剣と魔法の世界を拳ひとつで生き残る!

黒咲 ちゃまめん

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0章 プロローグ

2話 妹の言葉と祖母の遺物

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 「ただいま。」
 葬式が終わり3日ほどだった、学校にも通い始め、日常に戻ろうとしている。

 「やっぱり慣れないな。」
 今までならばあちゃんの「おかえり」が帰ってきたのだが、それがないことが本当に死んでしまったんだとさらに実感させてくる。

 「そろそろ始めるか。」
 私はばあちゃんの部屋へと足を運んだ。

 母が今の仕事が終わったら、この家と同じ市内の子会社に転属になるということでこの部屋は母の部屋になる。

 「とりあえず、このタンス何が入ってたんだろ、そーいえば。」
 ばあちゃんの部屋の中で圧倒的な面積を占めているタンス、開けることを禁じられていたタンス。

 「絶対ここは開けちゃダメだよ、もしかしたら死ぬかもしれないからね」
 子供ながらに言われた言葉を思い返す。

 「私、約束守れない悪い子だね。」
 タンスに手をかけて手前に引くが全く動く気配がない。

 「なんだこれ、固い、、、。」
 
 こうするしかない、私は全身の力を手に集めるイメージをする。
 腕から白い靄が出てくる。

 「開けっ!」
 力いっぱい引っ張るとカコンと心地の良い音を立てて開く。

 「なんだこれ?」
 見るとどうやら本のようだ

 「読めない…。」
 文字は掠れており、ところどころ穴も空いている。
 
 本を持ち上げた瞬間だった、それは光に包まれてまるで新品のような風貌になる。

 「氣と魔力?なにこれ、どういうこと?」
 もう片方の本を持ち上げるが何も起こらない。

 「なんか読めないけど、言葉がズラっと書いてある。」
 
 既視感のあるような、しかし正体の掴めない言語で、びっしりと文章が綴られていた。

 「とりあえずなんか怖いから母さんに捨てるかどうかは委ねよう、そうしよう。」
 本をそっとタンスにしまい込んだ。

 その日の夜、私は夢を見た。

 「お姉ちゃん、前言ってたとこに来れたよ!」
 あれ?地祈ちのが居る。

 目をこすっても、そこには確実に妹がいた。

 「空見て!金色でしょ!」
 黄金に輝く空には真っ黒な月がふたつある。

 それは妹が入院していた時に聞いた彼女の夢の中の出来事だった。

 「ここね、私の世界にするの。私はここでみんなを幸せにするの、魔法とか使っちゃったりして夢を叶えてあげたりしたら、今度こそいっぱい友達ができるかな。今度こそ私も家族ができるかな、、、今度こそお姉ちゃんみたいに、、、になれるかな?」
 妹を黒いかげが覆い始める。

 「私、お姉ちゃんにずっと憧れてた。おねちゃんみたいな何も無いに。」
 妹を黒い影が完全に飲み込んだ

 「っ!」
 声にならない声を出し、体を飛び起こした。

 ベットサイドのスマホを見ると2時を指していた。

 「なに、今の夢。」
 全身に汗をかいている、どうしようもない怖さが私を襲う。

 一瞬だけ、空間が金色に光った。

 「なに、いまの。」
 恐る恐る自室から出る。

 光っていたのはばあちゃんの部屋だ。

 怖さで震えが止まらない、本のことも夢の中身についても。

 「タンスだ。」
 光の出所はあの本が入っていたところだ。

 開けるのに力入らなかった。
 光っていたのはあの時のもう一冊の本だった。

 「二つの世界?」
 本の表紙を捲ると、そこには黄金に輝く空と二つの黒い月が描かれていた。
 
 これって、、、。

 フラッシュバックするさっきの夢、混み上がって来る胃液、震える手。

 「タス、ケテ、オネ、エ、チャン」
 本の中から聞こえる声。

 「嫌っ!」
 勢いよく本を投げて、裸足のまま家の外に出た。

 裸足の足裏の冷たさ、やけにリアルなアスファルトの感触。

 冷たい夜風に吹かれ、私は地面にへたれこむ。

 ここは確実に現実であることを嫌という程教え込まれた。

 「あの声は地祈…なの?」
 その問いは誰に向けた訳でもない、答えが返ってくることもない。

 夢でないことは分かっているがこれほど夢であって欲しい出来事もない。

 また風が吹く、体の芯まで冷得る感覚に耐えられなくなった。

 「…帰ろ。」
 怖さという感情にリンクするように心臓がズキンと痛む。

 玄関の扉を開けると、家の中は静まり返っていた。嫌というほどにこの家には私一人しかいないという現実を叩きつけてくる。

 ばあちゃんの部屋は先ほどとは打って変わって何もない普通の部屋だった、足を踏み入れるまでは。

 右足が部屋に入った瞬間に圧が重くなる。
 勝手に力が湧いてきて、体の制御ができなくなる。

 意思に反してタンスの棚へと伸びた

 その瞬間に中の二冊の本が飛び出し私の目の前に落ちてきた。
 未知の体験に心臓がとても早く鼓動しているのを感じる、背筋には冷や汗が伝っていて息も切れそうになる。

 「二つの世界が重なり始めた今、黄金の空に舞い降りし彗星の魔女が黒い月を真っ二つに斬り割き、月と太陽の色反転が起こった。」

 本の開かれてるページに目をやるが全く意味がわからない。

 「神に選ばれし其方が今、ルヴァリアを救う時が来た。」
 もう一冊の本にはそう記載がある。

 「どういうことなの?私が選ばれたってどういうこと?何にもわかんないんだけど。」

 「タス、ケテ。お姉ちゃん。」
 頭の中に妹のあの声が呼応している。

 二冊の本が宙に舞い、文字が私を包み込む。

 「待ってるね、私のお姉様。」
 先ほどの声とはまた違う声で聞こえてきた、その言葉に心臓が握られた感覚が付随している。

 「ばあちゃんも地祈も全部私が救い出してみせる!」
 全神経を拳に集め、目の前の文字の壁をぶん殴った。

 「かかってこいや!運命!」
 

 
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