402 / 415
158.病院の待合室①(怖さレベル:★☆☆)
しおりを挟む
(怖さレベル:★☆☆:微ホラー・ほんのり程度)
あれは、まだ私が大学生だった頃。
突然、妹が深夜に高熱を出して、
母と付き添いで、緊急外来に行ったときのできことでした。
時間は確か、深夜の1時。
気が気じゃない状態で病院にとびこんで、
無事に診察が終わったのが、それから1時間後だったでしょうか。
幸い、緊急性の高い病気ではなく、
妹は入院なしでクスリで様子を見ることになったんです。
熱でもうろうとする妹を母が車へつれていったので、
私はひとり、支払い待ちで待合室に座っていました。
緊急外来は、ほとんど人がいません。
待合室にひとり、男の人が座っているだけ。
その人は室内でありながら帽子を深々とかぶっていて、
俯いて両手で顔を覆っています。
この人も付き添いなんだろうか、なんて思いつつ、
私は携帯を片手に、ぼんやりと時間を潰していました。
時間は深夜2時をすっかり過ぎて、
待合室は、鬱々とした空気感に満ちています。
(……あ。男の人、行っちゃった)
待合室の天井近くにあるディスプレイに数字が表示されて、
1人だけいた男の人が、診察室へと消えていきます。
受付には看護師さんがいるものの、
待合席からは、通路を挟んで向こう側。
ひとりになった私は、心細さでなんとなく周囲を見回しました。
深夜ゆえか、点いている明かりは最小限。
天井の蛍光灯は中央のひとつを残して消えていて、
待合室に並んでいるイスの色が、私の席と端っこの席では、まるで違う色のように見えてきます。
端っこに置かれた観葉植物も、エアコンの風でゆらゆら揺れています。
普段なら緑に癒されるはずなのに、
まるで夜に見るヤナギのように、どこか不気味な影を背負っているように見えました。
(呼ばれないなぁ……順番)
手元にある受付札と、ディスプレイを何度も見比べつつ、
ハア、と肩を落としました。
時間つぶしに、最近放置していたスマホ内のアルバムでも整理しようかな、
なんて思い、撮影画像の一覧をぼーっと開きました。
(……あれ? なんだこれ)
新しい画像データに、撮影した覚えのない黒っぽくブレた写真が、4枚ほど入っています。
気づかない間に手でも触れて撮っちゃってたのかな、なんて思いつつ、
いつ撮影したのかとデータを確認すると、
「え……? 今さっき……?」
時刻は、今日の2時11分。
今の時間は、2時13分。ほんの、2分前です。
(た、たぶん……さっきいじってた時に撮影しちゃったんだ、きっと……)
カメラアプリを開いてなんてないし、
さっきはSNSを眺めていたはず、という記憶を無視して、
私はすべての写真を削除しました。
すっかり写真を整理する気がなくなってしまい、
私は元通り、SNSのアプリを開きました。
時間は、深夜2時過ぎ。
友だちはすっかり寝ているようですが、
深夜帯が活動時間の人たちのたわいもない投稿が流れてきて、
少しだけ、心が落ち着いてきました。
ボーっと眺めて情報を追っていると、
SNSアカウントに、通知が届いているのに気づきました。
「……誰だろ」
通知を開いて確認すると、
見たことのないアカウントから、DMが入っています。
アカウント名は、規則性のないアルファベットの羅列。
どうせ業者が送ってきた無差別メールだろう、
なんて思いつつ、ブロックする前に内容だけ確認しておこう、
とDMを開くと、
「……ヒッ!」
思わず、スマホをソファの上に落としてしまいました。
DMには、メッセージが4つ。
すべて、画像つき。
それも、さっき削除したはずの、あのブレたような黒い画像が――。
(え、え? なんで……おかしいでしょ……!!)
取り落としたスマホを、にらむように見つめました。
さっき画像フォルダに入っていた謎の写真。
――それが、DMを通じて送られてくる?
ただのイタズラにしては異常だし、どうやったのかもわかりません。
ただ、なんだかわからない悪寒が襲ってきて、
私が、両手で自分の体を抱きしめた、その時。
スルッ……
「……っ!?」
足首に冷たい風を感じて、
両足をバッと上に持ち上げました。
今、なにか。
足首に、なにかが、触れた――?
足からスリッパがすり抜けて、ぽすん、と床に落ちます。
震える手で足首をさすりつつ、
私は、ジッ、と自分の足を見つめました。
ソファの下が、気になる。
でも、見たくない。
もし、見て。
見て――なにかが、いたら?
私は、ソファの上のスマホをおそるおそる拾い、時刻を確認しました。
『02:16』
まだ、さっきから3分しか、進んでいません。
ディスプレイにも、まだ番号は表示されません。
たったひとりの待合室は、シン、と静まりかえったまま。
夜中の病院。
ひと気もない。
改めて考えると恐ろしい状況に、
じわりじわりと、恐怖が足元から這い上がってきます。
ゴオッ
と、突然、後ろから風の音が聞こえて、
私は跳びあがりそうになりました。
慌てて振り向くと、端っこに置かれた空気清浄機が、
赤いランプを点して、急に稼働を始めたようでした。
(な、なんだ……ビックリした……)
驚き損だった、と胸を撫でおろしたものの、
ん? と疑問が浮かびました。
(さっきまで稼働してなかったのに……急にどうしたんだろ? 誰か来たわけでもないし、空気がよどむようなことなんて……)
空気清浄機のランプは、まだ赤く光っています。
さっきまでは、青いランプが点灯していたのに。
今の待合室の空気が、汚れている?
