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惜別~バベルの塔~
バベルの塔~第4階層~
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バベルの塔はもうすぐ第5階層。いよいよボスのご登場だ…を前にして、俺たちは立ち往生していた。
場所は第4階層最後の扉の前。目の前には深い崖があって、行く手を阻んでいる。
「あーもう、見えてるのに進めないのはイライラする!」
咲は剣で壁を何度も叩いた。
これもエンジェルセンスか?と一瞬思ったが、ただの地団駄だった。
そもそも、手の届く範囲に仕掛けは存在しない。
「エリカ、なにか分かる?」
「いえ、私も探っているのですが…怪しいものはなにも」
気配がわかるエリカにも、仕掛けの場所は見つけられないようだ。
有効範囲は目で見える範囲と言ったところか。これはひとつ収穫だ。
「私もこんな地形は聞いたことがないな…それにこの穴、どこまで続いているんだ?」
眼鏡は眼鏡を光らせながら、見えない底を覗き込んでいる。
「試しに降りてみるか?今なら後ろから蹴飛ばしてやるぞ」
うまくいけば合法的に落下死だ。
俺に非はない。
「命をかけて確かめる趣味はないよ。それより君こそ、突っ立ているだけではないか。何か策をめぐらせたらどうだい?」
策も何も、答えを教えてやったんだけどな。
この崖は深さ20メートルほどで、底にはスイッチがある。そいつを押すと橋が出来、扉までの道が作られる。
スイッチの効果についてはご丁寧に、石板が用意して書いてあった。誰が読むのかは甚だ疑問ではあるが。
「ここにいるのも飽きたわ。カケル、どうにかして」
「そんな雑な…まあ、いいけどさ。縄を俺の体に縛り付けて降ろしてくれ」
「おいおい、そこまで命をかける必要は…」
「分かったわ。大志、早くして」
「……」
眼鏡はついに、考えることをやめた。
☆☆
ただの縄が20メートルもあるはずはない。あってもせいぜい5メートルだ。
ぶっちゃけ何メートルでも関係ない。
これはただのフェイクだからな。降りた先に何かあったと思わせればそれで十分だ。
2メートルほど降りたところで、槍を右手で握った。
二度三度下に向けて振る素振りをしながら、意識を影へと溶かしていく。
スイッチは穴の底、真っ暗な影に覆われた中にある。
それをちょっと押すのなんて、指を動かすのと同じ感覚で出来る。
ガーーーーーっと音がして、地面が揺れる。そして下から橋が上がってきた。
橋の出来る仕組みまでは分かっていなかった。
魔法陣で召喚的なのを予想していたが、外れだった。
ま、なんでもいいけど。
「上げてくれー」
叫ぶと同時に、体は浮き上がっていく。
そして、地面に上がったと同時に、咲に抱きつかれ、頭を撫で回される。
「さすがカケルー、凄い凄い!偉い偉い!」
「咲、やめろ…」
抵抗虚しく、俺は3分間拘束された続けた。
眼鏡とエリカは止めるのを諦めていたようで、ずっと休憩していた。
☆☆
さて、いよいよ5階層。ボスのご登場だ。
ここまでの成果は、エリカの魔術に有効範囲があると分かったことぐらいか。
そう言えば眼鏡は何もしていない。実は無能なんじゃないだろうか?
「いよいよボスですね…」
エリカの言葉に緊張が込もった。それは眼鏡も同じようで、眼鏡に触れたまま呼吸を落ち着かせている。
意外だったのは、咲がテンパっていることだ。
「さてさて、どんなモンスターがでるのでしょうね」
普通に聞こえるが、咲が言うにはいささか弱気だ。
こいつは敵モンスターのことなんて気にしない。
出たとこ勝負ですべて倒すのだ。
さて、俺も確認しておくか…。
意識を影の中に溶かしていく。
地形は…確認完了。罠はない。
この先には広いボス部屋があるだけだ。
ボスは…いない…?それどころか、モンスター一匹いない。
あるのは床から壁、天井に至るまで、すべてを覆い尽くす影だけだ。密度がやたら濃い気がするが、なぜだろう。
「エリカ、なにか分かる?」
「やってみます」
エリカは右手の人差し指と中指を立てると額に当てると、目を見開いた。
赤と青のオッドアイが、青だけに変わっていく。
「千里眼!」
視線はじっと、ボス部屋に向けられる。
これがエリカの本当の力か…先ほどは目に見える範囲しか分からなかったようだが、今はどうなんだろうか。
「モンスターの気配すらしません」
「そう…」
咲はこわばった顔を浮かべながら、ふーっと息を吐いた。
ずっとおかしいと思っていたが、今回はあからさまだ。
こんなに余裕のない姿は、見たことがない。
「ねえカケル」
「なんだよ」
いつもと違う様子に、声が上ずった。
「私ね、カケルのことが好きよ」
「なんだよいきなり。そんなことは知っている」
上ずった声がさらに上ずった。
俺は何をやっているんだ?
