しい音が周囲に響き渡りました。
静かな空気の中、マンホールの音はやけに大きく耳につきます。
おれはなんだか悪いことをしたような気がして、慌てて足を進めました。
暑かったはずの空気が、やけに冷たく感じてきます。
暗くて、ジメジメしていて、水たまりの音がする。
いつもだったら、別になにも気にしない通学路であるのに、
なんだか今は、まるで初めて通る道のようでした。
ゴトン
小走りになった足が、また、マンホールを踏みしめました。
重たい、腹に響くような音です。
あっちこっちに水たまりがあるせいで、靴が濡れない場所を選ぶと、
自然と道のまんなか、マンホールの付近を歩くことになります。
ぴしゃぴしゃと、水をすこしずつ跳ね飛ばしながら、
おれは速足で歩を進めている、と。
ゴトン、ガンッ
「えっ?」
再び乗り上げたマンホールで、ふと、足に衝撃を感じました。
体重をかけた乗ったマンホールから、
こう、打ち上げられるような振動を感じたんです。
いわば、蓋の裏側から押し上げられるような、そんな違和感。
おれは思わずマンホールの上から飛びのいて、
その場で立ち止まってしまいました。
「……今の……?」
まさか、こんな遅い時間にマンホールの点検なんてしているわけがありません。
じゃあ、今のは?
カン違いだっただろうか、と、おれが靴の裏とマンホールとを見比べていた時です。
ガンッ
マンホールのふたが、また、わずかに持ち上がりました。
「え……?」
ガンッ、ゴンッ
激しい音を立てて、蓋が揺れています。
まるで、下から持ち上げようとして、失敗しているかのように。
降水量が多くて、あふれ出そうとしている?
おれは一瞬そう思った後、ふと、
マンホールについている穴の部分に目が吸い寄せられました。
街灯の、蛍光灯の白い光に照らされて、
その穴の中から、なにか白いモノがウネウネと動いています。
水? いや、違います。
にゅるにゅると、まるで太いイモムシのようなものが、蠢いているんです。
見間違いかと、何度か瞬きして――ヒッ、と悲鳴がこぼれました。
マンホールのその穴からウネウネと飛び出しているのは、
生っ白く血の気を失った、人間の指だったんです。
「うわ、わ……っ!!」
あまりの驚きに、おれはその場で腰を抜かしかけました。
しかし、ここで止まっていたら危険だと、無理やり足を動かして、走り出したんです。
足は力が入らずヘロヘロだったものの、なんとか前へ前へと、足を奮い立たせます。
こんな雨が大量に降った日に、マンホールの下に人がいるなんてありえない。
それに、万が一居たとしても、水道局の人間が穴の中から指を出すなんてこと、するだろうか?
「見間違い……見間違いだ、きっと」
おれはブツブツと自分自身に言い聞かせつつ、
家までの長い道のりを走りました。
しかし途中、マンホールのふたを蹴飛ばすたびに、
ゴトンッ、ガコッ
ゴトン、ゴゴッ
よく、道路のまんなかにポツンとあるマンホール。
アレって、なんていうか、不思議な存在ですよね。
あの下にはただ、水が流れているだけってわかってはいても、
あの下にはなにか不思議な空間があるような、そんな気がする、というか。
水道局の人が検査したり、下水管理がちゃんとされてるってわかってはいるんですが、
おれたち一般人は、実際にはその中を見ることがなかなかないせいか、
どうにも怪しいイメージが湧いてきてしまうんですよね。
スパイ映画だと、あの下に潜んでみたり、なんてこともあるくらいですし。
それで、アレは確か……そう、おれが高校二年の頃のことです。
追試を受けた日の帰り、通学路を歩いていたんです。
追試だけだったら、まだ明るい時間に帰れたんでしょうが、
その後友だちと気晴らしにカラオケに行っていたので、
空はもうずいぶんと真っ暗になっていました。
時間は、だいたい夜の八時くらいでしょうか。
駅から自宅までの道のりを、おれはときどきスマホをチェックしつつ、ダラダラ歩いていました。
昼過ぎまで降り続いた雨の影響で、地面はあっちこっちびしょ濡れで、
すでにいくつも水たまりを作っています。
暗いアスファルト舗装の道を、街灯の白っぽい光が照らして、
妙にテカテカヌメヌメと、うす気味悪く光を反射していました。
ときどき電柱から落ちてくる水滴にうへぇと思いながら、
夜八時過ぎの住宅街のアスファルトを歩きます。
友人から送られてくる、たわいもないメッセージに適当に返事していると、
道の向こうから入ってきた自転車が、ベルを鳴らしつつおれの横を通りすがっていきました。
ピシャッと水しぶきが跳ねて、おれの方に泥が飛んできます。
(うわっ、あり得ねぇ……!)
