剣と魔法の世界を拳ひとつで生き残る!

黒咲 ちゃまめん

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2章 ラキエラ連邦

7話 大蛇戦

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 砂嵐が巻き起こり、乾いた地面が震える。

 大蛇――その巨体はまるで小山のようだった。光沢ある黒鱗が陽光をはじき、金属のように硬質な音を立てる。口から漏れる息は硫黄のような臭いを放ち、見下ろす瞳には知性すら感じさせた。

 「やべえな……あれ、マジで山じゃねえか……」

 ライが拳を握りしめながら呟いた。

 「怯んでる場合? 時間稼ぎはアンタと私の仕事でしょ!」

 レノンが口角を上げながら言うが、その目は真剣だった。

 「ノーラ、準備はできてる?」

 「任せて。気配を絶って近づくのは、得意分野だから」

 盗賊のノーラが黒いマントを翻し、音もなく砂の上を滑るように消えていく。

 「俺が傷をつける。ウィズ、魔法は俺の合図まで温存だ」

 戦士のハルザが剣を肩に担ぎながら呟く。見上げるその視線には、恐怖よりも興奮が勝っていた。

 「了解。使える魔法は一発勝負だ、逃がさないでくれよ」

 ウィズが静かに頷き、詠唱の準備に入った。

 その時、ノーラが砂の中から姿を現した。手には大蛇の鱗が一枚、しっかりと握られている。

 「取ったわ……!」

 それは異常な硬度を誇る鱗だった。刃を通さない防御の象徴――それが剥がれたことで、わずかな隙が生まれた。

 「ハルザ、今っ!」

 ライが叫ぶ。

 「よっしゃあああああッ!!」

 ハルザが剣を振り上げて大蛇の巨体へ突進、先ほどノーラが鱗を奪った部分に力の限り剣を突き立てた。

 「喰らえええええええっ!!」

 刃が肉に届く音。大蛇の口から鋭い悲鳴が漏れる。

 「ウィズ、今だ!」

 「風と雷よ――『雷刃嵐牙(らいじんらんが)』!!」

 ウィズの詠唱が完成すると同時に、空が一瞬だけ暗くなった。

 直後、放たれた雷が一直線に大蛇の傷口へ突き刺さる。

 バチバチと音を立てながら、雷が肉を焼き焦がし、辺りに焦げた臭いが充満する。

 「……効いた……?」

 ウィズが呟いたが、次の瞬間、大蛇が身体を捻って暴れだした。

 「ぐあっ!!」

 反動でハルザが吹き飛ばされ、地面を転がる。

 「ライ! 私たちで引きつけるよ!」

 「行くぞ、レノン!」

 二人は左右から回り込み、大蛇の目を引こうと試みる。

 ライは風の氣を短剣に纏わせ、砂塵を切り裂くように足を踏み出す。

 「おらっ!!」

 短剣が鱗に当たって火花を散らすが、弾かれた。

 一方、レノンも疾風のような動きで大蛇の目の前を駆け抜ける。

 「こっち見なさいよ、でっかいトカゲ!」

 その挑発に、大蛇の視線がレノンに向く。口を大きく開き、牙を剥いた。

 「来た……!」

 風を使って加速しようとするが、足場が悪かった。乾いた砂地に足を取られて、レノンの身体がバランスを崩した。

 「っつ!」

 派手に転ぶ。服が破け、腕をすりむいた。

 「マズい……!」

 大蛇の巨口が、目の前に迫る。鼻から熱い息が吹きかかる。

 ――来る。

 誰も間に合わない。

 時間がゆっくりと流れるように感じた。レノンの瞳に、恐怖が映る。

 「――っ!!」

 だがその瞬間、何かが吹き抜けた。

 風。

 まるで何かに導かれるように、大蛇の頭がわずかに逸れる。

 いや、違う。あれは――

 「天音……?」

 レノンが見上げた空には、風を纏う何かの気配が確かに感じられた。

 だが、それは幻のようにすぐに掻き消える。

 大蛇の攻撃は外れた。かすめた牙が地面を抉り、レノンは土埃に包まれながら、息を切らして倒れ込む。

 「レノン!!」

 ライが駆け寄る。彼女を抱き起こし、その額の血を見て歯を食いしばった。

 「くそっ……あんな化け物、どうやって倒せば……!」

 だが、レノンは薄く笑った。

 「まだ……終わってないでしょ?」

 震えながらも、立ち上がろうとするその姿に、ライは拳を強く握りしめた。

 そして――砂の向こう、大蛇は尚も暴れながらも、確実にこちらに向かってきていた。

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