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2章 ラキエラ連邦
5話 風の纏い
しおりを挟むラキエラ連邦、砂漠の外れ。陽が傾き始めた荒野の道を、二人の少年少女が歩いていた。
「ねえ、ライ。疲れた。もう足動かない……」
「……レノン、出発してからまだ一時間も歩いてないぞ」
「一時間も、って。十分に一回休憩したってよくない?」
レノンは地面にへたり込み、砂にだらけた背中を預けた。砂漠の入口はもうすぐという地点だったが、すでに旅路に飽きていた。
「まったく、なんでそんなに我がままなんだよ……」
ライは嘆息しつつも、無理矢理にレノンの腕を引っ張ることはしなかった。彼女の足取りが確かに重く見えたからだ。
「少しだけなら……休もうか」
「やったー!」
レノンは跳ねるように立ち上がり、今度は荷物からお菓子を取り出してポリポリと食べ始めた。
ライは思わず頭を抱える。
「やっぱり疲れてないだろ、レノン!」
「ライが甘いからいけないんだよ」
屈託のない笑顔を見せるレノンと、それに振り回されるライ。そんな彼らの関係は、まさに“凸凹コンビ”と呼ぶにふさわしかった。
その後、太陽が完全に落ち、二人は岩陰にテントを張って夜を迎えた。レノンはすぐに寝息を立てたが、ライはなんとなく目が冴えていた。
(……俺なんかで、本当に役に立てるのか?)
彼は自分の掌を見つめた。
氣の使い方も、戦い方も中途半端。自分には特別なものなんて何一つない。なのに「やります」と言ってしまった。
そのときだった――風の中に、何かの気配が混じった。
「……!」
砂の上を、引きずるような足音。
次の瞬間、テントの向こうから現れたのは――骨と朽ちた肉に覆われた、不気味なアンデッドだった。
「やっ……やるしかない!」
ライは腰の木剣を抜いて飛び出す。しかし、アンデッドの動きは意外に素早く、攻撃をいなされ続けた。
ガキィン!
アンデッドの腕に弾かれ、木剣が砂に落ちる。もう一体、さらに奥から姿を現し、ライに迫ってくる。
「まずい……!」
咄嗟に転がってかわしたそのとき、アンデッドのひとりが落とした黒ずんだ短剣が目に入った。ライは無意識にそれを握った――瞬間。
(――風が、流れた?)
手の中で何かが弾けるように氣が走った。掌から腕、そして脚。微弱だが、確かに氣が纏う感覚があった。
目の前のアンデッドの動きが、わずかに遅く感じる。
「……行ける!」
風を纏った一閃――ライは短剣で横薙ぎに斬り払った。その軌跡は鋭い風の刃のようで、アンデッドの体を断ち切った。
風が止んだとき、ライは肩で息をしながら立っていた。周囲には、倒れたアンデッドの骸。
「……やれた、のか……?」
その手には、短剣と、ほのかに纏った氣の余韻が残っていた。
「――“それ”があるから」
ふと、レノンの言葉が蘇った。
(もしかして……これが、俺の“氣”?)
風が静かに砂を撫でる中、ライは少しだけ自信を取り戻していた。
――一方その頃。
「違う!何度言わせる気じゃ、このボケぇッ!!」
「す、すみませんじじいッ!」
山中の小屋では、天音が老人・ラゼンの怒号を浴びながら、呼吸法の修行をしていた。
氣を体内に取り込み、風の流れと同調させる。それが“風の氣”の第一歩。
だが、魔力とは異なるその感覚は、容易には掴めない。
「風は流れるものじゃ。貴様の氣はまだ、固まっておる!」
「そんなこと言われても……!」
「わからん?ならば理解するまで、気絶しても続けるぞ!」
天音はひとり、汗と怒声に包まれながらも、歯を食いしばっていた。
(……絶対、手に入れてやる。鍵を、そして妹を――)
火花を散らすような修行と、ライの風の覚醒。その先に待つものとは――。
物語は、確実に進み始めていた。
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