上 下
6 / 21
第一章 トゥオンとヴァン

第3話

しおりを挟む
 「いったい、なんの卵を拾ってきたんだい?」

 トゥオンの母さまは、真っ黒でツヤツヤな卵を見て目を見開いていたし、父さまも首を傾げていた。

「なんの生き物の卵かわからないけど、トゥオンが育てると言ったんだ。どうやら気に入ってしまったようでね」

 爺さまは卵を両親に見せているトゥオンの横で、両親に笑顔で説明していた。

「トゥオン。お前は幸運なことに命を預かったんだから、しっかり見守ってあげなさい」

「大事な家族として迎えましょうね」

 父さまと母さまは、卵を家族として迎えてくれた。

 わからないことがあればみんなで調べたり相談したりしながら、みんなで育てていこうという方針が定まっていく。

 一人っ子のトゥオンは、まるで弟か妹ができたみたいでそれはそれは嬉しかった。種族は違えど、自分の家族として向き合おうと両親と爺さまたちに誓った。

 だから、その日の夜から、トゥオンは大事な卵を育てることに必死になった。

 なにしろ、生まれて初めて、自分の手で命を預かったのだ。

 トゥオンは爺さまと約束したとおり、なにがこの子にとって必要なのかを考えるようになった。

 たくさんの分厚い布で包み込んで、その日トゥオンは卵と一緒になって寝た。幸いにも殻は非常に硬く、ちょっとやそっとでは割れないようだった。

 爪先でつつくと、金属のようなキーンと言う音がする。

 すごく硬いものののようであった。

 翌朝、トゥオンが耳を押し当てると、卵の中の生き物は生きているよと言わんばかりに中で動いた。

「でも、昨日よりもちょっと冷たくなってる……?」

 トゥオンは心配になって、母さまに相談しにいった。

「あら。じゃあ、庭にいる鶏さんたちを見てらっしゃい」

 ついでに卵もとって来てねと籠を手渡され、トゥオンは庭で放し飼いにしていた鶏に近づいた。

 彼らはふわふわな羽毛が特徴で、ココココと鳴きながら地面をゴツゴツつついていた。

 トゥオンは母さまの言ったことがわからなくて、ひとまず鳥たちが卵を産む小屋に向かった。

 籠に生みたての卵を拾い集めているうちに、その内の一羽が卵を温めているのを見つけた。

「あっ、そうか!」

 鳥たちをじっと観察した結果、上に乗っかって卵を温めているのだとわかる。

「そうやって、生まれるまで温めてあげるんだね」

 しかしトゥオンでは卵を包み込むことはできない。羽毛も生えていないし、日中には畑仕事や水牛たちの世話がたくさんある。

 父さまに相談すると、父さまは暖炉に薪をくべながら、ううむと長いひげを撫でつけた。

「どれ、卵を見せてごらん」

 トゥオンは自室から布にくるんだ卵を持って来ると、父さまの手にそっと載せる。父さまの大きな手でも、卵は十分に大きかった。

「硬いようだね。ならば、持ち歩いても大丈夫だろう。子どもをいれておく肩掛け布を使ったらどうだ?」

 トゥオンはそうしてみようと頷き、すぐに近隣の人々の家の門を叩いた。ちょうど使わなくなった抱っこ布を借りると、すぐに自宅へとんぼ返りする。

 その間、父さまは卵の様子を見ながら暖炉で温めていてくれた。

「鶏を見に行ったんだけど、卵は温めてあげるのがいいんだよね?」

「鳥だったらそうしているね。この子も卵だから、お母さんの温もりで安心させてあげるのがいいと思うよ」

 父さまの助言を元に、トゥオンは焼き石で作ったカイロをうまく調整して卵を温めることにした。

 寝る時は枕元に置き、数時間おきに起きて温度や向きを変え、仕事を手伝っている時も大事に面倒を見た。
しおりを挟む

処理中です...