それになぜか、体の奥底が熱い。
「分かってないわ。カケルが思っているよりもずっと、私はカケルのことが好きなのよ」
「急になんだよ」
「さあね…それじゃあ、行きましょう!」
場所は第4階層最後の扉の前。目の前には深い崖があって、行く手を阻んでいる。
「あーもう、見えてるのに進めないのはイライラする!」
咲は剣で壁を何度も叩いた。
これもエンジェルセンスか?と一瞬思ったが、ただの地団駄だった。
そもそも、手の届く範囲に仕掛けは存在しない。
「エリカ、なにか分かる?」
「いえ、私も探っているのですが…怪しいものはなにも」
気配がわかるエリカにも、仕掛けの場所は見つけられないようだ。
有効範囲は目で見える範囲と言ったところか。これはひとつ収穫だ。
「私もこんな地形は聞いたことがないな…それにこの穴、どこまで続いているんだ?」
眼鏡は眼鏡を光らせながら、見えない底を覗き込んでいる。
「試しに降りてみるか?今なら後ろから蹴飛ばしてやるぞ」
うまくいけば合法的に落下死だ。
俺に非はない。
「命をかけて確かめる趣味はないよ。それより君こそ、突っ立ているだけではないか。何か策をめぐらせたらどうだい?」
策も何も、答えを教えてやったんだけどな。
この崖は深さ20メートルほどで、底にはスイッチがある。そいつを押すと橋が出来、扉までの道が作られる。
スイッチの効果についてはご丁寧に、石板が用意して書いてあった。誰が読むのかは甚だ疑問ではあるが。
「ここにいるのも飽きたわ。カケル、どうにかして」
「そんな雑な…まあ、いいけどさ。縄を俺の体に縛り付けて降ろしてくれ」
「おいおい、そこまで命をかける必要は…」
「分かったわ。大志、早くして」
「……」
眼鏡はついに、考えることをやめた。
☆☆
ただの縄が20メートルもあるはずはない。あってもせいぜい5メートルだ。
ぶっちゃけ何メートルでも関係ない。
これはただのフェイクだからな。降りた先に何かあったと思わせればそれで十分だ。
2メートルほど降りたところで、槍を右手で握った。
二度三度下に向けて振る素振りをしながら、意識を影へと溶かしていく。
スイッチは穴の底、真っ暗な影に覆われた中にある。
それをちょっと押すのなんて、指を動かすのと同じ感覚で出来る。
ガーーーーーっと音がして、地面が揺れる。そして下から橋が上がってきた。
橋の出来る仕組みまでは分かっていなかった。
魔法陣で召喚的なのを予想していたが、外れだった。
ま、なんでもいいけど。
「上げてくれー」
叫ぶと同時に、体は浮き上がっていく。
そして、地面に上がったと同時に、咲に抱きつかれ、頭を撫で回される。
「さすがカケルー、凄い凄い!偉い偉い!」
「咲、やめろ…」
抵抗虚しく、俺は3分間拘束された続けた。
眼鏡とエリカは止めるのを諦めていたようで、ずっと休憩していた。
☆☆
さて、いよいよ5階層。ボスのご登場だ。
ここまでの成果は、エリカの魔術に有効範囲があると分かったことぐらいか。
そう言えば眼鏡は何もしていない。実は無能なんじゃないだろうか?
「いよいよボスですね…」
エリカの言葉に緊張が込もった。それは眼鏡も同じようで、眼鏡に触れたまま呼吸を落ち着かせている。
意外だったのは、咲がテンパっていることだ。
「さてさて、どんなモンスターがでるのでしょうね」
普通に聞こえるが、咲が言うにはいささか弱気だ。
こいつは敵モンスターのことなんて気にしない。
出たとこ勝負ですべて倒すのだ。
さて、俺も確認しておくか…。
意識を影の中に溶かしていく。
地形は…確認完了。罠はない。
この先には広いボス部屋があるだけだ。
ボスは…いない…?それどころか、モンスター一匹いない。
あるのは床から壁、天井に至るまで、すべてを覆い尽くす影だけだ。密度がやたら濃い気がするが、なぜだろう。
「エリカ、なにか分かる?」
「やってみます」
エリカは右手の人差し指と中指を立てると額に当てると、目を見開いた。
赤と青のオッドアイが、青だけに変わっていく。
「千里眼!」
視線はじっと、ボス部屋に向けられる。
これがエリカの本当の力か…先ほどは目に見える範囲しか分からなかったようだが、今はどうなんだろうか。
「モンスターの気配すらしません」
「そう…」
咲はこわばった顔を浮かべながら、ふーっと息を吐いた。
ずっとおかしいと思っていたが、今回はあからさまだ。
こんなに余裕のない姿は、見たことがない。
「ねえカケル」
「なんだよ」
いつもと違う様子に、声が上ずった。
「私ね、カケルのことが好きよ」
「なんだよいきなり。そんなことは知っている」
上ずった声がさらに上ずった。
俺は何をやっているんだ?
それになぜか、体の奥底が熱い。
「分かってないわ。カケルが思っているよりもずっと、私はカケルのことが好きなのよ」
「急になんだよ」
「さあね…それじゃあ、行きましょう!」
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