携帯に水滴がかかり、おれは慌ててティッシュで水気を拭いた後、
カバンの中へ放り込みました。
うっかり壊れてしまったらかなりの出費です。
水たまりにでも落としてしまったら、さらに恐ろしい。
おれは、追試で使っていた教科書の詰め込まれたカバンを背負い直しつつ、
水たまりをよけつつ少しだけ速足で歩き出しました。
遠く、大通りの方からは、
車のタイヤがバシャバシャと水を跳ね飛ばしている音が聞こえてきます。
夏のジメジメした空気がなんともどんより湿っぽくて、
街灯の白い明かりだけのあまりの不気味さに、ちょっと驚いたほどです。
靴の裏がビシャッ、と水たまりを踏んづけて、
避けたおれの足が、固いマンホールの上に足が乗っかりました。
ゴトン
勢いが良すぎたのか、思ったよりも激しい音が周囲に響き渡りました。
静かな空気の中、マンホールの音はやけに大きく耳につきます。
おれはなんだか悪いことをしたような気がして、慌てて足を進めました。
暑かったはずの空気が、やけに冷たく感じてきます。
暗くて、ジメジメしていて、水たまりの音がする。
いつもだったら、別になにも気にしない通学路であるのに、
なんだか今は、まるで初めて通る道のようでした。
ゴトン
小走りになった足が、また、マンホールを踏みしめました。
重たい、腹に響くような音です。
あっちこっちに水たまりがあるせいで、靴が濡れない場所を選ぶと、
自然と道のまんなか、マンホールの付近を歩くことになります。
ぴしゃぴしゃと、水をすこしずつ跳ね飛ばしながら、
おれは速足で歩を進めている、と。
ゴトン、ガンッ
「えっ?」
再び乗り上げたマンホールで、ふと、足に衝撃を感じました。
体重をかけた乗ったマンホールから、
こう、打ち上げられるような振動を感じたんです。
いわば、蓋の裏側から押し上げられるような、そんな違和感。
おれは思わずマンホールの上から飛びのいて、
その場で立ち止まってしまいました。
「……今の……?」
まさか、こんな遅い時間にマンホールの点検なんてしているわけがありません。
じゃあ、今のは?
カン違いだっただろうか、と、おれが靴の裏とマンホールとを見比べていた時です。
ガンッ
マンホールのふたが、また、わずかに持ち上がりました。
「え……?」
ガンッ、ゴンッ
激しい音を立てて、蓋が揺れています。
まるで、下から持ち上げようとして、失敗しているかのように。
降水量が多くて、あふれ出そうとしている?
おれは一瞬そう思った後、ふと、
マンホールについている穴の部分に目が吸い寄せられました。
街灯の、蛍光灯の白い光に照らされて、
その穴の中から、なにか白いモノがウネウネと動いています。
水? いや、違います。
にゅるにゅると、まるで太いイモムシのようなものが、蠢いているんです。
見間違いかと、何度か瞬きして――ヒッ、と悲鳴がこぼれました。
マンホールのその穴からウネウネと飛び出しているのは、
生っ白く血の気を失った、人間の指だったんです。
「うわ、わ……っ!!」
あまりの驚きに、おれはその場で腰を抜かしかけました。
しかし、ここで止まっていたら危険だと、無理やり足を動かして、走り出したんです。
足は力が入らずヘロヘロだったものの、なんとか前へ前へと、足を奮い立たせます。
こんな雨が大量に降った日に、マンホールの下に人がいるなんてありえない。
それに、万が一居たとしても、水道局の人間が穴の中から指を出すなんてこと、するだろうか?
「見間違い……見間違いだ、きっと」
おれはブツブツと自分自身に言い聞かせつつ、
家までの長い道のりを走りました。
しかし途中、マンホールのふたを蹴飛ばすたびに、
ゴトンッ、ガコッ
ゴトン、ゴゴッ
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