剣と魔法の世界を拳ひとつで生き残る!

黒咲 ちゃまめん

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2章 ラキエラ連邦

4話 ギルドのフリル剣士

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 聖騎士団の支配するサリオンでは、冒険者など存在しなかった。
 だからこそ、ラキエラ連邦の“冒険者ギルド”というものを初めて目にしたとき、ライはその存在感にただただ圧倒されていた。

 ギルド前、ライは死んだ目で言った。

「……なあ、レノン。本当にこれ、必要だった?」

「もちろん。ギルドの人たち、強そうな奴には構えちゃうでしょ?だから“弱そうな子”で行くの。ライ、ぴったりだよ!」

「俺、男だよ!?」

 そうツッコんでも、今のライの姿では説得力に欠けた。
 白いフリル付きのワンピースに、やや不自然なウィッグ。ぱっと見“可愛い女の子”に見えなくもない、絶妙に完成度の高い女装少年。
 羞恥心で頭が沸騰しそうだったが、レノンの「これが最善!」という押しに負け、ライは渋々ギルドの扉を開けた。

 中では、屈強な冒険者たちが酒を片手に談笑している。重たい空気。まさに“男たちの戦場”。
 その中に、明らかに場違いな二人が現れたとなれば──当然、視線は集中する。

「おっ?なんだあの可愛い子は?」

「こんなとこに迷い込むとはなぁ、場違いもいいとこだぜ!」

「ほらね。効果バツグンでしょ?」
 レノンはニヤリと笑うと、ステップを踏むように前へ出た。

「この子と一緒に、討伐クエストに参加したいんだけど。――あの“大蛇”のやつ」

 その言葉に、空気が凍りつく。

 “大蛇”──それは今、ラキエラ連邦近郊の砂漠で猛威を振るう危険種。数々の冒険者を飲み込み、未だ討伐者ゼロの存在だ。
 その名を“フリルの女の子”が口にしたことで、ギルド内は一瞬で疑念と嘲笑に包まれた。

「お、お嬢ちゃん。冗談にしてはキツいぜ?」

「冗談じゃないよ」

 レノンは微笑んでいた。けれどその奥に宿る、確かな“殺気”と“自信”を、場にいた何人かは見逃さなかった。

「お嬢ちゃん、腕は立つのかい?」

 冒険者の一人が肩に手を置いた瞬間──
 レノンは風のように動き、その男の帽子を奪い、くるりと回して頭に戻した。

「……今の、見えなかったぞ」

「秘密の魔法ってやつさ」

 そうウインクしてみせるレノンに、ざわめきが再び起こる。
 この小娘、ただのイロモノじゃない。

「面白いな、お嬢ちゃん。その相棒と一緒にって話、乗ってやってもいいぜ」

 数人の冒険者が苦笑しながらもそう言い、場はにわかに好意的な空気へと変わっていった。

「ほら、成功。次は実際に倒すだけ」

 ギルドを出た後、ライはこっそりレノンに尋ねた。

「なあ、“大蛇”って……そんなに危ない相手なの?」

「うん。最近5人以上の上位冒険者が行方不明。骨も残ってないらしい。ギルドも慎重で、討伐成功者には正式な“ギルドランク認定”が与えられるの」

「……そんなの、俺たちじゃ無理だよ」

 ライがうなだれると、レノンはふっと微笑み、彼の顔を覗き込んだ。

「大丈夫。――ライには“それ”があるから」

「“それ”って……?」

「秘密」

 その言葉に、ライの心臓がなぜか強く跳ねた。

 そのとき、ギルドの窓から彼らの様子を眺めていた一人の冒険者が、ゆっくりと立ち上がる。
 鋭い眼光を持つ戦士──彼の名はハルザ。ギルド内でも腕利きとして知られた存在だ。

「面白い子たちだな……」

 彼は静かに笑い、ギルドの奥へと姿を消した。

 * * *

 翌日。再びギルドを訪れたライとレノンの前に、ハルザたちが現れた。

「おい、お嬢ちゃん。話、まだ乗ってるか?」

「もちろん。話し合いは済んでるよ」

「なら実力、確かめさせてもらうぜ?」

 そうして即席の模擬戦が始まった。

 ハルザ(戦士)、ウィズ(魔術師)、ノーラ(盗賊)――三人を相手に、ライとレノンの二人は華麗に立ち回った。

 レノンは風の氣を使って縦横無尽に動き、ライは魔法を回避しながら、直感的に氣を身体に巡らせて攻撃を凌いだ。
 結果、二人は見事に全員を圧倒してみせた。

「こりゃあ……本物だな」

 ハルザが仮面の上から笑うと、仲間たちも笑った。

「改めてよろしくな。“フリルの剣士”とその相棒さんよ」

 「その呼び方やめてぇぇぇ!」とライが叫ぶと、ギルド中に笑い声が響き渡った。

 こうして、砂漠の“大蛇討伐”パーティが結成されたのだった。

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