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第七章 謎めくホワイトレディは夜の味

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 祥の提案は、耳を疑うような内容だった。
 潜入捜査に祥が集中できるように、夜空に女除けとして彼女役の代役をするというものだ。
 意味がわからないと、夜空は最初断った。
 しかし善が「行ってくればいいじゃない」などと呑気なことを言うので、祥に無理やり頷かされてしまった。
 バイト代も弾むということで、ついつられてしまったのが悪い。こんな経験二度とできないよと善に背中を押されたのだが、すでに後悔しかない。

 祥は食べ終わるや否や、事務所から服や化粧道具やらを車に詰め込んで大量に持ってきた。
 お化粧セットの使い方もなにもわからないのに、自分でやれと言われたのだから最悪だ。
 そして、頑張った結果、祥にののしられることになる。

「あのさあ、夜空。色気って知ってるよな? 一人じゃ行きにくいこじゃれたバーだっつったよな? 耳の穴機能してるか?」

 祥はあからさまに不機嫌だ。それに対して夜空は黙るどころか言い返した。

「悪うございました。そもそも色気もなにも、俺は男なんですけど!」
「あーもういい、この動画見て今すぐ化粧直せ」

 必死に動画を見たのだが、すでに夜空はげんなりしてしまった。
 その間、祥は衣装ケースからウィッグを選び始めている。明らかにひどい夜空の化粧に恋人役はやっぱりなしとなるかと思いきや、そういうわけではないらしい。
 こじゃれたバーも、オシャレな場所も、縁があるような人生ではなかった。だが、そういうのが似合っていた彼女がいた。
 思い出すだけで、ムカムカしてくる。
 なんだか、彼女に負けたくない気持ちがせり上がってきて、夜空は動画を見ながら必死でアイメイクした。
 元が真面目な性格だったのが功を奏したのか、結婚詐欺師の彼女を思い出しながら動画を参考にすると、見間違えるようにきれいになった。
 祥は完成に近い夜空の顔面を見るなり、うんと頷く。

「ひとまず、元が女顔の上にえらい可愛い。目がでかいし派手っぽく見えるからそのメイクでいい。服装だな、服装。詰め物で凸凹作ってヒールでもはけば、かなりそれっぽい」

 なんだか、褒めているのかけなしているのかわからない。ウィッグをかぶせた祥は、夜空をまじまじと見つめて、違うなと別のを探し始める。
 行く前から疲れた夜空は、げんなりしながら善に愚痴った。

「こんなことして、行くの辞めたほうがいいですよね……すでに先が思いやられるというか」
「そお? たまにお化粧して、オシャレして出歩くのも、楽しいかもしれないよ?」

 女性ならね、と夜空は思う。しかし、鏡に映った顔を見て、ここまで可愛くなるとは自分でも思わなかった。お化粧の力は偉大だ。

「潜入捜査って響きが、すっごくワクワクするね。なんだかドラマみたい」

 言われてみればそうだ。結婚詐欺にあい、知らない街でアルバイトとして心機一転し、まさか探偵と一緒に潜入捜査するだなんて。
 自分が主人公の物語の中にいるようだ。
 そう思うと、夜空はいい意味で力んでいた力が抜けていく。この際思い切ってトライしてみてもいいやという気になってきた。

「頑張ってみます。無理なら帰ってきます」
「大丈夫、大丈夫。祥はすごく優しいし、無理させるようなことはしないよ。夜空くんならできると見込んで頼んでいるんだから」

 あの性格と物言いでどこが優しいんだと毒づいたのだが、善はくすくす笑うだけだ。
 夜空は祥の見立てによって、大変身を遂げた。ばっちりオシャレな服装とウィッグで、絶対に自分だと気づかれることはないと断言できる。

「よし。じゃあその靴で歩くの慣れておけよ。俺も支度してくる」
「俺に釣り合う感じで来てくださいね」

 いつもと違う自分に気が大きくなったのか、夜空は祥に挑発的なことを言った。祥はニヤッとする。

「おう、待ってろ」
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