剣と魔法の世界を拳ひとつで生き残る!

黒咲 ちゃまめん

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0章 プロローグ

1話 散りゆく命と握られた拳

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 「ほら、最後のお別れなんだから。」
 母が私の背中に手を置いた。

 「なんで、なんで、2人して、私を置いて、だったら私だって!」
 何も考えず反射で出た言葉への母からのアンサーは平手打ちだった。

 「何言ってんの!もう家族は私と天音あまねしかいないの、もう、冗談でもそんな事言わないで。」
 いつも仕事で日本中を飛び回っており、仕事人というイメージのある母の涙に背筋が冷える。

 「ごめん、私何言ってるんだろ。」
 そう言って顔を上げる、ふたつ並んだ棺には祖母と妹が眠っている。
 ふたりが死んでいるということを実感する度に心臓を握りつぶされる気持ちになる。

 「私、地祈ちのの分まで生きるから、おばあちゃん今までありがとう、これからも毎日稽古するからね。本当に、ほんと、ほんとに、ありが、、、と。」
 言葉が詰まる、17歳の私には同時に家族を2人失う痛みは重かった。

 「ほら、久しぶりに一緒にご飯食べよ。」
 この広かった一軒家も大人に近づくにつれて小さく感じていたのに突然2人を失った今、また大きな家に感じる。

 「お父さんも、地祈もおばあちゃんもみんな天国にいるのかな。」
 オカルトの類はあまり信じてないが、ふと呟く。

 「まぁ、少なくともあの人は地獄に落ちてて欲しいわ、私を置いて先に死ぬなんて、ほんとに、あの子も、私なんか仕事で嘘つきまくってるし地獄行き確定してるからね。」
 母の強がりに私は少し笑みがこぼれた。

 「大丈夫じゃない?母さんは母さんだよ天国も地獄もないんだからさ。」
 私がいうと母は頬を膨らます。

 「それってどういう意味?」
 
 「私さ、この世以外にも世界があって、この世界以外に生まれ変わったりするのってとても素敵な事だと思うの。」
 そう思うことにしよう。

 「地祈にはもっともっと幸せな人生があったはずなのに、原因不明の衰弱って、ごめんね、ごめんね。」
 母の酒の進みだけが早くなる、これはダメになる飲み方だ、齢17でもそれが分かるほどに心傷に酒は染み込んでいる。

 「誰も悪くない、お父さんだって、地祈だって、おばあちゃんだって、もちろんママだって、悪い人なんていない、居るとしたら神様だよ。」
 そう言って私は拳を突き出してみる。

 母の手のひらに私の拳は包み込まれる。

 「ありがとね、もう寝よっか。こんなでも仕事行かないとだし明日。こんな母親でごめんね、地祈、天音、こんな愚義娘でごめんなさいお義母さん。」
 
 母の目から落ちる涙に、私はかける言葉もなかった。

 ┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈

 朝目が覚めると、時計は10時を指していた。
 リビングには置き書きと朝ごはんが置いてあった。

 『学校にはお休みの連絡入れてあるから、もう少しゆっくり休みな。』
 
 「なんだかなぁ、私ってほんとに無力だな。」
 誰に伝えてる訳でもない、この家で話した言葉は大気に溶けていく。

 鬱々とした曇り空が私の気持ちをさらに暗くさせようとしてくる。

 「今日もトレーニングするか。」
 朝ごはんを食べ終わり、縁側へ向かう。
 
 ばあちゃんとの出来事がふと蘇る。

 高校1年の5月頃

 「天音、ほんとに部活入らなかったの?」
 エプロンをつけてコンロ前に立つばあちゃんから突然飛んできた質問に対し、私は洗濯物を畳む手を止める。

 「私、ばあちゃんの手伝いをする、地祈も入退院を繰り返してるし、私よりも地祈を気にかけてあげて。」
 妹は昔は元気が有り余りすぎているくらいだったが、ココ最近は体調を崩し気味になり、最近は入退院を繰り返してる。

 「まぁ、仕方ないことだ。私たちには何も出来ん。」
 ばあちゃんの声は震えている。

 「私、運動は好きだけど部活みたいに統率ー、とかあまり好きじゃないしね、自由に生きるのが性に合ってるんだよ。」

 「それならいいんだけど。」
 コンロを離れて、エプロンを取ったばあちゃんをみて、時刻が5時を回ったことを確認した。

 いつもこの時間に空手の練習?をしているのだ。

 けどこの日は違った。

 「ねぇ、なにそのモヤモヤ」
 正拳突きをするばあちゃんの周りにオーラのような霞のようなものが漂っていた。

 「天音、まさかあんたこれが見えるのか?」
 今までに見た事の内容なまさに唖然とした顔をしたばあちゃんに私は息を呑む。

 「運命は残酷だね。明日から一緒に練習するよ、氣の使い方を。」
 落ち込んではいるのだが、いつもの優しいばあちゃんに戻るのに時間は要らなかった。

 「強くなりたい?」
 夕食時、突然尋ねられた。

 「それってどういうこと?夕方のあれと関係はあるの?」
 私の質問に対して祖母は答える気がないのか、だんまりだ。

 「私は、地祈を守りたい、おばあちゃんを楽させてあげたい。だから強くなりたい。」

 言葉では語らない、微笑むばあちゃんに私は微笑み返した。

━━━━━━━━━━━━━━━

 時刻は11時を指している、縁側で少し眠ってしまっていた、空から降り注ぐ太陽光に私は拳を突き上げる。

 「我が生涯、後悔まみれだけど!頑張って生きていこ。」
 突き上げた拳から少し白い霞が出ている。

 体が震え、力が拳に集約している。
 体に力がみなぎる。

 「これが、氣?」

 呼応するように声が聞こえる。
 「習得おめでとう」
 私は声の方向を振り返る。

 祖母の遺影が見える。
 少し微笑んでいるようだった。
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