契約師としてクランに尽くしましたが追い出されたので復讐をしようと思います

夜納木ナヤ

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第3章~港町での物語~

イレギュラーでの初仕事をもらいます

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 俺がイレギュラーに正式所属してから1週間が経った。
 朝起きると、隣にセイラとレティがいて、廊下に出るとアンナとカレンのは話し声が聞こえてくる。メルロは朝になると散歩に出かけ、夕方前には帰ってくる。ユミネは拠点にある図書館に入りびたりだ。なんでも古い本がたくさんあるらしい。
 俺は時間を見つけては地下牢のガラナに会いに行き、スキを見せればレティに捕まる。そんな毎日だった。

 はっきり言わせてくれ。これではレッドラグーン時代と変わらない。
 不満があるかと聞かれればそうでもないのだが、俺はイレギュラーの手伝いをしたくてここにいる。それに、毎日仕事をしていた身には、目的もなく、ただ時間を過ごすなんてことは思った以上に苦痛だ。我ながら社畜魂たくましいと思うが、これが現実だ。余生をゆったり過ごすなんて性に合わないと嫌ほど実感した。
 仕事をくれと何度もミサに直訴したが、今は待てと言わるだけだった。

 そしてようやく今日、それっぽい呼び出しがかかった。

「失礼します」

 ノックしてから執務室に入ると、ミサとティアの二人が待っていた。

「喜べ少年。待ちに待った仕事を与えるぞ」

 ミサはやたらにやにやしていて、喜んでいいのか分からない。あの顔をしていて、碌なことを言っているのを見たことがない。

「そう怪訝な顔をするな。男の子なら一度は憧れるような内容だぞ」

 益々怪しいものだ。このまま笑顔がどんどん胡散臭く見えて来て、壺を売りつけられたらすぐに断ろうと心に決めた。

「少年、お前にはお姫様の護衛を任せる」
「誰だよお姫さまって」

 まさかミサ自身が…ないな。どう見てもお姫さまってガラじゃない。
 片目に眼帯をしているこの赤髪は、『姉御』なんて呼ばれても違和感がないぐらいに豪快に立ち振る舞い、守られるどころか自ら進んで突っ込んでいって殴り倒してきそうだ。実際に行為にも及んだこともあるようで、現在は冒険者ギルドのブラックリストにも登録されている。

「アタイだよ、と言いたいところだが、さすがにガラではないな」

 俺の考えていたことを、まんま言いやがった。ここまで割り切っていると、いっそすがすがしい。
 この場にはもう一人いる。消去法で彼女がお姫様とということになるのだろう。

「それではお姫様を紹介します。ティアです!ほら拍手!」

 手を叩くように促されて、言われるがままに手を叩く。俺一人分だけの、寂しい音が部屋に響いた。

「ティアがお姫様ねえ…」
「あら、意外かしら?」
「いや、むしろしっくりきすぎて、事実のなのか冗談なのかの判断がつかない」

 ティアは小さく首をかしげると、その度にウエーブのかかった髪が揺れた。目の下にあるなきぼくろは、元々優しいティアの笑顔をさらに際立たせ、一つ一つの仕草の上品さを際立たせていた。彼女が女子校にいたら、『お姉さま』と呼ばれていたことは容易に想像できる。

「実はね…私は踊り子の国のお姫様なのです」

 力こぶを作ってポーズを取る。なんとも可愛らしいおやまが、二の腕のあたりに出来上がる。

「踊り子の国ってどこだよ…」

 ティアのジョブは踊り子だ。冒険者ギルドで確認してる踊り子は彼女ただ一人のはずだ。
 
「私が行こうとしているのは、港町ハーゲンよ。聞いたことある?」
「クエストで行った覚えがあるな。海が目の前にあって、魚が旨かった記憶がある。醤油がなかったのは残念だったけどな」

 港町ハーゲンは、海に面し、三方を山に囲まれた場所にある。山の一つには強いモンスターが生息していて、腕の立つ冒険者は功を立てようとこぞって挑んでいく。自然と、アイテムや装備の消費が激しくなり、物流も盛んになっていた。

「あら、じゃあヤマトは踊り場にも行ったのかしら?」
「いいや、俺は集会場にしか行ってないな。ハヤテとタケヤは行ったらしいけど。その日は一晩帰って来なかったな」
「あら、お楽しみだったのね」

 集会場と踊り場は、どちらも冒険者の集まる酒場の種類だ。金になるクエスト、モンスターの討伐方法などなど、冒険者にはなにかと情報が必要になる。その情報収集がメインの目的の場所が集会場で、なりたての冒険者や職人気質の男どもが集まることが多い。
 一方で踊り場は、一言で言えば華やかだ。露出の多い服の女性が店内を動き回っていて、酒や食事を出す。指名があれば相手をすることだってある。これだけ聞くとただ酒を飲む場所だが、女性たちも無差別に集められているわけではない。彼女達の職業は踊り子。魔法の強さには差があるものの、強化魔法を使える女性だけが集められているのだ。
 踊り場に来る目的はこの強化魔法。クエスト前に能力を高めておく…というのは建前で、9割以上は女遊びが目的だった。

「言われてみれば踊り場が多かったな。それで踊り子の国か…って、じゃあまさかティアも働いていたのか?」

 ティアは普段の格好は、露出とは遠く離れたものだ。服は何重にも着ていて、それも手首まですっぽりと隠している。下はスカートを履いているが、地面すれすれの長さで、足は全く見えていない。

「そうよ。と言っても、今とあんまり変わらない格好だったのだけれどね」
「それで許されたのか?」
「ええ、リピーターがたくさんいたのよ」

 ティアはそう言ってにっこり笑った。

「だとしても、遊び目的で行く奴が多い場所だろ?襲われたりはしなかったのか?」
「いたけれど、私には優秀な護衛がいたから」
 
 言い終えると、いつもの笑みは影をひそめ、寂しげに下を向いた。
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