ワケアリな後輩達しかいないクランを押し付けられました

夜納木ナヤ

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プロローグ

美術館への犯行声明1

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 外での用事を終えると、クランの扉をくぐる。

「先輩、おかえりなさい」

 割烹着の小柄な少女が、はたきを片手に駆け寄ってくる。
 青色のツインテールはゆらゆらと揺れ、白と黒のリボンは耳みたいにまっすぐ俺を向く。

「ただいま。掃除の邪魔をしてしまったか?」
「そ、そんなことはないですよ」

 両手で拳を握り、腕を上下にブンブンと動かす。
 そんな必死に否定しなくても…。
 
 見ているだけで、自然と笑みが溢れる。
 
「ちょ、ちょっと先輩…」

 思わず頭を撫でると、気持ちばかりに抵抗された。
 だが、逃げる様子はなく、目を細めると、自分から頭を擦り付けてくる。

 うーん……猫だな。
 これで喉をゴロゴロと鳴らしていたら完璧だ。

「ミキ、これはどうしたら…って、おい、何をしている」

 ちょっと背の高めな女の子が、椅子を片手にやってきた。
 
「やあリナ。ただいま」
「はあ…まったく先輩は…」

 ため息をつきながら椅子を置くと、猫の首を掴んだ。
『にゃー』と嫌そうな声をあげつつ、手の感触は離れていった。

「それで、どうしていきなり掃除なんて始めたんだ?ミキがいつも綺麗にしてくれていると思うけど」

 最初に割烹着姿で出てきた猫…じゃなかった、女の子はミキ。
 このクランの炊事洗濯その他諸々担当だ。

「そのことなんだが、風水的に配置が悪い上に、今日掃除をすると運気があがるらしい」

 二度目のため息を吐きながら話しているのがリナ。
 このクランの最年長で、ポニーテールに大きなハートの髪留めがチャームポイントだ。
 
「エミリか……」
「はいはーい、お呼びですかーっ、先輩っ」
「うわっ、いつの間にそんなところにっ」

 振り返ると、二つの目が俺を見上げていた。

「いきなり後ろから話かけるなといつも言っているだろ」

 俺の背後に回り込んでいたのはエミリ。
 このクランのお騒がせ担当で、ピンクの髪を肩上で揺らしながら駆け回る。

「ごめんなさーい」

 全然反省をしていなさそうな謝罪を述べると、壁の向こうに消えていった。
 そっちは会議室になっていて、机に椅子、黒板なんかがある。

「待てエミリ」
「し、失礼しますっ」

 ピンクのふわふわに続いて、黒のポニーテールと青のツインテールも消えていく。

「全く騒がしいことだ…それにしても、『先輩』か」

 たまに思う。
 ちょっと教育を間違えただろうか?

 堅苦しい呼び方をやめてほしいと言った結果がこれだよ。

「とりあえず、変な模様替えをしないか確認しないとな」

 扉の前に本棚を並べるとか、トイレに中にビー玉を転がすとかされたらたまったもんじゃない。
 
 会議室に向かおうとすると、さっき通った扉がノックされた。

 コンコンコンコン。

 ノルマがヤバイ営業のごとく、全力で叩いている。

「「「先輩っ」」」

 激しいノック音に、三人娘も戻ってくる。
 
 ミキは両手に照明を持ち、リナは机を担ぎ、エミリはでかい水晶玉を持っている。

「とりあえず、その手にしているものを置いてきてくれ…」

 来客が見たらびっくりだ。
 いやまあ、気にしなくていいのかもしれないけどさ。

 なにせ相手は、ギルドの使いだからな。

 ギルドの使いが持ってきたのは、一枚の紙切れだった。

 今夜、美術館にて工芸品をもらい受ける。
 ギルド・スイレンよ、止めに来い。

 ミスターX

 内容はそれだけだった。
 犯行声明、と呼ぶにはいささか稚拙な気がする。

 それでも、ギルドから指名が来た以上は無視することはできない。
 万が一本物で、本当に美術品が奪われたら洒落にならない。

 早速美術館に行くと、既に立ち入り禁止の処置が取られていた。

「もーいいところだったのにー。夜ならみんなで慌ててくることもないじゃない」

 エミリはご立腹だ。

『せっかく運気を上げようと思っていたのに』とか考えているのだろう。

 それに、エミリの言うことも間違ってはいない。
 下見だけならエミリは戦力外だ。 夜まで放置しておいても影響はない。

「今、失礼なことを考えなかった?」
「状況分析をしただけだ」

 それでもエミリを連れてきたのには理由がある。

 あの後、会議室に足を踏み入れたのだが、それはもう悲惨だった。
 異世界から何かを召喚しようとしていたのかと思った。

 椅子や机は全て逆立ちしていて、ひとつひとつの足には白や黒の布がくくりつけられていた。

 なんの布か気になって手を伸ばしたところ、リナが一瞬で全てを回収していった。
 ミキが顔を真っ赤にして、手で口を押さえていたのも印象的だった。
 
 これを、ひとりで放っておいてみろ。
 戻る頃には、怪しげな宗教団体の拠点に様変わりしていそうだ。

「あーあー、いいところだったのになー」

 エミリは椅子に座ると、足をぶらぶらさせる。

「それに工芸品って何?最近読んだ小説だと『軽く触れただけで壊れそうなガラス細工を貰い受ける』とか『桜のような髪の女神像をいただく』って言ってたわよ」
「小説なんて読むんだな」
「当たり前じゃない。ラッキーアイテムになりそうなものは、何でも持っているわ」

 エミリの部屋は物置だ。足の踏み場がないくらいに物があって、他者の侵入を拒んでいる。
 一度掃除をしようとしたことがあったが、暴れまくり、クランのホームが破壊されかけた。

「そういえば、あの小説は奇妙だったのよ」
「奇妙?」
「登場人物のひとりに妙に親近感が沸いたと言うか、もう私自身じゃないかと思っちゃうぐらいだったわ」

 それはまた、相当のめり込んでいるな。
 いつか現実との区別がつかなくならないか心配だ。

「凄い偶然だな。気が向いたら読んでみたいところだ」
「それなら貸してあげる。何冊かあるわ。続きはしばらく出ていないみたいだけど」

 エミリの話に付き合っていると、先に進んでいた2人が戻ってきた。

「怪しいところはあったか?」
「何もない。何もなさすぎて怪しい」

 気の抜けたエミリとは違い、リナは準備万端だ。
 腰には剣を携え、いつでも戦える。

「守ろうにも狙いがわからないのは困ったものだ」
「それについてはエミリとも話していたところだ」
「ほう、エミリが…」

 リナが意外そう見つめると、エミリはそっぽを向いた。

「なによ、悪い?」
「悪いわけではないが、いつもなら『つまらない』とか言ってかくれんぼを始めるところだ」
「私の扱い酷くない?」

 エミリがミキに助けを求めると、笑ってごまかしていた。

「エミリが興味を持つってことは、悪戯だったりするのでしょうか?」
「ちょっとミキ、どういうことよ」

 エミリは詰め寄ると、肩を揺さぶった。
 ミキのツインテールがゆらゆらとら揺れ、両手をパタバタと動かして助けを求める。

「悪戯の線は俺も考えている。どうなんだ、エミリ」
「だ、か、ら、何で私に聞くのよーーー」
 
 俺達しかいない美術館に、叫び声は響き渡った。
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