闇ギルドの影は目的を果たすために戦い続ける

夜納木ナヤ

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惜別~バベルの塔~

バベルの塔~ボス部屋~

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 ボス部屋には、やはりモンスターはいない。
 奥には次の階層へと続く扉があるが、そいつも閉ざされたままだ。

 何か別の突破条件があるのだろうか。

「なんだか気持ち悪い」

 そう言ったのは、エリカだった。
 きょろきょろと、壁を、床を、天井を、落ち着きなく見つめている。

「どうしたのエリカ。感じることがあるなら何でもいい、教えて」

 咲は目に見えて焦っている。
 もしや、エンジェルセンスが機能していない?

 条件はなんだっ!?
 絶好のチャンスに、ボス部屋なのも忘れて咲を見つめる。

 見れば見るほど確定だ。
 咲は必死に周囲を見渡している。

「見られている気がします。360度、全方位から」
 
 エリカが答えたその瞬間、壁に、天井に、モンスターが現れた。
 ウルフにバット…それからゴブリン。そのすべて真っ黒な影から生まれたモンスターだ。
「ワオーン」とか、「ギャー」とか、一斉に雄たけびを上げると、一点に向かって襲い掛かる。そこにいるのは…俺だった。

「その程度…何っ!?」

 かわそうとしたが、足が動かない。
 いつのまにか地面から腕が生えていて、足首を捕まれている。

「こんにゃろう!」

 槍で薙ぎ払うと、腕はあっさり消えた。
 だが、時間稼ぎには十分だった。

 俺の目前までモンスターは迫っていて、見渡す限り影だらけだ。

「ホーリーシールド!」

 頭上に光の盾が出来、触れたモンスターは消滅していく。
 左と右から襲い掛かってきていたモンスターはそれぞれ、咲と眼鏡が倒している。

 ふと、エリカと目が合ったので首を振る。
 こいつらは俺の支配下にはない。むしろ、俺を狙っている。
 
 倒しても倒しても、モンスターは影から生まれてくる。まるで無尽蔵だ。

「どうして少年ばかりが狙われる。心当たりは」
「あったらとっくになんとかしてる」

 本当に分からない。
 これだけの数のモンスターがいるのに、影は何も教えてくれない。
 モンスターだけじゃない、この空間のことを把握することが出来ない。
 まるで別の誰かが、影を支配しているような…って、まさか。

「エリカ、影が一番濃い場所を探してくれ」
「濃い?影が?よくわからないけどやってみる」

 エリカは右手の人差し指と中指と立てると、額にくっつけた。

「祖よ、我にすべてを解き明かす力を…千里眼!」

 両目が青く染まり、 床に、壁に、天井に視線を巡らせていく。
 そしてその目は、俺の真後ろで止まった。

「そこよ!」

 振り返ると同時に、影の中からは太くて長いミミズが姿を現した。
 ワーム種だ。先端には口があり、獲物をひと飲みにして一気に溶かす。
 環境に適応して姿を変え、砂場ではサンドワーム、火山地帯ではフレアワームと呼ばれる。
 そして影から出てきたこいつは、真っ黒…シャドウワームと言ったところだ。

「くそ、最悪だ」

 シャドウワームの通称はシャドウイーター。
 影を食らって生きるのだ。

 そりゃあ俺が狙われるわけだよ…こいつにとって俺は、これ以上ないごちそうだ。
 普通の人間の何十倍、いや何百倍も影が濃いんだからな。


 シャドウワームは口を広げると、まっすぐ俺に突っ込んでくる。

「ライトシールド!」

 光の盾がその行く手を阻む…が、他のモンスターとは違ってすぐには消えない。
 それどころか、盾をそのまま飲み込むと再び動き出した。

「こんにゃろ!」

 槍で応戦するが、柄からまるごと食われた。こいつの口はブラックホールかよっ。

「カケル!」

 咲がシャドウワームに切りかかった。
 てことは、こいつに弱点があるのか!

 あばよシャドウワーム。
 
 …だが、咲の剣は体をすり抜けた。
 そして彼女には、影のモンスターが襲い掛かった。

「はあ!やあ!」

 咲の剣はモンスターを返り討ちにする…が、数が多すぎる。
 そのいくつかは体をかすめ、切り傷を作っていく。

 こいつは本当に咲、なのか?
 天使の第六感エンジェルセンスを持ち、何でも見通せる勘を持つAランク魔術師。
 彼女が傷つく姿なんて…想像することが出来なかった。

 シャドウワームは咲を見ていたが、害がないと分かると俺を見た。

「ライトシールド!」

 光の盾が目の前に出来るが、またひと飲みにした。

「そんな馬鹿なっ」

 眼鏡が声を上げるのも仕方がない。
 光は闇に強い。影は闇にあたるのだが、相性をもろともせず、完全にかき消されているのだ。

「ウガーーーー」

 シャドウワームは口を開けると、俺に向かって突っ込んできた。
 
 やるしかないのか?
 正体がばれる…が、死ぬよりましか。

「だめええええええええええええええええええええええええ」

 体を影に変えようとした瞬間、叫び声が突っ込んできた。
 咲だ。服はぼろぼろで、腕や足だけなくなく、顔や髪まで血まみれだ。

「崩れなさい!いえ、崩れて!」

 剣を地面に突き立てると、必死に願った。

 ゴゴゴゴゴと激しい音がして、俺と咲のいる場所には穴が空き、体は落下していく。
 その目の前を、シャドウワームが通過していくのが見えた。
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