それってまさか――なにかが『いる』という、こと?
たどり着いた思考に、私はゾワッと背筋が冷たくなりました。
スマホに入っていた謎の写真。
SNSに入ってきた怪しいDM。
足首を撫でたなにかの気配。
(いや……そんな……まさか……!)
身を縮こまらせて、私は震えました。
深夜2時の病院、ひとりきり。
なにかが起きる要素は、確かに揃っています。
(早く……早く、呼ばれないかな……)
番号が、呼ばれたら。
もしくは、母が早く戻ってきてくれたら。
>>
あれは、まだ私が大学生だった頃。
突然、妹が深夜に高熱を出して、
母と付き添いで、緊急外来に行ったときのできことでした。
時間は確か、深夜の1時。
気が気じゃない状態で病院にとびこんで、
無事に診察が終わったのが、それから1時間後だったでしょうか。
幸い、緊急性の高い病気ではなく、
妹は入院なしでクスリで様子を見ることになったんです。
熱でもうろうとする妹を母が車へつれていったので、
私はひとり、支払い待ちで待合室に座っていました。
緊急外来は、ほとんど人がいません。
待合室にひとり、男の人が座っているだけ。
その人は室内でありながら帽子を深々とかぶっていて、
俯いて両手で顔を覆っています。
この人も付き添いなんだろうか、なんて思いつつ、
私は携帯を片手に、ぼんやりと時間を潰していました。
時間は深夜2時をすっかり過ぎて、
待合室は、鬱々とした空気感に満ちています。
(……あ。男の人、行っちゃった)
待合室の天井近くにあるディスプレイに数字が表示されて、
1人だけいた男の人が、診察室へと消えていきます。
受付には看護師さんがいるものの、
待合席からは、通路を挟んで向こう側。
ひとりになった私は、心細さでなんとなく周囲を見回しました。
深夜ゆえか、点いている明かりは最小限。
天井の蛍光灯は中央のひとつを残して消えていて、
待合室に並んでいるイスの色が、私の席と端っこの席では、まるで違う色のように見えてきます。
端っこに置かれた観葉植物も、エアコンの風でゆらゆら揺れています。
普段なら緑に癒されるはずなのに、
まるで夜に見るヤナギのように、どこか不気味な影を背負っているように見えました。
(呼ばれないなぁ……順番)
手元にある受付札と、ディスプレイを何度も見比べつつ、
ハア、と肩を落としました。
時間つぶしに、最近放置していたスマホ内のアルバムでも整理しようかな、
なんて思い、撮影画像の一覧をぼーっと開きました。
(……あれ? なんだこれ)
新しい画像データに、撮影した覚えのない黒っぽくブレた写真が、4枚ほど入っています。
気づかない間に手でも触れて撮っちゃってたのかな、なんて思いつつ、
いつ撮影したのかとデータを確認すると、
「え……? 今さっき……?」
時刻は、今日の2時11分。
今の時間は、2時13分。ほんの、2分前です。
(た、たぶん……さっきいじってた時に撮影しちゃったんだ、きっと……)
カメラアプリを開いてなんてないし、
さっきはSNSを眺めていたはず、という記憶を無視して、
私はすべての写真を削除しました。
すっかり写真を整理する気がなくなってしまい、
私は元通り、SNSのアプリを開きました。
時間は、深夜2時過ぎ。
友だちはすっかり寝ているようですが、
深夜帯が活動時間の人たちのたわいもない投稿が流れてきて、
少しだけ、心が落ち着いてきました。
ボーっと眺めて情報を追っていると、
SNSアカウントに、通知が届いているのに気づきました。
「……誰だろ」
通知を開いて確認すると、
見たことのないアカウントから、DMが入っています。
アカウント名は、規則性のないアルファベットの羅列。
どうせ業者が送ってきた無差別メールだろう、
なんて思いつつ、ブロックする前に内容だけ確認しておこう、
とDMを開くと、
「……ヒッ!」
思わず、スマホをソファの上に落としてしまいました。
DMには、メッセージが4つ。
すべて、画像つき。
それも、さっき削除したはずの、あのブレたような黒い画像が――。
(え、え? なんで……おかしいでしょ……!!)
取り落としたスマホを、にらむように見つめました。
さっき画像フォルダに入っていた謎の写真。
――それが、DMを通じて送られてくる?
ただのイタズラにしては異常だし、どうやったのかもわかりません。
ただ、なんだかわからない悪寒が襲ってきて、
私が、両手で自分の体を抱きしめた、その時。
スルッ……
「……っ!?」
足首に冷たい風を感じて、
両足をバッと上に持ち上げました。
今、なにか。
足首に、なにかが、触れた――?
