俺と後輩とバスケ

やなぎまち

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「なー大志よー」

 話しかけてきたのは、中学の友人だ。
 一緒にバスケをし、全国大会に出場した仲だ。

「なんだよ」
「あの頃の大志はどこに行っちまったんだ?」

 進学したのは地元の高校だった。
 普通に受験をしたが、スポーツ推薦をもらっていた学校でもあり、運動には力を入れている。

「またその話か…」

 高校に進学して一年、俺は部活動に入ることもなく、ただなんとなく毎日を過ごしていた。
 勉強をすることはなんとなく習慣になっていて、成績は上位だった。

「バスケ、一緒にやろうぜ!」
「今更だろ。一年もやってないんだぞ」
「大志ならいけるって!他の奴らが何と言おうと俺が許さねえ!」

 顔を合わせるとこの話題ばかりだ。
 バスケは嫌いじゃない。
 
 だけど、昔のように真剣に取り組むことは出来ない。

「そういえば今日の体育はバスケだったな…」
 
 体操服に着替えると、体育館に向かった。
 準備運動の後は簡単にパスとシュートの練習をすると、すぐに実戦が始まった。

 相手チームには、友人がいた。

「まさか大志と戦えるとはな。楽しみだぜ!」
 
 勝てるわけがない。こいつは毎日部活で遅くまで練習しているんだ。
 息抜きに公園でボールを触っているだけの俺とは違う。
 
 クラスメイトは、俺が元バスケ部と知っていて、積極的にボールを回してくる。

「おらおら大志、どうした!」
 
 その度にボールを奪われる。
 くそ、分かってはいたけど手も足も出ねえ…。

 点差は圧倒的で、逆転は難しい。
 だがこれは公式戦ではない。あくまで授業だ。

 試合の勝ち負けなんて関係なく、クラスメイトはひとつひとつの勝ち負けに一喜一憂する。

「柳瀬っ、どんまい!相手は現役バスケ部だ、気にするな!」

 俺がボールを奪われても、誰も責めてこない。
 なんだよこの緊迫感のなさは。これが本当にバスケなのか?

 違和感を感じて、気付けば観客席を見ていた。
 彼女はいない…彼女って誰だ?

 言うまでもない。愛実だ。

 今の俺を見たら、昔のように微笑んでくれるのだろうか?
 考えるまでもない。幻滅されるに決まっている。

「くそ!」

 気付けば手の中にはボールがあって、友人がブロックしてきている。
 額に汗を浮かべているものの、その目は真剣で楽しそうだ。

「そうかよ」

 自然と体は動いていた。
 後から、「まじかよっ」と声がした。
 俺の手からはボールは離れ、ゴールネットを揺らす。

「よし」

 小さくガッツポーズをすると後を振り返った。
 ベンチに座り、読んでいた本を膝の上にので、控えめな拍手を送ってくれる姿を探す。

「いないな…いるわけないか…」

 プーとブザーが鳴り、俺達の番は終わった。
 体育館脇に戻っていくと、友人が絡んできた。

「やればできるじゃねえか。最後の動き、大会の時と変わらなかったぜ!」
「そうか?」
「ああ。まあ、俺としては動きなんてどうでもいいんだけどな」
「じゃあなんでそんな嬉しそうなんだよ」
「最後のプレー、大志が真剣だったからだよ」

 確かにそうだった。
 もし愛実が見ていたら。
 そう思ったらかっこ悪いところは見せられないと思った。
 
 彼女は今、何をしているのだろうか?
 分からない。だけどもし俺のプレーを見る機会があるのならば、喜ばせたい。

「なあ、俺はまだバスケを出来るのかな…」
「当たり前だ!中学の時、誰よりも真剣だったのを知ってるぜ。たった一年で冷めるもんか」
「そうか…そうかもな」
 
 今思えば、バスケに真剣だった理由は邪だった。
 好きな子にいいところ見せたい。好きな子の期待に答えたい。
 たったそれだけ。

 そのはずなのに…さっきのシュートの余韻を忘れられない。
 嬉しそうな友人の笑顔から目を離せない。

「俺はバスケが好きだったんだな…」

 その日、バスケ部への入部届を出した。

 ☆☆☆
 
 元々スポーツ推薦をもらっていたこともあり、入部はすぐに許可された。
 それからは時間が過ぎるのは早かった。
 
 気づけば3月になっていて、もうすぐ2年生だ。

「あー寒…」

 部活が早く終わったので、帰りにいつもの公園に寄った。
 中学よりも部活の時間は長く、ここに来るのも久しぶりだった。

「懐かしいな…」

 二度三度ボールを地面につくと、ゴールに向かってボールを投げる。
 
 失敗できない。いいところを見せないと。
 無意識にそう思った。
 
 部活の時よりも集中していたのではないだろうか。
 気が付けば1時間が経っていた。

「やべ、帰らないと怒られる」

 慌ててボールを拾うと、走り出す。
 ベンチを横目に通り過ぎると、誰かが座っていた。

「え?」

 足は止まり、振り返るとそこには、膝の上に本を置き、手を振ってくる彼女がいた。

「愛実!?」

 思わず駆け寄ると、彼女は顔を下に向ける。

「名前を呼ばれるのは初めてですね…」
「あ」

 そういえばそうだ。というか、俺から話しかけたのも初めてだ。

「その、ご迷惑かもしれないと思ったのですが…」
「迷惑なもんか。それよりも転校したって聞いたけど」
「手紙、受け取ってくださったんですね…」

 愛実はぽつりとつぶやくと、控えめな笑みを浮かべた。

「戻ってきました。来月からは近くの高校に通う予定です」
「それって…」
「はい、先輩と一緒です」

 俺のジャージに書かれた高校名を見ながら、愛実は嬉しそうに笑う。

「よかった…」
「大げさですよ…私なんかのために」
「なんかじゃない」

 ため込んだ言葉が次々とこぼれてくる。

「ずっと応援しもらいたい。出来れば一番近くで」

 恥ずかしいセリフだと、後で思い出してベッドの上を転がりまわった。
 だがこの時は、必死だった。

「あの…その…私なんかでよければ…」
「なんかじゃない」
「あ、えっと…その…私でよければよろしくお願いします。先輩」

 4月になると愛実は入学してきて、晴れてまた後輩になった。

「先輩、お疲れ様です」
「ありがとう」

 練習を終えた俺はタオルを受け取る。
 
 愛実はマネージャーとしてバスケ部に入部した。
 俺は2年生ながらレギュラーを奪取し、バスケ漬けの毎日を送っている。
 
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みんなの感想(1件)

柚木ゆず
2021.02.28 柚木ゆず

完結した作品欄をチェックしているときにお見かけし、拝読しました。

まさにジャンル通り、青春、ですね。
バスケットを、『思い出して』。再会、して。

爽やかなお話、名作と感じました。

やなぎまち
2021.02.28 やなぎまち

ご感想ありがとうございます!

そこまで言っていただけるとは思っていなかったので、とても嬉しいです!

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