足からスリッパがすり抜けて、ぽすん、と床に落ちます。
震える手で足首をさすりつつ、
私は、ジッ、と自分の足を見つめました。
ソファの下が、気になる。
でも、見たくない。
もし、見て。
見て――なにかが、いたら?
私は、ソファの上のスマホをおそるおそる拾い、時刻を確認しました。
『02:16』
まだ、さっきから3分しか、進んでいません。
ディスプレイにも、まだ番号は表示されません。
たったひとりの待合室は、シン、と静まりかえったまま。
夜中の病院。
ひと気もない。
改めて考えると恐ろしい状況に、
じわりじわりと、恐怖が足元から這い上がってきます。
ゴオッ
と、突然、後ろから風の音が聞こえて、
私は跳びあがりそうになりました。
慌てて振り向くと、端っこに置かれた空気清浄機が、
赤いランプを点して、急に稼働を始めたようでした。
(な、なんだ……ビックリした……)
驚き損だった、と胸を撫でおろしたものの、
ん? と疑問が浮かびました。
(さっきまで稼働してなかったのに……急にどうしたんだろ? 誰か来たわけでもないし、空気がよどむようなことなんて……)
空気清浄機のランプは、まだ赤く光っています。
さっきまでは、青いランプが点灯していたのに。
今の待合室の空気が、汚れている?
それってまさか――なにかが『いる』という、こと?
たどり着いた思考に、私はゾワッと背筋が冷たくなりました。
スマホに入っていた謎の写真。
SNSに入ってきた怪しいDM。
足首を撫でたなにかの気配。
(いや……そんな……まさか……!)
身を縮こまらせて、私は震えました。
深夜2時の病院、ひとりきり。
なにかが起きる要素は、確かに揃っています。
(早く……早く、呼ばれないかな……)
番号が、呼ばれたら。
もしくは、母が早く戻ってきてくれたら。
>>
0
あなたにおすすめの小説
意味が分かると怖い話(解説付き)
彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです
読みながら話に潜む違和感を探してみてください
最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください
実話も混ざっております
百物語 厄災
嵐山ノキ
ホラー
怪談の百物語です。一話一話は長くありませんのでお好きなときにお読みください。渾身の仕掛けも盛り込んでおり、最後まで読むと驚くべき何かが提示されます。
小説家になろう、エブリスタにも投稿しています。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
それなりに怖い話。
只野誠
ホラー
これは創作です。
実際に起きた出来事はございません。創作です。事実ではございません。創作です創作です創作です。
本当に、実際に起きた話ではございません。
なので、安心して読むことができます。
オムニバス形式なので、どの章から読んでも問題ありません。
不定期に章を追加していきます。
2026/1/10:『つかまれる』の章を追加。2026/1/17の朝8時頃より公開開始予定。
2026/1/9:『ゆうじんのかお』の章を追加。2026/1/16の朝4時頃より公開開始予定。
2026/1/8:『ついてきたもの』の章を追加。2026/1/15の朝4時頃より公開開始予定。
2026/1/7:『かわぞいのみち』の章を追加。2026/1/14の朝4時頃より公開開始予定。
2026/1/6:『まどのそと』の章を追加。2026/1/13の朝4時頃より公開開始予定。
2026/1/5:『おちゃ』の章を追加。2026/1/12の朝4時頃より公開開始予定。
2026/1/4:『かみ』の章を追加。2026/1/11の朝4時頃より公開開始予定。
※こちらの作品は、小説家になろう、カクヨム、アルファポリスで同時に掲載しています。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
霊和怪異譚 野花と野薔薇
野花マリオ
ホラー
その“語り”が始まったとき、世界に異変が芽吹く。
静かな町、ふとした日常、どこにでもあるはずの風景に咲きはじめる、奇妙な花々――。
『霊和怪異譚 野花と野薔薇』は、不思議な力を持つ語り部・八木楓と鐘技友紀以下彼女達が語る怪異を描く、短編連作形式の怪異譚シリーズ。
一話ごとに異なる舞台、異なる登場人物、異なる恐怖。それでも、語りが始まるたび、必ず“何か”が咲く――。
語られる怪談はただの物語ではない。
それを「聞いた者」に忍び寄る異変、染みわたる不安。
やがて読者自身の身にも、“あの花”が咲くかもしれない。
日常にひっそりと紛れ込む、静かで妖しいホラー。
あなたも一席、語りを聞いてみませんか?
完結いたしました。
タイトル変更しました。
旧 彼女の怪異談は不思議な野花を咲かせる
※この物語はフィクションです。実在する人物、企業、団体、名称などは一切関係ありません。
エブリスタにも公開してますがアルファポリス の方がボリュームあります。
表紙イラストは生成AI
10秒で読めるちょっと怖い話。
絢郷水沙
ホラー
ほんのりと不条理な『ギャグ』が香るホラーテイスト・ショートショートです。意味怖的要素も含んでおりますので、意味怖好きならぜひ読んでみてください。(毎日昼頃1話更新中!)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる